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13.もう一度、初収穫を

翌朝。


身支度を整えながら考えていた。


めでたくアルラウネの実を初収穫としてゲットしたわけだが、やはり自分の心に嘘はつけない俺である。


「俺の求めていたスローライフは、普通の野菜や果物を育てて、収穫することなんだよなぁ……」


アルラウネの実を、心を込めて贈ってもらったこと自体は、とても嬉しい。


それは嘘ではない。


ただ、やっぱり記念すべき初収穫は、普通の野菜とか果物にしたいのだ。


「決めた」


俺は断固として決意する。


「アルラウネの実はありがたいけど、これは例外、としよう。うん、次に収穫できたものを、俺の中でだけは、初収穫、ということにしよう」


もちろん、ラムダさんを傷つけるつもりはないので、心の中でだけ、そう思うだけだ。


だが、それだけでもかなりモチベーションが高まって来た。


「よし、今日も張り切って行くか!」


朝食を済ませると、俺は元気よく外へと出たのである。


「おはよう、ラムダさん」


「おはよう、ケリーお兄ちゃん。今日も仕事だね」


「ああ。まぁ、大したことじゃないけどな」


「モンスターの襲撃を一掃するお仕事は大したことだと思うけどなぁ」


彼女はそう言ってから、畑を眺めながら言った。


「お兄ちゃんにとっては、この畑づくりが夢なんだよね」


「そうだよ。前途は多難だけどね」


ハハハ、と俺は苦笑する。


「ラムダさんにも夢があるのかな?」


俺も聞いてみた。


すると、


「え? う、うん、あるよ。えっとね、笑わないで、ね?」


「ああ、笑ったりしないよ」


俺が頷くと、彼女は少し頬を染めながら言ったのだった。


「花壇が欲しい、かな……?」




「ほう、花壇ですか、ケリー殿」


キリと今朝がたしたやりとりを話す。今は昼食をとりながらの休憩中だ。


「木とかで枠を作ってあげればいいんすか? 私やるっす!」


「エンでは少し心配ですね……」


「ミリアリア様は正直っすね~」


にゃははは、と気にした様子もなく、エンは笑い飛ばした。


「ただ、好みの木材があるらしくてね、それでこの話をしたんだ。実は灌漑工事にも関わっている」


「ほほう。と、いいますと?」


俺は頷く。


「このまま最短距離で。灌漑工事で、水路を作ると、ちょうど『魔鉱樹』という木の群生地にぶちあたるんだが、密集している関係で、水路をかなり迂回させないといけなくなるんだ」


「そうですね」


「切っちゃったらいいんじゃないっすか?」


「エン、『魔鉱樹』という木は、非常に固いのです。木こり泣かせ、という異名すらあるくらいです。この地面より硬いでしょうね」


「うへえ、それは金剛石ダイアモンドを切るようなもんっすね⁉」


「そうそう。だから迂回の計画を立ててたんだけど、ラムダさんとしては、その木は硬くて丈夫、色艶も趣深くて、それでいて蠱惑的……なのだそうだ。魔鉱樹で花壇の囲いを作ってくれたら、最高、とのことなんだ」


「アルラウネにも植物としての趣味嗜好があるのですね」


俺は、そうなんだよ、と頷いてから。


「というわけで、彼女としては伐採できないからこその夢、として語ってくれたわけだが、灌漑工事を進めるうえでも、チャレンジしてみてはどうかな、と思うんだけども、どうだろうか?」


