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7話 同い年だった!

朝食は、エリーが用意してくれたらしい。


焼きたてのパンに温かいスープ。


見たことのない果物まで並んでいる。


琴葉はさっそく席についた。


「いただきます」


一口食べる。


美味しい。


昨日から思っていたが、この世界のご飯はかなり美味しい。


「お口に合いましたか?」


エリーが柔らかく微笑む。


「はい!とても美味しいです!」


嬉しくなってそう答える。


ふと気になった。


「エリーは何歳なの?」


「今年で二十歳になります」


「えっ」


思わず声が出た。


二十歳。


つまり。


「私より五歳も下なの?」


エリーが目を見開く。


「異界の花嫁様は二十五歳なのですか?」


「うん。今年で二十五歳」


「そうだったのですね……」


驚かれた。


そんなに驚くことだろうか。


身長もあるし。


大人だし。


たぶん。


「よかったら琴葉って呼んでほしいな」


エリーは少し目を丸くした。


それから優しく微笑む。


「かしこまりました。では琴葉様と」


「様はいらないよ」


「それは難しいです」


即答だった。


「じゃあせめて琴葉で」


「……分かりました」


少し悩んだ後、エリーは頷く。


「私のこともエリーとお呼びください。敬語も不要ですよ」


「それも難しいなぁ」


苦笑しながらも名前だけは呼び捨てにさせてもらう。


「よろしくね、エリー」


そう呼ぶと。


エリーが少しだけ照れたように笑った。



同い年か。


部屋の隅で壁と同化している騎士は、無言のまま思案していた。



「ねえ、エリー」


朝食を食べながら尋ねる。


「今日の予定ってあるの?」


「本日は特にございません。教師がつくのは明日からです」


教師。


昨日リヒトが言っていた人だろう。


「今日は自由に過ごしていただいて大丈夫ですよ」


「そっか……」


自由。


そう言われても何をしたらいいのか分からない。


少し考えた後。


「街に行ってみたいな」


エリーはすぐに頷いた。


「もちろんです」


「やった!」


思わず笑顔になる。


「午前中は王城を探検してみます!」


「ご案内いたしますね」


「いや、一人で歩いてみたい」


「かしこまりました」


素直に引いてくれた。


助かる。



その後。


琴葉はちらりとリヒトを見た。


「あのー……リヒトさん」


返事はない。


「夜もあんまり休んでないですよね?」


返事はない。


「午前中くらい休んでもいいですよ?」


返事はない。


「午後は護衛お願いしたいですけど」


返事はない。


「他の騎士さんに交代でも……」


静寂。


見事なまでの静寂。


無視かい。


リヒトは目を閉じたまま微動だにしなかった。



朝食後。


王城を歩いてみる。


もちろん道は覚えていない。


完全に行き当たりばったりである。


気付けば昨日訪れた庭園へ辿り着いていた。


昼間の庭園は夜とは全く違う。


色鮮やかな花々が咲き誇っている。


綺麗だな。


そう思いながら歩いていると。


「おや?」


聞き覚えのある声がした。


振り向く。


金髪。


青い瞳。


王子様。


レオンだった。


「こんにちは」


「こんにちは。琴葉さん」


柔らかな笑み。


眩しい。


朝日が似合いすぎる。


「朝食は食べたかい?」


「はい。とても美味しかったです」


「それは良かった」


笑顔が爽やかすぎる。


王子ってすごい。



気付けば二人で庭園を歩いていた。


色々な話をした。


この世界のこと。


異界の花嫁のこと。


百年前にも異界から花嫁が来ていたこと。


年齢の話になった時。


「二十五歳?」


レオンは少し驚いた。


「僕と同い年だ」


「えっ」


さらに驚く。


「リヒトも同い年だよ」


「そうなんですか!?」


あの無口な騎士も。


王子も。


全員二十五歳だった。


しかも幼馴染らしい。


意外すぎる。



帰り際。


レオンはふと立ち止まった。


「それじゃあ、僕はここで」


「ありがとうございました」


頭を下げる。


すると。


レオンが琴葉の髪を一房すくい上げた。


「え」


そして。


さらりと口づける。


「っ!?」


固まる。


レオンはくすりと笑った。


「またね」


そのまま去っていく。


キラキラしていた。


本当にキラキラしていた。


王子様すごい。



レオンが背後の騎士を見て笑ったことに、琴葉は気付かなかった。



午後は街へ出た。


思ったより普通だ。


市場があり。


雑貨屋があり。


子供たちが走り回っている。


平和に見える。


魔物なんて存在するようには思えない。


エリーは色々教えてくれた。


聖女が召喚されたことは知られていること。


でも顔までは知られていないこと。


魔物は辺境に現れること。


そして。


この世界の女性は背が高いこと。


「みんなスタイルいいなぁ……」


思わず呟く。


エリーが少し困ったように笑った。



買い物はしなかった。


お金を持っていないからだ。


それに。


衣食住は保証されている。


今はまだ使う気になれなかった。



夜。


夕食と入浴を終える。


ソファに腰掛ける。


そして。


部屋の隅を見る。


いた。


今日もいた。


黒髪の騎士。


「リヒトさん?」


視線が向く。


「もう休んでくださいね?」


しばらく沈黙した後。


リヒトは一礼した。


そして部屋を出て行く。


数分後。


恐る恐る扉を開ける。


誰もいない。


「よかった……」


安心してベッドへ潜り込んだ。



その頃。


王城の一室。


レオンはグラスを揺らしていた。


向かいにはリヒト。


「どうだい、花嫁さんは」


リヒトは淡々と答える。


「別にどうもしない」


「へえ」


「落ち着いている。元の世界では働いていたらしい」


レオンは興味深そうに眉を上げた。


「この世界でも働くつもりらしい」


「働く?」


「浄化は給料が出るのか聞いていた」


一瞬の沈黙。


そして。


レオンは吹き出した。


「ははっ」


面白い。


本当に面白い。


異界の花嫁が最初に気にすることではない。


「いい子そうだし」


グラスを揺らす。


「可愛いよね」


リヒトは無言。


「僕の婚約者候補なんだし」


レオンは楽しそうに続けた。


「もう少し仲良くしてみようかな」


空気が少しだけ重くなる。


「……好きにしてください」


低い声。


レオンは笑った。


「へえ」


そして首を傾げる。


「嫌なら止めればいいのに」


リヒトは何も言わない。


レオンは堪えきれずに笑った。


「本当に分かりやすいな、お前」


グラスの氷が小さく鳴る。


「まあ安心してよ」


レオンは肩をすくめた。


「今のところ僕は花嫁さんに興味ないから」


それは本心だった。


ただ。


口元に悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「もう少しからかうくらいは許してほしいけどね」


その瞬間。


リヒトの眉が僅かに動いた。


レオンは満足そうに笑った。


今夜は良い酒が飲めそうだった。

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