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7話 成長

「フーちゃん、昨日はどうだったの?」

「スルーズ...別に、どうってことなかったよ、ふつーにお茶してご飯食べて、そんだけ」

「まぁまぁ、落ち込まないでって、相手が悪かったんだよ」


山のような書類を目の前に、同僚であるスルーズと他愛もない話をしていた。

昨日、兄アーサーと共に王都スィーゼンでご機嫌取りのようなものをされた、理由は明白、兄の誤用から始まる私の勘違い、落ち込む私を見て兄が誘ってくれたのだ。

別にいいよとも言ったんだけど...どうしても!是非!と、ものすごい勢いで迫られたので渋々OKしたのだ。

久しぶりに兄と遊んだ気がする、何時以来だろうか、昔は兄弟5人で色々とやったものだけど、開戦が近づくにつれて暇が無くなったんだっけ。


それにしても昨日のエスコートは酷かった、見当をつけていただろうお店は予約のみ、それじゃあこっちはと別の店に行くも満員大行列、戦争が終わって皆に余裕が出来たからだろうか、人でごった返していた。

まぁそのお陰で路地裏の穴場スポットを見つけることに成功したのだが...兄さん、あの調子で上手くいくのだろうか、不安だなぁ...。


「はいはい、どうせ私には何もないですよーだ」

「あっちは魔王国のお姫様!しかも強くてかっこよくて奇麗なんでしょ?羨ましいなぁ...でもでも!可愛さならフーちゃんが一番だからね!ほんとだよ?」

「ありがとありがとー、良いから早くこの書類の山を終わらせて」

「塩対応...私としてはもっと甘々な方が良いんだけどなー」


無駄口を叩くのが彼女の唯一の欠点、だがそれ以外は完璧なのがスルーズだ。

私と共に王城で努めて早3年、私もそれなりに卒なくこなせるほうだが、紙と対峙するのは彼女に負ける、というか数字関係に強すぎる。

彼女が王城で働きだすとともに、人間国各地で有能な人材がポコポコと湧いて出てきたそうな。

彼らのお陰で騎士や兵たちの負担が減ったのだが...全員に共通点がある。


出身地が不明であり、覚えていることは自身の名前と高度な教育を受けていること。

新手のスパイかと疑われるもアーサー、ウルの両名が加護の力で調べるも全員がシロ、謎だらけだ。

二人の推薦ということで採用し各地で活躍している...アーサー兄さんはともかくウル姉さんは自分の仕事を減らしたいからという意図が見え見えだが。


「いよぅし!おっわりぃ!平和になったとは言え、こうも事務仕事ばっかりだと面白くないよー!フーちゃん遊んで遊んでー」

「はーい遊んであげまちゅよー、何が出るかな何が出るかな...じゃじゃーん!追加の書類でーす!」

「えー、それフーちゃんの取り分じゃん!」

「この書類が終わったら、昨日見つけたケーキ屋連れてってあげるからさ、お願い?」

「え!?ほんと!!うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


あともう2つ追加、甘えん坊で純真無垢、悪い大人に騙される前に保護した面もある。


「まったく、そんなんじゃ悪い大人に騙されちゃうよ?」

「んえ?フーちゃん悪い人だったの?ショック...そんなんだからアーくんに振られるんだよ?」

「うるさい!振られてないから!勘違いだっただけだから!違うんだからね!?」

「ぷぷぷっ、必死だなぁ」


いやうん、本当に、あれはノーカン、ノーカンなんだから。

城ですれ違う兵士や使用人の人たちに憐れみの視線を向けられる、そんな今がとても辛い。

部屋に引きこもり事務作業に専念していたがもう限界だ、早く家に帰りたい。


「おわり!おわったおわった!!フーちゃんはやく行こ!はやく!はやく!」

「ありがと、スルーズはえらいえらい、よし!今日も食べるぞー!」


爆速退勤、仕事場に無駄に残るものは愚か者だ、アーサー兄さんは言っていた。

まぁあの人は他人の仕事も請け負っちゃうからよく残って仕事してたけれども、どの口が言ってるんだか...。


『乙女の花園』、先日アーサーと共に開拓した隠れた名店だ。

やはり昨日来て観て思ったのだが、やっぱり外観がこの店ちょっと悪いんだよなぁ、路地裏だから酒場にしか見えないもん。

だが出てくるケーキは絶品、特にイチゴはサンガ地方、小麦に関してはソーア地方のものしか使わないという拘りがあるそう。


「んふ~~♪めっちゃ美味しい!ねぇねぇ、他のも注文していいかな?」

