21.空中精霊都市《ティル・ナ・ノーグ》ゼケン
「大地を切断するなんて、凄すぎますね、師匠は」
「まったくです。それに少しばかり切断するのではなく、この鋼鉄ばりの大地を村の面積まるごと切断するとはっ……! 恐るべき技です、ケリー殿‼」
「まじ、シャドウ・バンガードっす。まじ師匠リスペクトっす!」
「さすが我のケリーじゃなぁ、ふむ♡」
ミリアリアさんたちが口々に賞賛してくれる。
だが、俺はそんな言葉に首を振って否定した。
「ハハハ、確かに少しばかり剣技は必要かもしれないが、これは所詮イカサマの技さ」
汗をぬぐいながら苦笑する。
「イカサマ、ですか?」
ミリアリアさんがポカンとした表情をした。
うん、と俺は頷く。
「アルラウネのみんなをラムダに連れてきてもらったよね? 彼女たちにも花壇をプレゼントする約束をしていたんだ。そうしたら、アルラウネの実をたくさんプレゼントしてもらえたんだよね。100個くらい」
俺は言ってから、嘆息する。
「100⁉ それはすごい。ですがどうしてため息を?」
「いや、すまない。最初の収穫は普通の野菜とか、果物とか思ってたのに、ずいぶん遠くまで来たものだと思って。もはや遠き理想になってしまったなぁ、と」
「は、はぁ。でもアルラウネの実の方が何百倍もレアだと思うのですが……」
伝わらないよねえ!
知ってたけどね!
俺は落涙したくなる気持ちを抑えながら、続きを話した。
「ま、まぁ、それはともかくとして、アルラウネの実には様々なバフ効果がつく。そこにはこうして攻撃力アップや魔力回復なんかも含まれているんだ。そのおかげでこうして大地を切断するなんて真似ができるってわけさ」
俺はそう言って彼らに説明した。
「あとはお堀を作っていたおかげで横に切ればいいだけだしね」
つまり、
「俺の力ってわけじゃないんだ。運が良かったよ」
と。
しかし。
「いえ、いくらアルラウネの実を100食べようが、1000食べようが、大地を切断するようなことは出来ないのではないかと」
「はい、その理屈はおかしいです、ケリー殿」
「あとアルラウネの実があるから大地を切断して空中に浮かせようとする発想自体、普通じゃないっす。やる前に、思いつくこと自体がヤバすぎるっす!」
「さすが将来の我がベター・ハーフであるなぁ」
「あ、あれえ⁉」
なぜか全然納得してもらえないのであった。
俺は単にバフの力を借りているだけなんだがなぁ。
そんな腑に落ちない気持ちを抱えて、更に説明しようとしたのだが、そこにラムダさんが来たので誤解を解く試みは中断せざるを得なかった。
スローライフのためにも、この空中精霊都市ゼケン防衛戦略は成功させないといけないからだ。
この防衛線の先にこそ平和があるのだから!
「ケリーお兄ちゃん。本当に大地を切断したんだ。すごいね」
「アルラウネのみんなのおかげだよ」
「? うーん、よく分からないけど、そうなんだね。じゃあ、精霊としてゼケン村全域を精霊魔法結界式にて守護霊域とします。それに伴って大地は一次元向上。分かりやすく言うと、精霊浮遊都市として大地から離れます。それでいいんだよね?」
「ああ、頼む」
俺は頷いた。
「やってくれ」
「かしこまりました。精霊の主、ケリー・ベルトルト。将来この世界を救う異邦人よ。未来の貢献、ならびに聖域献上のダブル好感度獲得によって、私たち精霊はあなたに全面的に協力します」
彼女はそう難しいことを色々と言ってから呪文を解き放つ。
「準対魔王戦線、配陣します! 人型顕現状態から精霊原神へと還元する! 領域の拡張を宣言! 精霊神よ、神の児らの行く末を言祝ぎ給いますように!」
ブオン‼
彼女の詠唱に伴い、ゼケン村の88か所に配置されたアルラウネたちに青白い聖なる光が走る。
その光は俯瞰すれば、六芒星の大魔方陣であることがうかがえただろう。
俺がそうだと見当がつくのは、それを一人でこなす聖女とともに、旅をしたことがあるからだ。
だからこそ確信する。
今、目の前で起こっていることは奇跡の顕現であることを。
ズ……。
最初は鈍い音。
しかし、それは徐々に大音声となり、空気を震撼させ、周囲の森をざわめかせ、やがて天に轟く。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……‼
まさに奇跡の光景。
アルラウネ。
いや、精霊の集合により聖域と化した辺境の村ゼケン。
それは、今となっては昔の姿。
今、まさにそれは……。
「新生ゼケン。空中精霊都市ゼケン」
上空20メートルの空域を浮遊し、大地を睥睨するようになったその精霊都市は、威容をもってこの世界に誕生したのであった。
そして、その威容は遠くにいる敵から、肉眼で見えぬはずもなかった。
【幕間】
「な、なんなのだ、あれは⁉」
遠くからゼケン村へ近づきつつある存在。
次紀魔王と嘯いた野心ある四魔司祭が一人、暗黒祭司モルグルの驚愕の声が周囲へと轟いた。
「あんなものは予定にない!」
なぜだ、と彼は繰り返す。
「なぜこんなことになる! 簡単なはずだった。たかだか辺境の村一つ。それをこの魔王側近たる俺が蹂躙するだけのはずだったのに!」
そう言いながら空中から見下ろす、憎々し気な空中精霊都市をにらむように見上げる。
「あの男か! あのケリーとかいう冴えない中年のせいか!」
なぜ。
「どうしてあの男一人のせいで、俺がこのようなプレッシャーを感じなければならぬ! 見下ろすのは俺の仕事だ! 俺は次の魔王になる男なのだぞ。おのれ。おのれえ、ケリイイイイイイイイイイイイイイイイイイ‼」
そんな悔しさに塗れた絶叫が、数キロ離れた場所に進軍してきたモルグルの口からほとばしったのであった。
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