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【完結】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~【Web版】  作者: 木風


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第一話 隣室のはじまり④

「すみれ。よく聞いてくれ」


 暁臣様は、私の視線を逃がさないように、静かに言った。


「俺は、すみれが今のままであっても構わないと、本心から思っている」


 大きな手が、私の震える手をそっと包み込む。

 手袋越しではない温度。

 掌の熱が、冷え切った指先を溶かしていく。

 私は反射的に指を引きかけて、——引けない。引きたくない。

 そんな自分に気づいて、また胸が痛くなる。


「ただ、やはり世の中には煩い連中がいるのも事実だ」


 手を握る力が、ほんの少しだけ強くなる。

 守るための力だと、わかる。

 わかるのに、それが嬉しくて、怖い。


「そこで……正式に家庭教師を呼び、妃教育を受けてもらおうと思っている」

「……きさき、きょういく……」

「ああ。茶道、華道、香道、書道の他に、中等教育に準ずる知識と教養。そして宮中での立ち居振る舞いだ」


 教育……。

 すべてが無駄だと、なんの価値さえないと撥ね除けられてきた私に、知識と教養を……?

 世界の輪郭が、今までより少しだけ広がる気がして、眩暈がした。


「あ、あの……先日、暁臣様のお母様とお姉様にお会いした時、私は何か粗相をしてしまったのでしょうか?」

「いや。あんなものは瑣末なことだ。気にする必要はない」


 けれど、あの時は何を聞かれても上手く言葉が出ず——結局、ほとんどすべてを暁臣様に代弁させてしまったのだ。

 そのせいで暁臣様が親族から責められたり、評価を落としたりするようなことがあったとしたら。

 そう思うと、申し訳なさで仕方がなくなる。

 いっそ消えてしまいたい、とすら思ってしまう。


 なぜ私は、こんなにも無力なのだろう。

 でも——もし、その『お妃教育』とやらを受けることで、少しでも知識を身につけることができたなら。

 いつか、今よりもほんの少しだけ、胸を張って暁臣様のお側にいられるようになるだろうか。

 この方が差し出す手を、怖がるだけではなく、きちんと握り返せるだろうか。


「……これは形式の話だ」


 暁臣様が言い切る。

 その声には、迷いがない。


「俺がすみれを、誰にも文句を言わせぬ立場で守り抜くための盾だと思えばいい」

「あの……私……」

「ゆっくりで構わない。すべて、すみれの歩幅に合わせよう」


 歩幅。

 その言葉が、胸に落ちた。

 焦らなくていいと、逃げなくていいと、言ってもらえた気がしたから。


 本当は、怖い。

 この邸の外にいる人々に、私の瞳を見られるのも、『無華』だと知られるのも。

 期待に応えられなかった時、『所詮は無華だ』と落胆される瞬間を想像するだけで、足が震える。

 それでも。


 私の未来を誰よりも案じてくださる暁臣様のために、私が努力を惜しむ理由なんて、どこにもない。

 努力など、したことがない私だけれど——今は、したい。

 この方の隣に立つ資格を、少しでも自分の手で掴みたい。


「私……受けてみたいです。至らないことばかりで、ご迷惑をおかけすることも多いかと思いますが……」

「迷惑なものか」


 即答だった。

 その短さが、優しさよりも強い確信に聞こえてくる。


 私の拙い決意を聞いた暁臣様が、嬉しそうな顔を見せた。

 その微笑みを見た瞬間、心の底から思った。


 このお方の笑顔のためなら、どんな困難も乗り越えていける——と。

 この時は、本当に……そう信じて疑わなかったのだ。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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