「いいけど、程々にしときなよ?夕食残したら寮母さんに怒られるでしょ」

「それもそうかぁ...あ、そうだ!みんなのために買って帰ろ!すみませーん!これと、これと、これ、全部5個ずつ持ち帰りで!」

「スルーズ...私の奢りだからってちょっとは遠慮ってものをねぇ...」


いやまぁ恩賞金のお陰で懐は温かいが、それにしたってこの量は...。

私がうんうん悩んでいると店主さんが不思議な視線を向けてきていた。

ガタイは筋肉モリモリのマッチョマン、正直言ってお菓子作りをする人の見た目ではない、だがアーサー兄さんも昔言っていた、人を見かけで判断するなと、だからこの人にもきっと深い理由があるのだろう。


「ど、どうされましたか?」

「いやね、あなた昨日も来てたわよね?」


この言葉遣いもきっと深い理由があるんだろう、うん。


「そうですけど、それが何か?」

「やっぱり!昨日イケメンと一緒に来てたから覚えてたのよ!あの子今日も来てくれたのよ!」

「へ、へぇー、そうなんですか.....」


アーサー兄さんも甘いものが好きだしな、余程気に入ったんだろうな。


「今日はね、魔族の女の子と一緒に来てたのよ、それがもうすんごい美人でおまけにかっこいいのよ!」

「......は?」

「そうそう、なんでも恋人なんですって!今日はスィーゼンの街でデートしたそうよ、帰り際に寄ってくれたんだけどね?二人であーんなんてしちゃって、羨ましいわぁ...」

「は!?!?!??!!!?!?!?」


生まれて以来一番大きな声が出た気がする、ということはあれか?今日のデートの下見として昨日誘ったんだな?だからあんなに遠慮してても行こうって言ったんだな?なるほどなるほど。


『ダンッ!!!!』

「「ひっ!!」」


フレイヤが机の上へ金を無造作に叩きつけた途端、スルーズと店主は恐怖を察知したかのように体を強張らせていた。


「スルーズ、ちょっと野暮用が出来たから私帰るね?」

「うん!わかった!ばいばい!」

「店主さんも、ご馳走様でした、また来ます」

「え、えぇ、またのご来店お待ちしてるわね」


悪魔の形相を浮かべたフレイヤが退店するまで、二人は身動きが取れなかった。

残っているのはスルーズと店主、そして余分過ぎるお金。


「あのぉ...」

「な、なにかしら?お嬢ちゃん?」

「あとこれとこれも持ち帰り追加でお願いします!!」


スルーズの頭の中の意識は、怒り心頭のフレイヤよりもケーキに夢中だった。



「アーサー、お料理も得意なんだね...」

「そりゃあもう!今は男も厨房に立つ時代だよ?ミスティ」


食材を買い終えて戻ってきた、当初の話では母さんが作る予定だったが頼み込んで僕も一緒に作らせて貰うことになった、何故かって?食べて欲しいじゃん、僕の手料理。

厨房男子禁制、そんな時代ではない、性別になど関係なく互いが支え合って生きてゆくためにも、男も家事を覚えねばならないんだ、という建前と。

お姫様という立場上、絶対に家事は覚えれない、覚えないだろうから僕がやるしかないんだろうなぁという本音がある、絶対に言わないけど。


それにリストの中にも書いていた、料理を覚えたいと。

幸いなことにこの世界の料理も元居た世界と大差ない、強いて言うなら味噌と醤油が無かったこと。

だがその部分も解決した、前世で覚えた知識をもとに試行錯誤を繰り返し、苦節10年ついに完成した。

両親や兄弟には不審な目で見られていたし、完成品を見せると凄まじい嫌悪感を出されるも、いざ料理に使い食べて貰うと結構高評価で素直に嬉しかった。

今では母が代わりに作るようになっている、まぁ適任だろうしな。


「......私も料理してみたいんだけど...」

「え?」

「なんで、え?なのよ!いいじゃない、アーサーと二人で料理するのずっと夢に見てたんだから!」

「いやでも君の歓迎会なんだし座ってくれてても...」

「やだ!私だって...私だって料理ぐらい出来るもん!」


チラッと母の方を確認してみる、歓迎会を開くといった手前、メインの人物にお手伝いさせるなんて...。


いや、大丈夫そうだ、というかこの目は自分の子供から「ママ!おりょうりてつだうよ!」と言われた時の顔だ、随分とまぁミスティのこと気に入っちゃって。


「じゃあ、食材を一口大にお願い」

「わ、分かったわ...」


ぷるぷると包丁が揺れている、あぁ!手つきが危ない!


