26.尋問
空中精霊都市ゼケンは、いまだ空中に浮いたままだ。
アルラウネたちに聞いたところ、離陸するより、着陸の方が手間がかかるらしい。
確かに、下手に激突するように大地に降りたら、村の建物は大変なことになるだろう。
元の場所に村を戻すのも大変なようだ。
今しばらくは空中精霊都市としてやっていくしかないだろう。
それよりも、だ。
「みんなよくやったな。本当に強くなった」
俺は弟子たちに声をかける。
村に帰って来て、周囲に倒れているグールたちを見れば、どんな戦いだったかは分かる。
どうやら、これまで教えたことを十分に活かしてくれたみたいだ。
「師匠に教わったことを実践したまでです。ありがとうございました、師匠!」
「以前のままなら村を守ることはできなかったでしょう。ケリー殿のおかげです」
「私もっす! ガチで強くなってるっすよ! さすが先生の指導っすね」
「ははは、俺は何もしてないさ。みんなが頑張った成果だよ」
俺はそう言って微笑んだ。
「そうじゃろうかなあ? あれはそんじゃそこらの修業じゃ身につかんレベルじゃと、エルフの姫は思うのじゃけどなぁ」
ミヒャドさんが呆れた表情で言った。
他のみんなもウンウンと頷いている。
あれえ?
「それよりお主じゃろ。暗黒祭司モルグルを単身で撃破とか。英雄そのものではないか」
「英雄はやめてね。農家だから。農家」
「四魔司祭を撃破する農家。無理がありませんか? 勇者を自称したほうがまだいいのでは?」
「もっとダメ。いいかい、俺は農家だから。スローライフするただのオッサンだから」
「それはどうなんでしょうか、ケリー殿。さすがに過小評価と言いますか……」
「赤ちゃんも騙せそうにないっすよ!」
「いや、本当に大したことはしてないから。今回だって皆が背後の村を守ってくれたから安心して戦えたんだよ。俺だけじゃなくて、みんなの勝利ね。みんなで戦ったんだから!」
「「「「はいはい」」」」
「返事が適当⁉」
本当に違うのになぁ!
ミリアリアさんたちが褒めてくれるが、やはりこうして信頼できる仲間がいなければ勝利は覚束なかっただろう。
まったく、中年をおだてるのが上手いな、みんなは。
そんな風に思いつつも、俺は被害がなくて良かったなぁと、心からホッとする。
さて。
俺は頭の痛い問題を一つ処理するためにある部屋へと向かうことにした。
「師匠、私もついて行って良いでしょうか?」
「あー、そうだね。村の責任者がいたほうがいいか」
「師匠もシャドウ・バンガードですが?」
「い、今だけだからね⁉ これが終わったら農家に戻るんだからね⁉」
俺は必死に訴える。
「あー……、はい……。………」
「なぜ沈黙⁉」
不安になる。
そんな会話をしながら、村長宅の一室へと到着する。
そこには縛られ、アイテムで力を封印を施された『モルグル』がいた。
杖の状態から身体がある状態になっているが、俺のアイテムで封印状態にしてある。
身体も俺たちと同じぐらいに縮んでいる。
「既に王国へ報告はしました。じきに引き取りに来るとは思いますが、できるだけ私たちも事情を知っておくべきでしょう」
「そうだね。王国からすれば辺境の村に興味はないだろう。腹立たしいことだが、そうはいっても始まらない。情報は自分たちで取って、そして自衛しなくてはね」
「はい、もちろんです。それが辺境で生き抜く鉄則ですから」
たくましくて偉いなぁ。
まだ若いっていうのに……。
そんな、しみじみとした中年ならではの感慨にふけりつつ……。
俺はモルグルの前に座る。
奴は俺を忌々しそうに見上げた。
「何もしゃべる気はないぞ。それにこれで勝ったとは思わないことだ。王国で封印されようと、そんなヘボ封印などすぐに解いてくれる。王国には貴様のような輩はおるまい!」
「王国の力を舐めないことだ。それに俺なんてペーペーみたいなもんだ」
俺は頭に勇者と聖女がS級モンスターを素手でボコっている恐怖シーンを思い出しながら言った。
「ミヒャドにはある程度聞いているがな。お前は次の紀の魔王になるために戦力を整えようとしていた。そのためにカーマンの村をひそかに支配し潜伏先とした。グール化計画も押し進めた。ゼケン村では更なる応用研究をするための実験場を作ろうとしていた、と」
