表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

8話 超人

父に連れられて初めて行った王城、物珍しさに城内を散策していると、庭園に一人の少女を見つけた。

第一印象は、前世でみーちゃんに出会う前の僕に似ている、そう感じた。

色鮮やかな花を静かに見つめている彼女は、奇麗な色にも甘美な香りにも一切心が揺れていない。

そんな姿に違和感を覚え、声をかけてみた。


「やぁ彼女!お困りの様子だね?もしよかったら、僕とお茶しない?」


ちなみにこの当時、女の子と喋るときはこんな感じだった。

父オアシスを真似て、というよりも調子に乗っていた頃だ、黒歴史というやつだな、死にたい。


「あなた、わたしがこわくないの?」


自分と同い年くらいの少女、その奇麗な瞳に心を奪われた。


「こわい?愚問だね、君のような奇麗な瞳をした女の子のどこを怖がるって言うんだい?」


ハニカミながら返答した、クサすぎるセリフに今なら自分の鼻が曲がる自信がある。


「あはは、おもしろいひとだね」

「ようやく笑ってくれたね、えくぼがとってもキュートだよ」

「ふぇっ!?も、もう!なにいってるの...」


正直言ってこの頃はみーちゃんに会った際、言おうと思っているセリフを練習していた部分もある、阿保だ。


「僕の名前はアーサー、勇者オアシスの息子で未来の騎士になる男!ここで会ったのも何かの縁、良かったら友達になってくれないかな?」


そう言い握手のために手を差し出した、その手を見た彼女は驚いた表情を浮かべている。


「と、ともだち?ほんとに?」

「もちろん!困った顔をしている人に、手を差し伸べるのがアーサーくんさ」

「ありがとう...わたしのなまえはハル、よろしくね、アーサーくん」

「ハル!良い名前だ、まるでこう...透き通るかのような爽やかな、なんというか...いい名前だね!」


表現というものを学んでいなかったが故の締まりのなさだった。

おずおずと差し伸べてくる手を勢いよく掴み、固い握手を交わしたその時。


『ゴリュッ!』


握りつぶされていた、幼い少女に。


「ギャァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」


それが彼女、第一王女にして『超人の加護』を持つハルとの出会いだった。


「こ、これはこれはハル様!この度は一体どのようなご用件でしょうか!」


下手に出るしかない、なんならすっとぼけて有耶無耶にするのも!


「あ!?だから!この手紙は何かって聞いてるのよ!」


ダメそうだ......まぁ彼女の性格上手紙で納得することはあり得ないだろうとは思っていたが...。


『専属騎士への選定、感謝いたします、私事となり恐縮ですが、この度魔王国のミスティ姫と婚姻を結ばせて頂きました。そのため専属騎士はお断りさせていただきます、大変申し訳ございません。

私の代わりは、妹でハル様の友人として長きにわたり交友がある、フレイヤを推薦させていただきます、何卒よろしくお願い申し上げます。ハル様ならびに人間国の今後の発展と世界の平和を祈っております』


「え!?私何も聞いてないんだけど!?どういうことなのよ兄さん!」

「だってウル姉さんやトール兄さん、ロキに務まると思ってるのか?フレイヤじゃなきゃダメなんだ、フレイヤの凄さはお兄ちゃんが一番知ってるからな、ハル様の事を頼んだぞ」

「もう、兄さんってば...」


よし!これでフレイヤへの委譲はつつがなく終了!めでたしめでたし!


「ワタクシはなんの了承もしてないわ!アーサー言ってくれたじゃない!ワタクシの騎士になってくれるって!」

「言ってない!考えておくとは言ったけど、なるとは言ってない!」

「嘘よ!この宣誓書を忘れたとは言わせないわ!」


ボロボロの紙キレ一枚、だがその内容は見覚えがある、10年以上前に子供同士で結んだ宣誓書だ。


『ゆうしゃアーサーは、おうじょハルのきしになることをちかいます』


「何年前のものだよ!子供の時のやつじゃないか!そんなもの無効だ!横暴だ!」

「無効じゃありませんー!子供の頃に書いたものだろうが宣誓書は宣誓書ですぅー!効力を発揮しますぅー!」

「残念でしたー!子供同士の書類は親の同意が必要なんですぅ!だから無効!無効だぁ!」


良い大人が子供のような言い争いをしていて恥ずかしいと思う気持ちはある、みんなの冷ややかな視線が痛い。


「アーサー?その、専属騎士ってどんなことをするの?」


ミスティの純粋な疑問、まぁそうだろう、専属騎士なんてのは人間国独自のものだしな。


「単純に王族の身辺警護や王城の警護を担うんだけど...時間的な拘束が長くて...常に城に留まらなくちゃいけなくて」

「それに、そのぉ...」

「もっと何かあるの?」

「歴代王女の専属騎士だった男性は、戦場で非業の死を遂げてるんだ、今まで3人中、3人が」

「だから王女の専属騎士は女性がやるようになってたんだけど、終戦を迎えちゃったから...」

「そうなんだ、そんな仕事をアーサーには...やってほしくは無いかな...」


正直言ってフレイヤにこんな仕事を押し付けるのは心が痛い。

だが給料も良い、衣食住は高品質のものを用意されている、専属騎士の地位は人間国にとって名誉あるものだ、結婚相手も直ぐに決まるほどに、だが余暇は無い、それはきつい。

俺はミスティと穏やかな生活を送りたいんだ、のんびりとした生活を。

ハルと過ごすのはちょっと...刺激が強すぎる。


「貴女が深淵の姫ミスティですね...ワタクシのアーサーを!このっ!泥棒猫!悪魔!デカ女!乳お化け!」


その発言にムッとしたミスティ、表情が次第に険しくなっていく。

僕の横に来たかと思った瞬間、ミスティの腕の中に抱き寄せられていた。

うわ超カッコいい、今度マネしよう。


「わ!た!し!の!アーサーを困らせないで貰えますか?一国の姫ならば、もっとお淑やかにされることをお勧めしますよ、お嬢ちゃん」


ハルからブチンと音が聞こえた、見るとドレスの袖が引きちぎられている。

周囲からは「あ~あ、またやってるよ...」「スノトラさんに怒られるぞ...」「アーサー、後は任せた」という声が聞こえる、だがもう遅い、開戦のゴングは鳴ってしまっている。