「ミスティ、左手は猫の手だよ、こう...にゃん!っと」

「にゃ、にゃん?」

「うぐぅっ!??!?


猫の手はこれで合っているのか問いかけてくるミスティの姿に、心を撃ち抜かれてしまった、もうここで死んじゃってもいいや。


「あ、アーサー!?合ってるよね?間違ってないよね??」

「合ってる、合ってるよ...それじゃあ切っていこうか...」

「分かった!いくわよ!」


ストン、ストンと小気味良い音が続く、それと共にミスティの表情も明るくなりだした。


「上手い!上手いなぁミスティは、よっ!流石!深淵の姫!」

「もう、そんなに褒めないでよ~これくらい大したことないわ!じゃんじゃん持ってきなさい!」


以外にも包丁さばきが様になっている。

こうやって二人で料理を作れる日が来るなんて...と感傷に浸っていた次の瞬間。


『サクッ!』


あ、指を切ってしまったようだ、というかミスティの皮膚が切れることなんてあるんだ...。


「うっかり加護で強化するの忘れちゃってた、えへへ」

「ミスティったらおっちょこちょいなんだから、ほら指見せて、僕が」


治してあげる、そう言いかけた瞬間、ネルトゥスが慌てて飛んで来た。


「お、お母様!?すみません、この程度別にどうってことは」


ミスティの声を遮るように指を掴む、次の瞬間、緑の光が彼女の手を包んでゆく。

光が収まるとあら不思議、ミスティの指には傷跡も血痕の一つも残っていません。


「え?一体これって...」

「『治癒の加護』それが母さんのもっている力なんだ」


母ネルトゥスは加護の力を用いて数多の兵士を救ってきた、怪我人を絶対に救い、例え軽症でこのくらい平気だと言うものですら、殺意にも似た沈黙の眼光で押し留めて完璧なまでに治療する、ついた異名が『殺意の天使』。殺すのか救うのか分からない物騒な名前だ。


「治そうと思えば足や腕が欠損していても元通りになるんだよね、僕の加護でも流石にそのレベルは無理だからさ」

「......あれ?でもテュールさんは片腕と片目が無いよね?どうして治さないの?」


ミスティの浮かべる疑問は至極全うである。


「母さんの加護には欠点?じゃないんだけど、秘密があってね、どうやら人体のホルモンバランスに影響が出るんだ」

「ホルモンバランス?」

「うん、対になる性のホルモンが大量に生成されるんだ、軽いけがなら別に問題ないんだけど、腕や足を欠損するレベルの大怪我だと...」

「別の性別に性転換しちゃうんだ」

「......へ?」


現在30後半以上の女性らしき人物は、元男性の可能性があるため、見かけで判断するのはいらぬ誤解を生む原因なのだ。


「つまり男性は女性で女性は男性ってこと!?」

「まぁ...うん、その可能性はあるね、ちなみにキーウ村のやたらフレンドリーなおばちゃんたち居たでしょ?あの人たち元男性なんだ」

「んぇ!?やけにアーサーのお尻を揉んでくるからスケベなおばちゃんたちだなと思ってたんだけど、そうだったの!?......ん?元男性なのにお尻をってことは......」

「ちなみにあの人たちは男の方がイケる口だから女性になれてラッキーって人たちなんだよね、あはは」

「あわわわわわ、人間国、恐ろしいよ....」

「だからテュール団長も治癒することを渋ってるんだよね、でも終戦したんだから治しちゃってもいいと思うんだけどなぁ...」


流石の母さんも同意なしに治癒するほどの狂人ではない、が会うたびに自身の顔面を引き攣らせてしまうため、団長の方が避けるようになっているのは周知の事実だ。


あぁ!母さんの顔がとてもしょんぼりしてる!これはまずい!

