11話 帰れるのかな?
2か月が過ぎた。
異世界に来てから。
気付けば季節も少し変わっている。
毎日授業を受けて。
図書室へ通って。
たまに城下へ出掛ける。
そんな生活が当たり前になっていた。
⸻
この世界にも慣れてきた。
驚いたことに暦は日本と同じだった。
月も日付もほとんど変わらない。
時間の流れ方も同じらしい。
⸻
だから気付いてしまった。
⸻
もうすぐ。
母の誕生日だ。
⸻
別に毎年盛大に祝うわけではない。
実家を出てからはメッセージを送る程度だった。
それでも。
何故だか気になった。
⸻
朝食を食べながらぼんやり考える。
⸻
「琴葉様」
エリーが心配そうに声を掛けた。
「体調が優れませんか?」
⸻
「え?」
⸻
慌てて顔を上げる。
⸻
「ううん!全然大丈夫!」
笑顔を作る。
「ご飯も美味しいよ」
⸻
エリーはほっとしたように笑った。
⸻
「それなら良かったです」
⸻
琴葉も笑い返す。
⸻
少し離れた場所では。
灰色の瞳がその様子を静かに見つめていた。
⸻
◇◇◇
⸻
その日の授業は座学だった。
浄化魔法は順調に上達している。
今では自分の周囲の植物程度なら一瞬で浄化できるようになった。
⸻
「来週からは実地訓練じゃな」
ヘンリーが地図を広げる。
「魔物は出んが、植物が汚染された地域へ向かう」
⸻
琴葉は真剣に話を聞いた。
⸻
いよいよ王城の外での実践だ。
⸻
少し緊張する。
⸻
少し楽しみでもある。
⸻
授業はあっという間に終わった。
⸻
「よし。今日はここまでじゃ」
⸻
ヘンリーが資料をまとめる。
⸻
「ありがとうございました」
⸻
琴葉も頭を下げた。
⸻
ヘンリーは部屋を出ようとする。
⸻
その背中を見て。
⸻
琴葉は口を開いた。
⸻
「先生」
⸻
ヘンリーが振り返る。
⸻
「ん?」
⸻
言うつもりはなかった。
⸻
本当は。
⸻
聞かないつもりだった。
⸻
聞いたら答えが返ってきそうで。
⸻
怖かった。
⸻
でも。
⸻
母の誕生日を思い出してしまったから。
⸻
家族を思い出してしまったから。
⸻
気付けば口が動いていた。
⸻
「先生……」
⸻
声が少し震える。
⸻
「私って……」
⸻
沈黙。
⸻
ヘンリーは何も言わず待っている。
⸻
琴葉は拳を握った。
⸻
「元の世界に帰れるんですか……?」
⸻
部屋が静まり返った。
⸻
ヘンリーの表情が消える。
⸻
そして。
⸻
後ろに立つ騎士も。
⸻
静かに息を呑んだ。