「さすが先生です。素晴らしいご提案ですね。ちなみに、アルラウネさん的に、なんというか、森の植物が切られてしまうのはどうなのでしょうか? 植物の精霊ですよね?」


俺もその点は気になったから、聞いてみたのだが。


「むしろ、間伐になるからある程度伐採してくれたほうが良いらしい」


 一部の植物が強すぎると他の植物が育たないとのこと。


「なるほど。では少しチャレンジしてみますか。ちなみにケリー師匠の剣の腕前なら伐採は可能なのではないですか?」


ミリアリアさんの言葉に俺は苦笑して、首を横に振った。


「買いかぶりだよ。俺の剣では『魔鉱樹』は切れない」


「そうなんですね。師匠で無理となると私たちでは……。いえ、しかし、修業の一環ということでやってみます!」


ミリアリアさんたちは意気軒高となって、魔鉱樹の群生地へと向かったのであった。




「「獣爪斬‼」」


キリとエンが、何十というモンスターを屠った、必殺の一撃を魔鉱樹へと放つ。


しかし。


『キイイイイイイイイイイイイイイイン!』


「ふぅ、だめか」


「爪が欠けたっす⁉」


二人の悲鳴だけが轟く結果となった。


「魔鉱樹は空気と地中から魔力を吸収してため込み、それを使って自身を鋼のように強化するという樹木です。さすがの獣人属でも簡単にはいかないですね」


「面目ないことです」


キリが汗をぬぐいながら言った。


「では次は私が参ります」


そう言って彼女は剣を構える。この間の訓練の成果もあり、堂々とした佇まいだ。


そして、


「はぁ‼」


連続切り。


彼女は持ち味のスピードを活かし、同じ個所を何度もえぐるように斬りつけた。


その正確さは目を瞠るものだ。


だが。


「無傷、ですか。はぁ……」


がっかりと、肩を落とした。


「気を落とすことはないよ。刃こぼれしないように剣を扱えてるだけでも大したものだ」


「そうでしょうか」


「そうだとも」


俺は彼女の肩をたたいて慰めた。


「角度が悪ければ剣はすぐに傷んでしまう。君の剣は速く、そして精密だ。きっと強くなるよ」


「は、はい! うふふ♡」


彼女は微笑んでから、肩に置かれた俺の手に触れたようとした。


おっと。


俺はうっかりと子供のような年齢の少女の肩へ触れてしまった無礼に気づいた。


修業中なので、反射的に手を置いてしまったのだ。


素早く手を引っ込める。


許してもらえればいいが。


だが、彼女は俺が素早く手を引っ込めたのをみるや、プー、と頬を膨らませた。


「もっと、置いていて下さればいいのに……」


「?」


よく分からないが、きっと、触れたことを怒って頬を膨らませていたのだろう。


あれ以上触れていたら危なかったな。不用意に触れるのは、気をつけねば。


いい加減中年の自覚を持て、俺よ。そう自省する。


「ところで師匠。私、師匠の剣が見たいです」


そうミリアリアさんが言った。


あまり引きずらないタイプで助かった。


そんなホッとした気持ちはおくびにも出さず、俺は平静な風を装って、返事をする。


「そうだね。ただ、来る前にも言ったけど、俺の剣では歯が立たないよ?」


俺はそう言いつつ、鞘に収まった剣の柄に、手をかける。


そして。


キン!


一瞬の抜刀―――


だが。


「ほらね」


俺は斬った個所を指さした。


「あ、でも、少しヒビが入ってますよ」


「さすが師匠っすね」


「ハハハ」


無理にでも褒めてくれる弟子たち。


優しい弟子たちに囲まれて俺は幸せだな。


「師匠で歯が立たないようでは仕方ないですね。それじゃあ、これで帰りま……師匠?」


さて。


と、俺はもう一度剣を鞘へと収める。


そして。


「魔力排斥」


剣へと魔力を移す。


「こ、これは。師匠の魔力の精密操作……!」


「―――魔力―――纏着」


剣へと魔力を集中させ、固定させた。


装填剣・抜(リロード・ショット)‼」


俺は魔力を込めた剣を一瞬にして振るう。


剣は先ほどと同じく、魔鉱樹を軽く切り裂いた。


だが、


爆縮エクスプロージョン‼」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼


軽く切り裂いた箇所が輝いたかと思った瞬間、大爆発が発生する。


「「「うわぁ⁉」」」


弟子たちは離れていたにも関わらず、その威力に吹き飛ばされた。


同時に。


『ベキベキベキベキベキベキベキベキ‼』


それまで絶対に傷つけることが叶わないと思われた魔鉱樹が、両断され、あっけなくベキベキという音を立てて、倒れていったのである。


俺は、ふ~、と汗をぬぐいながら言った。


「やっぱり切れないな、魔鉱樹は」


そう言って、まだまだだなぁと、自分の修業不足を痛感するのであった。


「い、いやいや、師匠! 切れてますよ⁉ 魔鉱樹の伐採成功です!」


「さすがケリー殿ですね。剣で切れないとおっしゃっていたのに……」


「謙遜だったんっすね。先生も人が悪いっす! でも凄すぎるっすね~」


彼女らが口々に言った。


だが、俺は苦笑を浮かべて首を横に振った。


「いや、切ってないんだ。まったく恥ずかしいかぎりだよ」


「「「え?」」」


三人は何を言っているのか分からないとばかりに、首を傾げた。


俺は恥ずかしいけれども、ちゃんと説明する。


「あれは剣に魔力を込めたんだ。それを斬りつけたタイミングで放出した。すると、魔鉱樹はもともと魔力でパンパンだから、魔力が飽和してその部分が崩壊、爆発してしまうんだ。それを利用して伐採した、というだけの話だな」


