25.弟子と師
「ぐ……お……」
俺の範囲蹂躙攻撃によって、さすがのモルグルも看過できないダメージを負う。
不死であるのかもしれないが、ならばダメージがないのかと言えば、そんなことはない。
弱らせることは出来る。
しかし、状況が不利にも関わらず、モルグルは欠けた頭蓋にて嗤った。
「く、くかか、くかかかかかか!」
「?」
打ち所が悪かったか?
そんな疑問が頭をかすめた。
だが、そうではなかった。
モルグルは鋭い声で言った。
「なるほど、誉めてやろう。このモルグル様をここまで追い詰めるとはな! だが、戦とは戦略レベルの戦いである!」
「何が言いたい?」
俺は問う。
奴はこらえきれないとばかりに嗤って言った。
「貴様という切り札を我に向けるは至極当然。道理であろう。だが!」
と奴は続けた。
「それは村を見捨てることに他ならぬ! 我は不死! 我は死なぬ。ゆえにグールも止まらぬ! 今頃、貴様が避難させたゼケン村は蹂躙され、皆殺しにされているであろうよ。ゆえに!」
奴は宣言するように言った。
「我の勝ちだ! ケリー・ベルトルト!」
その言葉を聞いて、俺はツゥと一筋の汗を垂らす。
そして、静かな声で言った。
「いや、それはないだろ?」
ないない、と俺は手を振って軽く否定した。
「な、なに⁉」
たちまち奴は狼狽する。
「貴様、強がりを言うな!」
強がり、ね。
俺は嘆息しながら、フッと微笑みを浮かべて言った。
範囲蹂躙攻撃によって開けた天井から、遠くに見える空中精霊都市ゼケンを見ながら。
「俺の弟子が負ける?」
俺は微笑む。
「そんな訳、ないだろう?」
~Side ミリアリア~
ケリー師匠が暗黒祭司モルグル討伐のため、魔弾のごとく突貫された数秒後、空中精霊都市ゼケンに危機は訪れた。
言うまでもなくグールの群れ。
周辺に浮く岩石の破片を飛び移りつつ、この村へ続々と迫る。
そして。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ついに開戦の幕が切って落とされる。
凶悪なグールがこちらへと襲いかかってくる。
凄まじい速度だ。
「おそらく襲ってくるのはキリング・チョーカーの時よりも強い敵じゃ。そいつらはモルグルが実験を重ねて製造した人造生命体。生き物ではない。純粋な兵器じゃ」
ミヒャドさんの言葉を思い出す。
このグールたちはモルグルが造った人造の生命体。
殺すためだけの存在だ。
ゆえに、どのような攻撃をしかけてくるのか未知だった。
「シャア!」
降り立ったグールはすぐ傍にいた私へ早速攻撃を仕掛けて来た。
両方の手には剣を持っている。
その細い腕で振るえるとは思えないほどの大物だ。
だが、グールは戦闘のために作られた生命。
凄まじい膂力で、その大剣を振り回す!
