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7.飢え

「ありがとうございました。ケリー師匠。凄まじい剣捌き、さすがで師匠です」


「見えませんでした。ケリー殿の剣戟はすごいですね」


「移動スピードも獣人より速いっす!」


「ははは、ゴブリンを倒しただけだよ」


いい子たちなので、こうやって何でもないことで褒めてくれるのである。


なんてオッサンに優しい子たちだろう。ほろり。


「ですが不思議です」


そうミリアリアさんが切り出した。


「ゴブリンの習性は先生も同じ理解だったはずです。先制攻撃をかけて、過半数の3体を倒せば、臆病なゴブリンのこと。必ず逃げだすと思ったのですが……」


「はい、お嬢様。私もそれが一番安全だと思ったのですが、うかつでした」


「何が間違ってたんすかね~」


エンが頭を掻きながら言った。


「いや、間違ってはいないんじゃないかな。ただ、今回はちょっとイレギュラーだったっていうだけだよ」


「「「イレギュラー?」」」


「そう。彼らは飢餓状態だった。見てごらん。ゴブリンたちがいた場所に散らばっているものに、気づくかな?」


「散らばっているもの……。木の皮。虫の死骸もありますね……」


「そう、そんなものを食べるほどに彼らは飢えていたんだ。そういう時はモンスターの行動パターンが変化するんだよね」


俺はそう言ってから。


「ごめんね。気が付いたのが、ちょうど奇襲をかける寸前だったから、情報共有ができなくて。大人失格だよ……」


「いえ、それはさすがに私たちが先走っただけですから……。それに助けて頂きましたし。かっこよかったですし……」


許してくれたようだ。


なぜかちょっと顔が赤い気がするけど。


気のせいかな。


とにかく優しい人たちばかりだなぁ、と感動する。


「それにしてもケリー殿は剣のみならず、冒険の知識も豊富なのですね。すごいですね」


「さすが先生っす!」


「ははは、ありがとう。ちょっと知識があっただけだから」


「ちょっと、とは思えませんが……」


「ははは」


これくらいで褒めてくれるのだから、優しい子たちだなぁ。


かつての仲間たちだったら、似たようなことがあっても、


「感謝なんかしてないからな。勘違いするなよ。ああ、でも引き続き私の役に立つなら一生傍に置いておいてもいいけど……」


とか、


「聖女の私を守るのは当然のことです。いい気にならず、今後もわたくしだけのシュバリエとして奉仕することを期待しています。いいですね、わ・た・く・しだけのシュバリエとしての責務を果たすのですよ?」


なんて、顔を紅潮させて、ひどく怒りながら言われたものだ。


しみじみ。


「ですがどうして飢えていたのでしょうか」


ミリアリアさんが形の良い顎に指をあてて言った。


「何か原因があるはずです。飢えたゴブリンは人里を襲うかもしれない。放置はできません。村長の娘として、原因を突き止めて、解決しなければ」


「「はい!」」


キリとエンが良い声で返事をした。


俺も異論はない。


異論はないけど。


スローライフから遠ざかって行くなぁ……。と、ドヨンとした気持ちになることはどうしようもないのだった。




そうしてしばらく進んでいく。


「ひどいですね」


「そうだね」


原因は探すまでもなかった。


なぜなら、進むにしたがって、徐々に増えていくからだ。


ゴブリンやキラー・ウルフ。他のモンスターの死体も増えていった。


そして、1時間ほど歩いた先で、ようやく俺たちは目的の相手にたどり着いた。


周囲にはモンスターの死骸の山。


その死の山の上には、一体のモンスターが鎮座していた。


この森の主は自分だと。


王は自分であると、周囲に誇示するかのように。


巨躯を誇り、ドラゴンの亜種とも言われる存在。


赤茶けた体に二対の翼。凶悪な顎。


深紅に濁った眼球は血に飢えた獣そのものだ。


「あれが今回の騒動の原因か」


間違いないだろう。


なぜあれほどの高レベルモンスターがこんな場所にいるのかは分からない。


だが、奴が周囲のモンスターを無差別に攻撃したせいで、住処を追われたモンスターが大量発生したのだ。


あのゴブリンたちはその生き残りだったのだろう。


そうして、そこまで考えた瞬間。


奴はこちらに気づいた。


ぎょろりとした血染めのごとき眼球がこちらを認めたのだった。


「グオオオオオオオオオオオオオオン‼」


「くっ!」


声だけでビリビリとした風圧が襲う。


ワイバーンの威嚇音が『マンドールの森』に響き渡るのと同時に。


『バサリ』


ワイバーンが新たな獲物を狩るために、飛び立つのが見えた。

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