↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

35話 会話しろ

レオン視点


⸻


執務は終わっていた。


書類の山も片付き、ようやく一息つける時間だ。


寝る前の静かな時間。


ソファに腰掛けながら酒を片手に本を読んでいた。


こういう時間は嫌いではない。


王太子という立場上、一人になれる時間はそう多くないのだから。


コンコン。


扉が叩かれる。


「どうぞ。」


返事をすると見慣れた黒髪の騎士が入ってきた。


リヒトだった。


帰還報告だろう。


予定より少し早いなと思いながら本を閉じる。


「おかえり。」


「ただいま戻りました。」


いつも通りの返答。


いつも通りの姿勢。


いつも通りの無表情。


――のはずだった。


「……。」


レオンはグラスを口元に運ぶ。


そして思う。


おかしい。


何かがおかしい。


長年の付き合いだ。


表情が変わらなくても分かる。


明らかに様子がおかしい。


「任務中に何かあったのか?」


「いいえ。」


即答だった。


「つつがなく終了しました。」


「そう。」


酒を一口飲む。


そしてニヤリと笑った。


「じゃあどうしてそんな顔してるの?」


沈黙。


リヒトが黙る。


レオンは吹き出しそうになる。


分かりやすすぎる。


昔からそうだ。


図星を突かれると黙る。


「騎士団で問題でもあった?」


首を振る。


「怪我人?」


首を振る。


「隊員と喧嘩?」


首を振る。


「へえ。」


レオンは楽しそうに頬杖をついた。


そして確信する。


仕事じゃない。


なら一人しかいない。


「琴葉となにかあったのか?」


沈黙。


長い沈黙。


そして。


ぽつり。


「……護衛はもういいと言われました。」


数秒。


レオンは固まる。


その後。


「ぶっ……!」


危うく酒を吹き出しかけた。


そして。


「はっはっはっはっは!」


盛大に笑った。


腹を抱える。


久しぶりにこんなに笑ったかもしれない。


「振られちゃったかー!」


リヒトの眉がぴくりと動く。


無言。


だが明らかに不機嫌だった。


さらに面白い。


「そんな顔するなよ。」


笑いながら言う。


「別に振られてはいません。」


「いやいや。」


レオンは肩を震わせる。


「本人は護衛を断っただけのつもりかもしれないけど、君は完全に振られた顔してるよ。」


無言。


図星らしい。


レオンはなんとか笑いを収めた。


「心当たりは?」


リヒトは首を振った。


即答だった。


レオンは目を細める。


本当に分かっていないらしい。


「ふーん。」


酒を飲む。


そして呆れたように笑った。


「じゃあ話さないとね。」


リヒトが眉を寄せる。


「話す?」


「そう。」


レオンは当然のように答えた。


「会話。」


沈黙。


「……。」


「いや、そこで黙るな。」


思わずツッコミを入れる。


「君たち会話してる?」


「しています。」


「どれくらい?」


リヒトは少し考えた。


嫌な予感がする。


そして。


「必要なことは。」


レオンは天井を仰いだ。


駄目だこりゃ。


「リヒト。」


「はい。」


「女性はね。」


レオンは真顔で言った。


「エスパーじゃないんだ。」


沈黙。


「言わないと伝わらない。」


沈黙。


「分かる?」


沈黙。


「分からないか。」


レオンは深いため息をついた。


そしてグラスを置く。


「頑張ってね。」


「……何をでしょうか。」


「会話。」


即答だった。


リヒトは相変わらず分かっていない顔をしている。


レオンは心の中で笑った。


先は長そうだ。


だが。


少しだけ楽しみでもあった。


氷の騎士が誰かのために悩み。


誰かに振り回されている。


そんな姿を見る日が来るとは思わなかったから。


「おやすみ。」


「おやすみなさい。」


一礼して部屋を出ていく幼馴染の背中を見送りながら。


レオンは小さく笑った。


「頑張れよ。」


今度はちゃんと届くように。


そう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。