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【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~  作者: 木風


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第二話 安心できる人④

 深く、重い息を吐き出した。

 すべてはすみれのため、彼女を外敵から守るための盾として教育を与えたつもりだった。

 だが、それが彼女をさらに追い詰める刃になってしまっては、本末転倒だ。

 彼女のあの、消え入りそうな笑顔を奪ってまで成すべきことなど、この世にあるだろうか。

 守るはずのものを、俺の手で壊すなど——許せない。


「……初日から、厳しくしすぎたか」

「いいえ。本日の指導内容は、最低限の作法のみです。

 それでこれほどまでに緊張し、心を摩耗されると言うことは……

 あの方がそれまで置かれていた環境が、想像を絶するものであったと言う証左に他なりません」


 ——すみれの生家、朝霞家。

 その名を口に出さずとも、二人の間に凍てつくような怒りが共有される。

 報告書に記されていた『冷遇』などと言う生温い言葉では、到底言い表せない地獄を、すみれは歩んできた。


 ふとした瞬間に見せる、怯えたような視線。

 触れようとした時に微かに強張る肩。

 褒められても、受け取る前に『すみません』が出る口元。

 その一つ一つが、彼女の過去を雄弁に物語っていた。


「殿下。今のすみれ様に必要なのは、教育よりも先に『安全』を知ることです」

「……安全だと?」

「はい。失敗しても見捨てられない。何もできなくても、ここに居てよいのだと。

 心の底から安堵できる場所が、あの方にはまだないのです。

 殿下の腕の中ですら、あの方は『いつか追い出される場所』だと、怯えておられます」


 静かに頷いた。

 自分がどれほど言葉を尽くし、彼女を必要だと言っても、すみれは心のどこかで『自分はいずれ捨てられる存在だ』と命を軽んじている。

 ——違う。捨てるはずがない。

 それを伝えるために、どれほどの時間が要るのか。


 彼女の持つ独特の危うさ。

 俺の隣ですら、すみれにとってはまだ、幻のようなものなのかもしれない。

 指先が温もりを思い出し、無意識に手袋の縁を握った。


「……対策は何かあるだろうか」


 声が、ほんの少し低くなった。

 焦りを隠すための癖だ。


「教育とは別に、日常の中にすみれ様の『過去』を知る方を置かれるのがよろしいかと存じます。

 あの方が唯一、心を開けるような存在が」

「過去を知る人間か。……一人、心当たりがある」


 立ち上がり、窓の外を見やった。

 闇の向こうに邸の輪郭を思い浮かべる。

 最初から考えていたことではあった。

 彼女の孤独を埋めるには、自分一人の力では足りないかもしれない。

 守る、守り抜く——そのためには、手段を選んでいる暇などない。


 藤波の瞳に、一瞬だけ安堵の色が浮かんだ。


「はい。教育と言う公的な場では守りきれない部分を、優しく補える存在。

 それこそが、今のあの方に必要な毒消しとなりましょう」

「……すぐに手配しよう。明日にでも」


 すみれと出会ってから、気がつけばこうして邸の方向を眺めることが増えた。

 今頃、彼女は初めての授業に打ちのめされ、暗い部屋で膝を抱えてはいないだろうか。

 ——違う。そうさせない。


「すみれ……」


 無意識に零れた名は、夜の静寂に溶けていった。

 だがその名だけは、胸の中で、確かに熱を持って残り続けた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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