母さんの加護をもってしても救えなかった命はある、だからこそ性別よりも生きている事の方が大事だと母は語っている。

隻腕隻眼で戦場に挑むなど無謀だと言われ続けたが、それでも頑として戦場に立つ団長には武人の誇りがあるのだろう、内心部分は読み取れないがきっとそうだ。


「もしかして『乙女の花園』の店主さんも...」

「いや、あの人は男性だね、心が乙女なだけで」

「あぁ、そうなんだ...」

「ちなみにさ、性転換した後にまた欠損して治療すれば元の性別には」

「戻らないんだよなぁ...治りはするけど、そこは不思議なんだよね......」


微妙な空気になってしまった...いけないいけない、料理の手が止まっている。


「料理作りたいんだけど、大丈夫かな?」

「もちろん!こんなことでへこたれたりしないわ!」


自信満々に胸を張るミスティの傍では、ネルトゥスが今にも変わりたそうな目で見続けている。

うん...やっぱりこうしよう。


「だったら母さんと一緒に作ってもらえるかな?もう親子みたいなものだしね!母さんったら僕達が料理を作るときはいつも手伝ってくれてるんだよね!いいかな!?」

「うぇ!?そ、そうなんだ...嬉しいです!ふつつかものですがよろしくお願いします!」


母は安堵の表情を浮かべていた、一般人には、一緒にやりましょう、その方が早く済むもの、という顔に見えているだろう。

だが僕には分かる、子供のそそっかしさを完璧にケアする母の顔が裏に隠れていることも。



「........っぷはぁ!」

顔を洗って髪をブラッシングする、この工程をこの家に来る前はあまり重要視していなかったが


『ウルお姉ちゃん!女性の肌と髪の毛は大事にしないとダメなんだよ!せっかく奇麗な肌と髪を持ってるんだから、毎日ちゃんと続けること!』


とアーサーに怒られてしまった、以来欠かさずに行うようにしている。

正直言って髪なんてうざったいだけだ、毎日の手入れも髪の毛を乾かすのも非常に億劫だ。

ある時、一度だけバッサリと切ったことがある、肩口くらいまでだろうか。

だがそれを見たアーサーに本気で泣かれた、ドン引きする程に。


『え...なん...え.......?ひぐっ.......ごめんなさい.....僕が言いすぎちゃったばっかりに...ウルお姉ちゃんの長い髪が好きだったのに...うぅ...僕に何か悪い所があったんだよね?ごめん、ごめんね...うぅぅぅぅ....うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!』


泣き止ませるのに1時間ほどかかったが、どうやら髪の毛を短くすると深い意味があるようだ、手入れが面倒だから切っただけなのに...。

だがまぁアタシの髪を好きだと言ってくれたのは非常に嬉しかった、だから髪の毛を伸ばし、手入れを欠かさなくなった。


それと入浴、これも欠かさなくなった、アーサーの一言がきっかけで。

ある時面倒で1週間ほど入浴せずにタオルで体を拭いていた時だ。


『ウルお姉ちゃん、猪みたいな臭いがする』


ショックだった、あんな野に居る野生動物と体臭が変わらないことに。

その後オアシスが優しく『乙女に対して配慮に欠ける発言はダメだぞ』と諭していたがアタシには分かる、オアシスも同意見だったようだ。

それからは毎日湯船に浸かるようになったのだが...今でも体臭に関しては気にしている、乙女だからなアタシは、うん。

まぁそれ以外の日常生活はてんでダメだが、アーサーが過保護なのが悪いな、アタシは悪くない。


着替え終えてリビングへ向かうも、何故だ?いつもより賑やかな気がする。

アーサーの声と母の気配は感じるが、あと一人は......誰だ?来客だろうか。

だがまぁ楽しそうな声だ一体誰なのだろうか、ワクワクしながら向かうと。


「あはは!ミスティなんだよこれ!ジャガイモ大きすぎるって!」

「いいじゃない!これくらいの方が食べ応えあるんだから!文句言うなら食べなくてもいいのよ?」


もう一人の正体は魔王国の姫、ミスティだった、いや、なんで一国の姫がこんな所に...?