「ふん、そこまで知っているのなら、俺に聞くことなどもうあるまい。ゼケン村の住人は全員死んでもらうつもりだったのだがなぁ」
不死王は鼻で嗤うような仕草をする。
「命を玩弄するとは。外道め」
「道理よ。我は不死王なればな」
カタカタと頭蓋を震わせて嗤った。
俺は奴のペースに乗らない。
「……俺が聞きたいのは別のことだ。不死王よ」
「ふん、なんだ。まぁ、何も答えぬがな」
「なぜ、お前はそこまで余裕なんだ?」
「は?」
奴は呆気にとられたような表情になる。そしてやはり馬鹿にしたような表情で言った。
「さっき言っただろう、愚か者。我は不死。我は無敵のリッチー。なれば王国に封じられたとて、すぐにでも復活するであろう!」
俺はその言動を見てから、落ち着いた声音で言った。
「いや、それは『嘘』だな」
「……なに」
「師匠、嘘、とはどういうことですか?」
俺は頷きながら言った。
「全部が嘘ではない、と思う。だが、囚人というのはどこまで行っても囚われの身だ。そこに多少なりとも焦りがあるものだ。どんな戦士であれ、聖者であれ。自分の意思と自由を剥奪されるわけだからね。でも、モルグルは違う。余裕がある」
「……」
「そ、それはなぜなんですか、師匠」
ミリアリアさんが言う。
俺は淡々と回答を言った。
「モルグルの背後に、まだ誰かいるからさ。事件はこれで終わりじゃない。むしろ……」
始まりに過ぎない。
そう言いかけた時であった。
『バチン!』
という音を立てて、魔封印の鎖がはじけ飛んだ。
モルグルが間髪なく、杖を掲げる。
そして、大魔術を無詠唱にて行使するっ……!
大爆発が周囲を吹き飛ばし、俺とミリアリアさんの身体は魔力の奔流に消し飛ばされる。
「……なにっ⁉」
―――そんな映像が眼前で展開された。
ある程度の戦士ともなれば、未来を直観することができる。
今の映像はその断片だ。
あったかもしれない未来。
だが、
「つ、杖を。いつの間に」
「やれやれ、そのアイテム高いんだぞ?」
「み、見えなかった。し、師匠今のは……」
ミリアリアさんが目を見張っていた。
俺は肩をすくめる。
「何、掲げた杖をサッと素早く奪っただけさ」
「お、俺にすら見えないだと……」
「す、すごい。さすが師匠です」
「いや、今のがやりたかったことじゃない。モルグルの反応を見たんだ。さらなる黒幕が本当にいるのかどうか、というね」
「ぐ⁉ なるほど、俺をまんまと嵌めたわけか!」
モルグルが悔しそうに呻く。
「そうだ。黒幕の存在に気づかれたと思い、自分の生命エネルギーを極限まで使ってでも俺たちを殺そうとした。それは黒幕がいることの証拠に他ならないというわけだ」
「最後まで忌々しい奴だ! これ以上は何もしゃべらぬ!」
ゴトリ、と頭蓋骨が首から落ちた。
杖だけの状態に戻る。
「まぁ、ここまでか。具体的な名前までは引きだせなかった。ヘッポコですまん」
肝心な部分まで辿り着けなくて謝罪する。
「い、いいえ。師匠。師匠でなければ、今の情報は引き出せませんでした。すごいです!」
「ははは、そう言ってもらえると慰められるなぁ」
ミリアリアさんはやっぱり優しいのだった。
そう言えば尋問は聖女の十八番だったなぁ。
俺ではこの辺りが限界か。
「さらなる黒幕がいると分かった以上、今後も警戒が必要だろう。まぁ、すぐに動くとは思わないけど。警戒しておくに越したことはないだろうね」
ミリアリアさんは頷く。
「そうですね。師匠のおっしゃる通りです。ですから……」
ん?
「今後も厳しい訓練をお願いします!」
あれ?
「シャドウ・バンガードとして、この村のために一層かっこよく活躍される師匠の姿が目に浮かぶようです! その隣で活躍する私。フフフ」
あれれ⁉
「い、いやあ、俺はスローライフがしたいんだけどなぁ……」
俺は今更ながら墓穴を掘ったことに気づいて、がっくり肩を落とすのだった。
いや、俺は諦めない。
諦めないぞ! と心に誓うのだった。
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