「ウチに喧嘩売るとはえぇ度胸しとるやんけ、乳牛に角はいらんやろ、へし折ったるぞ!」


ドスの効いた人間国西部地方訛りで喋るハル。

メイド長に影響を受けて、本人曰く、カッコいいからという理由で使っているのだが、いかんせんマフィアやヤクザにしか聞こえない。


「あらあら、お口がとてもお上品だこと、もしかして恋人がおられないんですか?困りましたわ、恋人がいない女性は凶暴になりやすいとのこと、よろしかったらご紹介しましょうか?」

「何を上から目線で語っとんねん、聞いたで、自分この20年でアーサーに振られたらどないしようってめそめそしとったらしいな!かいらしなぁ、蚤みたいなちっちゃい心臓で必死に生きてきはったんやろ?アーサーに感謝したらどないや?」

「それはもちろん!アーサーったらずっと私の事を考えてくれてて...聞いてよ!『あなたでなければ嫌なんです、どうしても僕の隣に居て欲しい』って言ってくれたのよ!そしてその場でプロポーズまでしてくれちゃって...キャーーー!!!!」


頼むから喧嘩と惚気を僕の前でやるのを辞めて欲しい、ほんとに、止めよう、僕の心が平常なうちに。


「まぁまぁ、喧嘩はね、良くないからね、僕としては二人が仲良くしてくれる方がね、嬉しいんだけどね」


顔を手で覆い照れ続けるミスティ、対するハルは下を俯き拳を握りしめている。


「アーサーがそう言うなら仕方ないわね...私としても、王女様とは仲良くしたいからね、よろしく、ハル様」


そう言いつつ右手を差し出すミスティ、ハルもゆっくりと手を差し出していた。

まずい!ミスティに伝え忘れていた!僕が失念していたばかりに。

……遅かった、がっちりと固い握手が交わされている。


『ミシミシミシミシ』


およそ人体から発せられているとは思えない音が鳴っていた、互いの骨が軋む音が部屋に鳴り響いている。


「ふぅん、うめき一つも出さないなんて、結構やるやんけ」

「丁度いい具合にほぐれていますわ、料理を覚えるために包丁を握ったのですけれど、少しだけ凝ってしまって」

「ならもっとほぐしてやらんとなぁ!強がる姿は負けた時に惨めになるで」

「強い言葉を使って、虚勢を張るのは弱者だけの特権ですわよ?それとも見識が狭いのかしら?体だけではなく頭も鍛えたほうがよろしくてよ?」


いかん、互いに引き時を忘れて熱くなっている、流石に止めねば。


「二人とも!もうやめて!ミスティ、流石に言いすぎ、怒るよ。ハル、城を抜け出してきたんだろうけどまたみんなに迷惑かけるつもり?王女の自覚を持ってよ、僕心配だよ。」


渋々手を放す二人、だがハルの方は納得していなかった。


「ふざけんなや...うちがどれだけ待ったと思ってんねん、それをぽっと出のようわからん奴がいけしゃあしゃあと...」

「勝負や!うちと勝負せぇ!なんでもありでうちとやりあえ!負けたら金輪際アーサーには近づかん!ただし、勝ったらアーサーはうちの騎士にする!」

「勝負って...私にメリットがありません、無意味です」

「逃げるんか、アーサーの隣に立とうとする女が、ええのぉ、後ろに隠れて過ごすだけの奴やったんかい、自分は」

「アーサーは昔からそうや、見返りなんて求めんと、愚直に馬鹿みたいに勇者やって、自分一人で解決しようとする.......。それで選んだ相手がこれかいな、アーサーの目は節穴やなぁ、人を見る目が無いわ、こんな女のどこがええねん」


一旦沈静化した炎が再度燃え上がっている、こうなったら誰にも止められない。

鬼のような形相でミスティが睨んでいる。


「おい小娘、私を侮辱するのは構わない、でもアーサーを...アーサーの行いを侮辱するのは許さない」

「いいわ、やりましょう、徹底的に、完膚なきまでに叩き潰してあげます」

「舞台は用意します、みなさんにも伝えるために今日来たわけですから」


僕とミスティで考えた人魔交流の場で行う催し、その援助を求めに今日やってきた。


「期間は1ヶ月後、ヴァルハラ平原にて行われる人魔交流の場でプロレスを開催します、その最終試合で私とハルさんの試合を行います、それでいいですか?」

「はっ!プロレスかいな、ええで、だったらうちもプロレスでやったる、アーサーに教えてもらったプロレスでなぁ!」


向かい合い、両者仁王立ちで名乗りを上げる。


「ウチはハル!人間国オーディンの娘にして『超人姫』ハル!』


「私はミスティ、魔王国ニルヴァーナの娘にして『深淵の姫』ミスティ』


フェイスオフでその場は終了した、探しに来たスノトラにこっぴどく叱られ、落ち込みつつ帰宅したハル。

残されたものは破壊された扉、冷えた夕食、闘志に漲るミスティ、疲れ切った顔をしたアーサー、呆れて溜息しか出ない親兄弟、一難去ってまた一難とはこのことだろう。



「それで!みなさんにご協力お願いしたいのですけどよろしいですか!?」

「僕からも頼む、みんなの協力が必要なんだ」


対面する兄弟たちの顔は見るからに嫌そうだ。


「プロレス...少しくらいはアーサーに教えてもらったから出来るが...」

「えぇ...俺達に出来るのか?準備期間は1ヵ月なんだぞ?」

「私、プロレスって知らないんですけど...」

「何するの!?ハル様とミスティ様がやるんだから殺し合いなんでしょ!?僕無理だからね!」


みんなの懸念はわかる、準備期間も練度も何もかも足りない、だがやれる、その確信がある。


「と、いうわけで1か月間みっちり鍛えます、ウル姉さん、トール兄さん、フレイヤは選手で、ロキは別の部分でサポートお願い」

「形式は1対1と2対2の2マッチ行います!アーサーには解説をやってもらうからあと三人、目星は付いてるから安心してくださいね」

「目星、というと?」


ウルの問いかけにミスティはドンと胸を張る。


「魔王国から3名、グレイ、ボウイ、ルナシーの三名を招集しようかと、うふふ、うふふふふふ」


どのような試合が繰り広げられるのか楽しみなミスティをよそ目に、アーサーには気がかりなことが一つあった。


「ハルとやるのは良いんだけど...お願いだから二人とも怪我は無いようにしてよ?平和交流の場なんだから流血は流石に...」

「それは......当日にならないと分からないわ!」


明るく楽しいプロレスを目指したいが無理そうだ。


それにしてもハルのやつ、終戦前は『アーサーよりいい人見つけちゃった!もう専属騎士の座はアーサーには無理そうだから諦めてね!』なんて言ってたくせに、急に僕を指名してくるなんて...。

