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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第二十三話 誕生日のケーキ③

 うっとりするような、どこか敬虔な表情でケーキを見つめる横顔すら、今の俺にはたまらなく愛しい。

 椅子に座るすみれを背後から包み込むように身を寄せ、小さな手に己の掌を重ねた。

 包丁の柄越しに、彼女の指先の熱がじわりと伝わってくる。


「力は抜いていい。……俺が支える」

「……はい」


 返事と同時に、彼女の背がわずかに俺の胸へ寄り、柔らかな温もりが真っすぐ伝わってきた。

 その距離の近さに、今すぐ頬へ口づけたくなる衝動が喉元までせり上がる。

 ——だが、今日は祝う夜だ。彼女の小さな勇気を、乱暴に崩したくはない。


 刃が生クリームに沈み、苺の香りがふっと濃くなる。

 すみれの息が微かに震え、それが俺の胸を妙にくすぐった。


 ——いつか執り行う婚儀の折。

 盃を重ね、誓いを立てる時も。

 きっと、これほど近くで互いの息遣いを感じるのだろう。

 その想像だけで、喉の奥が熱くなる。理性を噛み締めた。

 静かに、息を吐いた。


「暁臣様……?」

「……いや、なんでもない」


 危うく、未来への独白が口を突きそうになったのを呑み込む。

 自分が思っている以上に、俺はすみれとの婚儀を心待ちにしているらしい。

 内に潜む執着の深さに、苦笑が漏れそうになる。


 切り分けられたケーキが皿の上で、苺がルビーのように艶めいている。

 すみれはそれを丁寧に移し、宝物を差し出すみたいに俺の前へ置いた。


 本来なら、彼女が頬張る姿を特等席で眺めたい。

 だが、すみれの澄んだ瞳は——俺が口にする瞬間を今か今かと待ち、期待に満ちて輝いている。

 フォークを取り、柔らかなクリームとスポンジを掬って口へ運んだ。


 ……思ったより、ずっと甘いな。


「今夜のケーキは、今まで食べたどの菓子より美味い」

「本当、ですか……!?良かった……!」


 俺の言葉に弾かれるように、すみれも自分の皿へ視線を落とし、そっと口に運ぶ。

 甘美さにふわりと口元が綻び、その表情だけで、喉を通った砂糖の甘さ以上の熱が胸の奥まで満ちていく。


「あの、暁臣様。実は……もう一つ、プレゼントもあるんです」

「プレゼント?まだ何かあるのか」


 すみれはケーキの余韻を惜しむように席を立ち、机の引き出しを開ける。

 抱えて戻ってきた小箱を見て、先日『信子殿と買い物に』と言い出した理由がようやく腑に落ちた。


「……受け取って、いただけますか?」


 壊れ物を差し出すような、遠慮がちな仕草。


「開けても構わないか」

「はい。あの……暁臣様にいただいた大切なお金で、買ったものなんですけれど……」

「あれはすみれに渡した金だ。用途は好きにしていいと言っただろう」

「……ありがとうございます」


 結ばれたリボンを解き、蓋を開ける。

 中から現れたのは、革製の手帳。

 手に馴染む大きさ。機能性を重視した実直な造り。

 華美な装飾はないが、革の質、縫製の細かさ——一流の職人の仕事だとすぐわかる。


「使うほど……色が深く、綺麗に変わるそうで。お仕事でも、学校の時でも……お使いになれたらいいな、と思って選びました」

「……困ったな。すみれから初めての贈り物だと思うと、使うのがもったいなくなる」

「えっ、そ、そんな……!できれば……毎日、持ち歩いてもらえると嬉しくて……」

「ふっ、冗談だ。ありがとう、すみれ。肌身離さず、大切に使わせてもらう」


 告げると、すみれは苺より鮮やかな赤に頬を染め、はにかむように笑った。


 すみれには、何不自由ない暮らしができるだけの金を渡している。

 その中から彼女が選んだ使い道が、俺への贈り物と祝いのケーキ、そして信子殿への感謝の品。

 自分の贅沢ではなく、先に『誰かのため』を選ぶ——その利他的な選択は、あまりに、すみれらしい。


 無欲で、健気で、危ういほどに。


「すみれ。……おいで」


 椅子に座ったまま両腕を広げて見せると、すみれの肩が小さく跳ねた。

 だがすぐに、視線を伏せたまま吸い寄せられるように近づいてくる。

 細い手首を引けば、彼女はそっと、待っていた場所——俺の腕の中に収まった。


 今はまだ、他人のためにばかり心を使う彼女だ。

 だがいつか、本当に自分のために考え、自分の欲するものを『ほしい』と口にする日が来るだろう。

 その時、彼女は何を選ぶのか。何を望むのか。


 ——その日が来ることを、これほどまでに愉しみにしている自分がいた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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