要するに、


「俺の力というより、まぁ、梃子てこの原理とか、そういう類の話さ。俺の剣では傷をつけることくらいしかできないよ」


そう言って苦笑した。


「いえ、師匠。そもそも傷をつけられるのが、すごいと思うのですが……」


「あと、魔力を切ったタイミングで放出すると言いましたか?」


「もし、タイミングが一瞬でもずれてたらどうなるんすか?」


ああ、それはもちろん。


「何も起こらないよ。空気中に魔力が漏れて終わり」


「そんなデリケートな剣技なんすか⁉ 絶対師匠にしかできないんじゃ……」


「たまたまうまくいってよかったよ。弟子の前でかっこ悪いところを見せたくなかったからね。いや、緊張したなぁ」


それにしても。


「こういうのも緊張せず、当たり前にできるようにならないと、いけないな」


まだまだだな、と自嘲する。


「……師匠の底がまったく見えませんね」


「まったくです」


「っていうか、まだまだだぜ、とか言ってるっすよ……」


彼女らが何か三人でひそひそと話しているが、何を言っているのかはっきりと聞こえない。


まぁいいか。


それよりも。


「今日はひとまずこれくらいでいいだろう。それじゃあ、魔鉱樹を持って帰ろう」


一度切った魔鉱樹は、魔力が抜けるので、普通に切れる木材になるのだ。


「ラムダさん、喜んでくれるといいな」


「そうですね。きっと喜んでくれますよ」


俺の言葉に、ミリアリアさんが微笑んで、答えてくれたのだった。




「す、すごい! 本当に魔鉱樹の素材を使って、花壇を作ってくれるの⁉」


「もちろん。少し待っていてくれ」


魔鉱樹という素材の入手自体は難しいが、花壇自体を作るのはそう難しくない。


色々な花壇のタイプがあるが、ラムダさんからは、板にした魔鉱樹で周囲を囲んでくれれば、十分だと言われた。


その作業自体は半時間もあれば完了した。


俺の畑の一部を花壇にすることになったが、まぁ、敷地は広大なので、問題ない。


「こ、こんな幸せなことが起こるなんて。ありがとうお兄ちゃん。ミリアリアお姉ちゃん。キリさん、エンさん」


「ハハハ、また何かリクエストがあったら言ってくれ」


「そうですね。ラムダさんはこの村の精霊様なのですから」


「私たちにできることでしたら、何なりと」


「きばるっす!」


俺たちの返事に彼女は感極まったようにウルウルと感動する。


そして。


「私から上げられるものは、今は何もないけど……」


「ハハハ、気にしないでくれ」


そんなものを期待してやったわけじゃないしな。


しかし。


「唯一上げられるものは、この果実だけ、だよ」


ん?


俺は笑顔を固まらせた。


「まあ、これは先日師匠が、初収穫として、精霊様から頂いたアルラウネの果実ではないですか!」


「よろしいのですか。ケリー殿と同じ初収穫の果実を私などが……」


「めっちゃ貴重なんすよね?」


そう彼らは言う。


だが。


「もちろんだよ。こんな良い花壇を作ってもらって、足りないくらい。お兄ちゃんには同じものが、2つ目の収穫ってことになっちゃうけど、許してね」


「ふふ、師匠もきっと喜んでいますよ。ねえ、師匠」


満面の笑みを浮かべるミリアリアさんに、俺はヒクヒクと口角をけいれんさせながらも、


「も、もちろん、だよ。ハハハ」


なんとか笑顔を浮かべて頷くのだった。


喜ぶ皆をよそに、俺は内心で声を上げていた。


今朝、次の収穫を、初収穫にするんだ!と思っていたら、2度目の初収穫も、アルラウネの実になってしまったんですけど⁉


頼むから、普通の初収穫、をさせてくれ~⁉


だが何を言っても後の祭り。


……とにかくそんなわけで。


またしても普通の初収穫に失敗する俺なのであった……。

【応援よろしくお願いします!】

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 「この後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


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 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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