「はぁ!」
私はその大剣の乱舞を丁寧に捌く。
私の特技は視覚の強化。
それは師匠との訓練の中で、ますます研ぎ澄まされていた。
だが、そんな自信を打ち砕くように、それは突如訪れた。
『ブシュ!』『ブシュ!』『ブシュ!』
「え?」
それは予想だにできない出来事だった。
私の額、心臓、そして右足を何かが貫通していた。
「仕込み槍っ……!」
それは暗器の一つ。
大剣は囮だ。
その大ぶりな攻撃に集中したが最後、体内に隠された仕込み槍が発射され、相手の急所を貫くという、外道なる技だ。
だが、外道であるからこそ、見抜くことは不可能。
私はその仕込み槍に貫かれ、一瞬にして命を散らす。
「……って、たまるかぁ!」
私はギリギリで身体を逸らす。
急に態勢を変えたために、筋肉が悲鳴を上げた。
だがいい。
仕方がない。
だって、そうでなければ……。
「ギイ⁉」
相手が驚愕に瞳を開ける。
人造兵器だというのに、驚愕の感情を……。いや反応を示した。
それはそうか。
彼らの存在意義はこちらの抹殺。
その必殺の一撃を。
「紙一重で躱されたんですものね!」
私は荒い息を吐きながら、相手を見上げる。
腹部から発射された仕込み槍は、私の髪の毛を数本うばって、はるか後方へと飛び去った。
なぜだ。という目をしているのが分かった。
なぜ、今の攻撃が躱せたのか。
そう驚愕する瞳が私を見下ろしている。
「これが師匠との修業の成果だからです!」
私は隙だらけになった相手へ、剣を振り上げながら言う。
「黎・明・眼!」
それは視覚強化を超えた魔術。
目の前の景色だけではなく、息遣い、目線、魔力の流れ、空気の躍動、その全てを視ることで今の数瞬先を直観する能力。
つまり何かが起こる直前。
すなわち『黎明』。
それを視る眼だ。
しかし。
「死んだ自分が一瞬見えてしまうのが玉に瑕ですけども!」
あくまで数瞬先が分かる程度だ。
だからこそ生死の狭間をさまようがごとき攻防になる。
だが、本来なら死んでいる戦いを、私はこうして実際に生き延びている。
「はぁ!」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
私は一体目のグールの討伐に成功する。
「さあ来なさい」
迫りくるグールに対して私は啖呵を切った。
「我が黎明眼を潜り抜けられぬ限り、私のゼケン村には指一本触れられぬと知りなさい! 」
迫りくるグールたちの慄くがごとき咆哮が轟いた。
~Side キリ~
「さすがケリー殿の一番弟子。ミリアリア様だ」
私は感服しながら、お嬢様の戦いを見ていた。
仕込み槍の攻撃を見事にかわしての一撃は、まるで芸術のようにすら感じる。
あれが剣技というものか、と思わず舌をまいた。
しかし、そんな呑気な感想を漏らしている場合ではない。
グールが次々に上陸してきた。
殺到して村の中に入られる前に、上陸した敵を次々に倒す必要がある。
「行くぞ!」
私は敵が出現した場所に急行する。
既に5体のグールたちが殺到していた。
ほんの一匹でも逃がせばこちらの負けだ。
全員を仕留めなければならない。
なので、私は無理を承知で敵中へ突貫する。
「行かすわけには―――いかない!」
獣爪斬で最初の一体に斬りかかる。
こちらに気づいたグールたちが散開する。狙いの一匹は見事に仕留めた。
爪が相手の肉へとめりこむ。
だが、そんな隙を逃すような殺戮兵器たちではない。
私を殺せると本能で感じたのだろう。
歓喜の笑みを浮かべて私へと殺到した!
『グサ!』『ドシュ!』
相手の剣やナイフが私の腕や太ももに突き刺さる。
「ゴフフフフフ!」
私を倒したと思ったグールたちが喜びの声を上げた。
だが。
「まだまだ!」
「ギギイ⁉」
私の身体に剣を突き刺したグールたち四体を、私は力を込めて持ち上げる。
そして、そのまま地面に渾身の力を込めて……。
「つぶれろ!」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ⁉」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼
