20.戦略立案
「戦略の大方針としては、やはりこの村の防衛能力を最大限に生かしたものがいいと思う」
「なるほど。師匠は先ほど間もなく攻めて来るともおっしゃっていましたね」
その通り、と俺は頷く。
「先ほどの刺客を撃退した以上、向こうも全力で来るだろう。一番有利な状況で当たらなければならないと思う」
「分かりました。ですが、ケリー殿。我々はキラー・ウルフ数匹に手こずるレベルです。ケリー殿がロイヤル・シャドー・バンガードだとしても、難しいのではないでしょうか」
「そうっすねえ。もちろん、柵は頑丈にしたっす。それからお堀も深いっす。けど、果たして守り切れるっすかね。ううーん、不安っす」
もっともな意見だ。
だが。
俺は微笑んだ。
「大丈夫だ。実は先日、ラムダさんの花壇を作った際に、他のアルラウネも呼びたい、と言われてたんだよね」
「そうだったんですか?」
「う、うん。言ってなくてごめんね」
「いえ、それはいいのですが。むしろ、精霊様がそんなにたくさんいる村は聞いたことがなくて驚いたのです」
「よっぽどこの村を気に入ってくれたんだろうなぁ」
「いえ、ケリー師匠のことを、ではないでしょうか?」
「うん?」
俺はよく分からず首を傾げる。
「無自覚のようじゃな。じゃが、それで分かったのじゃ」
ミヒャドさんが大きく頷いて言った。
「その呼んでくるアルラウネたちを戦力として、敵を撃退しようとするわけじゃな。アルラウネの本気モードは強いからのう」
「ええ⁉」
「ええ⁉」
俺が驚くと、ミヒャドも驚いた。
「違うのじゃ?」
「違う違う。そんなこと、あんなか弱い女の子たちにさせられないよ」
俺は滅相もないとばかりに首を横に振った。
鬼畜中年のそしりを受けてしまうじゃないか!
そんな思いで必死に首を横に振った。
ゴホン、と咳払いしつつ。
「キラー・ウルフにしても、あるいはグールにしても、まともにやりあえば数の暴力でこちらがやられてしまうのは必至だ。ならば」
「「「「「ならば?」」」」」
他の全員が疑問符を浮かべた。
「地形を無効にしてしまえばいいだけだ」
「「「「「????????????????????」」」」」
全員の頭にさらなる疑問符が浮かんだのだった。
ズゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオ‼
凄まじい大音量が明け方の空に響いた。
昨夜の襲撃から本格的な侵攻まで、あまり時間はあるまい。
だから、ラムダさんには急いで他のアルラウネを呼んで来てもらったのである。
「よし、うまくいった」
「い、いえ、師匠。『よし、うまくいった』と平然とされていらっしゃいますが、これ、どうなっているんでしょうか⁉」
ミリアリアさんが珍しく目を白黒させて言った。
なお、他の村人たちも同様である。
無論、昨日の出来事の経緯は全て伝えてあるので、この状況については了解している。
だが、今からしようとすることは、言っても理解できないと思ったので、実際に見てもらうことになったのだ。
しかし、その光景を現実に目の当たりにした村人たちは、頭が理解を拒んでいるかのような顔色をしていた。
見慣れたはずのゼケン村の地面。
村はおおよそ楕円形に広がっている。
そして、その周囲には最近設置したお堀があった。
が、今は水が抜かれている。
そして。
「はぁ‼」
ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチィ!
俺が真横に剣を振るうと、深く深く地面が真横にえぐれた。
つまり、家屋などある村を乗せる形で、その下の鉄のような固い地層がバッサリと削れたのだ。
これを繰り返していく!
「よし! あらかた剣はとおったな!」
「し、師匠、これから一体どうなるのですか? 昨日おっしゃっていた地形の無効化とは、一体……」
ミリアリアさんがもう一度聞いていた。
「ああ、これはね」
俺はやっと一仕事終えたので答える。
「ゼケン村を空中都市ゼケンにするための準備だよ」
「「「「……え?」」」」
周囲にいた人たちがポカンとした後、
「「「「えええええええええええええええええええ⁉」」」」
悲鳴のような声が上がったのだった。
「だが、これくらいの戦略をとらないと、モルグルには勝てないからなぁ」
俺は勝手に村を浮かして申し訳ないなぁと思いながら、汗をぬぐったのだった。
名付けて。
「空中精霊都市ゼケン防衛戦略だ」
俺の言葉に全員が改めて驚嘆の眼差しを向けたのだった。
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