昔は素直だったのに...最近は競うように僕の手柄を取ろうとしてくるもんなぁ。

王女様なんだからお城でお茶してればいいのに、どうしてあんな風に...。


「それじゃアーサー、明日は魔王国に行こっか、お父様たちにも伝えなくちゃ」

「うん、わか....え!??!?!」


父さん、母さん、みんな、恐らく僕は明日死にます、今まで仲良くしてくれてありがとう。


「しっかり掴まっててね!結構揺れるから!」


二人で黒竜に乗り魔王国へと旅立つ、眼下には家族の皆。


「んじゃ、行ってきます!みんなもそのトレーニング忘れずに!」


ウルたちが持つトレーニングメニュー、通称『アーサーのシューティングメニュー』

幼少期の頃考案しウル姉さんとトール兄さんに付き合って貰ったところ、1日で音を上げた地獄の特訓。


「またこれをやれと言うのかアーサーは......」

「どんなメニューなん...!?え!?これを!?1日で!?嘘でしょ!?!?」

「安心しろ、アーサーが居ない間は多少楽を...」

「アーサー兄!僕と父さんで見張ってるから安心して行ってきてね!」


「お前!裏切るのか!」「自分はやらないからってこいつ...」「父さん!ロキも一緒にやりたいそうだからお願いね!」「ん?あぁ、分かった」


下でぎゃーぎゃー喚いている、よく聞こえないが喜んでいるようだ、あの時より2割増しで作ったんだけど嬉しいな。


『ビュンッ!!!!』


黒竜が一度羽を仰いだ瞬間、次に見た光景は、青と緑のコントラスト、人生で初めての光景だ。

肌で感じる風も温度も全てが気持ちいい、スキンファクシの背で感じるものとは違うが、これはこれで良いものだな。


「あはは!すごいすごい!羨ましいよ!」

「でしょでしょ!またリスト達成!二人でドラゴンに乗る!いえーーい!!」


恐らく一番困難で達成不可能だと思われていたリストの達成、やったね。


「1時間くらいで着くと思うから、ちょっと待っててね!」

「目に焼き付けたいからゆっくりでいいよ!...あ!あれ王城だ!ちっちゃ!......ふははは!見ろ!人がゴミのようだ!」

「それ、黒竜の背で言っちゃうと洒落にならないからやめといてね...」

「なんだよそのやっちゃったかのような...え?やったの?もしかして?」

「いや...初めて黒竜の背に乗ったときにね、つい言っちゃったらね?眼下の平原一面焼け野原になっちゃって...」


流石は魔王国最強生物、今思い返すとよくミスティとこの怪物に勝てたもんだ。

先ほどまで異空間に閉じ込められていた黒竜だが、のびのびとした場所に放たれて随分と気持ちよさそうだ。


「ねぇ、アーサー?」


黒竜の背に乗るミスティ、まるで絵画のような姿に、先程から見惚れてしまっていた。


「あぁ、ごめん。君の姿が美しすぎて目が眩みそうだよ」

「はいはい、ありがとう」


会ってからというもの、ことある毎に彼女の姿を褒めたたえていたら、反応が塩っぽくなってきてしまった...。

いやでも『出来る男は女性の変化に機敏であれ、口に出して常に褒めるのを忘れるな』とオアシス父さんに教わったからな...流石に限度というものがあるのか?時々の方が女性は嬉しいのか?僕の頭では答えは出せないよ...。


「あの、ハルってお姫様とさ、どんな関係なの?」

「ハルと?ハルとかぁ...」


単純に言えば幼馴染だ、友達であり、仕える主君でもある、まぁ彼女と過ごした時間はかけがえのないものだが、それだけだ。


「それじゃあ今から話すけど、別に大したことも何も無いからね?」

「大したことないって、だったら何であそこまで執着してくるの?絶対何かあったでしょ!」

「無いって!安心して!それじゃ出会いからね、ハルとの出会いは...」



またやってしまった、よりにもよって友達になろうと言ってくれた人を壊してしまった。

昔からそうだ、同年代の子供も使用人も、なんなら家族ですら壊してしまう。


『超人の加護』生まれた瞬間からその身に備わっていた力。

赤ん坊に指を握らせて、その子供が元気かどうか確かめることがあるそうだ、父オーディンはそれを実行して戦々恐々とした、折られたからだ。

そんな影響か、私の周りには人がいない、父と兄、母代わりとして私のお世話をしてくれるスノトラの三人だけだ。

母は既に亡くなっていた、事故死だそうだが、今なら分かる、私が原因なんだろう。


彼はもう来ないだろう、初めて...初めて友達になろうと声を掛けてくれた彼は、大急ぎでお城の医務室へ連れていかれた、慌ててやってきた大人たちの視線が痛い。

しかも勇者の息子だと言っていた、人間国にとっての重要人物、その人の子供に怪我をさせてしまうなんて...こんな力、いらないのに、神様なんて嫌いだ。

だが次の日、目を疑うことが起きた。


「やぁ!遊びに来たよ!」


彼だ、アーサーが再び私の前へと姿を見せたのだ。

私の姿を見ても一切怯えていない、何故?頭の中の疑問符が消えてくれない。


「ど、どうしてまた来たの!?」


彼はぽかんとしていた、だが直ぐに表情を柔和なものへ変えてくれた。


「どうしてって、友達だから」


意味が分からなかった、友達とは相手を思いやり、気を使わない間柄だと聞いた。

私のような、人を傷つけ、対処を間違うと爆発してしまうような人を、どうして?


「いやぁ~昨日はごめんね!僕が鍛えてないばっかりに...でも安心して!もう大丈夫だから!母さんに治療してもらったから、ほら!手だってこの通り」


そう言うと彼は手を開けたり閉じたりしてみせた。


「だからさ、もう一回握手してくれないかな!?今度はハルを悲しませたりしないからさ」


何故?また痛い目を見るだけなのに?

