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23.魂喰い

「ふぅ、結構落ちたな」


がれきを押しのけながら、俺は起き上がり、周囲を見渡す。


視力を魔力で強化して暗視可能な状態にした。


大地崩落の後に見たそこは、鍾乳洞であった。


だが通常のものとは規模が桁違いだ。


数百メートル四方はある、ドーム状の空間が広がっていた。


灌漑工事をしていた際に、大きな空洞があることまでは分かっていたが、まさかこれほどとは。


そんなことを思っていると、正面から俺ともつれあいながら落下した暗黒司祭モルグルが殺意を迸らせながらやって来た。


「周囲を気にせず剣を振るえば、この俺を倒せる、だと? 笑わせるな、人間ごときが!」


「その人間に魔王は討たれたんじゃないのか?」


「笑止! それは奴が魔王たる器ではなかったというだけのこと! 俺は違う!」


そう叫ぶや、モルグルは黒衣のフードをはぎとる。


そこにいたのは死者。


骸骨の頭部、そして衣服の隙間からは不気味な青白い魔力が放出されていた。


可視化できるほどの膨大な魔力である。


リッチー(死鬼王)か」


「俺の存在を知っていたか、剣士よ。さあ、我が存在理由(レゾンデートル)を! お前を黄泉の国へと誘おう」


リッチーはそう言うと、持っていた杖を大鎌へと変状させた。


「貴様の魂を、喰わせろ‼」


奴はそう言うと、大鎌をこちらに向かって放つ。


瞬間、その鎌が空間から消失する。


「っ……!」


俺は嫌な予感がして、ゴロゴロと転がりながら右方向へ回避行動を行う。


その後ろをいつの間にか出現していた大鎌が、高速で回転しつつ、大地を削り取りながら通過していった。


「ほう、今のを初見で見切るか」


「大鎌であることはその威容によって敵の気を引くための仕掛けか。お前の本命は大鎌を空間転移させてどこからでも相手を八つ裂きにできる魔法攻撃」


「その通り。相手の死をもたらす我が存在理由(レゾンデートル)を魔法にまで昇華させた最高位魔法『死招く死に鎌(リーパーズ・オーメン)』よ!」


「だが、その程度ならば見切れる! ふん!」


俺は一気に奴との間合いを詰める。


スキル『疾風』を使用して、高速で相手へと迫った。


だが、


「馬鹿め、かかったな!」


奴は呵々大笑する。


「その油断こそが我が贄への(いざな)いよ‼」


モルグルはいつの間にか、鎌を杖に変えて再び掲げる。


杖の先端の青白い魂魄のような炎が、赤黒く揺らめいた!


「言ったであろう、我が存在意義は『死』そのもの! ならば、理由なく相手に死を賜ることこそ我が魔法である」


俺は驚愕に目を見開く。


その隙を見逃すような暗黒司祭ではない。


次の紀の魔王を射止めんとする存在ではない。


魂食いザ・ホロウ・レクイエム‼」


「ぐあ!」


俺の身体から、魂そのもの。


命そのものが抜き取られる。


その魂は奴の持つ杖の先端へと吸収されてしまった。


バタリ!


俺の身体は突如、糸が切れた人形のごとく、その場で足元からくずれおちる。


そしてゴロゴロと無様に地面を転がり、やがて止まった。


「くか……」


骸骨の歯牙がカチカチと鳴らされた。


「くかかかかかかかかかかかかか‼ 所詮はこの程度! いや、いやいや。この暗黒司祭モルグル様に。次紀魔王に奥の手を使わせたのだ。人間にしては最上の抵抗であったか!」


だが!


と奴は続けた。


「所詮は我に魂を喰われるために存在する脆弱なる者よ。弱き生命よ。虫けらよ。くかかかかか!」


ゲタゲタと歯を鳴らした。


「さて、では魂を喰らわせてもらおう。お前の次は村にいる人間ども。確かミリアリアといったか。獣人もいたか。それにエルフの姫たる裏切り者のミヒャド。あやつらの魂も喰ろうてやろう。この上位存在たる、死へと誘うリッチー様がなぁ」


奴はそう言うと、捕らえた俺の魂をつまみ、口へと入れようとした。


しかし。


ふっ……と。


俺から抜き取られたはずの魂が、忽然と姿を消した。


「な、なに⁉」


奴は予想外の事態に驚く。


「なんだ、何が起こってっ……!」


「それは俺の疾風による高速移動がもたらした分身の魂……だ!」


「は?」


いきなり真横から聞こえて来た声に、奴は間抜けな、呆けた声を出すことしかできない。


そこに俺は思い切り、とび膝蹴りを食らわせた。


ミシィ! という頭蓋骨のひび割れる鈍い音が、鍾乳洞へと轟いた。


同時に。


「んぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」


奴の驚愕と悲鳴がないまぜになった声が大きく轟いたのであった。


「ば、馬鹿なぁ! 貴様、何を言っている! 私は確かにお前の魂をとらえた。我が存在理由(魔法)によって。お前は死んだはずだ!」


奴は大地に転がった後、身体を泥まみれにしながら、フラフラと起き上がり喚く。


骸骨であるがゆえに表情は見えない。


だが、驚愕し、信じられない光景を見る目で、俺の方を見ているのが分かった。


俺は淡々と説明する。


「なに、驚くほどのことじゃない。単なるスキル『疾風』の極意だ。俺の残像は早すぎるがゆえに、世界が遅れて(・・・)認識する。『存在』するものと認識しただけの話だ。その残像の魂をお前は捕らえて喰らおうとした。だが、元々それは世界が誤認した存在だ。ゆえに時間と共に修正されたというだけの話だ」

つまるところ、それは。


「お前が捕らえたのは『魂の残響』(ザ・ラスト・エコー)だ」


「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 世界を誤認させるほどの速度だと⁉」


奴はひび割れた頭蓋を揺らしながら、俺への怨嗟の声を上げた。


「おのれええええええ! ふざけた真似を! ケリイイイイイイイイイイイイイイ!」


死鬼王(リッチー)の声が再度、大空間へと響き渡るのだった。

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