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8.ワイバーン戦

ワイバーンが上昇する。


ゆっくりとした飛翔だ。


と、そう感じた次の瞬間である。


ヒュン‼


速い!


目に留まらぬほどの速さで、こちらとの間合いを詰める。


「魔力による変則飛行か」


ドラゴン系のモンスターは多大なる魔力を有する。


奴は今、その魔力によって飛行を制御し、通常ではありえない角度で、こちらへと急降下したのだ。


その狙いは……。


「はぁ!」


ガギン‼


鈍い音が響いた。ミリアリアさんの剣が、ワイバーンの爪をはじいた。よく見えている。視力を魔力で強化しているのだ。


「食らいなさい!」


攻撃をはじいたミリアリアさんは、空中にいるワイバーンに斬りかかろうとする。


しかし、


『ガクン』


「なっ⁉」


もう一度、魔力制御によって、ワイバーンは地面にへばりつくような姿勢になった。


そして尻尾を振るって、ミリアリアさんの足元を払う。


「くっ⁉ しまっ……!」


「お嬢様⁉」


ワイバーンが倒れこもうとするミリアリアさんの隙を逃さず、先ほど弾かれた凶悪な爪をもう一度振るおうとした。


―――が、


「ミリアリアさん、そのまま立ち上がらないでね」


「え」


まさに起き上がろうとしていたミリアリアさんを制して、俺は彼女に迫ることに夢中になっているワイバーンの死角から、体重をのせて、剣の柄の部分を握りこみ―――


顎をくだくように打ち込む!


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼


「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ⁉」


巨大な岩のごときワイバーンが、数メートル吹き飛ばされた。


「ギ、ギギイ!」


戸惑っているな。


態勢を立て直すのは今か。


「エン、ミリアリアさんの治療を頼むよ」


「わ、分かったっす!」


「グオオオオオオオオオオオオオオオン!」


ワイバーンは一旦距離を取るべく、飛翔しようとする。


「逃がさん!」


キリが追いかけるようにとびかかる。


しかし。


ブワ!


