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28話 モテそうなのに!

夜会のお誘いを受けた翌日。


朝食を終えた琴葉の部屋には、早速ドレス職人たちがやってきていた。


「時間があまりございませんので、今回は既製品をお嬢様に合わせて仕立て直させていただきます」


「は、はい!」


ドレス。


本物のドレス。


友人の結婚式で着たお呼ばれ用のドレスとは訳が違う。


最初は少しワクワクした。


鏡の前で何着も合わせられたり、生地を見せてもらったり、装飾を確認したり。


異世界のお姫様みたいだ。


しかし。


二時間後。


「こちらはどうでしょう」


「次はこちらを」


「少し腕を上げていただけますか」


「もう一度採寸を」


「髪型との兼ね合いもありますので」


ぐったり。


思った以上に大変だった。


椅子に座るだけでも疲れる。


ドレスを着るって体力仕事なのかもしれない。


そしてその間。


衝立の向こうにはずっと護衛騎士がいた。


ずっと。


本当にずっと。


「リヒトさん暇じゃないんですかね……」


ぽつりと呟くと、職人たちは困ったように笑った。


「護衛ですから」


護衛って大変なんだなあ。


そんなことを思いながら採寸は続いた。


◇◇◇


午後からは夜会のためのマナー講習だった。


歩き方。


挨拶の仕方。


食事の作法。


会話の受け答え。


頭がパンクしそうだった。


「無理です」


思わずそう言うと、講師は優雅に微笑んだ。


「皆様そうおっしゃいます」


いや絶対嘘だ。


王族とか最初からできそうだし。


そんなことを考えながら授業を終えた。


◇◇◇


夕食後。


琴葉はソファにもたれかかっていた。


疲れた。


本当に疲れた。


夜会って参加する前からこんなに大変なのか。


部屋の中にはいつものようにリヒトがいる。


最近ではこの光景にも慣れてしまった。


ふと顔を上げる。


「リヒトさん」


灰色の瞳が向いた。


「一緒にお茶でも飲みませんか?」


少しの沈黙。


断られるかと思った。


しかし。


「……いただきます」


返事が返ってきた。


琴葉は思わず目を丸くした。


「どうぞどうぞ!」


慌てて向かいのソファを指差す。


だが。


リヒトが座ったのは隣だった。


「え」


思わず声が漏れる。


馬車では慣れた。


けれど部屋のソファは話が違う。


近い。


肩が触れるほどではないが近い。


なんだか落ち着かない。


琴葉はそわそわしながらお茶を注いだ。


リヒトも静かにカップを受け取る。


しばらく沈黙。


カップを持つ音だけが聞こえる。


不思議と気まずくはない。


けれど静かすぎる。


何か話そう。


そう思った琴葉は口を開いた。


「リヒトさんって夜会とか慣れてるんですか?」


「……仕事で出る」


「へぇー」


すごい。


やっぱり騎士だ。


琴葉は感心した。


そしてふと思う。


「じゃあエスコートとかしたことあるんですか?」


ぴたり。


リヒトの動きが止まった。


数秒。


沈黙。


「……ない」


即答だった。


「本当に?」


「ない」


「えー」


琴葉は思わず笑ってしまう。


「モテそうなのに」


今度は沈黙が長かった。


リヒトは無表情のままカップを見つめている。


「……関係ない」


ぼそり。


「そうですか?」


絶対モテると思うんだけどな。


背も高いし。


強いし。


顔も整ってるし。


喋らないだけで。


琴葉は首を傾げた。


すると今度は別のことが気になった。


「そういえば」


リヒトがこちらを見る。


「私、ドレスとかほとんど着たことないんですよね」


「……そうか」


「似合うと思います?」


聞いた瞬間。


リヒトの視線が琴葉に向いた。


長い。


長すぎる。


何秒見つめるんだろう。


琴葉が少し居心地悪くなった頃。


「……似合う」


ぽつりと返事が返ってきた。


「え?」


思わず聞き返してしまう。


「……今も」


琴葉は固まった。


今も?


今って。


今着ているのはただのワンピースだ。


ドレスじゃない。


え。


どういう意味?


混乱していると、リヒトは何事もなかったかのようにお茶を飲んだ。


琴葉は少し頬が熱くなるのを感じながらカップを持ち上げる。


「……ありがとうございます」


小さくお礼を言う。


リヒトは何も言わなかった。


ただ。


カップを口元へ運ぶ耳が、ほんの少しだけ赤かった。

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