↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

29話 夜会!

朝から大騒ぎだった。


侍女たちに囲まれ、髪を結われ、化粧を施される。


ドレスを着せられ、鏡の前に立たされる。


「まぁ……!」


「とてもお綺麗です!」


「異界の花嫁様にぴったりですわ!」


次々と声が飛ぶ。


琴葉は鏡の中の自分を見て目を瞬かせた。


本当に自分だろうか。


淡い色のドレスは上品で、それでいて華やかだった。


夜会なんて縁のない人生だったのに。


なんだか不思議な気分になる。


「準備が整いました」


そう言われて部屋を出る。


扉の外にはリヒトがいた。


灰色の瞳がこちらを向く。


一瞬だけ目を見開いたような気がした。


気のせいかもしれない。


「どうですか?」


少し照れながら尋ねる。


リヒトは数秒黙ったあと、


「……お似合いです」


と答えた。


思わず頬が緩む。


「ありがとうございます」


するとリヒトがそっと片手を差し出した。


「参りましょう」


琴葉は少し迷ってからその手に自分の手を重ねた。


⸻


二人で歩く。


王城の廊下を。


夜会会場へ続く道を。


しばらくするとレオンが待っていた。


今日のレオンも眩しかった。


白を基調とした正装。


金髪と青い瞳。


絵画から出てきた王子様みたいだ。


「来たね」


レオンは柔らかく微笑んだ。


そして琴葉を見て目を細める。


「ドレス、とても似合っている」


琴葉の頬が少し熱くなる。


「綺麗だ」


さらりと言われる。


本当に慣れない。


「ありがとうございます」


照れながら答えると、


レオンは満足そうに笑った。


「リヒトもお疲れ」


そう言って片手を差し出す。


エスコートの交代。


そのはずだった。


だが。


リヒトの手が離れない。


ん?


琴葉は不思議に思って振り返る。


その瞬間。


ぎゅっ。


ほんのわずか。


手を握られた。


一瞬だった。


本当に一瞬。


次の瞬間には離されていた。


気のせいだっただろうか。


レオンを見ると。


王子はうっすらと笑っていた。


⸻


「レオン王太子殿下と異界の花嫁様のご入場です」


高らかな声が響く。


扉が開く。


眩しい。


シャンデリア。


音楽。


豪華な装飾。


色とりどりのドレス。


たくさんの視線。


良い視線も。


悪い視線も。


すべてが琴葉へ向いている。


少しだけ足が止まりそうになった。


その時。


「緊張する必要はないよ」


レオンが耳元で囁いた。


「堂々としていればいい」


琴葉は小さく頷く。


ゆっくり歩き出した。


⸻


夜会は思ったより忙しかった。


貴族たちが次々と話しかけてくる。


看護師時代に身につけた愛想笑いが役立った。


当たり障りのない会話。


笑顔。


相槌。


なんとか乗り切る。


しばらくして。


「少し席を外すよ」


レオンが言った。


「スイーツが美味しいから食べて待っていて」


そう言って人の輪へ消えていく。


琴葉はほっと息をついた。


壁際にあるスイーツコーナーへ向かう。


もちろん後ろにはリヒトがいる。


⸻


ケーキ。


焼き菓子。


フルーツ。


全部美味しそうだ。


夢中になっていると。


数人の令嬢がこちらへ近づいてくるのが見えた。


うわ。


絶対あれだ。


キラキラ王子に相応しくないとか言われるやつ。


ドラマで見た。


絶対そう。


逃げるわけにもいかない。


琴葉は気付いていないふりをしてケーキを見つめた。


そして。


令嬢たちは琴葉の前を通り過ぎた。


「あの……リヒト様」


ん?


琴葉は顔を上げる。


「もしよろしければ、一曲ご一緒していただけませんか?」


上目遣い。


可愛い。


なるほど。


リヒトか。


確かにかっこいいもんな。


騎士だし。


少しだけ胸の奥がもやっとした。


「護衛中ですので」


リヒトは即答した。


令嬢たちは諦めない。


「花嫁様。少しだけお時間をいただけませんか?」


まさかの自分に来た。


「えっと……私は構いませんよ?」


笑顔で答える。


なぜか。


リヒトから不機嫌な空気が漂った気がした。


気のせいだろうか。


「仕事ですので」


もう一度。


今度はきっぱり。


令嬢たちは残念そうに去っていった。


⸻


微妙な沈黙。


なんとなく気まずい。


琴葉は再びスイーツに集中した。


すると今度は。


数人の男性貴族が近付いてくる。


今度は明らかに自分目当てだった。


うわぁ。


どうしよう。


そう思った瞬間。


「あちらの飲み物もおすすめです」


リヒトがそっと背中に手を添えた。


自然な動作だった。


けれど。


初めて触れられたことに琴葉は驚いた。


「ありがとうございます」


小さく礼を言う。


そして飲み物コーナーへ移動した。


⸻


綺麗なグラスが並んでいる。


その中の一つを手に取った。


甘い。


カクテルだ。


お酒は嫌いじゃない。


むしろ好きな方だ。


甘くて飲みやすい。


緊張していたせいか、少しだけ気持ちが軽くなった。


琴葉はグラスを傾けながら会場を見渡した。


煌びやかな光景。


優雅な音楽。


王族。


貴族。


騎士。


ドレス。


そして異世界。


「……異世界すぎる」


ぽつりと呟く。


隣ではリヒトが何も言わない。


ただ静かに立っていた。


その存在が。


思っていたより心強かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。