何故?あなたの人生に私なんて必要ない、関わらなくても良い筈なのに。


慌てふためいていたところ、凄い速さで彼が手を伸ばしてきた。

昨日よりもずっと力強く握られてしまった、反射的に私も握り返してしまった。


嫌だ、目を開けたくない、彼の手がボロボロになるところを見たくない。

目を閉じて視界の情報を遮断した、だが耳は塞いでいない、彼の悲鳴が聞こえてしまう。


しかし、彼は悲鳴を一切あげていなかった、恐る恐る目を開けて確認した、今どうなっているのかを。


「ね!?ほら見てよ!今日は大丈夫だったでしょ?ふふーん、アーサーくんは同じ間違いを二度も犯さないのだ!」


私の顔を彼が覗き込んでいた、目を開けたのを確認して、胸を張り、どんなもんだと息巻いている。


「え?なんで?わたしがにぎっても...え?」


今まで色んなものを壊してしまった、物も、人も。

だが私が触れて壊れなかったものは初めてだ。


「何を隠そう僕は『陽光の加護』を持つ者!これくらい朝飯前さ、ん?今はお昼前だから...昼飯前さ!」

「そういえばハルってどんな加護を持ってるの?『怪力』とか『剛腕』とか?」

「ちょ、『超人』...だけど」

「超人!?すごい......カッコいい!!あぁ、でも女の子にカッコいいって言うとちょっとあれだな...でもでも、とってもカッコいいと思うよ!」


カッコいい、今までこの力を持っていても、何も褒められたことは無かった。

父様や兄様にも、力の使い方を間違えるなよ、としか言われてこなかったのに。


「でもわたし、うまく力を使えないの、それでみんなをこまらせて...こわしちゃうの」

「だったらさ!僕がお手伝いするよ!うまく力を扱えるようになれば、いろんなことが出来て楽しくなるよ!」

「なんで?そこまでわたしにかまってくれるの?」

「さっきも言ったじゃないか、友達だから、以上!」


自然に涙が溢れていた、嬉しかった、こんな私を、バケモノのような私を友達と言ってくれる存在が。


「ありがとう、きみ、やさしいね」

「きみ、だなんてやめてくれよ、アーサーって呼んでくれよ、ハル」

「うん、わかった、ありがとうアーサー」


震えていた手の感覚が戻ってきた、彼の手は加護の名の通り、太陽のように暖かかった。


「んじゃどうしようか、まずは握手からだね、やっぱり人と人とを結ぶ握手は大事だからさ、それで次は......」


それから、彼との特訓の日々が始まった、少しずつ少しずつだが、改善の傾向が見られた。

今までも一人で力を制御できないか努力したが、全てが失敗した、継続することが出来なかった。

だが彼のお陰で、続けることが出来た、一人だと心細かったが、二人であれば楽しかった。


彼は時々、修練の終わった夜にもやってきた、私の住む部屋まで城壁を乗り越えて。

『ココン コン ココン』彼が来た時の合図だ、二人だけの秘密の合図、二人だけの秘密の時間、なんだか嬉しかった。

まぁ1週間ほどでバレて、オアシスさんにこっぴどく怒られて夜には来なくなったが。


そして1ヵ月が過ぎたころ、彼が二人の人物を連れてきてくれた。


「ハル!紹介したい人がいるんだ!こっちのお姉ちゃんがウル、こっちのお兄ちゃんがトール!僕の家族なんだ!」

「......おいアーサー、誰を紹介するんだと思ったらハル王女じゃないか...」

「は、初めまして!トールです!」

「二人とも血は繋がってないけど大事な家族で......王女様!?え!?ほんとに!?」


そういえば、アーサーには伝えていなかった、だけど些細なことだ、どうでもいい。


「あわわわわわ、知らなかったとはいえ、今までとんだ無礼を...」

「べつにいいよ、アーサー。だってわたしたち、友達でしょ?」

「......ほんとに?...えへへ、ありがとう」

「ウルさんとトールさん、ですよね、アーサーの友達で、ハルです。よろしくお願いします」


かっこいいお姉さんと、とても大きな体で優しそうなお兄さん、それが二人の第一印象だった。


「今日から二人にも手伝ってもらうから!それじゃ早速トールお兄ちゃんから...」

「え?何をすれば...握手?王女様と握手だなんて光栄だなぁ...ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「よし、次はウルお姉ちゃん!」

「え、いや、トールの手がパンパンに...いやアーサーが治すからってそれは...おいアーサー!やめろ!離せ!アタシは!......いたいいたいいたいいたいいたい!!!!!!!!!」


二人の顔が意気消沈している中、アーサーは何故か大喜びしていた。


「すごいよハル!骨にヒビが入る程度で済んでる!大きな進歩だよ!」

「そ、そうなのかな?お二人に申し訳ないんだけど...」

「大丈夫!二人とも日々訓練を積んでるからこのくらい平気だよ!ね?ウルお姉ちゃん、トールお兄ちゃん!」


「いや、アタシは...」「ぼ、僕も...」二人の辛そうな声を受けたアーサーだったが...


「お願い!お姉ちゃん、お兄ちゃん!僕の友達を助けて欲しいんだ...この力のせいで今まで苦労してて...こんなこと頼めるの二人しかいないんだ...」


後で聞いたが、泣きそうな顔を浮かべてお願いすれば、年上の人はお願いを聞いてくれるそうだ、勉強になる。

その後も悲鳴と治療の繰り替えし、だが1週間後には変化が起きていた。


「また今日もかぁ......えいっ!......あれ?今までより痛くない」

「本当か?......本当だ!すごい!成長してるぞハル!」

「やったね!ハル!今日はおめでたい日だ!!やったーーー!!!」

「うそ...わたし...ほんとに......」


そう言うと三人が抱き着いてきてくれた、喜びのハグ、私も嬉しくなって思わず抱き着き返してしまった。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」


