16話 魔物が出た!
実地訓練は、比較的順調に進んでいた。
枯れた大地に点在する汚染植物を、一つずつ浄化していく。
琴葉は手をかざし、魔力を集中させる。
じわり、と力が流れる感覚。
目の前の植物が、ゆっくりと色を取り戻していく。
⸻
「……ほっほ。ようやく慣れてきたようじゃな」
ヘンリーが満足そうに頷いた。
⸻
気づけば、見える範囲の浄化はほとんど終わっていた。
⸻
琴葉は息を吐く。
⸻
「疲れた……」
⸻
魔法は想像以上に体力を使う。
さらに慣れない場所を歩き続けた疲労も重なっていた。
肩が重い。
足もだるい。
⸻
「今日のところはこんなもんじゃろ」
ヘンリーが地図を閉じる。
⸻
「そろそろ戻るか」
⸻
その言葉に、琴葉はほっと息を吐いた。
⸻
やっと終わる。
⸻
そう思った、その瞬間だった。
⸻
ブオォォォォォ——
⸻
大地を震わせるような唸り声。
⸻
琴葉は一瞬、何が起きたのか分からなかった。
⸻
音のする方を見る。
⸻
そこには。
⸻
猪のようで、馬のようで。
⸻
さらにその額には歪んだ角を持つ獣がいた。
⸻
数十メートル先。
⸻
こちらに向かって、一直線に突進してくる。
⸻
「えっ……」
⸻
思考が止まる。
⸻
これは何。
⸻
頭では分かっている。
図鑑で見たことはある。
魔物。
⸻
でも。
⸻
実物は違った。
⸻
圧が違う。
⸻
恐怖が、現実として押し寄せてくる。
⸻
一歩も動けない。
⸻
声も出ない。
⸻
足が地面に貼り付いたように動かない。
⸻
数秒で距離が一気に詰まる。
⸻
もう、目の前だった。
⸻
琴葉はただ立ち尽くすことしかできなかった。
⸻
その時。
⸻
リヒトが一歩前に出た。
⸻
静かに剣へ手をかける。
⸻
そして次の瞬間。
⸻
獣が飛びかかる寸前。
⸻
リヒトは一太刀、振り抜いた。
⸻
ズシャアッ——
⸻
一瞬だった。
⸻
空気ごと切り裂いたような音。
⸻
獣の巨体が、その場に崩れ落ちる。
⸻
ドン、と地面が揺れる。
⸻
血が一瞬だけ舞い上がり。
⸻
リヒトは何事もなかったかのように剣を振るい、血を払う。
⸻
シャキン。
⸻
刃が鞘に収まる音だけが響いた。
⸻
そして。
⸻
何も言わず、琴葉の斜め後ろに戻る。
⸻
いつもの位置。
⸻
ただそこに立つだけ。
⸻
沈黙。
⸻
まるで何も起きていなかったかのように。
⸻
「…………」
⸻
琴葉は呆然としたまま、その背中を見る。
⸻
強すぎる。
⸻
ただ、それしか出てこなかった。




