4話 場所が分からない!
夜の庭園は静かだった。
昼間は緊張していて周囲を見る余裕なんてなかったけれど、こうして改めて見るととても綺麗だ。
月明かりが石畳を照らし、噴水の水面がきらきらと揺れている。
琴葉は庭園のベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げた。
異世界。
召喚。
異界の花嫁。
今でも夢の中にいるような気がする。
頬をつねってみても痛い。
だからきっと現実なのだろう。
認めたくないけれど。
「……」
ふと視線を横に向ける。
少し離れた場所。
リヒトが立っていた。
相変わらず無表情。
相変わらず無言。
相変わらず護衛中。
本当にずっといる。
大丈夫なのだろうか。
仕事量的に。
⸻
しばらく景色を眺めていると、徐々に瞼が重くなってきた。
まだ疲れが残っているらしい。
夜勤明けだったことを思い出す。
異世界に来たからといって体力が回復するわけではない。
「そろそろお部屋に戻ります」
立ち上がる。
リヒトも無言で歩き出した。
⸻
歩き出したのはいい。
いいのだが。
問題がある。
⸻
どこだっけ。
⸻
王城は広い。
広すぎる。
同じような廊下ばかりだ。
さっきまでどうやってここへ来たのか全く覚えていない。
⸻
どうしよう。
⸻
素直に聞けばいい。
聞けばいいのだが。
⸻
琴葉はくるりと振り返った。
リヒトを見る。
⸻
「……」
⸻
リヒトもこちらを見る。
⸻
「……」
⸻
無言。
⸻
「……」
⸻
無言。
⸻
一分経過。
⸻
リヒトは微動だにしない。
強い。
この人強い。
⸻
先に目を逸らした方が負けな気がしてきた。
いや、何の勝負だ。
⸻
結局。
琴葉が根負けした。
「迷子です」
にこり。
精一杯の笑顔を添えてみる。
⸻
リヒトは一度だけ頷いた。
⸻
こくり。
⸻
そして。
何事もなかったかのように歩き出す。
⸻
負けた。
完全敗北である。
⸻
琴葉は大人しく後をついていった。
⸻
リヒトの歩幅は大きい。
けれど厨房に行く時と同じく、少しだけゆっくり歩いている。
たぶん。
気のせいではない。
⸻
数分後。
見覚えのある扉の前に到着した。
⸻
「ここだ」
⸻
初めて聞いた気がする。
三文字。
貴重な三文字だ。
⸻
「ありがとうございました」
リヒトを見る。
「リヒトさんも休んでくださいね」
⸻
リヒトは小さく頷いた。
⸻
こくり。
⸻
本当に休むのだろうか。
少し疑問だった。
⸻
部屋に戻る。
ベッドへ倒れ込む。
まだ眠くないと思っていたはずなのに。
柔らかな寝具に包まれた瞬間、意識は途切れた。
⸻
目が覚めた時。
窓の外は薄明るくなっていた。
早朝らしい。
⸻
顔を洗う。
身支度を整える。
クローゼットには見覚えのない服が何着も並んでいた。
その中から一番シンプルなワンピースを選ぶ。
上品だけれど動きやすそうだ。
⸻
「よし」
⸻
扉を開ける。
⸻
そして。
固まった。
⸻
目の前に人がいた。
⸻
黒髪。
灰色の瞳。
無表情。
⸻
リヒトだった。
⸻
「えっ」
⸻
思わず声が漏れる。
⸻
「……」
⸻
リヒトは平然としている。
⸻
まさか。
⸻
「休んでないんですか!?」
⸻
リヒトは一度だけ瞬きをした。
⸻




