表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/38

第三話 祝賀会の話①

 藤波様が静かに邸を後にされた後、自室の机に向かい、今日教わったことを忘れないよう紙に記し始めた。

 次に先生とお会いした時、同じ過ちを繰り返して失望させてしまわないように……。

 今の私にできるのは、それくらいしかない。


『めせんをさげない』

『うつむかない』

『いすはふかくすわらない』


 真っ白な紙に並ぶ、拙いひらがなばかりの自分の字。

 それを見つめていると、急に言いようのない恥ずかしさが込み上げてきた。


 暁臣様から贈られた、宝石のように美しい装飾の筆箱と鉛筆。

 それが、今の私にはあまりにも不釣り合いに思えてしまう。

 こんなに綺麗な道具を持っているのに、私が書けるのは、幼い子のような、ひらがなだけ。


 ……いつか、私にも。

 この真っ黒な鉛筆を使いこなして、凛とした漢字を書ける日が来るのだろうか。


 まず、最初に覚えたい漢字。

 真っ先に頭に浮かんだのは、やはり『暁臣』様のお名前だった。


 園遊会で流麗な手つきでお名前を記されていた、暁臣様の筆跡。

 筆を持つ指先の動きさえ、見惚れるほどに完成された美しさだった。

 あそこまでの高みに辿り着けるなんて、到底思えない。

 けれど……せめて、もう少しだけ。


 いつか本当に、『五条すみれ』となる未来が来るのなら。

 彼の隣に並んでも恥ずかしくない字を書きたい。

『婚約者』としてではなく、『妻』として名を呼ばれる日が来るのなら——なおさら。


 大丈夫……明日も、明後日も、きっと頑張れる。

 そう思い込みたい。

 そうでなければ、怖くて立っていられない。


「すみれ様。殿下がご帰宅されました」

「今、すぐに行きます!」


 控えていた女中さんの声に、顔を上げて答える。

 机の上の紙をそっと重ね、筆箱の蓋を閉めた。

 まるで今日の自分の必死さを隠すみたいに。


 婚約が正式に決まってからと言うもの、朝はお見送りをして、夜は玄関まで暁臣様をお迎えにあがるのが日課になっていた。

 ——その日課があるだけで、私は今日もここに居ていいのだと思える。


 重厚な扉が開き、最初に目が合った瞬間。

 私を見つけた暁臣様の表情が、ふわりと春の陽だまりのように柔らかくなる。

 その瞬間を見るたびに——ああ、今日もここにいることが許されているのだと。

 心の底から安堵し、胸の奥がじんわりとポカポカしてくる。

 ……それは、泣きたくなるほど。


「おかえりなさいませ。暁臣様」

「あぁ。ただいま、すみれ」


 ……?

 いつもならそのまま二人でお部屋へ向かうはずなのに、なぜか暁臣様が立ち止まり、私をじっと見つめている。

 彼が注いでくれる視線が、蔑みの対象だった『左右で色の違う瞳』に向けられたものではないと分かっていても、やはり真正面から見つめられると戸惑ってしまう。

 どこを見ればいいのか分からず、視線が迷子になる。


「……その服、想像していた以上に似合っているな」

「はぇっ……!?」


 いけない。不意打ちすぎるお褒めの言葉に、変な声が出てしまった。

 熱い火を押し当てられたように、頬が一気に熱くなる。


 藤波様に、どんな時も俯かないようにと教わったばかりなのに……。

 こんな熱い眼差しで見つめられたら、顔を上げ続けるなんて、とてもじゃないけれどできそうにない。

 逃げたいのに、逃げたら『俯く癖』に戻ってしまう。

 立ち尽くしたまま、どうしようもなくなってしまう。


 すると、ふわりと——手袋越しではない暁臣様の素手が、私の頭に添えられた。

 撫でるでもなく、押さえるでもなく、ただ『そこに置かれる』だけの温度。

 それだけで、胸の奥がとろけそうになる。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 無華の花嫁
〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜
和風恋愛/大正ロマン/シンデレラストーリー/華族/無華の少女/黒薔薇の殿下/溺愛/異能
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