16.魔法使い
さて、昨日俺は侵入工作をしていた行商人ビヤードさんを捕まえて、途中まで尋問に参加した。
アルラウネの実をご馳走しようとしたら、突然怯えだしたビヤードさんの、そのあとの尋問については、ミリアリアさんたちが引き継いでいる。
とはいえ、そう簡単に口は割らない……。
というか、
「いささかケリー殿のクルミ割り人形交渉術が効きすぎたようです。いやはや、効果的過ぎるというのも考え物ですね!」
先ほどキリからその後の経緯を聞いた。
あの後、ビヤードさんは怯え切ってしまって、すぐに証言を引き出すのが難しくなったそうだ。
というわけで、まだ具体的な話を聞き出すことはできていない。
「あのキリさん、クルミ割り人形交渉術ってなんですかね……」
俺が聞くと、
「ハハハ、あの頭蓋骨を割ろうとする様子が、まるでクルミ割り人形のようだったので、そう命名したのです」
「物騒すぎる⁉」
お願いだから改名してね⁉
というか、そもそも俺は脅すつもりは微塵もなく、アルラウネの実をご馳走しようとしただけなんですけど⁉
その経緯も含めて説明して、お願いしたのだが、キリは「謙遜家ですねえ」などと笑いながら去って行った。
どこに謙遜の要素があった⁉
とまぁ、そんな感じで誤解は解けそうになかった。これから、尋問の続きがあるとのことだ。
ちなみに、そんな感じで村長宅の面々は立て込んでいるので、今日の修業は一旦なしになっている。
「いや、だがまぁ考えようだ……」
俺は前向きに考えた。
それだけビヤードさんが脅威を感じているなら(本意じゃないけど)、スパイをしていた目的もすぐに吐露することだろう。
その意味では、俺の出番はなさそうだ。
なら、
「この時間はスローライフをするチャンスじゃないか、フンフン♪」
俺はそう楽観すると、鍬を持ち出して、畝を作り始めたのだった。
アルラウネがいる場所とは別に、もう1畝作ることにしたのである。
時間は過ぎて夕刻。
ようやく1畝が完成した。
「機嫌良さそうだね、ケリーお兄ちゃん」
「まあね」
俺はニコリと、話しかけて来たアルラウネに微笑んだ。
「やっと夢のスローライフが始まったと思ってね。さて、何を植えようかな」
ズッキーニやロマネスコ、トマトベリーなんかもいいかもしれない。
ただ、季節や育てやすさなんかを考えると、プンタレッラとかの方がいいかな?
具体的に何を育てるかを考えるのは、スローライフの醍醐味だ。
俺はルンルン気分で、そんな幸せな気分を満喫したのであった。
そして。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
耳をつんざく大音声が、村中に響き渡るのを聞いたのである。
「一体何があった⁉ あとスローライフさせろおおおお!」
俺はそう魂の叫びを上げつつ、すぐに村長宅へと駆け付ける。
見れば村長宅の一角が破壊されており、そこには、
「ふん、もう一匹増えたか、目障りな」
そう言いながら、一人の少女が妖しげに微笑みながら、浮遊していたのである。
髪の色は桃色。紅玉のような瞳は神秘的に瞬いている。だが特徴的なのはその耳。
長耳族とも言われる彼らは、ほとんど人間との交流を持たない。
その種族名はエルフ。森の精霊と会話し、森と共に生死を共にする伝説的な種族である。
浮遊する彼女の前には、同室にいたであろうミリアリアさん、キリ、エンがいて、警戒態勢を敷いている。
「エルフがなんだってこんなところに……」
俺は目を見張りながら言う。
「ほう、ご名答。傑物もいるようじゃの。だが、問答をするつもりはない」
エルフの少女は、スッと手をかざす。
すると、そこにいた行商人ビヤードさんの縄がちぎれるとともに、耳の形が長く変化した。
「申し訳ありません、姫様……」
「まったくじゃ、そなたともあろうものが……」
どうやら少女はかなり高位な存在らしい。
「それではな、人間ども。我らはこれで降りる。せいぜい後は勝手にするが良い」
ミリアリアさんが剣に手をかける。
「待ちなさい。あなたたちが橋を破壊しようとした理由をまだ聞けていません。それに、森の賢者と言われるエルフなら、いきなり森に現れたワイバーンの秘密も知っているはずです。そのあたりを教えてもらいましょう」
彼女は剣をかざしながら言う。
しかし。
「小娘の戯言につきあうつもりはないのでな」
彼女は手を振るう。
すると目の前に一瞬にしてトルネードが発生した。
周囲にあるもの全てを巻き上げて、上空へと吹き飛ばしていく。
「きゃあ⁉」
「ミリアリアお嬢様⁉」
ミリアリアさんも吹き飛んで行く。
「ふん!」
俺も今度は忘れずに携行した剣を、大地に突き立てる。
ドゴオオオオオオオオオオオン!
