22話 護衛ですので
翌日。
琴葉は訓練場を訪れていた。
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額に汗を浮かべながら木剣を振るノア。
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年齢を考えれば十分上手い。
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それでも何度も振り続ける姿は真剣そのものだった。
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しばらく見学していると休憩時間になった。
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「ノアー!」
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琴葉が手を振る。
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ノアが近付いてくる。
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少し疲れているようだ。
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「じゃーん!」
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琴葉は持っていた籠を掲げた。
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「ノアと一緒に食べようと思って持ってきたんだ!」
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中にはお茶と焼き菓子。
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エリーに頼んで準備してもらったものだ。
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ノアは目を瞬いた。
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「……別に」
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そう言いながらも。
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座るのは早かった。
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二人でお茶を飲む。
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「今日すごかったよ」
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「何が」
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「剣」
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ノアが固まる。
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「すごく頑張ってたし」
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「……」
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「かっこよかった」
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ノアがそっぽを向いた。
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耳が赤い。
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分かりやすい。
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「かわいいなぁ」
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「かわいくない」
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即答だった。
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その時だった。
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「私が手合わせしましょう」
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低い声。
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二人同時に振り向く。
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「え?」
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「えっ?」
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そこにはリヒトが立っていた。
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ノアが目を見開く。
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「……リヒト卿が?」
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琴葉も驚いていた。
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(急に喋るじゃん……)
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昨日まで壁と同化していた人とは思えない。
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剣術教師も驚いている。
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「おお……よろしいのですか?」
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リヒトは静かに頷いた。
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訓練場中央。
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向かい合う二人。
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ノアの表情は真剣だった。
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木剣を握る。
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対するリヒトは無表情。
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開始。
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カン!
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木剣同士がぶつかる。
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カンッ!
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カカンッ!
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ノアも決して弱くない。
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だが。
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相手が悪かった。
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数分後。
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高い音が響く。
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カァン!!
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ノアの木剣が空を舞った。
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地面へ転がる。
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肩で息をするノア。
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対してリヒトは呼吸一つ乱れていない。
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まるで風でも浴びてきたかのようだった。
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「おおー!」
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琴葉が拍手する。
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「すごい!」
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ぱちぱちぱち。
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ノアは悔しそうに唇を噛む。
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リヒトは何も言わない。
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ただ木剣を返した。
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「……まだ早い」
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それだけだった。
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ノアは悔しそうに剣を受け取る。
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けれど。
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その目は負けていなかった。
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帰り道。
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琴葉とリヒトは並んで歩いていた。
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「どうして急に相手してあげたんですか?」
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琴葉が尋ねる。
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沈黙。
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やっぱり返事はない。
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と思った。
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「……剣がなまるので」
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ぽつり。
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琴葉は納得した。
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「あー!」
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「そうですよね!」
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「ずっと護衛してもらってますもんね」
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そして。
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ふと思ったことを口にする。
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「そういえば」
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「まだ護衛って必要ですかね?」
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「王城の中ですし」
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沈黙。
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数秒。
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そして。
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「……危ないので」
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短い返事。
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琴葉は首を傾げた。
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(そうですか……)
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王城の中で何が危ないのだろう。
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よく分からなかった。
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一方。
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リヒトは前を向いたままだった。
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その灰色の瞳だけが。
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ほんの少しだけ細められていた。




