8話 魔法があるらしい!
翌朝。
朝食を食べ終えると、来客があった。
扉の前に立っていたのは、召喚の日に見かけた初老の男性だった。
「改めて自己紹介しよう」
穏やかな笑みを浮かべる。
「ヘンリーじゃ。魔法省の長を務めておる」
魔法省。
琴葉は瞬きをした。
魔法省。
つまり。
「魔法あるんですか?」
思わず聞いてしまった。
ヘンリーは笑う。
「もちろんじゃ」
魔法。
本当に魔法。
異世界すぎる。
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授業は午前中いっぱい続いた。
異界の花嫁は浄化魔法を使うこと。
魔物や汚染された植物を浄化できること。
ただし。
人の怪我や病気は治せないらしい。
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残念。
非常に残念。
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人を治せたら需要しかない。
絶対儲かった。
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「今、ろくでもないことを考えなかったかのう」
「考えてません」
即答した。
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その後も様々なことを教わる。
この国は他国との関係も良好なこと。
戦争は何年も起きていないこと。
魔物は近年増えていること。
騎士たちが討伐しても根本的な解決にはならないこと。
そして。
汚染された植物を浄化できるのは異界の花嫁だけだということ。
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授業が終わる頃には頭がいっぱいだった。
それでも。
一つだけ聞いておきたいことがある。
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「あの」
ヘンリーを見る。
「浄化のお仕事って給料出ますか?」
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沈黙。
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ヘンリーが目を丸くする。
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そして。
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「ぶはっ!」
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豪快に笑い始めた。
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「はっはっはっは!」
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そんなに面白かっただろうか。
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「いや失礼」
涙を拭いながらヘンリーが言う。
「考えたこともなかった」
考えたことなかったんだ。
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「陛下にも相談してみよう」
ヘンリーは腕を組む。
「確かにな」
真面目な顔になる。
「勝手に連れてきて働けと言うだけでは、ただの犯罪者じゃ」
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琴葉は思わず頷いた。
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「期待して待っといてくれ」
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なんだか。
いい人だ。
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この世界の人たちは思ったより優しい。
少しだけ安心した。
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午後。
エリーがお茶とお菓子を準備してくれた。
琴葉はソファに座る。
部屋には二人。
いや。
三人か。
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壁際には今日もリヒトがいる。
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授業中もいた。
昼食中もいた。
今もいる。
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もはや家具である。
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「ねえねえ」
琴葉はリヒトを見た。
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「リヒトさんってどんな魔法が使えるの?」
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沈黙。
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やっぱり。
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沈黙。
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だよね。
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人見知りなのだろうか。
それとも私が怪しいのだろうか。
いや。
召喚したのそっちだよね?
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琴葉はじっと見つめた。
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リヒトもこちらを見る。
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数秒。
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十数秒。
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やがて。
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「炎です」
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ぽつり。
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返事した。
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返事した!
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「そうなんだ!」
思わず笑顔になる。
「かっこいいですね!」
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リヒトが瞬く。
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「騎士っぽい!」
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満足した琴葉はお菓子へ手を伸ばした。
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美味しい。
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完全にお菓子へ意識が移っている。
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壁際の騎士は黙ったままだった。
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かっこいい。
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灰色の瞳がわずかに伏せられる。
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かっこいい、か。
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騎士は小さく目を閉じた。
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その言葉を思った以上に気に入ってしまったことなど。
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琴葉は知る由もなかった。