凄まじい音をたてて、グールたちが地面へと叩きつけられた。
頭から落ちた三体は物言わぬ存在へと変わる。
「ふぅ、やれやれ」
私は軽く息を整える。
「ケリー殿のおっしゃる通りですね」
苦笑を浮かべる。
この間、ケリー殿に修業をつけてもらって来た。
その中では戦闘訓練、持久力を上げる訓練など、さまざまな修業をして来た。
だが、その中で私が言われた最も驚くべきアドバイスがコレだった。
すなわち。
「キリはあれだな。戦い方が綺麗すぎるな」
どういう意味かと尋ねる。
そのままの意味だった。
「戦闘では傷を負わない方がいいのは確かだが、場合によっては少しの傷を負うことで、相手を倒せる場合もある。まぁ、判断は難しいんだけどね。ただ、キリは少しそれが行き過ぎてるかもしれない。完璧じゃない方が、勝率が上がるかも、だ」
そう。
多少の傷を負ってでも、勝ちを取りに行かなくてはならない場面が勝負には多々ある。
それをケリー殿は教えてくれたのである。
だからこそ、私はそのアドバイスが実践できるように訓練を重ねて来た。
ただ。
「いや、剣を身体で受けて反撃しろとは言ってないから! てか、それ痛くないの⁉」
なぜか顔を真っ青にされてしまった。
獣人族の中でも私は特別頑丈な方だったらしい。
多少の傷。
というか、多少刺されたりするくらいなら、平気で動けるし、回復も早いらしかった。今まで気づいていなかっただけなのだ。
「危ない戦い方はしないでね……。思ってたのと違うなぁ。ほどほどでね……」
むしろ最後はケリー殿に心配される始末だったが。
「大丈夫ですよ、ケリー殿」
私は腕と足に刺さった剣を抜き放ちながら言った。
「日々のケリー殿との体力向上訓練のおかげです。これくらいの傷、何でもなくなりましたよ!」
私は微笑みを浮かべてから、驚愕で顔を引きつらせていた生き残りの一体を、改めて獣爪斬にて仕留めたのであった。
「人呼んで、灼滅舞踏! さあ、この獣の舞踏を止められるならば止めてみるがいい」
私は愛する村を守る壁として立ちはだかったのであった。
ケリー殿との修業成果を見せんがために!
【Side エン】
「うわ~、二人ともマジすごいっす……」
私は絶句しながら2人を賞賛する。
先生の修業のおかげで、2人ともメッチャクチャ強くなってるっす。
正直羨ましい限りっす。
私は正直そんなに強くなれてない。
「せいぜい、得意の爪をある程度、自由に伸縮できるようになったくらいっすからね~」
しょせんは才能の差か。
「化け物みたいになった2人とは比べ物にならないっすね」
落ち込みはしない。
もっと強くなりたいとは思うけれども。
ただ、そんな自分でも、この場でしっかり踏ん張らないといけないことだけは分かる。
「私もやれるだけやるだけっす!」
ふんす! と気合を入れた。
グールを鎧袖一触やっつける、ミリアリア様とキリだったすけど、それでも間断なく、奴らは上陸してくるっす。
「来たっすね!」
私の近くにも長剣を持った三体のグールが上陸する。
「多いっすね!」
正直焦る。
これを通してしまったら、村はひとたまりもないっすからね。
「というわけで先制攻撃っす! はあ!」
私は獣爪斬にて相手の懐に飛び込む。
ただ、相手はそれを読んでいたのか、後ろへと一歩退いた。
ただの殺戮兵器ではない。
戦闘する兵器なのだ。
きちんとこちらの弱点を突いて来るいやらしさを持っている。
「猪突猛進じゃないなんて、ズルいっすよ!」
私は攻撃を空振りさせられて、悪態をつく。
そんな私の隙を好機と見た残り二体が一斉に斬りかかってくるっす。
「どわっちゃい!」
かっこわるい悲鳴を上げながら、二体の攻撃を弾くっす。
でも、それが限界。
さっき後退した一体が、ここぞとばかりに突っ込んでくるっす。
「ぎり、間に合う⁉」
私は防御姿勢に入るっす。
でも、その先がだめ。
なぜなら、その攻撃を弾いたところで、両脇の二体から追撃が来る。
そっちはもう間に合わないっすから。
「あー、もう、ちくしょうっす!」
私はやぶれかぶれで、正面の相手の攻撃を獣爪斬によって弾く。
ただの防御よりも、余計に隙が生じた。
だから。