「ごめんごめんって、あ!ウル姉さんおはよう、ご飯もう少しで出来るから待っててね」

「ウルさんおはよう、で良いんですかね、お邪魔しています」

「あ、あぁ...おはよう」


料理を作っている、姫とアーサーが、傍には母の姿もある。

一体どういう事態なんだ?不審に思っていたら母の目がこちらを向いていた。

先ほどまでは両者を優しく見守っていた母だが、アタシの姿を見た瞬間に少しだけムッとしている。


「母さんおはよう...いやおはようじゃダメなんだろうけど、最近なんにもやる気が起きなくて...不甲斐ない姉でごめんなさい」

「それでなんだけどさ...家事覚えたいなと思って...教えてもらえるかな?」


『パリン!』


唐突にアーサーの持っていた食器が落ちた、そして何故かアーサーとネルトゥスの二人が狼狽えている。


「アーサー!?急にどうしたの!?」


焦るミスティを横目に二人の目には涙が見えた。


「ウル姉さんが家事を覚えたいだなんて...夢でも見てるのかな、母さん?」

「夢じゃないわ、アーサー」


二人が抱き合って泣いている、そして困惑するミスティ、そしてぽかんと佇むアタシ。

え?おかしなことを言ったつもりはないんだが...。


「ちょ、ちょっと!なんで泣くんだ?アタシ変なこと言ったのか?」

「ううん、嬉しいんだ、自発的に家事を覚えたいだなんて...人は成長するものなんだね、母さん」

「すごく、うれしい」

「そんなにすごいことなの?」


蚊帳の外だったミスティが尋ねた瞬間、アーサーは前のめりに語りだした。


「ウル姉さんは一族を魔獣に滅ぼされた辛い過去があってね、うちにやって来たときは僕が本当の家族になるんだってサポートし続けてあげたんだ、まぁ今もなんだけど。最近はトール兄さんやフレイヤが家事くらい覚えたら?って言うと『アタシがやると失敗するし...アーサーや皆がやってくれた方が上手だし...適材適所って言葉があるだろ?つまりそういうことなんだよ...』って悲観してたのが...それがこんな...いずれ皆が居なくなって面倒を見る人が居なくなったらどうしようかと思ってたのに...」


「騎士としてのお仕事も終戦を迎えて無くなっちゃって...他の皆はあるんだけどウル姉さんだけちょっと...魔獣退治とか僕と一緒にやってたんだけど、ここ数年で狩り尽くしちゃって...でも姉さんの口から家事を覚えたいだなんて、嬉しくて嬉しくて...」

「そ、そうなんだ......いや、アーサーが過保護すぎるのが原因じゃ?もしかしてそうやって色んな人の手助けをしてるつもり?」

「え?」


ミスティの指摘によりアーサーの表情が強張ったものに変わっていた、よもや自分の善意が他人に悪影響を与えているとは思っていなかったのだ。


「いい?過保護なのが悪いこととは言わないけど良いことでもないの、自分に依存させて個人の成長を阻んでるの、押しつけの善意は悪意と同じなんだよ!?」

「うっ!...いやでも困った人を助けるのが勇者であって...」

「言い訳無用!そのせいで今ウルさんはどうなってるの?お仕事も日々の目標もなく過ごして、そして生活能力は皆無なんでしょ?老後の心配してたけどアーサーが見るつもりだったの?違うわよね?途中で誰かに任せるつもりだったんでしょ!そんな無責任勇者さんなの!?」