という騒音を立てながら、地面が屹立した。
「む……」
エルフの少女の声が響くが無視して、俺はその屹立した地面を足場に大きくジャンプする。
10メートルほどを浮かび上がってしまっていた彼女の手を掴むと、そのままトルネードから助け出し、地面へと着地した。
「あ、ありがとうございます、師匠」
「さすがケリー殿です」
「えええええ⁉ 三階建ての大屋敷よりも上の方まで飛んだっすよ、今⁉」
驚く彼らをしり目に、俺は改めてエルフの少女と対峙する。
「ケリー・ベルトルトだ。エルフの……お姫様……。こちらとしては別に何かをしようとしているわけじゃない。単に君らが何をこの村でしようとしていたのかを聞きたいだけで……」
そう言って穏便にこの場を収めようとする。
だが。
「ひ、姫様。あの男はクルミ割り人形のケリー。頭蓋骨を握りつぶすほどの怪物です」
「なるほどのう。あれが報告にあった……。人間の狂戦士といったところか、面白い!」
「え、いや、ちがっ……」
俺が慌てて否定しようとするが、少女はニヤリと浮遊しながら嗤うと、
「我が名はミヒャド。エルフ族の長が娘、ミヒャドである」
彼女はそう言いながら、両手に魔力を籠め始めた。
「我の魔法をものともせぬとは大したものじゃ。だが、エルフの魔法にどこまで抗えるかな、人間! 行くぞ!」
「ま、待て待て!」
俺は慌てた声を上げる。
だが、そんなことで戦闘が中止になるわけがないのは明白であった。
「この一撃に耐えられるかのう。人間!」
「ケリーだ!」
「そうか、では喰らうがいい、狂戦士ケリー!」
「だから狂戦士じゃないって⁉」
問答は冗談じみているが、攻防は一瞬のすきもない。
間合いが先ほどのトルネードによって開いているため、剣には不利。
先制は向こうからだ。
「ウインド・スピネル‼ 装填‼ 放て‼」
バババババババ!
ミヒャドの詠唱と同時に、数十の魔力槍が背後に現れる。
彼女が手を振り下ろすと、一撃必殺の魔力を秘めたそれは、一斉にこちらへと発射された。
ドゴゴゴゴゴゴゴ!
