37話 会いたいんでしょ?
数日ぶりにノアの部屋を訪れた。
「こんにちは。」
「遅い。」
開口一番それだった。
琴葉は思わず笑う。
「ごめんごめん。」
ノアは不満そうに本を閉じた。
だが隣に座ると少し機嫌が直る。
分かりやすい。
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しばらく二人で本を読んでいた。
だが琴葉は少し上の空だった。
ページはめくる。
でも頭に入ってこない。
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「……ねぇ。」
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不意にノアが口を開く。
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「最近元気ない。」
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ぎくりとした。
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「そう?」
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「そう。」
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即答だった。
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「ぼーっとしてる。」
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図星だった。
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「別にそんなことないよ。」
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誤魔化す。
だがノアは納得していない。
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「リヒトのせい?」
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ぶふっ。
飲んでいた紅茶を吹きそうになった。
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「な、なんで!?」
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「だって。」
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ノアは当然のように答える。
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「最近ずっとリヒトのこと考えてる。」
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「考えてない!」
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即否定。
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「考えてる。」
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「考えてない!」
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「考えてる。」
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「考えてないってば!」
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ノアはじーっと見つめてくる。
そして。
ぽつり。
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「リヒトも変だった。」
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琴葉が瞬く。
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「え?」
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「帰ってきた日。」
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ノアは肩をすくめた。
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「騎士団で見た。」
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琴葉の心臓が少し跳ねる。
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「なんかぼーっとしてた。」
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「へぇ。」
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平静を装う。
だが気になる。
とても気になる。
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「それに。」
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ノアは続けた。
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「僕が話しかけても聞いてなかった。」
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珍しい。
リヒトが。
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「へぇ……。」
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「たぶん。」
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ノアは何でもないことのように言った。
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「琴葉のこと考えてた。」
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沈黙。
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「……は?」
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思わず変な声が出た。
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「だって。」
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ノアは首を傾げる。
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「女性騎士が話しかけても全然聞いてなかったし。」
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「女性騎士?」
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「うん。」
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琴葉が見たあの日の人だ。
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「ずっと琴葉の話だった。」
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今度は固まる番だった。
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「え?」
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「え?」
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ノアも首を傾げる。
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「だから。」
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当然のように言う。
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「異界の花嫁様ってどんな人なんですかって聞かれて。」
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「うん。」
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「真面目だとか優しいとかいっぱい話してた。」
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琴葉の脳が停止する。
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「え?」
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「え?」
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ノアは再び首を傾げた。
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「何回同じこと聞くの。」
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琴葉は聞いていなかった。
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優しい。
真面目。
いっぱい話してた。
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あの日。
女性騎士と楽しそうに話していた。
そう思っていた。
でも違った。
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「……。」
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もしかして。
本当に。
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私。
勘違いした?
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ノアはそんな琴葉を見ながら。
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「だから会いに行けば?」
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とどめを刺した。
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「えっ!?」
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「会いたいんでしょ。」
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「ち、違う!」
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「違わない。」
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「違う!」
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「違わない。」
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ノアは呆れたようにため息をついた。
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「大人って面倒。」
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そして再び本を開いた。
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残された琴葉だけが真っ赤になっていた。




