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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第十七話 帰宅①

 どうすれば、信子さんを無事にご自宅へ帰せるのだろう。


 ただでさえ、私の我儘に付き合っていただくために、数日間もここで寝泊まりを強いてしまった。

 その挙げ句に、このようなことに巻き込んでしまうなんて。


 私はいい。

 心配してくれる人の言葉を聞かず、こうなってしまったのだから——自業自得だ。


 けれど、信子さんには待っているお子様がいる。

 守るべき、平穏な家庭がある。

 もう一度、千鶴様に心の底から懇願すれば……分かってくださるのではないか。

 そう思おうとしてしまう自分が、また甘いのだろうか。


「ごめんなさい……信子さん。私の、私の身勝手な行動のせいで……」

「すみれお嬢様。……大丈夫です。そんな、泣きそうな顔をなさらないで」


 信子さんは優しく微笑んで、私の肩を抱いてくれる。

 その温もりが、かえって申し訳なさを増幅させた。


 堪えきれなくなった涙が視界を滲ませる。

 唇を噛んでも、止まらない。

 ——私が泣く資格なんてないのに。


「……!」

「信子さん?」


 不意に信子さんが顔を上げた。

 じっとドアの向こうの気配を探るように見つめ、やがて、ふっと安堵したような笑みを浮かべた。


「すみれお嬢様。もう、大丈夫です。間もなく、迎えがいらっしゃいます」

「お迎え……?」


 その言葉を裏付けるように、廊下の向こうから騒がしい足音が聞こえ始めた。

 怒号に近い、複数の声。

 床が震えるほどの勢いで近づいてくる。


 知らない人たちが力ずくで、私に『婚約破棄』を迫るために乗り込んできたのだろうか。

 宮家と言う場所は安全だと——勝手に思い込んでいた。

 けれど、今はどこも安全には見えない。


 どうか、信子さんだけでも無傷でここから出してもらいたい——。


 祈るように握りしめた拳に、力がこもる。

 爪が掌に食い込み、痛みで自分を繋ぎ止める。


 だが、その騒乱の中に。

 私は聞き紛えるはずのない声を——確かに、聞いた気がした。


 心臓が跳ねる。

 重厚で、けれど絶対的な安心をくれる空気。

 胸の奥が、ひどく熱くなる。


 間違えるわけがない。


 扉に駆け寄り、ドアノブを回した。

 ガチャン、ガチャン。

 虚しい金属音だけが響く。


 やはり外側から鍵がかけられていて、扉はびくともしない。


 すぐそこに、すぐそこにいるのに。

 暁臣様が——。


「すみれ!そこにいるのか……!」

「暁臣様っ!」

「千鶴!今すぐ鍵を開けろ!!」

「暁お兄様……嫌です!開けませんわ、絶対に!」


 外で何が起きているのかは見えない。

 けれど千鶴様の叫び声が、彼女が本気で私たちを会わせまいとしていることを物語っていた。

 その必死さが、逆に恐ろしい。


「すみれ。……扉から離れろ」


 低く、けれど確かな意志を宿した暁臣様の声。

 私は言われるまま、一歩、また一歩と扉から後退した。


 直後。

 分厚い木製の扉の中心から、じわりと黒く変色が広がり始める。

 それは生き物のように侵食を続け、次の瞬間——

 ザアッ、と砂が崩れるような音を立てて、扉が形を失い、霧散した。


 視界が開ける。

 舞い散る黒い塵の向こう側。

 あれほど会いたいと願っていた人の姿が、そこにあった。


「っ……」

「すみれ……っ!」


 名前を呼ばれるよりも早く、暁臣様の腕の中に吸い込まれるように抱き寄せられる。

 数日ぶりに触れる、暁臣様の体温。

 鼻をくすぐる、懐かしい香り。

 それだけで、張り詰めていたものが一気にほどけていく。


 これまでの私なら、ただ抱きしめられるまま、身を固くするだけだった。

 触れてはいけない、迷惑をかけてはいけない——そんな癖が染みついていたから。


 けれど——今、この時だけは違った。


 私は自分から、彼の大きな背中に手を回す。

 二度と離さないように、服をぎゅっと掴み、彼の胸に顔を埋める。


「ぁき……おみ、様……」

「もう大丈夫だ。……やはり、無理やりに連れ帰るべきだった。俺の判断が甘かった」

「いえ……私の、せいでです……」


 暁臣様の胸の鼓動を感じながら、ようやく一息つけた気がした。

 呼吸が、少しずつ、現実の速さに戻っていく。


 視界の端には、扉が塵と化したこと。

 腰を抜かし、怯える人たちの姿。

 そして、冷たい床に崩れ落ちている千鶴様の姿が見えた。


「なぜ……なぜですの、暁お兄様……っ!」

「……黙れ。追って五条家から、正式な抗議と処分を伝える」

「千鶴は、高貴な宮家の女王ですのよ!?それを差し置いて……そんな、何一つ持たない『無華』を選ぶと言うのですか!?」


 千鶴様の悲痛な叫びが、廊下に響き渡る。

 あの方ほど気位の高い人が、これほどまでに醜く声を荒げるなんて——。


 けれど暁臣様は、彼女と目を合わせることさえしなかった。

 一瞥もくれず、ただ私の手を優しく取り、引いて歩き出す。


「だからなんだ。……他者から与えられただけの地位と言う名に、一体何の価値があると言うのだ」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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