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26話 どっちも好きだ

初めての給料日だった。


もちろん日本円ではない。


この世界の貨幣だ。


それでも自分で働いて得たお金というのは嬉しい。


思わず何度も革袋を開けては中身を確認してしまう。


「ふふふ……」


気付けば笑みがこぼれていた。


今日は久しぶりの街への外出。


しかも。


「何買おうかな〜」


隣にはリヒトがいる。


護衛なので当然なのだが、今日はいつもと違った。


帯剣はしている。


だが騎士服ではない。


黒のシャツに濃い灰色の上着。


シンプルな服装。


それだけなのに妙に新鮮だった。


やっぱり顔がいい人は何着ても似合うなぁ。


そんなことを考えながら街を歩く。


雑貨屋を覗き。


アクセサリー店を覗き。


お菓子屋を覗く。


完全に休日だった。


「かわいい……」


銀色の小さな花の髪飾り。


値札を見る。


うっ。


買えないことはない。


でも高い。


かなり悩む。


悩んで。


悩んで。


棚に戻した。


「また今度にしよう……」


大人である。


衝動買いはしない。


たぶん。


その代わりに焼き菓子を買った。


エリーへのお土産。


ノアへのお土産。


喜んでくれるかな。


そんなことを考えながら次の店へ入る。


洋服屋だった。


思わず目を輝かせる。


かわいい。


ものすごくかわいい。


店内を見ていると二着のワンピースが目に入った。


一つは淡い色合いの清楚なデザイン。


もう一つは少し大人っぽい落ち着いたデザイン。


どちらも素敵だった。


うーん。


悩む。


しばらく悩んで。


ふといたずら心が湧いた。


くるりと振り返る。


「リヒトさん」


灰色の瞳が向く。


「どっちが好きですか?」


少しだけにやりと笑う。


どうせ答えない。


答えたとしても指差すくらいだろう。


そう思っていた。


だが。


沈黙の後。


「どっちも好きだ」


琴葉は固まった。


「えっ」


思わず声が漏れる。


答えた。


しかも文章で。


しかも好きって言った。


いや服の話なんだけど。


服の話なんだけど。


なんか照れる。


「そ、そうですか……」


思わず視線を逸らす。


余計選べなくなった。


しまった。


好きかどうかじゃなくて。


似合うかどうか聞けばよかった。


「あ、じゃあ……」


気を取り直して尋ねる。


「どっちが似合いますか?」


今度は間もなかった。


「どっちも似合う」


即答だった。


琴葉は耳が熱くなるのを感じた。


なんなんだ今日は。


優しい。


優しいぞ。


でも。


選べない。


余計選べない。


うーーーーーん。


しばらく悩む。


王城にも服はある。


エリーたちが準備してくれる。


だけど。


自分で選ぶ服は特別だった。


しばらく唸った末。


「よし!」


顔を上げる。


「こっちにします!」


大人っぽい方のワンピースを持ち上げた。


「ありがとうございます」


にこっと笑う。


そしてそのままレジへ向かった。


リヒトは何も言わない。


ただ。


琴葉が選ばなかった方のワンピースを。


しばらく見つめていた。


店員だけが、その視線に気付いていた。

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