『ドシュ!』『ズシュ!』『ザン!』
切り刻まれる残酷な音が周囲に響く。
そう、それは……。
「ああ……」
私は息も絶え絶えになりながら言う。
「だめっす……ね……」
そう言ってから、目を閉じる。
「威力が、あの化け物2人に比べたら、全然っす」
首を振って、肩をすくめた。
周囲には、私に襲いかかろうとした三人が、何が起こったのか分からない、といった愕然とした表情のまま、こと切れていた。
それはそうだろう。
その攻撃は彼らの死角。
空から降って来たのだ。
「ケリー先生との修業の成果! 『獣爪雨』っす! 突然の雨にご注意を、ってヤツっすね!」
私は空に待機させていた自分の爪を自身へと戻す。
これは先生の指導の中のおかげで編み出すことのできた技だ。
私の欠点はどうしても相手の懐に飛び込む際に隙がでること。身体が小さいからしょうがないっすけど、どうしても隙だらけになってしまうっす。
それを先生に相談したところ、ならば爪をもっと伸ばせばいいじゃないか、とアドバイスを受けたっす。
なるほど。目から鱗とはこのことっす。
つまり、爪を自由自在に伸び縮めさせればいいわけっす。
「それは、ひいては、自分の爪を糸のように遠隔操作して相手を攻撃するということだったっす!」
さすが先生、としか言いようがないっす。
ただ、
「まぁ、あの2人みたいな化け物には全然及ばないっすけどね」
私はもっと頑張らないとなぁと思う。
なお。
「いや、お前も含めて全員、十分化け物じゃよ」
私たちの戦いを背後で支援してくれていたミヒャドさんが、なぜか呆れたような声を上げてたっす。
「さすがケリーの弟子たちじゃとしか言いようがないわい」
なんてことを、ぼやきつつ。
そんなこんなで、私たちは鉄壁の守備で、次々襲撃してくるグールたちを、バッタバッタと返り討ちにして行ったっす。
これもケリー先生との修業の成果っすね‼
【Side ケリー】
「き、消えてゆく! 消えてゆく⁉ 我のグールが! 人造生命体の魔力が削がれゆく」
モルグルは慟哭するように悲鳴を上げた。
「なぜだ。なぜ俺ほどの魔族が! この程度の辺境の一介の剣士に! その弟子どもなどに遅れをとらねばならぬうううううう!」
奴は続けて絶叫する。
だが、それもまた隙。
死合にて心を別のことに囚われれば、それ即ち負けを拾うということだ。
「それは監獄の中で考え続けるんだな。外道」
「あ……?」
やっと俺の接近に気づいたようだ。
だが、遅い。
死なないというだけで、致命的だ。
「魔力最大装填」
静かに、だが確実に、俺の魔力を集中させた剣先の1点において、モルグルの頭蓋骨の眉間を貫通させる。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
地獄の底から響くかのような叫喚を上げて、モルグルがもだえ苦しむ。
「なぜだぁ!不死なのだぞ!最強であるはずの俺が、なぜこのような無様な敗北を喫せねばならぬ! ぎああああああああああああああああああああああ!」
奴はのたまう。地面をのたうち回る。
だが、俺はやれやれと嘆息するのみだ。
「不死程度でこの世界が支配できるなら、簡単なものさ」
俺が知るだけでも10体はいる。
「今紀の四天王は大したことないな」
「な、なんだと……。お前は……一体……」
「しばらく消滅しておけ。お前の本体は魔力の循環から見て、その杖に封じた魂か何かだろう。それを封印する。まぁ、俺じゃなくて、王国の誰かさんに頼むんだがな」
「や、やめろ」
奴の悲鳴が木霊した。
「やめてくれえええええええええええええええええええええええええ!」
そうもいかんだろう。
「まぁしばらく反省してくれ。子供だって悪いことをすれば反省するもんだろ?」
俺はそう言ってから、最後の一押しとばかりに剣を押し込んだ。
「ち、ちく……しょ……う……」
奴は呪わんばかりの恨み声を上げながら消滅する。
後に残ったは一本の汚れた杖だけであった。
俺はその杖を回収すると、さっさとその場を去ったのである。
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