地面に突き刺さるのと同時に、鋼鉄のごとき地面を容易にえぐり取る。
直撃すれば致命的だ。
「なんて、攻撃力。師匠、気を付けてください!」
ミリアリアさんの悲鳴が轟く。
しかし。
「いや」
俺はおもむろに膝を落として構えを変える。
「これは囮だ」
「え?」
「ほう」
ミリアリアさんは唖然と。
ミヒャドは少し感心したような声を上げたのが聞こえた。
次の瞬間。
巻き起こる風圧の中を縫うようにして、上空からビヤードさんが攻撃をしかけてきた。
俺はそれを剣で受け止めてから、回し蹴りを放つ。
「ぐわあああ⁉」
吹き飛んでいく。
「あっ、大丈夫か?」
やりすぎたかな……。汗をぬぐいながら心配した。
「あれを防ぐか」
「派手な魔法は囮だったろ?」
「よく気づいた。見えていないはずなのにのう! 褒めてつかわす‼」
彼女はそう言ってから、微笑みを浮かべつつ、先ほどの|ウインド・スピネル≪風の槍≫を連射してきた。
今度はこちらを正確に狙って来るが、それらを走りながら回避する。
「全員、この場から避難してくれ!」
「で、でも師匠だけでは」
「魔法戦は初めてだろう? いきなりアレは、ちょっと上級編すぎるさ」
俺は苦笑交じりに言う。その言葉に彼女らは渋々ながら納得して避難してくれた。
「なんで躱せるのかのう。風速よりも早く走れるとか反則じゃぞ?」
スキル『疾風』LV.9を使用しているからだが、それにしたってギリギリだ。
それにしてもさすがエルフ。
エルフの姫君。
これほど魔法を連発できる魔法使いというのはそういない。
俺の知る限り、5人だ。その中の一人は魔王。残り二人は俺の仲間。
ゆえに、これで6人になったわけだ。
「姫様、楽しみ過ぎてはいささか……」
「む、そうであったな。我らの生死は『あの者』に握られておる。忌々しいことにな」
彼女はそう言いながら、首元についているチョーカーに触れた。
「?」
どういうことだ?
だが、そのことについて聞いている暇はなかった。
「タイムリミットじゃ。槍は躱せても」
彼女はニヤリと、楽しそうに笑った。
「波をかわすことはできまい」
ミヒャドはそう言うと、魔力を増幅し始める。
点ではなく面の攻撃か!
「ちい!」
俺は先ほど屹立させた地面を盾のようにするが、
「これで終わりよ。楽しめたぞ、ケリーとやら」
彼女はそう言うと、左手で風の|波≪ゼーベーベンヴェレ≫を作りつつ、右手で別の魔法を編む。
「土魔法! 複合魔法か‼」
「ご名答。喰らうが良い。小さき流星群」
風の津波に、鋼鉄のごとき石礫をのせて放つ。
まさに大量の小型隕石を上空から降らせて面ごと制圧する戦略級魔法だ!
「これを切り抜けられた戦士はおらぬ。まあ人間にしては頑張ったほう……」
彼女がそう呟きながら、もうもうと土煙の上がる前方を見た………その瞬間である。
「ふぅ、危なかった」
「なっ⁉」
俺の声が聞こえたからか、彼女は初めて驚愕の表情を浮かべた。
俺は鋼のような大地の一部を、傘の様にして持ち上げる。
「ど、どうやって躱したのじゃ⁉」
「ん? ああ、上空からの攻撃だったんで、助かった」
俺の大地の傘をかざしながらミヒャドに向かって駆ける。
「農業の時は、地面をかなり深く掘らないといけない。だが今回は薄くスライスすればいいだけだから簡単だったぞ。あとはスライスした大地を傘にして上空からの隕石攻撃を防げばいいだけだ」
「なんと⁉ 我の秘蹟を雨程度のように扱うとは⁉ ていうか、ありえんじゃろ、ここの大地をスライスするとか……」
「観念しろ。いやしてくれ。これ以上は俺としても戦いたくない」
少女をイジメているオッサンとか、見るに堪えないからなぁ……。
祈るような気持ちで言う。
俺は大地をスライスして作った傘の下に相手を入れた。
俺が手を離せば彼らはこの大地に押しつぶされるだろう。もちろん、そんなことはするつもりはないが。
ミヒャドは呆れたような顔をした後。
「ふん、負けじゃ負けじゃ。どうしてこんな辺境の村にこんな戦士がおるのかは知らんがな」
「ひ、姫様」
ビヤードさんが心配そうな顔をするが、ミヒャドはあっさりと言った。
「まぁ、平たく言って、我の完敗じゃなあ」
「ま、まさかエルフの姫様が、敗北される……なんて……」
ビヤードさんは絶句していた。
やれやれ。
まぁ、ともかくこうして、俺はエルフの大魔法使いとの接戦を、制したのであった。
【応援よろしくお願いします!】
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「この後一体どうなるのっ……!?」
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