20話 弟王子がかわいい!
「は、初めまして。琴葉です」
ぺこりと頭を下げる。
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目の前の少年はじっと琴葉を見つめた。
金髪。
青い瞳。
顔立ちはレオンによく似ている。
けれど、雰囲気はまるで違った。
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「ふーん」
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それだけだった。
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気まずい。
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ものすごく気まずい。
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しばらくして少年が口を開く。
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「どこ行くの」
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「え?」
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「だから、どこ」
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「あ、部屋に戻るところです」
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「ふーん」
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また沈黙。
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そして。
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「ちょっと来て」
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「え?」
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返事をする間もなく手首を掴まれた。
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「えっ、ちょっ」
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ずんずん歩き出す。
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「の、ノア様!?」
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後ろから慌てた声が聞こえた。
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「ノア様ぁぁぁ!」
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従者らしき青年が半泣きになりながら追いかけてくる。
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「また勝手に人を連れて行って!」
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「陛下に怒られますってぇぇ!」
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ノアは完全に無視した。
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「ノア様ーーー!」
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「お願いですから止まってくださーーーい!」
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琴葉は引っ張られながら思った。
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(この人、絶対苦労人だ……)
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◇◇◇
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連れて来られたのは王城の一室だった。
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レオンの部屋ほど豪華ではない。
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けれど王族の部屋らしく広い。
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本棚にはたくさんの本。
机には積み上がった書類。
木剣や地図も置かれていた。
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どことなく子供部屋と執務室が混ざったような不思議な空間だった。
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「座って」
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「は、はい」
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言われるままソファに腰掛ける。
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ノアも向かい側に座った。
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そして。
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じーーーーーー。
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見られる。
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めちゃくちゃ見られる。
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「……」
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「……」
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何この時間。
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取り調べ?
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琴葉が耐えきれなくなった頃。
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ノアが口を開いた。
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「異界人って角とか生えてないんだ」
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「生えてないよ!?」
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思わず即答した。
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ノアは少しだけ目を丸くした。
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「ふーん」
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「逆に生えてると思ってたの?」
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「思ってた」
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即答だった。
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「なんで!?」
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「分かんない」
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適当すぎる。
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◇◇◇
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しばらくして。
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「魔法は?」
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「使えるよ」
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「嘘」
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「本当!」
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「でも元々使えなかったんでしょ」
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「最近覚えたの」
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ノアは少しだけ興味を持ったらしい。
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じっと見てくる。
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12歳らしい好奇心が見え隠れしていた。
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(かわいいな……)
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琴葉は少しだけ頬を緩めた。
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その時。
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「ノア様!!」
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従者がついに追いついた。
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肩で息をしている。
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「勝手に異界の花嫁様を連れて来てはいけません!」
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「うるさい」
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「うるさくありません!」
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「困ってない」
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「困っています!」
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「困ってないよね?」
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急に話を振られた。
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「え?」
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「困ってない」
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圧だった。
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「……だ、大丈夫です」
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従者が頭を抱えた。
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◇◇◇
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しばらく話をしていると、思っていたよりノアは普通の子供だった。
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少し生意気で。
少し不愛想で。
でも好奇心旺盛。
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レオンのような完璧さはない。
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むしろ年相応だった。
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なんだか少し安心する。
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そろそろ部屋へ戻ろうと立ち上がる。
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「じゃあ私はこれで」
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ノアは一瞬だけ黙った。
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そして。
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「また来て」
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ぽつりと言った。
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「え?」
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「……本」
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「本?」
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「一人で読むの飽きた」
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そっぽを向きながら言う。
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耳が少し赤い。
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それを見た従者が感動した顔になった。
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(ノア様がお友達を作ろうとしている……!)
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そんな声が聞こえてきそうだった。
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琴葉は思わず笑う。
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「うん。いいよ」
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ノアは少しだけ目を見開いた。
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そして。
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「……そう」
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平然を装った。
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けれど。
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ほんの少しだけ嬉しそうだった。
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王城に来て初めて出会った年下の王子。
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気難しいけれど。
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なんだか放っておけない子だった。