......うん、ハグはまだ無理そうだ。小さいけれど、私にとっては大きな一歩だった。


変化は日常にも表れた、物を壊す機会が減った、そして笑顔が増えるようになった。

父と兄からどうしたんだと聞かれ『アーサーが助けてくれたの!私の勇者なんだ!』そう答えていた。


それからは時々、彼の家へと遊びに行くようにもなった、父とオアシスの二人は仲が良いらしく、互いに快く了承してくれた。

彼の家では特訓の風景を見させてもらったり、野山で遊んだり、プロレス?と呼ばれる格闘技で加減のやり方を学んだ、楽しかった。

でも人間国と魔王国は400年の期間、戦争を続けている、今は休戦中で、あと10年ちょっとで再び戦争が始まるらしい。

彼らの激しい特訓も、全てはそのためだ、それなのにも関わらず、私に時間を割いてくれることが申し訳なかった。


ある時アーサーが海を見に行こうと言ってくれた、私は快諾し、彼の操る馬と共に海へと向かった。

スィーゼンは内陸部のため、海を見ることも機会も無かった、初めて見る海は雄大で、荘厳で、奇麗だった。


「わたし、海って初めてみた!とっても奇麗だね!」

「でしょ?ここはね、気持ちを落ち着かせるために時々やってくるんだ」

「どうして気持ちを落ち着かせるの?」

「う~ん、なんだろうなぁ...日々の悩みを落ち着かせるため、かな?」

「アーサーにも悩みなんてあるんだ...なんなの?」

「戦争を終わらせれるかなぁって心配だったり、終戦後の事も...ははっ、気が早いかな?」

「アーサーなら出来るよ、私の事も救ってくれてるんだから、きっと人間国も救ってくれるよ」

「そうかな......そうかも!ありがとうハル!よぅし!頑張るぞぉ!!」

「あははっ、アーサーはさ、戦争が終わったら、何をやりたいの?」

「え?まずはねぇ、世界を旅行する!美味しい物食べて、奇麗な風景を見る!」


なら、戦争が終わったら、私と行こう、そう言いかけた。

だが彼の語る夢は終わらない、あれもやりたい、これもやりたいと目を輝かせながら。

だけど、彼が語る夢の世界に、私がいないような気がした。

確証はない、だが私も連れて行ってと言える雰囲気ではなかった、もしかしたら、約束をした大切な人がいるんじゃないか、そう思わされた。

相手は誰なんだ、ウルさん?トールさん?オアシスさんやネルトゥスさん?それとも全員?

その中に私が居ないような気がして、悲しくて、目の前の海を、どこまで続く、彼の夢のような海を憎んだ。


「って感じで、色々やりたいかな!」


一通り喋った彼は、目を輝かせながら私を見つめていた。

私は問いかけた、どうすればその中に入れるのか、どうすればあなたの大切な人になれるのかと。


「そ、そうなんだ...あはは...ねぇ、アーサーってさ、どんな女性が好きなの?」


意地が悪く、意気地のない質問だ、素直に好きだと言えればいいのに。


「好きな女性?そうだなぁ、強くてカッコいい人かな!憧れちゃうね!」


答えを出してくれた、だったら私も強く、カッコよくなろう。

それと、父様に言われた『アーサーは将来騎士の器だろう、お前も20になると、専属騎士を任命するだろう、今のうちにアーサーに唾を付けておいたらどうだ?』と。


「強くて、カッコいい人ね...アーサー、もし良かったらさ、将来私の騎士になってくれない?」

「騎士?ハルの騎士かぁ...わがままだからなぁ、手を焼きそうだ、考えておくよ」

「だめ!これは王女様の命令です!アーサーはハルの騎士となることを誓いなさい!」

「こんな時だけ王女様だなんて...私アーサーは、将来ハル王女の騎士になることを誓います~」

「ちゃんと後で書面も書いてもらうからね!...絶対よ!」

「はいはい、分かった分かった、そろそろ暗くなってきたから帰ろっか、帰ったらプロレスで特訓だよ」

「今日こそは1本取って見せるからね、見てなさいよ!」


それから私の特訓が始まった、強く、カッコよくなるために。

髪を短く切りそろえ、口調もスノトラに教えて貰い、カッコよくなるよう努力した。

強くなるために、アーサーに教えて貰った訓練法を毎日実行し、兵たちの訓練にも参加するようになった。

まぁ私の相手をしてくれたのはテュール、スノトラの夫婦だけだったが『強くなりたい、アーサーを守れるくらいに、魔族に勝てるくらいに』というと付き合ってくれた。

だけどそんな時、ある事件を起こしてしまった。


「と、いう感じなんだ、ね?特段何も無いでしょ?」


僕とハルとの出会いと大まかな流れはこんな感じだ、至って普通だな。

しかしミスティの表情は硬かった、それはもう『どこが普通なんだ?』とでも言いたげな顔で。


「普通ねぇ...ふ~ん、そう...随分と楽しそうだね....へぇ...」

「まぁこっちの世界に来てから、一番遊んだのは彼女だからね、楽しかったよ!」

「アーサーったら...そんなことしてるからほんとに...」

「ん?なんだって?風で聞こえなーい!」

「うるさい!静かにして!」


何だよ急に怒っちゃって、でもぷりぷりしてるミスティも可愛いよ、と言おうと思ったが眼光が鋭すぎて日和ってしまった、あーでもその眼差しもきれいだなぁ...。


「あ、そうだ、もう一つ大きなことがあったんだった」

「大きなこと?」

「うん、フレイヤが家に引き取られてきた時の話なんだけどさ」


「フレイヤ、ここがスィーゼンの王城だよ」

「うわぁ、すっごい、おっきい...」


フレイヤが来て1ヵ月が過ぎ、彼女もハルへと紹介しようと王城へ連れてきた時だった。


「でも、私みたいな人が入って大丈夫なの?」

「何言ってるんだ、大丈夫に決まってるだろ?僕の妹なんだから」


そう言うとお城の中へと向かった、

守衛さんは顔見知り、挨拶をして入ろうとした時、フレイヤを見て驚いた顔をされた。

だが僕の義妹で新しい家族なんです、というと納得してくれたようだ、やっぱり日々の行いと言うものは大事なんだな、うん。


いつも彼女がいる庭園へ向かおうとした時、急な便意に襲われてしまった。


「フレイヤ、お兄ちゃんちょっとだけトイレ行ってくるから、あんまり歩き回るんじゃないぞ?」

「わかった!」

「あぁそれと、知らない人に声をかけられたら、『アーサーの妹』って言うんだぞ』

「はい!」


元気よく返事をしてくれて安心したのが、失敗だった。


「あぶないあぶない、しっかしなんで急に...悪い物でも食べたっけかなぁ?」


トイレを済ませ、フレイヤを探しに行こうとした時だった。


「アーサー!来たんだったら声ぐらいかけてくれよな」

「ブラギ様!お久しぶりです、すみません、公務で忙しいと考え失念していました」


フレイヤの兄にして、オーディン王の息子、第一王子のブラギその人だった。

フレイヤとは歳が10ほど離れている、彼の才覚は父オーディンに似て、勉学や政治学に秀でている。

次期国王として、若くして日々公務に忙殺されている程に。


「そう固くなるな、お前はもう弟みたいなものだからな、お兄ちゃんと呼んでも良いぞ?」

「はい、お兄ちゃん!」

「切り替えはやっ!?もう少し躊躇と言うものをだな...まぁ良い、お前のお陰で、妹は変わったしな」

「本当ですか?たくましくはなりましたが...かなり図々しくもなりました...すみません...」

「なに、暗い顔で過ごされるよりも、多少わがままで元気なぐらいが丁度いい、ありがとうな」


ハルもこの一年で随分と元気になった、出会った当初は儚げな女の子だったのが、今ではガキ大将だ、人は成長するなぁ、ははは。

海に連れて行ってからと言うもの、髪を切って『カッコよくなったでしょ!?』と聞いてくるし口調も西部訛りになって『どや!うちカッコええやろ!?』とか聞いてくるし...。

