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10.アルラウネ

ブシャアアアアアアアアアアアアアア!


「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ‼」


俺の目の前で村人に襲いかかろうとしていたモンスター、ゴブリンが崩れ落ちる。


「た、助かりました」


その村人は腰を抜かしながら礼を言う。


しかし、


「ケ、ケリーさん、こっちにもっ……!」


反対方向にもゴブリンは襲撃をしかけてきていた。


……が、


「あ、大丈夫です。もう終わってますんで」


「え……?」


その、別の灌漑をしてくれている村人が、全てを言い終える前に、俺は素早く身を転じていた。というか、村人に襲いかかろうとしていたゴブリンを斬り捨てていた。


―――チン……と。


既に剣を鞘に納めている状態だ。


「す、すごい。い、いつの間に……」


男性は呟いてた。


しかし、


「うーん、申し訳ない!」


俺は頭を下げて、思いっきり謝っていた。


いや、本当に不甲斐ない!


そう反省しながら。


「ええ⁉ ちょ、どうして謝ってるんですか⁉」


村人は虚を突かれた顔をしながら、


「か、完璧に護衛して頂いて、感謝こそすれ、謝られる理由はまったくないと思うんですが⁉」


と言ったのだった。


この人はバロンさんという。年の若い、20代の青年で、俺と同じ農家である。


優しい上に、農業で鍛えているすらっとしたマッチョな体格をしている。


俺の理想の姿で眩しい。


なお、今日は、ミリアリアさんや、キリやエンは別用で村の方にいる。


俺は彼の言葉を聞いて、思わず頬を緩める。


「いえ、本当は『結界』でも張れれば済む話なんですが……。そう言う芸当に全く無才でして。いや、ほんとお恥ずかしい」


俺はかつて一緒に旅をしていた聖女を思い出していた。


「恥ずかしがるポイントが全く理解できないのですがっ……⁉」


「以前旅をしていた聖職者の女性がいるんですが、彼女だったらもっと完璧に皆さんを守れるのになぁ、と。だからよく彼女には怒られましたよ」


「そ、そうなんですか?」


遠い目をする。


「ええ。そうなんです。だから、彼女からはいつも『入信して、一から鍛えなおしましょう。末永く、わたくしがワンツーマンでつきっきりで面倒をみます』と顔を真っ赤にして、怒りながら言われたものですよ。ハハハ、まったく、自分がどれだけ頼りなかったのかと、恥ずかしくなりますね」


俺は思い出して、思わず赤面してしまう。


しかし、バロンさんはなぜか半眼になった。


「いえ、うかがっていると、むしろその方なりの、熱心なアプローチに聞こえるのですがっ……⁉」


「ハハハ、そんなわけがありませんよ。こんな中年に。バロンさんも冗談がうまい」


「はぁ……」


どうやら、冗談で場を和ませようとしてくれているみたいだ。


やはりここの村人たちは優しい。


「さ、それよりもそろそろ終わりましょう。あまり遅くなると危険です。帰り支度を……」


俺がそう言いかけた時であった。


「きゃあああああああああああああああああああああああ!」


森に悲鳴が轟いたのであった。




俺たちが駆け付けると、そこには一人の女性が、オークに襲撃を受けている最中であった。


「た、助けて下さい!」


そう女性はこちらを見て言った。


だが、


「モ、モンスターじゃないか⁉」


なるほど。


俺は頷く。


一見すると普通の人間に見える。幼さを残す少女のようだ。緑色の髪はやや目深だが、そこから覗くのは琥珀のような美しい瞳だ。鼻梁がきれいな曲線を描いていた。


だが、他の部分はだいぶ違った。花がスカートのように足元に展開されており、背後にはウニョウニョと幾つもの触手がうごめいている。


「アルラウネか」


俺は汗をぬぐいながら観察した。


いわゆる女性型植物モンスターと言われている存在だ。


人間に自分の姿を似せることで油断させ、その生気を吸い取って衰弱させる、と。


「モンスター同士の戦いみたいですね。放っておきましょう、ケリーさん」


バロンさんがそう言って、俺の肩に手を置こうとする。


しかし。


「ひっ」


ビク!


