18.キリング・チョーカー
「しかし、どうやって外すのじゃ、ケリーよ」
ミヒャドさんは盛り上がった後、眉根を寄せて聞いた。
「これは魔道具。キリング・チョーカーじゃ。つけられれば最後、つけた本人が解除せんかぎり、機能し続ける。下手に解除しようとすればボーンじゃ」
彼女は続ける。
「具体的には、つけた本人以外が解除するために魔力を流すとするじゃろ? そうするとまぁ爆発する。魔力に頼っておる我としてはこの時点で詰みじゃ。あと、物理的に破壊する、という手段があるわけじゃが、衝撃を与えても爆発するようになっておる」
つまり、と結論付けた。
「魔力でもダメ。物理でもダメ。ダメの二乗じゃ。そんなキリング・チョーカーをマジで解除できるのじゃ?」
彼女は言いながら、にょわー! と嘆いた。
ミリアリアさんも思案顔になった。
「確かに聞けば聞くほど、いやらしい仕掛けですね。あらゆるアプローチが無駄と思えるほどです」
彼女も難しそうに眉根を寄せた。
だが、俺はポカンとした表情で、
「ん? いや、だったら魔力も流さず、衝撃も与えないようにすればいいんじゃないか?」
と、言ったのである。
「「「「「……へ?」」」」」
全員が唖然とした声を上げるのだった。
「ほ、本当にできるのじゃ?」
「う、なんか、そうやって詰められると、不安になってきたなぁ……。よく考えたら俺みたいなヘボ剣士には難しいかも」
「い、いいえ! いいえ! 師匠なら絶対にできます! どうするのかは全然想像できませんが!」
ミリアリアさんが全幅の信頼を寄せてくれる。
う、うん。
なら、できるかな。
いや、出来る気がしてきた!
「えーっと、じゃあ、ミヒャドさん。首を少し傾けてもらって、少しそのチョーカーの環の部分が見えやすいようにしてもらえるかな?」
「こうなのじゃ?」
「うん、オッケイ、それで見えやすいよ」
俺はニコニコとする。
さて。
「――――スゥ……」
俺は息を止める。
周囲は騒がしかったが、俺が集中するのと同時に全員がピタりと動きを止めた。
キリやエンを見れば、なぜかゾクリとした表情をしている。
己の息遣いも聞こえない。
無音。
剣の柄に手をかけたことも気づかないほどの、一瞬での抜刀。
無音。
剣は鞘から抜き放たれた。
だが、誰からもそれを視認できなかったであろう。
またそれは同時に、
「キリング・チョーカーにとっても同じことだ」
俺はふぅ~、と汗をぬぐいながら、緊張を解いて、朗らかに笑った。
「終わったよ」
「え⁉」
ミヒャドさんが声を上げる。
「終わったも何も、切断どころか触れてもおらんようじゃ……が……って、え⁉」
「ど、どうされましたか、姫様」
その様子に、ミリアリアさんも異変に気付いた。
そして、チョーカーを凝視してから、驚愕の表情を浮かべたのである。
「き、切れてる……。でも、切断面がなめらか過ぎて、一切ずれていない⁉」
「う、うむ。このチョーカーはもう死んでおる。じゃが、それにこの首輪自体が気づいておらんのじゃ」
「ど、どうやったんすか⁉ 先生⁉」
「えっ、いや、どうやったと言われても……」
俺は頭をかきながら言った。
「衝撃を与えないように、振り抜いただけだよ。剣は最も正しい角度で獲物に当たれば、獲物は切られた場所で、静止しているものだからね」
剣とは本来そういうものだ。
そう簡単に説明したのだが、
「いや、そんなこと出来る人間、聞いたことがないのですが」
「うむ、我も聞いたことがない。というか、それは人間ではないのじゃ」
「ええ⁉」
なぜか人格否定されてしまい、ショックを受ける俺なのであった。
「いや、じゃが、とにかく凄すぎることは分かったのじゃ! うむ、やっと実感がわいてきたのじゃ! さすが我のケリーなのじゃ! さすわれ‼ なのじゃ」
「ええ、さすが私の師匠ですね! まさか衝撃を与えずに対象を斬ってしまわれるなんて。まさに英雄です!」
「ケリー殿にはまだまだ習わなければならないことが山積ですね」
「すごすぎるっすね~。さすがに度肝を抜かれったす‼」
「頭蓋骨を破壊する狂戦士というわけではなかったのですねっ! このビヤード感動しました!」
やや時間がたってから、本当にキリング・チョーカーが無力化されたことが分かり、全員が盛り上がった。
「ははは、まぁ今回はミヒャドさんが動かずにいてくれたからね。大体の獲物は動いてるから難しい。だから、まだまだだよ、俺なんて」
「いや、その理屈で『大したことない』はおかしいっす!」
エンが思いっきりツッコミを入れて来る。
そうかなぁ。
「まぁ、それはともかく、こうして我の命を助けてくれた以上、夢を夢のままにしておくわけにはいかぬ!」
「え?」
何のことだ?
俺が首を傾げていると、
「前言復活じゃ。よしケリー、我はそなたもとに嫁ぐぞ! この身はそなたのものじゃ‼」
「は? えええええええええええええ⁉」
いきなり、何を言い出すんだ、この少女は。
「なんじゃ、嫌なのか? だが、どうじゃ、エルフの姫じゃぞ? 結構美少女で通っておるし、どうかのう? ん?」
「おお、姫様が御婚姻されるとは。エルフ一族、一同盛大に祝言をあげねばなりません。このビヤード感動で涙がちょちょ切れそうです!」
「どうしてそんな話になるの⁉」
俺は焦って言う。
いや、ここは冷静になろう。この少女はきっと助けられて、一時の感情で言ってるだけなんだろうなぁ。
うんうん、若い頃にはよくあることだ。
こういう勢いにのった発言を真に受けるほどオジサンは若くないのだ。
「ハッハッハッ。まぁもう少し大きくなったらね。それにもっとカッコいい人が見つかるさ」
うん。まぁこんなもんだろう。
「むむ? 我はこれでも結構大人……」
「そうですよ! 絶対、絶対認められませんから。だって師匠には、その、ゴニョゴニョ」
なぜかミリアリアさんが援護してくれた。
最後は赤面していて、よく聞き取れなかったのだが。
「ふむ、どうやらライバルも多い感じなのじゃ? 我としては二番とかでもいいのじゃが……」
もはや、何の話か分からなくなってきたので、年長者として、話題を元に戻すことにした。
「それよりも、黒幕とやらの対策をしないといけない」
そう言うと、言い合いはピタリと止まった。
やれやれ。
「そうです。そうです。その黒幕の正体が誰かまだ聞いてませんよ?」
そうミリアリアさんも言った。
「むう、仕方ないの。この話は後にするとしよう。良いか、後回しにしてるだけじゃからな、エルフの姫じゃぞ。ゆめ前向きに検討するのじゃぞ? ぞ?」
何やら念押しする。
彼女は不服そうにしながらも話題を移した。
そう黒幕について。
「黒幕はな――――――」
彼女の口からその名前が出る。
黒幕の正体。
そして、その名前を聞いた一同は思わず息をのんだのであった……。
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