一体何なんだ?もしかして受け身を失敗して頭に後遺症でも...いや、無いな、絶対にない。

彼女の才能は天性の物だ、技を見せたら一瞬で覚えるし、スタミナも無尽蔵、時代が時代なら名プロレスラーとして名を馳せてもおかしくない程に。


っと、いけないいけない、フレイヤを連れてきてたんだった、ブラギ兄ちゃんにも紹介しなければ、そう思った時。


『うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!』


フレイヤの声だ、フレイヤの悲鳴が聞こえた、次の瞬間、声の方へと駆けていた。


「フレイヤ!!!!」

「アーサー!?一体どうした!?」


ブラギの疑問になど答えていられない、まずい、何かが起きてしまった。


一体何が、誰が、どうした、声の発生源は庭園、そこにはフレイヤとハルが居た。


「うわぁぁぁぁん!!いたい!いたい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「堪忍しぃや!なんで魔族がここにおんねん!それにアーサーの妹なんて嘘つきおって!」


ハルがフレイヤの片腕を掴んで持ち上げていた、掴まれている部分が赤く染まってしまうほど強く。


「お、アーサー!見てや、城ん中に魔族が忍び込んでてん、捕まえたらな、アーサーの妹だーなんて嘘つきおって、ほんま魔族は悪いやっちゃ」


急いで駆け寄りハルの手を引き剥がす、折れては...いないようだ、加護で痛みを和らげていると、ハルが驚いた顔を見せていた、彼女が言葉を発する前に、僕の口が動いていた。


「何してるのさ!フレイヤは...僕の大事な妹なんだぞ!?なんでフレイヤの言うことを信じてくれなかったのさ!!」

「なんでってそんなん...アーサーがおらへんから確認のしようがないやん...なんでそんな怒ってるん...」

「じゃあ何か!?君はか弱い女の子を、魔族だからって理由だけで決めつけて、暴力を振るったってこと!?」

「だ、だって、魔族は敵やし...」

「そうやって見かけで決めつけて、暴力を振るうのが正しいとでも!?君はカッコよくなりたいって言ってたけど、そんな人は全然カッコよくもなんともない、ダサいんだよ!」


思わず手が出そうになってしまう、だがこの元凶は僕だ、フレイヤと離れてしまった僕の責任だ。

それに彼女も悪気があったわけではない、身元不明の不審人物がいたら取り押さえるのが基本だ...だが、それがか弱い少女で、更に話を疑い聞こうとも確認しようともしなかった、そこに怒っている。

怒られた彼女は、地面に座り込んでしまった、口からはぶつぶつと独り言が聞こえている。


「なんで?うち...カッコよく...アーサーの...守る...だって...魔族で...」


怒りが収まらない、新しい家族を、妹を傷つけられたことが、友達がこんなにも無神経だったことが。


「もういい」

やめろ

「もう二度とここには来ない」

それ以上言うな

「君の事なんか」

思いとどまれ

「嫌いだ!」


そう言うとフレイヤを連れて、城を出た、後ろから聞こえるハルの泣く声に心が痛くなりながら。


家に着くとフレイヤが悲しそうな顔をしながら尋ねてきた。


「お兄ちゃん、本当によかったの?」

「別に、いいさ、ハルだってちょっとは反省すればいいんだ」


そう言葉には出したが、家に着く間までに段々と頭が冷静になってきた、言いすぎてしまった気もする。


「私さ、別になんとも思ってないからさ、ハルさん?を許してあげて」

「......そうだね、お兄ちゃん言いすぎちゃった...明日また行こうか、ついてきてくれるかな?」

「うん、いいよ!」


人の怒りなんて所詮数秒しか保たないもの、それを引くに引けなくなって言い過ぎてしまった、情けないな、みーちゃんが見たらどう思うだろうか、叱られそうだ。


「おい!アーサー!」


突如としてオアシスが帰ってきた、息も絶え絶えで今にもぶっ倒れそうなほどに。


「お前、今日お城で何があった!?」

「何って...フレイヤがハルに虐められてたから、怒って帰ってきたけど...」

「!?フ、フレイヤ!?大丈夫なのか!?」

「う、うん、私は大丈夫だよ、お兄ちゃんが助けてくれたから」

「そうか...だからか...」

「父さん、何かあったの?」


一体全体何があったんだろうか、まさかお城が壊れる程暴れたとか...?


「ハルが...消えた、行方不明になった」

「............え?」


王女誘拐未遂事件の発生だった。


アーサーが初めて怒った、私が原因で。

アーサーに嫌われた、私の所為で。

二度と来ない、そう言われた、私が...私が愚かだったのか?