として肩を震わせたかと思うと、硬直した。


「どうし……ヒッ」


「さ、殺気で、動けない……」


彼らが何かを言っていた。


……だが、俺は目の前の状況のみに集中していて、周囲は無音に満ちている。


そして、次の瞬間。


「―――しっ


オークの懐に入る。


オークは反射的に手に持っていたメイスで殴りつけようとした。


かなりレベルの高いオークだ。


だが、


「ほいっと」


俺は反対に身体を引くようにして、剣先も引っ込めるようにした。


すると、予想していなかった俺の行動についてこれず、相手のメイスは空振りする。


と、同時に。


ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「グオオオオオオオオオオオオオオ⁉」


自分から前のめりに突っ込んできたオークの喉が、俺の剣先に刺さった。


「悪いな」


ふぅ、と俺は嘆息する。オークはたたらを踏んで後ろに下がって、喉元に手をやるが、付いた血が誰のものか理解できないうちにドサリと崩れ落ちたのだった。


「ふ~、危ない危ない」


俺は汗をぬぐった。


やれやれ、と緊張を解く。


と、同時に村人の声も聞こえて来た。


「い、生きた心地がしなかった」


「あ、ああ。本当だな」


村人たちはホッとした表情をしていた。


うーん、俺ってそんなに怖い顔をしてるのかな。


そう思って、ちょっとしょんぼりとした。


気を取り直したように、村人が口を開く。


「そ、それにしても、す、すごい。オークを瞬殺とは」


「いえ、ぎりぎりですよ。あのメイスがあたったら、俺の柔らかい頭なんて、一撃ですからね」


手に汗握る戦いだった。


「そ、そうは見えませんでしたが。圧倒的というか」


「いや、汗を見てもらえれば分かる通りですよ。緊張しすぎてしまって、余裕なんてなかったですよ」


「汗と強さに何の関係が……。いえ、それは一旦おいておきましょう。それより、ケリーさん!」


バロンさんは慌てて言った。


どうしたのだろう。


「モンスターを助けるなんて、さすがにお人よしが過ぎますよ! 確かに見た目は女性ですが、アルラウネは危険なモンスターです‼」


ああ、なるほどそういうことか。


「あ、それは大丈夫ですよ」


「え?」


俺は微笑みながら言った。知らないのも無理はない。


「アルラウネは人間の味方ですので」


そう言うと、バロンさんたちは唖然とした表情になったのだった。


「アルラウネは確かに人を襲いますが、それはモンスターの生息域に入ろうとしているからです。危ないからと、危険を知らせてくれているんですよ。だから、殺しはせず、生気を吸って嫌がらせをして、追い返そうとするんです。というか、そもそも『植物型』なので、普段は大地のマナを吸収して生きてますからね」


人を襲う必然性はないのだ。


「き、聞いたことがありませんが⁉ そもそもどうしてモンスターが味方をしてくれるんですか⁉」


「彼女らがモンスターではなくて、精霊ノームだからですね。森の守護者として、森の治安を守っているだけなんですよ。多分、最新のモンスター研究本ではそうなってますよ。勇者がそう王国に報告して、情報が更新されたんですよね」


「どうしてそんな詳しいことをご存じなんですか⁉」


「ははは、だから本にそう掲載されているからですって。俺が知ってるのは、みんなが知れる程度のものだからですよ」


「い、いえ。そんなにモンスターや精霊に詳しい人間は、普通はいないと思うのですが……」


大げさだなぁ。


もちろん、さっき言った通り、本に書いてあることなのだ。


まぁ、その報告内容は少し俺も手伝ったが。


とはいえ、あれは勇者の功績だ。


わざわざ言うほどのことでもないだろう。


「まぁ、そんなわけで助けたわけです。大丈夫ですか、アルラウネさん」


手を差し伸べる。


精霊相手なのでもちろん敬意をもって接する。


しかし、


「あ、う、あ……」


アルラウネさんはなぜかもじもじとした仕草をする。


「まさか、どこかに大きなケガでもされましたか?」


そう思いつくと、心配になって、片膝をついて不意に手をつかんでしまった。


すると、


「きゃい!」


アルラウネさんが身体をビクンと震わせた。


と、同時に。


ダダダダダ‼


「あっ」


俺から飛び跳ねるように身体を引き離すと、そのまま器用に触手を使って、まるで逃げるように走り去ってしまった。


「うーん、こんな中年にいきなり近寄られたら、さすがの精霊もびっくりするか。悪いことしちゃったな」


俺は苦笑を浮かべた。


「いや~」


「そんなリアクションには見えなかったですがねえ……」


バロンさんたちが慰めてくれた。


本当に良い人たちだなぁ。


こんな人たちとスローライフをする準備を着々と進められているとは、なんて幸福なんだ。


しみじみ。


そんなことを思いつつ、俺たちは村への帰途についたのであった。




そうして翌日を迎える。


さて、今日は灌漑工事が休みとなっている。


村の人たちも、連日の肉体労働ともなれば、さすがに過労になってしまう。


休息もまた、とても大事な作業なのだ。


それが一歩、また一歩とスローライフへと近づいて行くのだから!


そう考えると元気が湧いてきた。


俺も耕したまま放置していた畑を見るために、扉を開けて外に出る。


そこには俺が心を込めて作った畝があった。


そして、


「あ、おはようございます」


「……え」


俺は絶句した。


なぜなら。


その人物。


いや。


「き、来ちゃった♡」


昨日助けたアルラウネが、デン、と俺の畑の真ん中に居座っていたからである。


彼女は器用に、うねうねとした触手をそろえるようにして、あたかも三指をつくようにして深々とお辞儀をしたのである。


「ふ、ふつつか者ではありますが。末永くよろしくお願いします♡ お兄ちゃん」


と言ったのだった。


「ア、アルラウネの恩返しだよ。な、なーんちゃって……」


彼女が恐る恐るといった感じで冗談を言う。


残念ながら俺は絶句するよりほかなかった。


脳裏をかけめぐっていたのはたった一つ。


『畑にアルラウネがいる生活はスローライフと言えるのか⁉』


そればかりなのであった。

【応援よろしくお願いします!】

 「面白かった!」

 「続きが気になる、読みたい!」

 「この後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


 下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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