表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/38

23話 想像してなかったわけじゃない!

それからしばらく時が経った。


琴葉の浄化魔法は順調に成長していた。


今では小さな汚染区域なら一人でも浄化できるようになり、ヘンリー先生にも「上出来じゃ」と褒められることが増えた。


異世界に来たばかりの頃は右も左も分からなかったのに、気づけばこの世界での生活が当たり前になりつつある。


そんなある日のことだった。


朝の授業を終えた頃、琴葉は王城の応接室へ呼ばれた。


案内された部屋に入ると、そこには国王、レオン、ヘンリー先生がいた。


そして当然のように後ろにはリヒトもいる。


最近ではその存在もすっかり日常になっていた。


「よく来たな、琴葉」


国王が穏やかに声をかける。


「今日は少し話があってな」


琴葉は勧められた席に腰を下ろした。


魔法の話だろうか。


それとも次の実地訓練の話だろうか。


そう思っていたのだが——。


「異界の花嫁についての話だ」


国王の言葉に琴葉は姿勢を正した。


「歴代の異界の花嫁は、皆王族と婚姻を結んでいる」


一瞬、理解が追いつかなかった。


「……はい?」


思わず聞き返してしまう。


婚姻。


つまり結婚。


結婚?


私が?


国王は苦笑しながら続けた。


「もちろん強制ではない」


「花嫁が結婚しなければ浄化魔法が使えなくなるわけでもない」


ヘンリー先生も頷く。


「国に災いが起きるわけでもないし、力が弱まるわけでもない」


琴葉は少しだけ肩の力を抜いた。


よかった。


結婚しないと世界が滅びます、とか言われたらどうしようかと思った。


しかし国王は続ける。


「ただ、これまでの花嫁は皆王族と婚姻しておる」


「慣例のようなものじゃな」


そして静かにレオンへ視線を向けた。


「現在の王族で年齢が最も近いのはレオンだ」


レオンが柔らかく微笑む。


「改めてよろしく」


優雅に頭を下げる姿は相変わらず絵になる。


異界の花嫁。


ずっとそう呼ばれてきた。


だから薄々は気づいていた。


花嫁なのだから、いつか誰かと結婚する前提なのだろうと。


それが王族なのだろうな、とも。


でも。


理解していることと受け入れられることは別だ。


だって相手は王子様だ。


テレビの中にしかいないような存在だ。


そして私はただの看護師だった一般人。


王妃?


無理無理無理無理。


まずマナーとか分からないし。


絶対怒られる。


頭の中で全力で首を振っていると、


「その……」


気づけば声が出ていた。


「私、まだそういうこと全然考えられなくて……」


レオンはあっさり頷いた。


「当然だろうね」


「まだこの世界に来て数か月だ」


「今すぐ決めろなんて誰も言わないよ」


その言葉に少しだけ安心する。


「私も王太子だから政略結婚には理解がある」


レオンは穏やかな笑みを浮かべた。


「でも君が望まないのなら急いで話を進めるつもりもない」


「まずはこの世界を知ってほしい」


「その先で考えればいい」


琴葉はほっと息を吐いた。


よかった。


本当に良かった。


「ありがとうございます」


そう言うとレオンが少しだけ目を細める。


「君は真面目だね」


「え?」


「顔に全部出てる」


琴葉は慌てて両頬を押さえた。


その様子に国王が声を上げて笑う。


ヘンリー先生も楽しそうに笑っていた。


ただ一人。


後ろに立つ騎士だけは笑っていなかった。


灰色の瞳は静かに琴葉を見つめている。


その表情から何を考えているのかは分からない。


話し合いはほどなくして終わった。


部屋を出て廊下を歩く。


頭の中はまだ整理できていない。


結婚。


王妃。


レオン。


考えれば考えるほど現実味がなかった。


「婚約かぁ……」


ぽつりと呟く。


その声を後ろの騎士は確かに聞いていた。


何も言わない。


ただ静かに。


誰にも気づかれないように。


拳を強く握りしめながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