カッコいいって...なんだ?強いこと?男性みたいな容姿や喋り方のこと?そう思って変わったのに、彼の思うカッコいいとは違った。


謝ったところで彼は許してくれない、戻ってきてはくれない。

もう嫌だ...消えたい...そう思っていたら、お城を抜け出していた。



「うわぁぁぁぁぁん!!!!うち..うちなんか...ひっぐ!うぅぅぅぅぅぅ......」


気づいたら、アーサーと一緒に海を見たところまで歩いてきていた、奇麗な海に、どこまでも続く、夢の場所に。

だがもう夜だ、それに雨も降っている、奇麗な海は、暗く、黒く、荒れている。

風が冷たい、体が冷たい、寂しい、こんな時は、いつもアーサーが側に居てくれた、でももう居ない。

ずっと、今後一生、彼が私の傍に居てくれないのが辛い。


「アーサー...アーサー......ごめんなざい...ごべんなざいぃぃぃ...」


独り慟哭している最中、後ろで草木の揺れる音がした。

獣の類だろうか...一瞬だけ、警戒した。だがそれは人の姿をしていた、外套を被った人だ。


「アーサー?」


もしかしたら、アーサーが見つけに来てくれたのでは、そう思ってしまった自分が情けない。


「こんばんは、お嬢ちゃん、ごめんね、アーサー?って人じゃなくて」


違った、見た目は...大人の男性だ、外套のせいで顔までは見えないが、正体不明の人物が、二人いた。

一人は、普通ぐらいの大きさ、もう一人は...トールと変わらないくらいの大きさの人。


「だ、誰ですか...」

「あぁ、そんなに警戒しないで、たまたま近くを通ったら、女の子の声が聞こえてね、どうしたんだろう?って声をかけに来たんだ」

「そんなに泣いて、一体何があったんだい?」


そう問われると、大柄な方が傘を差してくれた、優しい人達だ。


「うち...友達を怒らせてん...それで...嫌いやーって、二度と会いたくない言われて、それで、悲しくなってここまで歩いてきてん...」

「でも、親御さんも心配してるんじゃないかなぁ、帰らなくて大丈夫なのかい?」

「だって...あそこに居ても、アーサーは来ぉへんもん...だったら...あんな所に居ても意味ないもん...」

「そうか...だったらひとまず、私たちの所に来るかい?帰るも帰らないも、それから決めればいいさ」

「なんで、そんな見ず知らずのうちに、優しくするん?嫌われ者のうちなんか...」

「それはもちろん、困った子供を助けるのが、大人の役目だからさ、ふふん、カッコいいだろ?」


そうか、これがカッコいいって事なのか、あんなにも身近に、お手本が居てくれたのに、見知らぬ子供がいたら声をかけ、困っているなら助けてあげる...そんな彼をカッコいいと思っていたのに...私はバカだ、愚か者だ...。


「それで、どうする、来るかい?」

「......うん、行く」

「分かった、じゃあ行こう、私たちの屋敷へ、ね?」


二人が話し合っている、あぁでも、最後に一つだけ、心残りがあるなぁ。

謝りたかった、アーサーに、それと妹のフレイヤちゃんに...私にも、妹や弟が居たら、彼の気持ちを知ることが出来たんだろうな...

二人の話し合いも終わり、彼らについて行こうとした、その時だった。


「ハル!!大丈夫か!!!」


光り輝く太陽のような人物、アーサーだ、私の騎士になってくれるアーサーが現れた。


「ア、アーサー...どないしたん、急に...」

「どうしたもこうしたもないよ!お城から居なくなって、行方不明になったって聞いたから探しに来たんだ!」

「なんで......?怒ってるんと違うん?」

「怒ってた、が正解!そんなことよりも、君が心配だから来たんだよ!友達だから!」


また涙が溢れてくる、彼はこんな私を友達だと言ってくれている、それが...何よりも嬉しい...。


「おやおや、可愛らしい騎士さんだこと、君がアーサーくんだね?」


二人の感動の再会を、ほほ笑みながら見学していた男が問いかけた、アーサーはその問いかけを受けた瞬間、警戒心を最大まで引き上げていた。


「そうだ、僕が...いや、俺がハルの騎士、アーサーだ!あなた達は一体何者だ!」

「なぁに、困っている子供が居たので、話を伺っていただけですよ」

「アーサー、その人達は良い人だよ、私が家に帰りたないって言ったら、家に来るか?って聞いてくれてん」

「おいおい、そう怖い顔をしないでくれよ、私達は只の良い人さ、それと...」

「あはは、どこに居るか分かんないや、私達を狙ってるのを辞めさせてくれないかな?」

「良いですけど、あなた達が居なくなった後でそうさせて頂きます」

「信頼されてないなぁ...まぁいいか、んじゃ、アーサーくん、可愛い彼女をきちんと家に連れて行くんだぞ、それじゃあね」


そう言うと男たちは居なくなった、そしてすぐさまウルが現れた、戦闘装束を着て。


「あいつら、アタシに気づいてたのか...すごいな」

「ありがと、ウルお姉ちゃん、ごめんね、一人で行かせてなんて言っちゃって、子供だから油断してくれるだろうなぁと思って」

「今後そういう無茶はするなよ?もっと人に頼っていいんだぞ?」


アーサーとウル、二人とも大事な友人であり、大切な人だ、その二人が私を探しに来てくれたことが嬉しい。

安心した瞬間、泣き疲れと歩き疲れが一気にやってきた、それと寒気も...気づいたら私は眠ってしまっていた。


あったかい、周囲はまだ雨が降っている、なんでだろう、目を開けて確認してみた。

おんぶされていた、アーサーに、それも自身の外套を私に掛けて。


「アーサー?」

「お!起きたね!体冷えてない?」

「ううん、あったかいよ、アーサーの背中」

「なら良かった、でもちゃんと帰ったらお風呂に入ってぐっすり寝ること!風邪ひいちゃったら大変なんだから」


お母さんみたいだね、そう言うと彼は苦笑いを浮かべていた。

そうだ、言わなければ、謝らなければ、私の行いを。


「アーサー、ごめんね、うち、アーサーにも、フレイヤちゃんにもひどいことしちゃった...」

「別にいいさ、帰ってるうちにさ、言い過ぎちゃったなぁと思っちゃって、こっちこそごめんね。」

「フレイヤにも、ハルを許してほしいって言われたんだ」

「そう...フレイヤちゃんは、優しいなぁ、流石アーサーの妹ちゃん」

「あいつはさ、ハーフなんだ、人族と魔族の。そのせいで今まで差別されてたんだ...でもね、フレイヤの亡くなったお母さんが『優しさを失わないで』って教えてくれたお陰で、優しい子に育ってるんだ」

「そうなんや...優しいお母さんやなぁ」


彼女も辛い人生を送ってきただろうに、私よりも何倍もしっかりしている、あはは、情けないな。

新しい妹のフレイヤちゃんも、私と仲良くしてくれるだろうか...ううん、私がお姉さんなんだから、私が仲良くしてあげないと駄目だ、きっとそうだ。

彼女は、私の事をお姉ちゃんと言ってくれるだろうか、いや、言われるように私がしっかりしなくちゃ。

頑張らなきゃ、王女として、お姉ちゃんとして、そして、アーサーの隣に立つために。


「ねぇ、アーサー?さっき、うちの騎士だー!言うてたやん?あれ、すごい嬉しかったで」

「うっ!...ちゃんと覚えてるし...あーもういいから!寝てて!」

「ありがとなぁ、アーサー」


そう言うと再び眠りについた、私と変わらない大きさの背中は、とても大きく感じた。


「......寝たかな?ふぅ~~~無事に見つけることが出来て良かったぁ......」


ウル姉さんと共に家を飛び出して、彼女の力を使いなんとか見つけることに成功した。

正直最悪の事態も想定していた、だが無事で良かった、良かったのだが...。


『アーサー、反応が3つある...1つはハルだ、残り2つは...魔族のもの!?」


彼らは、物腰穏やかに接してくれていたあの人達は魔族だ、何故人間国に?どうやって?