お説教による被害者二名、うちアーサーはいつの間にか正座し首を垂れていた。

もう一名ウル、ミスティの現状説明により精神崩壊し気を失っていた。


「はい...はい...何の言い逃れも出来ません、ウル姉さんがこうなったのはワタクシのせいです...ごめんなさい...」

「これに懲りたらむやみやたらに人助けなんて辞めること!ちゃんとその人の助けになるか熟考すること!分かった!?」

「............」

「返事は!?」

「は、はい!」


眺めていたネルトゥスはとても満足そうな顔をしていた、深く考えずその全てを良しと言う者ではなく、相手の行いにきっぱりとダメと言い放つ姿勢。


昔からアーサーは家族を必ず助けていた、まるで未練でもあるかのように。

だがつい最近知ったことなのだが本当に未練があったそうだ、人に助けられてばかりの人生を送り、何の恩返しも出来ずに亡くなった。

そのことを悔いて今日まで生きていたそうだ、今までの行い全てに合点がいった、なんと可哀想でなんとたくましいのかと。

奇妙な生い立ちを知りながらも、我が子への想いは変わらなかった、可愛くて、立派で、頑張り屋な姿が大好きな子。

そして、母として自分が言わなければならないことを言ってくれた彼女に、そんな彼女がアーサーの相手だということに感謝していた。


「ミスティちゃん、ありがとうね」


手を握りじっと見つめてくるネルトゥスにミスティは焦っていた。


「ごめんなさい!出過ぎた真似を...」


「いや、母さんすごく喜んでるよ、僕達の事を思って言ってくれた君にすごく、ね」

「それにウル姉さんに家事を教えることに意気込んでる...うわすんごい熱量!」


メラメラという表現がピッタリなほどネルトゥスの目は燃えていた、それにつられてアーサーの目も燃え始めた。


「母さん!僕も頑張って教えるよ!!ウル姉さん!今までごめんね、これからはビシビシいくから!」


ようやく光が戻ってきたウルだったが、目の前の二人の熱量に若干だが引いていた。


「いや、別にそこまで本気にならなくても...」


だがそこにまた燃料が追加された。


「お母様!私もウルさんと、いえ、ウルお姉様と共に弟子入りさせてください!......ありがとうございます!ウルお姉様!私も未熟者故、一からの出発になります!共に頑張りましょうね!!」

「分かったからお姉様呼びはやめて下さい...」


何故この場に魔王国の姫が居るのかという疑問は解決されなかったが、目の前の暗雲は晴れ始めた。


明日の未来は明るい、頑張れウル!負けるなウル!



「トール兄!今日もお疲れ~、ってうわっ!なにその荷物!」


キーウの村を我が家へ向けて歩いている途中、声を掛けてくるものが一名、弟のロキだった。


「ロキか...いやあの...みんなに持ってきなって言われて....」


トールの両手には大量のお土産が抱えられていた、その大きな体で1歩進むごとに1つづつ増えていく始末。


「トマトにナスにメロンにミカンにブドウに干し柿に...おっ!『とーるおにいいちゃん、いつもあそんでくれてありがとう、だいすきだよ』だって!モテモテじゃーん!」


冷やかすロキに少しの苛立ちを覚えるも、大人としての余裕を見せねばと考えていたのだが、ロキの手元にもプレゼントがあるのが見えた。


「あぁ、モテモテだよ、羨ましいか?ロキだって随分と...え?その手に持ってる物は...もしや...!」

「ふっふーん、気づいた?スィーゼンの名店『バンビ』のドーナツ!さっきお姉さんに貰ったんだ~、いいでしょ?羨ましいでしょ?むっふっふ」

「限定100個で即完売するほどの人気商品なのに...羨ましい...二重の意味で羨ましいぞ...」


(まぁ朝から並んで買ったんだけど、こう言うとトール兄の反応面白いんだよなぁ)


貰い物に優劣などないが、片方は老人と子供、もう片方は年頃の女性という差、トールにはとてつもなく大きな差、生まれ持った体と顔を憎く感じるほどに。


「いいよなぁロキは...俺だって...俺だってなぁ...」

「まぁまぁトール兄、みんなの分もあるからさ一緒に食べよ?ほらほら元気出して」


そういいつつ差し出すロキの手にはドーナツがあった、人気過ぎて買えない、食べると他の店のドーナツが食べれなくなる、お金持ちになれる、モテる、勇者になれるという噂の、まぁ後半はデマだが。


「いいのか?お前ってやつは本当に......立派になって...俺は良い弟をもったよ...」


目の両端に涙を浮かべながら受け取る、昔はイタズラに困らされていたが、騎士となり成長したんだなと感慨深く頬張ろうとした、俯くロキの口角が上がっていることも知らずに。


「おぉ!サクサクフワフワ!そして口いっぱいにコーティングされたチョコの甘さが...ッッ!?!?!」


突如として口内に激痛が走る、痛みと苦みのコントラストが舌と喉を蹂躙してくる。

汗が噴き出す、心臓の鼓動が早くなる、一体何を食べさせられたんだ?俺が食べたものは確かにドーナツだった筈。

慌てる俺の目の前でロキがけたけたと笑っていた。


「あはははははは!!どう?どう?僕お手製の唐辛子とツルレイシを練りこんだ特製ドーナツは?コーティングはカカオ100%だよ?美味しい?美味しいよね!僕の愛情たっぷりドーナツ♡」