「うわ⁉」


凄まじい速度での飛翔。翻された翼による風圧で吹き飛ばされた。


木にたたきつけられる。


「ぐふ!」


「大丈夫か! それにしても、相当な魔力だな。本当にワイバーンなのか? いや、ワイバーンだとすれば……」


俺は剣を構えて、旋回するワイバーンを追いかけながら言った。


「キリ、すまないけど、村人たちの避難を頼むよ。これは通常のワイバーンじゃない。変異種だ。多分」


「変異種⁉」


変異種というのは、モンスターの種族の中から生まれる、特に強力な個体のことを言う。


とりわけ変異種が出た場合は、その強さゆえに、冒険者ギルドに招集がかかることすらある。


「ケリー殿はどうされるのですか」


彼の問いに俺は短く答えた。


「時間を稼いでみるよ。だからみんなは一旦村へ」


「そんな、危険です。師匠!」


俺はそんな声を聞きながら、彼らを背に走り出した。


奴は血の味を知った。


だから、その手のモンスターは必ず戻ってくる。


ここで逃すのは得策ではない。




凄まじい速度で滑空する空の怪物を追うのは容易ではない。


スキル『疾風』を使用して、こちらも後を追う。


「オッサンを余り走らせるなって……」


汗をかきながら追いかける。


ワイバーンは忌々しそうに、並走するこちらを睨む。


そして。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


真横に並ぶように飛翔すると、口元に魔力を集中しはじめた。


「ブレス!」


ドラゴン系モンスターが、頂点に君臨する理由の一つだ。


その強力な魔力の炎は、周囲一帯を焦土と化す。


上位ドラゴンであれば、国を一つ滅ぼしかねない。モンスターの使う攻撃の頂点。


―――ゴッ


空気を震撼させる熱量を誇る火球が、こちらへ次々と吐き出される。


ニィ、とワイバーンが嗤った気がした。


これら火球が着弾すれば、周囲一帯は火の海となる。


「勘弁してくれよ」


たまらずにぼやく。


火球が着弾すれば、火炎が周囲を燃やし尽くし、空気は消失する。人間などひとたまりもないからだ。


逃げ場など無い。


だから奴は嗤ったわけだ。


「―――やるしかないのか」


俺は他に選択肢がないがゆえに、あえて迫ってくる火球を避けない。


むしろ、それに向かってまっすぐに突っ込む。


「ギィッ⁉」


意外だったのか、ぎょっとした表情をワイバーンがした気がした。だが、そのあとにやはりニヤリとした表情に戻った。


俺が死んだと確信したのだろう。


だが、俺の感覚はシンと静まり返る。


一瞬の時が、永遠に引き延ばされて―――


「―――風韻剣クラウ・ソラス


ヒュン、ヒュンと風のごとく、素早く魔力を込めた剣を振るった。


火球はことごく、俺の目の前で野菜のようにみじん切りになる。


そして、散り散りのとるに足らぬ欠片ととなって、後方へと飛散して行った。


もはや、それらは脅威ではない。


「ギイイイイイイイイイイイイイ!」


それを見たワイバーンは怒髪天を衝く。


更に幾つかの火球を放出する……が。


「ええい、しゃらくさい」


俺は魔力を腕へと込めた。


そして、飛んできた火球を、


「森で火を飛ばすな。危ないだろう!」


そのまま受け止めて掴む。


「グオオオオオン⁉」


驚愕したかのようなワイバーンの声が響く。


「人間だからって侮ったな」


俺はそれをできるだけ何もない場所へと捨てるように投げた。


「よし、待て」


「グギャギャアアアアアアアアアア!」


屈辱なのか、驚愕なのか。


ワイバーンはいななきを響かせながら、再び距離をとろうと、逃げるように上空へ飛翔しはじめる。


しかし、ワイバーンはしばらく飛翔して俺から逃れようとしたが、徐々に俺に距離を詰められ始めた。


「最初の顎への一撃がそれなりにきいてるみたいだな」


もう少しだ。


そんなことを思っていると、ワイバーンは切り立った崖の下へと潜るように飛んでいく。


「ギィ!」


「なるほど」


俺は切り立った崖から、下を眺めながら言う。


「追いかけるのは難しそうだな」


汗をぬぐいながら言った。


そして、おもむろに剣を構えると。


―――――――ザシュ


その崖を根元から切った。


ゴッ!


という音とともに、巨大な岩石となった崖が、ワイバーンの直上へと落下する!


「ギ、ギギイイイイイイイイイイイイ⁉」


「自然破壊は反対なんだが……」


後で怒られたどうしよう。


そんな思いとは裏腹に、ワイバーンのいななきが轟く。


「ギイイイイイイイイ!」


奴は俺と距離をとろうと、身を翻して、別の方向へと飛ぼうとした。


だが、


「よっと!」


俺は尻尾を何とか掴むと、そのまま放さずに、崖の方へと投げつけた。


「フン‼」


「ギャッ!」


脆くなっていた崖がさらに崩れて、ワイバーンを巻き込むようにして、落下する。


俺も身体強化しつつ、一緒に落下した。


幸い下には川が流れている。これは確認済みだ。


ザブン!


という音とともに、俺とワイバーンは水の中へと落ちる。


俺と奴。両方が岸辺へと上がった。


「グオオオオオオオオオオオオン!」


逃げられないと悟ったのか、奴は押しつぶそうと迫ってきた。


ガッ、とその巨体で俺にマウントをとる。


「ギイイイイイイイイイイイイ」


今度こそ仕留めた、とばかりに奴は俺に体重をさらにかけようとした。


しかし。


「フー」


俺は嘆息しながら言った。


「やっと捕まえたぞ」


思ったより時間がかかってしまった。逃げる相手をつかまえるのは大変だな。


ギリ……ギリ……ギリ……ミシミシッ……!


「ギイ⁉」


俺は奴の足を左手で掴むと、そのまま逆に引き寄せる。


そして、右手で剣を抜き放った。


「ギ、ギ、ギ」


奴は逃れようとするが、俺の腕力からは逃れられない。


「ハッ‼」


剣を一閃させる。


ガギン!


奴はぎりぎりのところで、もう片方の脚の爪で受け止めた。


「グギイイイイイイイイイイ⁉」


だが、受け止めた衝撃で、その巨体が傾き、地面に叩きつけられる。


「とどめだ」


俺はワイバーンに馬乗りになると、再び剣を構え、振るう。


だが、その時。


ズシュ!


「……」


強力な尻尾で俺の胴を貫こうと、背後の死角から刺突がくりだされた。


起死回生の一撃。


相手は俺に最後の一撃を与えたと、ようやく余裕の表情を取り戻す。


しかし。


「もう一度捕まえた」


やれやれだ。


「これ以上、逃げられると、厄介だと思ってたんでね。向かってきてくれて、助かった」


「ギ、ギギイイイイイイ‼」


奴は驚愕に目を見開く。


だが、もう遅い。


俺はワイバーンの尻尾を脇に挟んで捕まえる。相手がいかにもがこうが、びくともしない。


そして。


竜の断頭台(ヴリトラ・ヘント)


ズパ……。


スッと、固いはずの竜の皮膚に、俺の剣が自然と入る。


ブシャアアアアアアアアアアア!


「ッ⁉」


俺の剣が見えないのか、理解できないのか。


ワイバーンは目を白くさせる。


その刹那で、俺の剣によって体中を刻まれた奴は、血しぶきを上げながら地面にその頭を垂れたのだった。


「ふぅ」


と俺は息をついてから、


「ミリアリアさんたち、大丈夫だったかなぁ」


ワイバーンのことなどすぐに忘れて、仲間たちのケガを心配するのだった。


なお、


「えええええええええええええええ⁉」


村に帰った俺に対して、ミリアリアさんたちから、


「お、お一人で変異種のワイバーンを倒しちゃったんですか⁉ す、すごすぎます……」


「い、今から戦える者だけでも、ケリー殿の救援に向かうつもりだったのですが」


「いやいや、ありえないっすよ、先生!」


と、なぜか歓迎半分、呆れ半分、といった感じで、迎えられることになったのであった。


なぜだ。

【応援よろしくお願いします!】

 「面白かった!」

 「続きが気になる、読みたい!」

 「この後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


 下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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