24話 隣に座った!
「よし、今日はここまでじゃ」
ヘンリー先生の声に琴葉は息を吐いた。
婚約の話から数日。
相変わらず魔法の練習をしたり、本を読んだり、ノアに呼び出されて一緒に過ごしたり。
平和な日々が続いていた。
そして今日は久しぶりの討伐隊への同行だった。
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以前よりも浄化魔法は上達している。
だから今回は少し奥の汚染区域まで来ていた。
騎士たちとも顔見知りになり始めている。
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「花嫁様、お久しぶりです!」
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「こんにちは!」
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「最近は魔法の調子どうですか?」
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「頑張ってます!」
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和やかな雰囲気。
琴葉も自然と笑顔になる。
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その少し後ろ。
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黒髪の騎士は無言だった。
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「最近よく笑うようになったよな」
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「だな」
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騎士たちの会話が耳に入る。
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面白くない。
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なぜか面白くない。
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リヒトは静かに眉を寄せた。
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◇◇◇
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しばらくして魔物が現れた。
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琴葉は浄化魔法を発動する。
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だが。
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「っ……!」
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うまくいかない。
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焦る。
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以前より強い個体だった。
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魔力が弾かれる感覚がある。
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次の瞬間。
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ドンッ!
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炎が走った。
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魔物が吹き飛ぶ。
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振り向かなくても分かる。
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リヒトだ。
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「大丈夫です」
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ぽつり。
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短い言葉。
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それだけで不思議と落ち着いた。
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討伐が終わる頃には夕方になっていた。
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「少し休憩してから戻ろう」
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騎士たちが散らばる。
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琴葉も近くの岩へ腰掛けた。
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ふと見ると。
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少し離れた場所にリヒトが立っている。
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いつも通り。
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「リヒトさん」
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呼ぶ。
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灰色の瞳が向いた。
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「ここ空いてますよ」
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隣をぽんぽん叩く。
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どうせ断られる。
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そう思っていた。
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だが。
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リヒトは歩いてきた。
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そして。
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隣に座った。
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「えっ」
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思わず声が出た。
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リヒトがこちらを見る。
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「何ですか」
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「座るんですね」
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「座ります」
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「そうなんですね」
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「そうです」
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会話終了。
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沈黙。
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でも。
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なぜか気まずくなかった。
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◇◇◇
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しばらく風の音だけが流れる。
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「そういえば」
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琴葉が口を開く。
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「リヒトさんって休みの日何してるんですか?」
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リヒトが少し考えた。
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「剣の手入れ」
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「真面目だ」
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「訓練」
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「真面目だ」
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「読書」
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「意外!」
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初めて少しだけ会話が続く。
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琴葉は嬉しくなった。
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「どんな本読むんですか?」
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「歴史」
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「真面目だ……」
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また同じことを言ってしまった。
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その時。
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ほんの少しだけ。
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本当にほんの少しだけ。
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リヒトの口元が緩んだ気がした。
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気のせいかもしれない。
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でも。
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確かに見えた気がした。
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「今笑いました?」
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「笑ってません」
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即答だった。
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「絶対笑いましたよね?」
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「笑ってません」
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少しだけ早口だった。
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琴葉は思わず吹き出した。
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「ふふっ」
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その笑い声を聞きながら。
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リヒトは前を向いたまま静かに目を細めた。
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今までで一番自然に過ごせた時間だった。




