24.秘策
「良い気になるなよ、ケリイイイイイイイイ!」
モルグルは立ち上がり雄たけびを上げる。
「逃げ足だけが早いだけの猿めが! その程度で俺の冥界の術から逃れられると思うたか!」
奴はそう言うと、杖を掲げる。
「むっ⁉」
俺の背後に漆黒の孔が口を開けた。
その孔の先は何かとてつもない瘴気に満ちている。
「冥界門だ。魂を直接捕らえられぬのならば、冥界の門へ貴様ごと吸い込むまで!」
冥界門は凄まじい勢いで周囲の命あるもの全てを吸引しようとする。
「まさに死鬼王だな。冥界への通路も思いのままとは」
俺は剣を大地に突き立てて、身体を固定する。
だが、それこそが奴の狙いでもある。
「串刺しの刑に処してくれるわ! この俺を愚弄した罰である!」
奴は叫ぶのと同時に、天井にぶら下がる鍾乳石を魔力で切断。
高速で回転させ、俺へと次々に飛来させる。
「くっ!」
俺は思わず苦悶の声を上げる。
身体を固定していれば俺の持ち味のスピードは活かせない。
鍾乳石の乱れ撃ちに巻き込まれ、門の方へと吹っ飛ばされる。
「ぐはははは! さらばだ! ケリーよ! 愚かな人間よ‼」
奴の哄笑が木霊した。
しかし。
「やれやれ」
俺は吹き飛ばされながら、奴の哄笑に対して嘆息した。
「ハハハハ……ハ?」
俺の声が奴に届いたのか。
奴は笑うのを止めた。
「言ってなかったかな。俺の特技はスピードだけだと」
ならば。
「スピードの中にはな。『遅く動く』ということも当然含まれるんだ」
「な、なにを⁉ 負け惜しみを!」
奴は喚く。
俺の言っていることが理解できないから、混乱しているのだろう。
だが、簡単なことだ。
「疾風……」
俺はいつものスキルを発動する。
「LV.マイナス9」
「……は?」
奴は俺の言葉に絶句する。
そして。
「そ、そんな。そんなスキルはありえない! 聞いたことがない!」
何より、と続けた。
「使い道が……ないっ……‼ マ、マ……」
わなわなと震えつつ、
「『マイナススキル』だとおおおおおおおおおおおおおおおお⁉」
そう叫んだのである。
「だからお前は……」
しかし、俺はこう続けた。
「魔王の器ではないというんだ」
俺はそう言うと、あえて自分を吸い込もうとする冥界門へと疾走する。
―――本来のスキルとは身体の限界を超え肉体を励起させるものだ。それによって俺と周囲の世界は超加速する。それによって世界が騙されるほどの速度を得るのだ。
先ほどの『魂の残響』のように。
だが、マイナススキルとは?
無論、その逆。
肉体の励起を極限までマイナスとする。それはすなわち俺を含めた周囲の速度が極限まで遅行するという世界操作だ。
冥界門へ吸い込まれる速度は無視できるレベルに遅くなる。
奴の放った鍾乳石も俺に近づくほどに遅行する。
俺は余裕をもって敵の攻撃に向き直る。
これは一瞬だけ使用できる切り札。すぐ世界は復元力により元の速さに戻ろうとする。
だが、それで十分だ。
瞬間的に剣が自由になった。
こうなれば、こちらのものだ。
「マイナススキル、解除!」
俺は飛んでくる鍾乳石を逆に全て、魔力を込めた剣によって、モルグルへと打ち返した。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!」
意外な反撃に、相手は驚愕しつつダメージを受ける。
詠唱が途絶え、冥界門が閉じた。
……とはいえ。
「ぐ! だが、この程度で! 我は不死身! 不死の王。リッチーなれば!」
奴は身体に受けた傷を即座に回復する。
だが、俺は既に次の行動に移行していた。
「なら、これはどうかな」
「何、どこだ!」
奴は見まわす。
いつの間にか俺の姿がないことに焦りを隠そうともせずに。
その間に俺の仕事は終わっていた。
「こっちだ。不死の王とやら」
「なっ⁉」
奴は空を仰ぐ。
「天井だと⁉」
「そうだ。そして」
俺は唇を釣り上げる。一仕事をした汗をぬぐいながら。
「これからお前を押しつぶす、槍天井でもある」
ガゴン!
天井全体がきしむ。
そして。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!
すさまじい勢いで落下してきたのである。
天井全体が。
俺が切り取った天井が今まさに、広場全体に落下する。
村全体を切り取れるなら、当然天井を切り取ることもできる。
全範囲を蹂躙するかのように、リッチーへと迫った。
「喰らうがいい! 『範囲蹂躙攻撃』だ!」
「ば、馬鹿な……。こんなこと……。ありえぬ……」
「それが最期の言葉で良かったか?」
「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉ まさか広場ごと。すべての範囲を。蹂躙するなどとはっ……‼ し、信じられぬ、ぐ、ご、おごああああああああああああああ⁉」
奴が何かの魔法を放ったようであったが。
もちろん、それは時すでに遅し。
落下せし、鋼の天井。
その鋼によって作られた鍾乳洞の天井は、まさに天然の万の槍だ。
それらが広場全体に突き刺さるように超高速で落下し、逃げ場のないモルグルを串刺しにしたのである。
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