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3話 会話が続かない!

厨房に置かれた果物は驚くほど甘かった。


異世界の食べ物なんて大丈夫だろうかと思ったけれど、お腹が空きすぎてそんな心配はすぐに消えた。


もぐもぐ。


しゃくっ。


もぐもぐ。


静かだ。


とても静かだ。


向かいに立つリヒトは相変わらず無言だった。


本当に護衛なのだろうか。


置物ではなく?


そう思っていると。


「……名前」


ぽつりと声が落ちた。


琴葉はきょとんとする。


名前?


誰の?


数秒考えてから、自分を指差した。


「あ、私?」


リヒトが頷く。


そういえば。


召喚されてからずっとバタバタしていた。


自己紹介なんてしていない。


たぶん。


たぶんしてない。


記憶が曖昧だ。


寝不足だったし。


「琴葉です」


そう名乗ると、リヒトは小さく頷いた。


それだけだった。


「あなたはリヒトさんですよね?」


こくり。


「王子様の護衛騎士さんですよね?」


こくり。


「なのに私の護衛してて大丈夫なんですか?」


こくり。


「へぇ」


もぐもぐ。


会話が終わった。


終わってしまった。


喋らない。


本当に喋らない。



「これから私どう生きていくんですか?」


聞いてみる。


沈黙。


返事はない。


果物をもう一つ口へ運ぶ。


甘い。


美味しい。



「衣食住と命の保障はされるんですか?」


こくり。


「それはよかった」


生きる上で重要なことだ。


衣食住と安全。


とりあえずそこが確保されているなら何とかなる。



「元いた世界に帰ることってできるんですか?」


今度は頷きもなかった。


沈黙。


ただ静かにこちらを見ている。



「……ふーん」


帰れないのか。


帰れるけど教えたくないのか。


どちらかだろう。


まあいいか。


今すぐどうにかなる話でもない。


衣食住と安全が保障されているなら、追々分かるだろう。



果物を食べ終える頃には、お腹も落ち着いていた。


けれど眠気は来ない。


さっきまであれだけ寝ていたのだ。


当然かもしれない。



「少し散歩してもいいですか?」


リヒトを見る。


こくり。


許可が出た。


たぶん。



「じゃあ行きますね」


立ち上がる。


リヒトも無言で続く。



王城の廊下は夜でも明るかった。


壁の燭台に灯る光が石造りの床を照らしている。


見たこともない景色。


知らない世界。


知らない人たち。


不安がないと言えば嘘になる。


けれど。


今はまだ。


ほんの少しだけわくわくしていた。



「広いなぁ」


呟きながら歩く。


返事はない。


後ろから足音だけがついてくる。



「リヒトさん」


返事はない。



「迷子になったら助けてくださいね」


少し振り返る。


すると。


リヒトは無表情のまま頷いた。



たったそれだけなのに。


なぜだか少し安心した。

夜勤明けで数時間寝たら起きれる人と夜まで寝てしまう人いるよね。私は後者。

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