2限目「過去に揺れる紅蓮の火花」
早朝、ボク達学生は緊急の校内放送にて、広場に集められた。それが悪夢の始まりであった。
まだ外部の大人たちはやって来ていない時間帯。
朝に弱いボクはなかなか意識が覚醒せず広場の門をくぐったのはかなり最後の方だった覚えがある。
なんとなく空(人工の)を仰ぎ見たボクは目を疑った。
椅子に腰かけた少女が、その椅子ごと宙に浮いていたのである。
「……おはよぉ。私はこのゲームの執行人。十数年間の眠りから覚めたところで、今すごく気分がいいんだよー」
ほんわかとしていて、それでいて深くまで意識を蝕む声。
なにやら既に始まっているようだった。
ふと、ボクのこの微妙に離れた角度なら少女の下着を見ることができそうなことに気づく。もうすこし……って何をやってるんだボクは。
なんとか雑念を振り払い学生集団と合流した。
この地下の学園では、13歳から18歳までの年齢がバラバラな学生が、だいたい20人単位でAからCまでのクラスに振り分けられている。
Aが比較的優秀な生徒が集められていて、Cは底辺クラスだ。ちなみにボクはCクラスで17歳。笑うなら笑ってくれよ、はは。
「Cクラスはこれでやっと全員揃ったね。もーっ!至急集まってって言ったのに……ぷんすか」
「す、すみません……」
一応謝っておく。
「まあいいよー。それじゃ、本格的にルール説明始めるから、まだ集まりきってないBクラスは残念だけど……退場だね♡」
カチ、カチ、カチ。微かな音が聞こえる。
少女は見事に地上へ着地し、次の瞬間ボクの顔に何かが飛び散った。
理解が及ぶ前に次々と広場に木霊する断末魔。
苦しそうに倒れていくBクラスの生徒達。
ギャラリーからも湧いて出る悲鳴。
怖くて足に力が入らず無様に尻もちをつく。
カッターの鋭い刃先には、真新しい血液がしっかりと付着していた。
血は苦手だ。ここに来る前を思い出して吐きそうになる。
あれ以来、ケチャップとかいちごジャムとか……とにかく赤いものに嫌悪感を抱くようになった。
どうして、ずっと優しかった家族が、ボクを見殺しにしようとしたのか……今でも分からない。
止まらなくて、飲み込んでまた吐きそうになって……どうして助けてくれないのかな……?ぼんやりと霞んでいく景色。
ダメな子でごめんなさい、何をやっても人並み以下で、恥をかかせて……ごめんなさい……いい子になるから……
どうして、ボクは持っていないのか……憎い妬ましい……
懺悔はやがて憎悪へと形を変える。
「ボクはダメだ……なんで……?どうして……ボクだけ……!」
「よしよし……」
誰かがボクの頭を撫でた。
その瞬間、消えていく……葦のように伸び散らかった惡の芽が。
母さん……いつかの記憶が、やがてモノクロに染まっていく。
「あ、ああ……」
「ご、ごめんなさい!驚かせちゃいました?」
しっかりとゴムで二つ結びされた黒髪、校則をしっかり守った丁度いい長さのスカート。
「いえ、あの、ありがとう、ございました……」
彼女がいなければ、ボクは何か……大きなものに呑み込まれてしまっていただろう。
「いえいえ、私、困っていたり悲しんでいる人がいると、どうしても放って置けなくて……あの、私が言うのもなんですけど、もっと、自信を持ってくださいっ! 」
素直に嬉しかった。一瞬、あなたはボクのなにを知ってるんだ……?とも思ってしまったが。
天使みたいだなぁ。カラカラな心がだんだんと潤ってくる。慰められるって、いいなぁ。
見覚えがないので多分Aクラスの生徒だろう。
「絵理……?しっかりしてよ……!ねぇ!!」
見渡せばボク以外にも、取り乱している生徒がたくさんいる。そりゃあ当然だろう。
あの子は、どうやらBクラスの友達が死んでしまったらしい。
「行かなきゃ…………神田遊魔くん、それじゃあね! 」
ボクがそれなりに平常心を取り戻したのを見るや、すぐさま他の生徒を立ち直らせに向かっていた。
他人のために奔走する姿を見て、彼女自身は大丈夫なのだろうか……?などとお節介な感情を抱く。
それにしても……ボクの名前、覚えていてくれてるんだ。他のクラスなのに……。
一方でボクの方は彼女の名前がどうしても思い出せない。
「聞きそびれたなぁ……」
後ろに倒れこみチラッと横目で殺人現場を見る。Bクラスはもう既に壊滅状態。
少女を止めにかかって返り討ちに遭った生徒の死体も無残に転がってた。
ボクは内心とても安心していた。我ながら最低だと思う。
多分、Bクラス内に、時間を守るのが異様に苦手な生徒でもいたのだろう。
それにしても残酷この上ないな。
刃はあまり深く入れず、それでいて肉を引っ張る絶妙に痛い切り裂き方。
人は死ぬなら死ぬで苦痛を伴わずに死にたいであろう。
これは最大級の見せしめでもあるのだ。圧倒的な力の支配。この先従わなかったら死よりも恐ろしい地獄が待っている、と。
遅刻遅刻〜〜!なんて愉快に入ってきた女子生徒を瞬殺し、少女は空中の椅子へふんぞり返る。
もしかしたら、見せしめなんてのは二の次で、ただ自分の技量を見せつけたかっただけなのかもしれない。
ボクは神様がいるのならこんな子供ではなかろうかと思った。
やがて全ての生徒(Bクラス)が力尽きる。
「あと45人かー……この中のどれだけが最後に生き残るのかな……?楽しみ♡」
どうやらこれから死のゲームが幕を開けるらしい。
少女が言うには、第1のゲームは、見つかれば即死のかくれんぼ。
校内の好きな場所に隠れて、制限時間1時間までに見つからなければいいだけの簡単なものだった。
そしてその後告げられた真実。
「あ、あと追加ルールで、このゲームを仕組んだゲーム開始申告者を告発して見事正解すればこのゲームは完全に終了だよっ。この中に潜む裏切り者……申告者だけが消えてハッピー!だけど……もし外れたら殺すから慎重にねー」
訳が分からない。
どこにこんな恐ろしいゲームを仕込むメリットがあるのだろう。
恐らく、何か特別待遇があると考えるのが妥当……例えば、、、
最後まで正体が露呈しなければ、ここから出られる……とかね。
しかし、これは一種のトロッコ問題。
大勢を助けるために裏切り者1人を殺すことは許されるのか……?という倫理問題に行き着く。
例え裏切り者で決定的な悪であったとしても、人は人。こう考えなければ悪人は死ぬべき……!なんていう過激思考に至ってしまう。
だけど、ボクは……。
みんなの命を救った英雄〜神田遊魔!
やっと認めてもらえる……身勝手なことだとは自覚しているけど、ボクは最期かもしれない時ぐらいは頑張ろうかな、なんて思った。
探りを入れて、少し考えてみよう……