人をみかけで判断するな、とは言ったが...だとしても警戒せざるを得なかった。

あれは、確実に誘拐しようとしていた、ハルが王女だから?それとも加護の力を持っているから?謎は深まるばかりだ...。


「父さんたちに言うべきかどうか...いやでも大事にはしたくないなぁ...」


ウルには父さんたちに発見の報告をお願いした、だが内容までは伝えないでくれとお願いしている。

王女誘拐を魔族がやろうとした、なんて報告、世論がどうなるだろうか...間違いなく徹底抗戦、魔族への差別も無くならないだろう、それは...ダメだ。

僕は戦争を終わらせるためにこの世界に転生した、平和な世界が、世界のみんなが仲良く過ごせる世界が僕の夢だ、甘ちゃんで奇麗事な夢だと笑われるかもしれない、でも...そうしたい、みーちゃんのためにも。


「んうぅぅ......」


まずい、ハルを起こしてしまったかな?


「はいはい、僕は居るよー、アーサーだよー、ねんねしなー」

「アーサー...好きやで......」

「!?」


びっくりして彼女の顔を覗いてみた、目を閉じている、寝息も立てている...寝言だ。

まったくもう、びっくりさせちゃって...だけど嬉しいな、好きだと言ってもらえることが。


「僕も好きだよー、ハル」


我が家へと向かうアーサーの足取りは軽かった、友達が無事だった事と、好きだと言って貰えた事によって。

だがアーサーは知らなかった、ハルが聞いていたことを、顔を真っ赤にさせて動揺しないようにしていたことも。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!らぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


人型に模した革袋、その中身は砂が詰まっている。

そのサイズは人間国で最大を誇るトールと変わらない、それをひたすらに投げる、投げる、投げる。

重量はトールよりも遥かに重い、これを投げれるのは人間国ではアーサーとハルくらいしかいないだろう。


「今日は一段と精が出るなぁ、良いことでもあったのか?」

「ブラギ兄様...特に!何にも!ございませんわよ!!」


三連ジャーマンを決めながら兄からの問いかけに答える、これから1か月間、試合までに追い込みをかける、正直言ってミスティは強い、あの佇まいにあの腕力、流石はアーサーの惚れた女だ。


「お前はそんなんだから...もっと早いうちにアーサーへ言っておけば良かったんだ」

「何を!でしょうか!?」


人形を担ぎながらのスクワットへ移行、戦いにおいてはスタミナが最後にものをいう、一番重要だ。


「私と結婚してください~って、お前がいつまでもうじうじしてるから」

「な!?何を!?あば!?うえっ!?!?」


気が緩んだ瞬間、人形が己の体へ落ちてきた、非常に痛い。


「そんなんだから深淵の姫に取られるんだよ、なぁにが専属騎士にしてあげるだ、結婚してやるから王族になれ、の方がよっぽど好条件だろ」

「で、でも!今更結婚だなんて...恥ずかしいし...それに...」

「それになんだ?アーサーへの最近の態度は、突き放すような言動ばっかりして」

「だって!スノトラが『ええですか?ちょろい女だと思われたら、男は手に入れたいと思いません。ちょっと突き放して男の方が欲しいと思わせなきゃあきません。追加で、時々優しくしてあげると、男はいちころなんや』って言ってて...」

「お前なぁ...テュール団長とスノトラの二人は特別だって気づけよな?」

「うぅ......」

「王女が専属騎士と.....結婚したら死ぬなんて迷信を信じるから、あいつがそんなヤワじゃないのはお前が一番知ってた筈だろ?」

「そうだけどさ...それでも...うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


歴史の真実はこうだ、王女が専属騎士を任命する、それ即ち自身の手元から一生逃がさないようにし、婚姻を結ばせるため。

だが全員が死亡した、戦場で、そのためアーサーを専属騎士にしたい気持ちはあったが、出来なかった、彼が死んでしまったら元も子もない、だから終戦を迎えたら正式に任命しようと思っていた。


そして開戦、400年続いた戦争はあっさりと終わりを迎えた、聞くとアーサーが敵国の姫にプロポーズしたとか、初めのうちは、穏やかに終戦させるために、結婚なんて嘘で、お互いの利害の一致の上での策略だと思い込んだ、アーサーであればそういう交渉も行うだろうと。

であればと思い込み、専属騎士へ任命しようとした...のだが。

話を聞くと、前世で結婚の約束をしていたという意味不明な言葉を聞かされた。

そして『専属騎士はお断りさせていただきます』この文言で一気に焦りが出てしまい...彼の家へ突撃、その場に居た深淵の姫へ宣戦布告したのだった。


「うぅ...頑張ったのに...アーサーの代わりに色んな所に出向いてたくさんの人を助けたのにぃ...」


ハルは成長した、子供の頃とは違うほど、アーサーの負担を減らすために各地の災害救助や魔獣退治、孤児院の訪問や食料事情調査など...それはまぁ頑張った、人間国でアーサーの次に人気になるほどに。

ついた異名が『超人姫』なんとまぁカッコいいのか、だがそれでも、アーサーは振り向いてすらくれなかった。


「諦めも肝心だぞ、気持ちに区切りをつけることも、人の上に立つことにおいて重要なんだ」

「......そういう兄様だっていつまでもウル姉さんにご執心じゃないですか」

「ばっ!??!?なっなな!!なにを!?!?!?!?!」

「聞きましたよ、ウル姉さん、家事を覚えだしたそうで...いい人でも見つかったんじゃないですか?」


ブラギ兄様も過去にウル姉さんに色々とあったそうだ、まぁ...目の前で泡拭いて倒れているが。


諦めは...ミスティとの一騎打ち後で良い、負けたくはないが、負けてしまっても別に......良い。

あの二人はお似合いだ、私が邪魔をしてはいけない...でも、でも、彼を諦めたくない。

悩みながらも鍛錬を続ける、決戦のその日まで。





関西人ではないので多少不自然な部分があるかと思いますが、異世界関西弁と言うことでご容赦下さい...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