17話 2人きりの帰り道!
魔物の討伐後、現場は一気に慌ただしくなった。
ヘンリーは周囲の状況確認と報告のため、別行動で王都へ戻ることになった。
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「ワシは先に戻る。後は任せたぞ」
そう言って、ヘンリーは別の馬車へと乗り込んだ。
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残されたのは、琴葉とリヒトだけだった。
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帰りの馬車は、来た時よりもずっと静かだった。
車輪の音だけが一定のリズムで響く。
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琴葉は窓の外をぼんやり見ていた。
枯れた大地は少しずつ緑を取り戻している。
さっきまでの恐怖が、まだ体の奥に残っている。
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「……」
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ふと、隣を見る。
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リヒトはいつも通り無表情で座っていた。
視線は前。
微動だにしない。
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(対面じゃなくて、横に座るんだ…。本当にこの人、さっき一瞬で倒した人と同じ?)
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そう思ってしまうほど、静かだった。
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けれど。
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琴葉は気づく。
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さっきより、少しだけ。
距離が近い。
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馬車の揺れのせいかもしれない。
でも。
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ほんの少しだけ、肩が触れそうだった。
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意識すると、余計に落ち着かない。
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「……あの」
琴葉は小さく声を出した。
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リヒトがわずかに視線だけ動かす。
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「さっきは……ありがとうございました」
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言ってから、少し恥ずかしくなる。
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リヒトは一瞬だけ沈黙し。
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「……仕事だ」
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それだけ答えた。
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いつも通りの言葉。
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なのに。
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琴葉は少しだけ笑ってしまった。
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「そっか」
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その返事に、リヒトは何も言わない。
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また静寂が戻る。
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でもさっきの空気とは少し違っていた。
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重くない。
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むしろ、少しだけ落ち着く。
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琴葉はふと視線を落とす。
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「……怖かったです」
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ぽつりと、こぼれるように言った。
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リヒトの指がわずかに動く。
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琴葉は続ける。
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「動けなくて」
「本当に何もできなくて」
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笑おうとしたけど、うまく笑えなかった。
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「……リヒトさんがいなかったら、たぶん」
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そこまで言って、言葉が止まる。
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リヒトはしばらく黙っていた。
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そして。
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「……見ていればいい」
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短く言った。
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琴葉は顔を上げる。
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「え?」
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リヒトは前を見たまま続ける。
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「何かあったら、俺が止める」
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それだけだった。
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けれど。
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琴葉の胸の奥に、少しだけ温かいものが残った。
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「……うん」
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小さく頷く。
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窓の外には、帰り道の空が広がっていた。
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その中で。
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馬車は静かに進み続けた。




