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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第二十六話 秋へ②

「あけましておめでとうございます!」

「あけましておめでとーございます!」

「あ……あけましておめでとう、ございます」


 暁臣様が宮中の重要な新年行事へ登城された、穏やかな午後。

 今日は信子さんが、まだ幼い二人のお子さんを連れて、このお邸へ遊びに来てくださった。


「あの、これ……よかったら、受け取ってください。……お年玉、です」


 暁臣様が「今日のために用意しておくといい」と、中身だけでなく、可愛らしい模様が描かれた和紙のポチ袋まで、揃えてくださっていた。

 少しだけ緊張しながら、小さな二つの包みを差し出す。


 二人の子どもたちの、紅葉のような小さな手。

 壊れ物を扱うみたいに大事そうに、そっと受け取ってくれる。


「わーい!!お姉ちゃん、ありがとうございます!」

「ありがとーございますっ!!」


 満面の笑みで飛び跳ねる姿を見て、ようやく私の胸のつかえが下りた。

 ——よかった。喜んでくれた。失礼ではなかった。間違っていなかった。


 一昨日、祝賀会から戻った夜。

 暁臣様から、私自身も『お年玉』を頂いた。

 その時初めて、新年に目上の者から年少者へ贈る、この風習を知った。


 目の前で瞳を輝かせる子どもたちの無邪気な様子を見ていると、これは子どもだけに許された特権のような気もしてくる……。

 それを私にくださると言うことは——やはり、私は暁臣様からしたら、まだまだ子どもなのかもしれない。

 そう思うと少し悔しいのに、同時に、胸の奥がふわりと温かくなるのが不思議だった。


「すみれお嬢様……。子どもたちにまで、このようなお気遣いをいただき、本当に申し訳ありません」

「いえ、そんな。……喜んでもらえて、私の方こそ嬉しいんです」


 暁臣様が「おもてなしにこれも出すといい」と、事前に用意してくださっていた飲み物を一口含む。

 透き通った水に、白い液体を溶かしたような不思議な色。

 牛乳よりもずっと軽やかで、口に含んだ瞬間、初めて感じる爽やかな酸味と、優しい甘さが広がった。

 ふわりと立つ香りが、鼻に抜けていく。


「これ、おいしーね!」

「ふふ……本当ですね。とっても、不思議な味がします」


 無邪気に話しかけられて、私も同じように目を細めて微笑んでいることに気づく。

 自分がこんな顔をするなんて——なんだかおかしくなってしまう。


 お年玉の準備も、この珍しい飲み物もお菓子の手配も。

 結局、暁臣様に頼りきりでのおもてなしになってしまった。

 それでも、今日この時間が穏やかに流れていることが、ただ嬉しい。


「これは最近出回り始めた乳酸の飲み物だそうですよ。実は私も、頂くのは初めてで……」

「そうだったのですね。飲み物も、お菓子も……暁臣様が用意してくださったんです」


 用意されたお菓子を美味しそうに頬張る子どもたちを見つめる信子さんの表情。

 お子さんの前では、こんな表情をされるなんて。


 お仕事の時の姿とは違う、慈愛に満ちた、柔らかく溶けるような眼差し。

 声色も、普段よりほんの少し高く、優しく聞こえる。

 何より、その瞳には——代えがたい宝物を愛しそうに見つめる、深い幸せが宿っていた。


 私も……いつか、暁臣様との間に、あんな風に笑う子どもを授かる日が来るのだろうか……。


 ——っ。


 結婚を夢見るだけでなく、そのさらに先の未来まで想像してしまった自分に気づいて、全身に血が昇る。

 まだ正式な婚儀さえ済ませていないのに。

 あまりにも分不相応で、気が早い空想をしてしまったことに、顔が火照って仕方がない。


「すみれお嬢様?お顔が真っ赤ですが……お熱でもありますか?」

「い、いえ!大丈夫です!少し……お部屋が少し暑いだけですから……っ!」


 必死に誤魔化そうとすればするほど、私の記憶の底から、暗い澱のような記憶が這い上がってくる。

 幸福に触れた瞬間ほど、刺さるものがある。

 ——私は、知らないのだ。母と言うものを。


 私の知っている『実母』の記憶は……冷たい手で私の首を絞め、絶望のままに走り去っていく後ろ姿。

 そして、信子さんのような優しさを『継母』に求め、鋭い言葉と、蹴られ、叩かれる痛みによって、無残に打ち砕かれた。

 その二つの記憶だけ。


 手を伸ばしても、いつも痛みが返ってくる。

 ——それしか知らない。


 どちらも思い出すたびに、胸の奥へ鋭い棘が刺さるような、息が止まるほどの痛みを伴う。

 愛情の形を知らずに育ったこんな私が、いつか誰かの『母』になることなんて、本当にできるのだろうか。

『無華』である私のもとに生まれた子は、果たして幸せになれるのだろうか。


 子どもとの正しい触れ合い方なんて、今の私には想像すら及ばない。

 母になるための道のりは——今受けているどんな厳しいお妃教育よりも、ずっと険しく、正解のない難問のように思えて仕方がない。

 それでも、胸の奥のどこかで小さく願ってしまう。

 もし、暁臣様となら。もし、暁臣様が——私の手を、離さないでいてくれるのなら。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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