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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第十七話 帰宅②

 その冷徹なまでの突き放す言葉。

 その言葉があまりにも冷たすぎて、千鶴様の方を見ることができない。

 ——けれど同時に、胸の奥で、ひどく確かなものが静かに灯った。


 暁臣様は、私を選んだ。

 私の手を取って、連れ出してくれた。

 その事実だけが、今の私を支えている。


 外はすっかり真っ暗になり、車のヘッドライトだけが、流れる夜の景色を鋭く切り取っている。

 闇に沈む街並みは無音の絵のようで、ただタイヤの音だけが淡々と続いた。


「信子殿。……此度の件、本当にすまなかった。白川子爵には俺の方から事情を説明し、了解も得てある。後日、改めて俺からも謝罪に伺わせてもらいたい」

「……恐れ入ります、殿下」


 自宅の前で車が止まり、信子さんが静かに降りていく。

 その背中を見つめながら、せめて最後にきちんと謝罪とお礼を伝えなければと思うのに——


 喉の奥が熱く張り付いたようになり、言葉がどうしても形にならない。


 こんなにも多大なご迷惑をおかけしてしまったのだ。

 きっと、もう信子さんに教えを乞うことは叶わないのかもしれない。

 暁臣様に謝罪までさせて、そうなっても仕方のないことをしてしまった——その後悔で、視界が滲んでくる。


 結局、私はいつもこうだ。

 どれほど多くの人に助けられ、守られてきても、最後には『拒絶されること』を過剰に恐れてしまう。

 相手から厳しい言葉を聞くのが怖くて、本当は伝えなければならない感謝や決意を、気づかぬうちに胸の奥へ飲み込み続けてしまうのだ。


「すみれお嬢様。……また、次の水曜日。お伺いいたしますね」


 去り際、信子さんが車内の私へ、優しく声をかけてくれた。

 まるで、今日のことを『終わり』にしない、と宣言するみたいに。


「……いいのですか……?私のせいで、あんな目に遭わせてしまったのに……」

「もちろんです。お嬢様の笑顔を見るのが、今の私の楽しみなのですから」

「……その時は、俺が直接迎えの車を出そう。二度とあのような不備は起こさせない」

「ご配慮ありがとうございます、殿下」


 胸の奥が、じん、と熱くなる。

 情けないほど、救われてしまう。


 走り出した車の中で、私は信子さんの姿が夜の闇に溶けて見えなくなるまで、ずっと後ろを振り返り続けていた。


 隣に座っている暁臣様は言葉を発することなく、視線は窓の外に向けられたまま。

 私の手をぎゅっと握り締めてくれてはいる。

 けれど、その沈黙が——かえって私の不安を煽った。


 嫌われてしまったのなら、きっとこんな風に手を握ってはくださらない。

 そう自分に言い聞かせても、どうしても最悪の結末を想像してしまう。


 私の我が儘が、暁臣様を失望させてしまったのではないか。

 私を迎えに来てくださった時に、素直に帰っていれば。

 あの時の自分の意地が、今になって喉元を締め付ける。


 やがて、見慣れたお邸の前に車が止まる。

 ここでもやはり言葉はない。

 ただ無言で私の手を取り、車から降ろしてくれるだけ。


 千鶴様のお邸とはまったく違う、洋風の重厚な邸。

 床は畳でも板の間でもない。

 廊下に続く幾何学的な模様を眺めていると、不思議と呼吸が整っていくのが分かった。


 ——帰ってきた。

 戻っていい場所が、ここにある。


 手を引かれながら暁臣様の背中を追い、自室の近くまで辿り着いたその時。

 繋がれていた手が、ふっと離れた。


「……疲れたろう。今日は湯に浸かって、ゆっくり休むといい」


 低く、そっけない声。

 暁臣様はそのまま、隣にある自室の方へ向かって歩き出そうとする。


 数日ぶりにこの家へ戻れた。それだけで満足すべきだ。

 彼は怒っているのではない。きっと、ただ疲れているだけ。

 ——分かっている。分かっているのに。


「っ……暁臣様!」


 気がつけば、身体が勝手に動いていた。

 廊下を駆け、暁臣様の背中に後ろからしがみつく。

 拒まれるかもしれない。

 こんな子どもじみた真似、困らせるだけなのに。


 頭の片隅で冷静な自分が叫んでいるのに、どうしても止められなかった。


「あ、あの……!怒ってくださって構いません。勝手なことをした私を、叱ってくださっても……それでも、それでも私は……まだ、こちらでご一緒させていただきたいのです……!」


 初めて自覚してしまった『恋』と言う感情が、私のすべてを突き動かしていた。

 怖いのに、離れたくない。

 甘えてはいけないのに、触れてほしい。


 暁臣様の手がゆっくりと動き、私の手に触れた。

 そして、一つずつ指を解くようにして、私の腕が離されていく。


 ……やっぱり、駄目だったんだ。

 暁臣様もお疲れだ。

 こんな時まで、私の勝手に付き合わされるのは苦痛でしかないはずだ。


 そんな言い訳で自分を慰め、項垂れようとした——その瞬間。


 解かれた私の手は、そのまま彼の大きな掌に包み込まれた。

 何も言わずに、私の手を引いたまま、暁臣様は自室の扉を静かに開け、私を中へと招き入れる。


 言葉はない。

 けれど、拒絶ではない。


 扉の向こうに滑り込んだ空気が、ふわりと私の頬を撫でた。

 胸の奥で、固く縮こまっていたものが、ほどけていく。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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