第七話 初めての手紙、二度目の口づけ②
「帰りにどこか、すみれが喜びそうな喫茶店にでも寄ろう。茶会はそのためのついでだと思えばいい」
その言葉に、胸の中の硬いものがほどけていく。
私が緊張しないように、気負わないようにと気遣ってくださる気持ちが嬉しい。
「そんな贅沢、本当にいいのですか?」
「もちろん」
こんな幸せを享受して、罰が当たらないだろうか。
ここまでしてもらってよいのかと困惑するほど、今の私は満たされていた。
……満たされているはずなのに、欲が出る。
怖い。けれど、ほしい。
「すみれ」
「はい?」
「……もう少し、触れてもいいか?」
「はい。……大丈夫、です」
いつものように、暁臣様が素手で私の手を包み込む。
もう片方の大きな手がゆっくりと頭を撫で、指先が髪を滑り落ちていく。
ここまでは、いつも通りの時間——のはずだった。
けれど最近は。
触れられるたび、胸が苦しいほどに波打って、困ってしまうことが増えた。
『安心』とは違う。もっと熱くて、もっと逃げ場のない何か。
耳たぶに指が触れた。
それだけで身体がびくりと震える。
そのまま熱を孕んだ指先が、私の首筋を、ゆっくりとなぞり下りていく。
くすぐったい、のに。
くすぐったいだけじゃ、なくて。
「すみれ……すまない」
囁きが低く落ちる。
怖いはずなのに、怖くない。
むしろ、もっと、と言いたくなる自分が、怖い。
「……もう少しだけ、欲張らせてくれ」
「っ……!」
彼の唇が、私の鎖骨の窪みにそっと触れた。
熱い。
反射的に身体がビクッと跳ねる。
恥ずかしくて、目を開けていられず、ぎゅっと強く閉じてしまう。
首筋にかかる彼の吐息が、最初は甘くくすぐったかったのに、次第に重く、深い感覚へと変わっていく。
もうドキドキするだけじゃ足りない。
心臓が今にも口から飛び出してきそうで、息をするやりことさえ忘れてしまう。
「っ、は……」
「……ぁき、おみ様……?」
「……そんなに息を止めていたのか?」
見透かすような声。
それだけで余計に顔が火照り、小さく頷くことしかできない。
「あまり、俺を試さないでくれ。……壊してしまいそうになる」
「ため……す……んっ……」
私にそんな、彼を試すような余裕なんてあるわけがないのに。
反論しようとした唇は、逃がさないと言わんばかりに彼に塞がれ、また息が奪われる。
熱が上がる。
胸の奥が、きゅっと縮む。
暁臣様とこうして唇を重ねるのは、これで二度目のこと。
身体の内側から熱が沸き上がり、鼓動は痛いほどに速度を上げていく。
「はぁ……はぁ……っ」
「すみれ……。受け入れ過ぎだ。……このままでは、止まらなくなる……」
ようやく唇が離れると、肩で激しく息をしながら、くったりと彼の胸に寄りかかってしまう。
だって、拒否することなんてできるはずがない。
『慣れる』なんて、本当にできるのだろうか。
この胸の痛みは、毎回、初めてみたいに弾ける。
——受け入れ過ぎ。
その言葉の裏に、ふと、鋭い棘のような疑問が走る。
暁臣様は、他の方とも、こういったことをされてきたの……?
かつての恋人や、彼が知る洗練された女性たちと、今の私を比べているのではないか。
そんな問い、とてもじゃないけれど怖くて聞けるはずもなかった。
さっきまでの鼓動の激しさとは別の、冷たく鋭い痛みが、胸の奥に深く突き刺さった。
——私の知らない暁臣様が、まだ、いっぱいいる。
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