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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第十九話 祝賀会の着物①

 久しぶりに暁臣様と並んで、庭園をゆっくりと歩く。

 歩幅を合わせてくださっていることが、言葉よりも雄弁に優しい。


 つい先日まで薄紅色に染まっていた桜はすっかり影を潜め、今は瑞々しい若葉が、透き通るような青空に向かって鮮やかな緑を誇示している。

 風に揺れる葉の影が、白い小径に細かな模様を落としていた。


 手入れの行き届いた花壇には、見たこともないような色とりどりの花々が咲き乱れていた。


 赤、黄、紫……。

 初夏の光を反射して、それらはまるで土の上に零れ落ちた宝石のようにきらめいている。

 思わず息を呑むほど、眩しい。


 こうして何も考えず、ただ景色を愛でる穏やかな時間を過ごすのは、一体いつぶりだろうか。

 ここ数日は妃教育と言う名の授業のことで頭がいっぱいで、一人で抱え込み、自分を追い詰めすぎていたのかもしれない。

『できない』と思うほど、余計に呼吸が浅くなる。そんな悪循環の中にいた。


 けれど——どうしても確認しておかなければならないことがあった。

 あの騒動のあと、なおさら。


「……あの、暁臣様。今後、授業の方は、どのように進めていけばよろしいでしょうか」

「すみれ。……お前は、どうしたい?」


 どうしたい……。

 暁臣様は最近、私の進退に関わるようなことでも、必ず私の判断を仰いでくださる。


 きっとそれは、私に『自ら考え、判断し、それを言葉にする』訓練をさせてくれているのだ。

 自分の人生を自分で選ぶこと——それが許されている存在なのだと、私自身に自覚させるために。


 授業の内容は、私にとってどれも難解で、気が遠くなるようなことばかり。

 それはもう、隠しようのない事実。

 けれど、怖いからといって目を逸らしたら、また『元の私』に戻ってしまう気がした。


「……もし、お許しいただけるのであれば。また、藤波様、篠塚様……そして信子さんに、引き続きご指導をお願いしたいです」


 口にした瞬間、胸の奥がきゅっと痛む。

『お願いしたい』と言うだけで、私はいつも罪悪感を抱いてしまうから。


 新しい知識を吸収し、不器用ながらもできることが一つずつ増えていくのは、確かに苦しい。

 私の未熟さを突きつけられることに、向き合う作業でもある。

 けれど、それが楽しく、誇らしくもあることもまた事実だった。


 何より——その努力の先にある『暁臣様の隣』と言う未来を、私はどうしても手放したくない。

 たとえ今の私は、まだ『ふさわしい』と言い切れなくても。


「千鶴様のような完璧な所作を身につけられるのが……いつになるのか、今の私には想像もつかないのですが……」

「あれのようになる必要はないし、焦る必要もない。すみれは、すみれのままでいいんだ」


 その言葉が、胸の奥の固いものを少しだけ緩める。

 自信のなさから、つい悪い方向へ思考が流れ、心に防壁を築こうとしてしまう。

 ——私の悪い癖だ。


 けれど、自分を守るために、暁臣様が注いでくれる真心を疑うようなことだけはしてはいけない。

 彼はいつだって、私に対してどこまでも誠実であろうとしてくださるのだから。


「何より。俺がすみれを妃に迎えると言う決意は、何があっても変わらない」

「……はい」

「すみれ。……お前は、本当に美しい」


 胸が、きゅう、と音を立てそうになる。

 その言葉を、まだ素直に受け取れないのは、私の中に『自分への信頼』が欠けているからだ。


 いつか、堂々と『ありがとうございます』と言えるような自信を持てるのだろうか。

 私は、まだ自分のことが信じられない。


 けれど——そんな私を『美しい』と言ってくれる暁臣様のことは、誰よりも信じられる。

 その視線が嘘でないと、あの声が偽りでないと、心が知っている。


 そうやって、まず彼の言葉を信じることから。

 一歩ずつ積み上げていった先に、いつか自分自身に向けられる確かな誇りがあるのだと——今は願ってもいいのかもしれない。


 季節の移ろいに合わせるようにして、日々の授業の内容も少しずつ彩りを変えていった。


 扱う花の種類が増えれば、その香りを慈しむ心の余裕が、ほんの少しだけ生まれるようになる。

 花を『覚えなければならないもの』ではなく、『愛でてもいいもの』として受け取れる瞬間が増えた。


 書ける漢字が一つずつ増えるたび、復習を兼ねてその日の出来事を日記に綴るようになった。

 暁臣様にいただいた鉛筆を握り、言葉を選ぶ時間が、私を少しずつ落ち着かせてくれる。


 今日見聞きしたこと。嬉しかったこと。

 ほんの少し、立ち止まりそうになったこと。

 言えなかった言葉。言えた言葉。

 遠い未来の私が見返した時、この足掻いた日々が無駄ではなかったと——少しでも思えるように。


「……なんだか、自分に宛てた手紙みたい」


 未来の私が、今の私を振り返って、がっかりしてしまわないように。

 いつか迷った時の私が、この日記を開いて、ほんの少しでも息をつけるように。

『あの時も怖かったけれど、それでも進めた』と、思い出せるように。


 そんな風に、自分自身の明日を肯定的に捉えられるようになってきた。

 信じられないほど小さな変化なのに、確かに私の中で何かが育っている。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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