第五話 仲直りのしかた①
昨日は、一度も暁臣様にお会いすることができなかった。
朝食はもちろん、先ほど一人分だけ運ばれてきた昼食のトレイを見て、胸の奥が冷たく冷え切っていくのを感じる。
今日も、私は一人で食事を摂れと言うことなのだろう。
彼を失望させ、怒らせてしまったのだから、当然の報いなのかもしれない。
時折、廊下で扉が開閉する微かな気配がするたびに、偶然を装って部屋を飛び出そうかとも思った。
けれど、もし顔を合わせた時に彼が冷ややかな視線を向けたら——
そう想像するだけで、足が石にでもなったように動かなくなってしまった。
会いたいのに、会うのが怖い。
胸の奥が、矛盾で裂けそうだ。
やるせない想いを抱え、庭園へとふらふらと歩み出た。
冷たい空気が肺に入り、少しだけ頭が冴える。
……それでも、怖さは消えない。
足元には、私の名と同じ『菫』の花が、健気に、けれど気高く咲いている。
『無華』と言う欠陥を持って生まれた私よりも、この小さな花の方が、よほど完成された美しさを持っているように見えてしまう。
この花は、咲いているだけで許されるのに。
私は、ここにいるだけで、いつも咎められる気がする。
「それでも……たとえ、何の役にも立たなくても……。暁臣様の、お側にいたいんです……」
祈るように、そっと瞼を閉じた、その瞬間だった。
背後から、熱を帯びた大きな手にぐいと引き寄せられ、私は驚きのあまりその場に尻餅をついてしまった。
驚愕に目を見開く暇もなく、掌が私の頭を優しく撫で、力強い腕が身体を丸ごと包み込む。
息が止まった。
——こんな抱き方、私を抱きしめるこの腕を、私は知っている。
そんな……いつの間に、暁臣様が……。
「え……?あ、あの……暁臣、様……?」
「一緒に食事を摂ろうと部屋へ行ったのだが。いないから、心配して探しに来た」
……私を、探しに。
その言葉だけで、胸の奥の氷がぱき、と音を立てて割れた気がした。
たった一日、言葉を交わさず、触れ合わなかっただけなのに。
伝わってくる暁臣様の体温が、涙が出るほど懐かしく、身体の隅々にまで染み渡っていく。
一度捕らえられたら二度と離れたくないほど、愛おしい。
私は無意識に、彼の衣にしがみついていた。
「……あ、あの……今日も、お食事は別々なのだとばかり……」
「馬鹿なことを言うな」
低い声。
でも、刺すような冷たさではない。
むしろ、堪えるような熱が混じっている。
「俺は、すみれと一緒にいなければ、食事を摂った気がしない」
私と……?
私にとっては、彼と並んで座る時間が一生の宝物のような幸福だったけれど。
まさか、暁臣様まで同じように思ってくださっていたと言うのだろうか。
胸が、じん、と痛くなる。嬉しいのに、痛い。
「だって、暁臣様……あの日、怒っていらしたから。舌打ちまでされて……」
言ってしまった瞬間、喉が詰まる。
怒りを蒸し返したいわけじゃない。
ただ——怖かった、と伝えたいだけなのに。
暁臣様の腕が、少しだけ強くなる。
「……あれは、すべて俺が悪い」
「……え」
「すみれの苦しみに気づけなかった、己の不甲斐なさに腹を立てただけだ。怯えさせてしまい、すまなかった」
「……っ。わ、私、嫌われてしまったのかと……」
「嫌う?俺が、すみれを?」
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