31話 なんか静か!
昼前。
琴葉はゆっくり目を覚ました。
昨夜の夜会は想像以上に疲れていたらしい。
目をこすりながらベッドから起き上がる。
二日酔いはない。
ただ。
昨夜のことを思い出して。
「うわぁ……」
思わず布団に顔を埋めた。
なんとなく覚えている。
なんとなくだけど。
絶対にリヒトへ絡んだ。
間違いない。
優しいだの何だの言った気がする。
言った。
たぶん。
きっと。
「うぅぅ……」
恥ずかしい。
エリーが朝食を運んできた頃には、ようやく立ち直っていた。
◇◇◇
着替えを終え。
部屋の扉を開く。
そして。
「あれ?」
思わず声が漏れた。
誰もいない。
いつもなら。
そこには黒髪の騎士が立っている。
壁と同化したように。
無表情で。
なのに今日はいない。
琴葉は首を傾げた。
食堂へ向かう途中でエリーに尋ねる。
「リヒトさんは?」
「数日間、別任務に出られています。」
「そうなんだ。」
納得しかけて。
ふと気付く。
「あれ?代わりの騎士さんは?」
「配属されておりません。」
「え?」
思わず聞き返した。
配属されていない?
護衛って代わりが来るものじゃないの?
エリーは少し困ったように笑った。
「王城内は基本的に安全ですから。」
「なるほど……」
そういえば。
今まで当たり前のようにリヒトがいた。
授業中も。
図書室も。
散歩も。
買い物も。
夜会も。
ずっと。
「じゃあ……」
琴葉はぼんやり考える。
王城の中では絶対必要というわけではない。
なのに。
なんでいつもいてくれたんだろう。
◇◇◇
その日もいつも通りだった。
午前中は図書室。
昼食。
少し魔法の自主練習。
お茶の時間。
何も変わらない。
本当に何も変わらない。
なのに。
なんだろう。
静かだ。
本を読んでいても。
ふと顔を上げてしまう。
廊下を歩いていても。
なんとなく後ろを見てしまう。
誰もいないのに。
「……変なの。」
自分で自分に呟いた。
◇◇◇
午後。
久しぶりにノアから呼び出された。
王子の部屋へ向かう。
ノアはソファで本を読んでいた。
相変わらずである。
「久しぶりだね。」
「……別に。」
久しぶりに会ったのに相変わらずだった。
琴葉は笑う。
だが。
ノアは本から目を離した。
じっと琴葉を見る。
「何?」
「え?」
「なんか変。」
「そう?」
「ぼーっとしてる。」
ギクッとした。
そんなに分かりやすかっただろうか。
「別にー?」
誤魔化すように笑う。
ノアはじっと見つめてくる。
そして。
「……リヒト卿いないから?」
「え?」
思わず聞き返した。
「いや。」
「違うよ。」
即答した。
したのだが。
なぜかノアは面白くなさそうだった。
「ふーん。」
本を開く。
明らかに機嫌が悪い。
「ノア?」
「別に。」
今日はやたらと別にを連発する。
琴葉は首を傾げた。
ノアは本を読んでいるふりをしていた。
けれど。
心の中は全然穏やかではなかった。
せっかく久しぶりに会えたのに。
琴葉はどこか上の空だ。
そして。
その原因が誰なのか。
十二歳の王子にも分かっていた。
だから少しだけ面白くなかった。




