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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第二十三話 誕生日のケーキ①

「すみれお嬢様。こちらでよろしいでしょうか?念のため、開けて中身を確認してくださいね」

「はい。……ありがとうございます」


 信子さんから、少しだけ重みのある白い箱を受け取る。

 箱を留めている細いリボンを解き、小さな金色の封シールを——壊さないよう、慎重に指先で剥がし、そっと蓋を持ち上げた。


 ふわり、と。

 甘い香りが一瞬で鼻先をくすぐる。


 中から現れたのは、雪のように真っ白な生クリームの上に、真っ赤に熟れた苺が隙間なく並べられたデコレーションケーキだった。

 蜜を塗ったように艶めく苺は、午後の光を浴びて、まるで散りばめられた宝石みたいにきらきらと輝いている。


「……凄い。なんて、綺麗なの……」

「ふふ。きっと、殿下もお喜びになられますよ」

「はいっ。喜んでいただけると、いいのですが……」


 胸の奥がくすぐったい。

 それは緊張で、期待で、少しだけ怖くて——でも、嬉しさの方が勝っている。


 このお部屋を最初に与えられた時。

 暁臣様は『少し遅れた誕生日祝いだ』と言って、用意してくださったケーキを一緒に食べた。


 あの時は、ただ『甘い』『綺麗』くらいしか分からなくて。

 その儀式に込められた意味も、暁臣様が用意してくださった優しさも、まだ受け止めきれていなかったけれど——。


 信子さんに教わったのだ。

 誕生日にケーキを食べて祝うと言う、素敵な習慣があること。

 そして、暁臣様の誕生日が『今日』であること。


 だから、今日。

 内緒で、信子さんに買ってきてもらった。

 私からの、誕生日のお祝い。


「あの……この真ん中の札には、何が書いてあるんでしょうか?」

「お店の方が特別に添えてくださったんですよ。これは『Happy Birthday』と書いてあります」

「はっぴー、ばーすでー……。えいご、ですよね?」

「ええ。異国の言葉で『お誕生日おめでとう』と言う意味です」


 札に書かれた流麗な文字を、まじまじと見つめる。

 今はまだ、日々の漢字を覚えるだけで精一杯。

 けれど——いつか私も、こんな風に美しい異国の文字を、当たり前のように綴れるようになるのだろうか。


 箱から漂う、甘く幸福な砂糖の香り。

 今夜、暁臣様と過ごす時間は、このケーキと同じくらい甘く、蕩けるようなひと時になりそうな——そんな予感がして、胸の奥がトクン、と跳ねた。


「ふふ。なんだか、とっても嬉しそうですわね、お嬢様」

「えっ。そ、そうでしょうか……?」

「ええ。すみれお嬢様は、日に日に可愛らしく、大人の女性になられておられます」

「——っ!?」


 ……そんな。

 本当に、信子さんの目にはそう映っているのだろうか。


 きっと、私を励ますためのお世辞だ。

 そう思うのに、頬の熱は嘘をつかない。

 たまらなく気恥ずかしくなって、熱を帯びた頬を思わず両手で覆い隠してしまった。


 大人の、女性……?私が?

 その言葉が胸の中で転がって、落ち着かなくなる。

『暁臣様に贈り物をする』ただそれだけのことで、こんなにも心臓が忙しいなんて。


 空が燃えるような夕暮れから、深い藍色へと溶け込んでいく頃。

 信子さんと入れ替わるようにして、暁臣様が帰宅された。


 一生懸命選んだプレゼント。

 そして特別なケーキ。

 手渡した瞬間、あの端正な顔立ちが、どんな風に綻ぶのだろう。


 暁臣様。

 私、あなたがくださった大切なお金で、初めて自分でお買い物をしたんです。

 初めて、誰かに誕生日プレゼントをお渡しするんです——。


「すみれ。……ただいま。待たせたな」

「おかえりなさいませ、暁臣様」


 帰宅するなり、暁臣様は手袋を外し、私の手をごく自然に取った。

 指先が触れ合う瞬間、胸がきゅっと鳴る。

 こうしていると、指先から暁臣様の気持ちが伝わるようで——ただ触れられると言う、それだけのことが、今の私には涙が出るほど嬉しい。


 いつもと同じ。けれど、今日だけは違う特別な夜。

 向かい合って、私のお部屋のテーブルで夕食を共にする。

 窓の外に広がる庭園の灯りが、暁臣様の彫刻のように美しい横顔を淡く照らしていた。

 その柔らかな光が、彼の持つ高貴さと優雅さを、より一層際立たせている。


 食事が終わりに近づくにつれ、いつ、どのタイミングで切り出すべきか——そわそわして落ち着かなくなってしまう。

 贈り物をすることが、これほどまでに胸が高鳴り、心臓の音がうるさく感じるものだなんて、知らなかった。


 暁臣様は……。

 今まで、どんな気持ちで私に着物や宝飾品を贈ってくださっていたのだろう。

 いつも当たり前のような顔をして手渡してくれていたけれど——。

 もしかして、今の私と同じように、ほんの少しだけ胸の奥をドキドキさせたりしていたのだろうか。


 ……今なら、渡せるかしら。


 膝の上で握りしめていた拳に、そっと力を込める。

 逃げないように、自分の心臓を落ち着かせるように。

 それから、静かに、目の前に座る暁臣様を見つめた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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