13話 泣いちゃった!
夜。
リヒトは自室にいた。
遅めの夕食を済ませ。
シャワーを浴び。
剣の手入れをする。
いつもと変わらない時間。
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なのに。
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落ち着かなかった。
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朝から気になっていた。
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琴葉の様子が少し違う。
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笑っていた。
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いつも通り。
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だが。
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どこか違和感があった。
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剣を磨く手が止まる。
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気になる。
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なぜこんなにも気になるのか。
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自分でも分からない。
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しばらく悩み。
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やがて立ち上がった。
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一度脱いだ騎士服を再び身につける。
帯剣する。
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向かう先は一つ。
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琴葉の部屋だった。
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寝ているかもしれない。
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起こしてしまうかもしれない。
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本来なら行くべきではない。
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分かっている。
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ただ。
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姿を見たかった。
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それだけだった。
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部屋の前に着く。
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コンコン。
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返事はない。
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もう一度。
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コンコン。
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返事はない。
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「琴葉様」
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呼び掛ける。
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やはり返事はない。
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嫌な予感がした。
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扉へ耳を当てる。
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気配がない。
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護衛騎士として許される行為ではない。
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だが躊躇わなかった。
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扉を開ける。
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部屋は空だった。
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ベッドにも。
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浴室にも。
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いない。
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その瞬間。
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リヒトは走っていた。
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◇◇◇
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「眠れないんですか」
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琴葉は驚いて振り返った。
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月明かりの下。
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そこにはリヒトが立っていた。
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二か月。
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一緒にいた。
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けれど。
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リヒトから話し掛けられた記憶はほとんどない。
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「あはは」
琴葉は少し笑った。
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「そうですね」
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月を見上げる。
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「なんだか眠れなくて」
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夜空には満月。
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「今日は満月みたいです」
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琴葉は笑う。
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「綺麗ですよね」
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リヒトは何も言わない。
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ただ。
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隣へ腰を下ろした。
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琴葉は少し驚いた。
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でも何も言わなかった。
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再び月を見る。
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しばらく沈黙が続く。
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やがて。
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琴葉がぽつりと話し始めた。
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「うち、母子家庭なんです」
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リヒトは黙って聞く。
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「両親が離婚して」
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「それからずっと母と二人でした」
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「でも母はすごく明るくて」
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琴葉の表情が柔らかくなる。
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「本当に頑張り屋で」
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「私、自慢の母なんです」
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夜風が静かに吹く。
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「今は家を出てるから」
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「たまに連絡するくらいですけど」
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「それでも」
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琴葉は笑った。
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「母がいるから頑張ろうって思えたんです」
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その笑顔は。
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どこか寂しそうだった。
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「もう少しで誕生日なんですよね」
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「別に毎年盛大に祝うわけじゃないんです」
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「でも今年は」
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琴葉は月を見る。
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「連絡もできないんだなって」
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あはは。
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そう笑った。
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けれど。
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笑えていなかった。
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「……」
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リヒトは何も言わない。
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琴葉も気にしなかった。
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この人はそういう人だ。
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だから。
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気付けば本音が零れていた。
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「一生会えなかったら」
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声が震える。
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「どうしよう……」
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ぽつり。
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涙が零れた。
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一滴。
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頬を伝う。
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琴葉自身も驚いていた。
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泣くつもりなんてなかった。
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泣くほど弱いつもりもなかった。
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なのに。
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涙は止まらなかった。
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そして。
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隣の騎士が。
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初めて。
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ゆっくりと手を伸ばした。
シャワー浴びてたらどないするんリヒト君よ




