表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

15話 初めての実地訓練!

朝。


琴葉はいつもより少し早く目が覚めた。


特に理由はない。


けれど、なんとなく落ち着かなかった。



昨日の夜。


月の下で泣いてしまったこと。


リヒトにハンカチを渡されたこと。


そして。



「…………そばにいる」



あの言葉が、まだ頭のどこかに残っている。



「……いやいや」


琴葉は布団の中で小さく首を振る。


何を意識しているんだ。


相手は護衛だ。


それだけだ。



そう自分に言い聞かせてから、ベッドを出た。



◇◇◇



部屋の扉を開ける。



そこには、いつも通りのリヒトが立っていた。



無表情。


無言。


揺れない灰色の瞳。



「おはようございます」


琴葉が軽く会釈する。



「……」



返事はない。



いつも通り。



なのに。



少しだけ。



空気が違う気がした。



琴葉は気のせいだと思うことにした。



◇◇◇



「では、出発する」


ヘンリーの声とともに、馬車がゆっくりと動き出した。



今回の行き先は王都から少し離れた区域。


汚染された植物の浄化実地訓練。


魔物の出現はないとされているが、完全に安全とは言い切れない場所だという。



馬車の中には三人。


ヘンリー。


琴葉。


そしてリヒト。



「この先の地域はな」


ヘンリーが地図を広げながら説明する。


「数年前から植物の成長が止まっておる」



琴葉は真剣に聞く。



異世界の現実が、少しずつ形を持って目の前に現れていく。



「魔物はおらんはずじゃが」


ヘンリーが続ける。


「油断は禁物じゃ」



その時だった。



琴葉はふと気づく。



リヒトとの距離が。



近い。



近すぎる。



馬車の揺れのせいか、ほんの少し身体が寄っている。



あと少しで肩が触れそうだった。



意識すると余計に気になってしまう。



琴葉はそっと視線を逸らした。



「……」



リヒトは何も言わない。



ただ、微動だにせず座っている。



それが逆に落ち着かない。



◇◇◇



しばらくして馬車が止まった。



外に出た瞬間。



琴葉は息を呑んだ。



そこは。



想像よりも、ずっと異様な場所だった。



大地は色を失い。


木々は枯れ。


風が吹くたびに、乾いた葉が崩れていく。



生きているはずの景色なのに。



死んでいるようだった。



「……これが」


琴葉の声が小さくなる。



「汚染区域じゃ」


ヘンリーが静かに答える。



足が止まる。



言葉が出ない。



頭では理解していたはずなのに。



目の前にある現実は、想像よりずっと重かった。



その時。



隣に気配が立つ。



リヒトだった。



何も言わず、ただ琴葉の横に立つ。



距離が近い。



先ほど馬車の中で感じたよりも、ずっと近い。



「……」



琴葉が小さく息を吸う。



リヒトは前を見たまま、短く言った。



「離れるな」



それだけだった。



でも。



それだけで十分だった。



琴葉は小さく頷く。



「……はい」



風が吹く。



枯れた世界の中で。



三人は静かに歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