↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

36話 言葉が足りない

リヒト視点


⸻


その日の夜。


リヒトは自室にいた。


剣を手入れしている。


いつもと同じ。


何も変わらない。


はずだった。


⸻


「会話。」


⸻


レオンの言葉が頭に浮かぶ。


眉を寄せる。


会話ならしている。


最近は以前よりずっと。


馬車の中でも。


買い物の時も。


夜会の準備の時も。


少しずつだが話していた。


だから分からない。


何がいけなかったのか。


⸻


『護衛はもう大丈夫ですよ。』


⸻


またその言葉が浮かぶ。


胸の奥が重くなる。


⸻


嫌われたのだろうか。


⸻


その考えがよぎり、


すぐに否定する。


理由がない。


だが。


理由がないからこそ分からない。


⸻


「……。」


⸻


人生でこんなことで悩んだことはなかった。


魔物討伐の方がまだ簡単だ。


敵なら斬ればいい。


だが人の心は見えない。


⸻


結局。


その夜はなかなか眠れなかった。


⸻


翌日。


騎士団訓練場。


⸻


カンッ!


激しい音が響く。


訓練用の剣がぶつかる。


相手の剣を弾き飛ばし、


リヒトは淡々と構えを解いた。


⸻


「ありがとうございました!」


⸻


若い騎士が頭を下げる。


だが。


リヒトは聞いていなかった。


⸻


『護衛はもう大丈夫ですよ。』


⸻


まただ。


また考えている。


⸻


「隊長。」


⸻


呼ばれる。


⸻


「隊長?」


⸻


二回目でようやく顔を上げた。


同僚騎士が不思議そうな顔をしている。


⸻


「体調でも悪いんですか?」


⸻


「いや。」


⸻


即答する。


体調は万全だ。


問題はそこじゃない。


⸻


「珍しいですね。」


⸻


「何がだ。」


⸻


「考え事。」


⸻


沈黙。


図星だった。


⸻


その後も。


訓練しても。


書類を書いても。


食事をしても。


頭から離れない。


⸻


どうしてだ。


⸻


答えは出ない。


⸻


その頃。


琴葉は。


⸻


自室のソファに座っていた。


目の前には紅茶。


だが全然進まない。


⸻


「はぁ……。」


⸻


思わずため息が出た。


⸻


「どうかなさいましたか?」


⸻


エリーが優しく尋ねる。


⸻


「うーん……。」


⸻


少し悩む。


⸻


「私。」


⸻


ぽつりと呟く。


⸻


「言いすぎましたかね……。」


⸻


エリーが瞬きをした。


⸻


「リヒト様のことですか?」


⸻


図星だった。


⸻


「だって。」


⸻


琴葉はクッションを抱きしめる。


⸻


「なんか女性騎士さんと楽しそうに話してたし。」


⸻


「はい。」


⸻


「別に護衛じゃなくてもよかったみたいだし。」


⸻


「はい。」


⸻


「私だけ気にしてるみたいで嫌だったし。」


⸻


「はい。」


⸻


エリーは微笑みを浮かべている。


⸻


「でも。」


⸻


琴葉は小さく俯いた。


⸻


「帰ってきてくれた時。」


⸻


少しだけ胸が痛む。


⸻


「嬉しかったんですよね。」


⸻


本音だった。


⸻


「なのに。」


⸻


思い出す。


⸻


『今までありがとうございました。』


⸻


自分で言った言葉。


⸻


「ちょっと意地悪だったかなぁ……。」


⸻


エリーは何も言わない。


ただ優しく見守っていた。


⸻


琴葉はクッションに顔を埋める。


⸻


「うわぁぁぁ……。」


⸻


今さら恥ずかしくなってきた。


⸻


「どうしよう……。」


⸻


そして。


同じ頃。


訓練場では。


⸻


「どうしたらいい……。」


⸻


黒髪の騎士が人生最大級に悩んでいた。


⸻


もちろん。


二人とも。


相手も同じくらい悩んでいることは知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。