19話 運ばれていた!
朝。
目を覚ました琴葉は、見慣れた天井をぼんやり見上げていた。
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「あれ……?」
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ゆっくり身体を起こす。
昨日は馬車に乗ったところまでは覚えている。
でも、その後の記憶が曖昧だった。
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(どうやって帰ってきたんだっけ……?)
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寝ぼけたまま身支度を整え、朝食の準備をしていたエリーに尋ねた。
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「そういえば私、昨日どうやって部屋に戻ったの?」
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エリーがきょとんとした顔をする。
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「リヒト様がお運びくださいましたよ」
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「ぶっ!?」
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危うく飲みかけのお茶を吹き出しかけた。
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「は、運んだ!?」
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「はい」
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エリーは穏やかに頷く。
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「お疲れのご様子でしたので、そのままお休みになられていました」
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琴葉は固まった。
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(えっ!?)
(運ばれた!?)
(抱えられて!?)
(私、完全に寝てたよね!?)
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顔が熱くなる。
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(重くなかったかな……)
(寝顔とか見られてないよね……)
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一人で悶々としていると、エリーが不思議そうに首を傾げた。
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「琴葉様?」
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「な、なんでもない!」
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慌てて首を振る。
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◇◇◇
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朝食を終え、部屋の扉を開ける。
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そして固まった。
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いつも通り。
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本当にいつも通り。
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リヒトが立っていた。
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無表情。
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姿勢も完璧。
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何事もなかった顔。
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(いや、昨日私運ばれたんだけど!?)
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琴葉だけが勝手に動揺している。
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「あ、お、おはようございます……」
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リヒトがわずかに視線を向ける。
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「……おはようございます」
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琴葉は目を見開いた。
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(挨拶返ってきた!?)
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それだけなのに、さらに心臓が忙しくなる。
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当の本人はいつも通りだった。
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◇◇◇
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昼過ぎ。
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王太子レオンから呼び出しがあった。
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案内されたのは以前と同じ応接室だった。
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「やあ、琴葉さん」
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相変わらず絵画のような笑顔でレオンが迎える。
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「先日の実地訓練、お疲れ様」
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「ありがとうございます」
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レオンは向かいの席を勧めた。
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「初めての実地だったね」
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「はい」
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「怖かった?」
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琴葉は少し考えたあと、素直に頷いた。
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「正直、すごく怖かったです」
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あの魔物を思い出す。
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今でも足がすくみそうになる。
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レオンは静かに頷いた。
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「それでも逃げ出さなかったのは立派だよ」
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「そんなことないです」
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「あるさ」
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優しい口調だった。
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少しだけ胸が軽くなる。
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そして。
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レオンはグラスを手に取りながら、何気ないように言った。
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「でも安心だったんじゃない?」
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「え?」
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「リヒトがいたから」
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琴葉は首を傾げる。
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「そうですね。すごく助けてもらいました」
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レオンは数秒黙ったあと、
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「ふふっ」
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楽しそうに笑った。
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「いや、なんでもない」
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何が面白いのか分からない。
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琴葉は首を傾げたままだった。
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◇◇◇
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しばらく雑談した後、琴葉は部屋を後にした。
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扉が閉まる。
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部屋にはレオンとリヒトだけが残った。
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沈黙。
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そして。
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レオンが先に口を開く。
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「随分大事そうに運んでたね」
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「…………」
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「お姫様抱っこだったっけ?」
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「…………」
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「起こせばよかったのに」
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リヒトの眉がわずかに動く。
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「疲れていた」
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「へぇ」
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レオンはニヤニヤしている。
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「護衛騎士ってそこまでするんだ」
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「……」
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「勉強になるなあ」
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「……黙れ」
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レオンは吹き出した。
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「おお、反応した」
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リヒトは深いため息を吐いた。
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◇◇◇
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その頃。
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琴葉は一人で廊下を歩いていた。
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(なんだったんだろう……)
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レオンの最後の笑みを思い出す。
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何か知っているような。
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見透かされているような。
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不思議な気分だった。
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曲がり角を曲がった瞬間。
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ドン。
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誰かとぶつかりそうになった。
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「あっ、ごめんなさい!」
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慌てて謝る。
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顔を上げた。
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そこにいたのは。
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金髪。
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青い瞳。
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レオンによく似ている。
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けれど。
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雰囲気はまるで違った。
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不機嫌そうな顔。
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鋭い視線。
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そして。
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「……誰」
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第一声がそれだった。
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琴葉は目を瞬かせる。
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「え?」
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「誰って聞いた」
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ぶっきらぼうな声。
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その瞬間。
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後ろにいた従者が慌てて声を上げた。
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「第二王子殿下!」
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琴葉は固まる。
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(王子様!?)
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金髪の少年は面倒そうに眉をひそめた。
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そして。
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じっと琴葉を見つめた。
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その青い瞳は、兄と同じ色をしていた。