「ロ....ロキィィィィィィィ!!!!!!」


久しぶりで警戒心が薄くなっていた所を見事に騙された、前言撤回、こいつの根っこは変わってない。

やってきた当初は大人しく隅っこの方で縮こまっていたのが、半年過ぎた辺りでイタズラを始めるようになっていた、兄弟の中で被害件数一位は俺。

理由を聞くと『トール兄が一番ひっかかるし、反応が面白いんだもん』、舐められていた。


追いかけ回し首根っこを摑まえ、お灸を据える、大抵の人であれば萎縮し縮こまるが、ロキだけは何故か毎回嬉しそうに笑っていた。

それにイタズラも家族だけにしかやらない、ある程度のラインを見定め、本気で怒れないギリギリを攻めてくるのだ。

どうやらアーサーの推理によると愛情表現の裏返しとのこと、だからと言って毎度毎度イタズラされる身にもなって欲しいものだ、偽ラブレターで半日待ちぼうけを食らったときなんか、一週間ほど疑心暗鬼になってしまったんだからな。


「ねぇねぇ!トール兄!さっき面白いこと聞いたんだけどさ?聞きたい?」


そしてこれだ、お灸を据えて10秒後には元通り、ここまでされると怒る気力さえなくなってしまう。


「なんだよ面白いことって、もう騙されないぞ」

「どうやら深淵の姫が人間国に来てるんだって!アーサー兄とデートしてたらしいよ」

「本当か?なんだってわざわざこのタイミングで来てるんだ?」

「さぁね~、もしかして、僕達を秘密裏に消しに来てるんじゃ!」

「んなわけないだろ、お前も聞いただろ、あの二人は前世がどうたらこうたらで結ばれてるんだって、それにそんなことする奴には見えないけどな」

「殺されそうな目にあったのに?」

「うっ!それはそうだけど...」


ミスティに顔面を掴まれた光景が未だに脳に焼き付いている、それにあの規格外の能力、正直言ってちょっとだけ怖い、例えアーサーの婚約者だとしても、だが。


「アーサーが信頼してるんだ、だったら俺達も信頼していい....と思う」

「トール兄は優しいなぁ!だから毎度毎度僕のイタズラにひっかかるんだよ?」

「うるさいんだよ!この!」


ロキの頭をぐりぐりする、『いたいいたい!やめて!』という声と共に我が家の玄関に到着した、その時だった。


『キャァァァァ!!!!!!!』


家の中から唐突に女性の悲鳴が聞こえてきた。

トールとロキは警戒しながら扉を開ける、そこには...


右手に包丁を持ち、返り血を浴び真っ赤に染まったウル。

そして床に倒れたミスティ、その体も赤く染まっていた、両脇に立っているのはアーサーとネルトゥスの姿、何が起こったのかは明白だった。


「ウル姉さん......なんでこんなことを......」


「い、いや!これは違う!アタシは!」


慌てながら釈明するウル、しかしどう見ても物的証拠と現場の状況の二つが全てを物語っていた。


「ウル姉...騎士の仕事が無くなったからって、姫を殺してまた戦争を起こしたいだなんて...」


トールとロキの頭の中ではその事態しか考えられなかった、近頃は家に引きこもり何をやっているのか、何を考えているのか分からないのがウルだ。

そんな姉が突拍子もつかないことをやってしまった、しかも魔王国の姫に。

この後の事態がどうなるかなんて子供でも分かる、しかしそんなことよりも、思い悩んでいた姉を止められなかったことに二人は後悔していた。


「ん?何を言ってる?これは...」


ロキの問いかけにウルが怪訝そうな表情を浮かべたその時、また一人、ある人物が乱入してきた。


「ちょっとアーサー兄さん!私を下見に使って!!どういうつも......り......」


悪魔のような形相を浮かべたフレイヤが帰宅してきた、だが目の前で起こっている惨状に脳の理解が追い付いていなかった。


「ウル姉さん...え?嘘だよね...?なんでこんなことを...なんで?アーサー兄さんを取られたからってここまでしなくても...」

「だから違うと言ってるだろ!これは事故だ!料理をしようと思ったらちょっと失敗しただけだ!!」


「「「え?」」」


三人のとぼけた声が重なった瞬間、想定被害者であろう人物が起き上がりだした。


「うぅ...ごめんなさい、やっぱり血とかそういうの苦手で...うわ!お洋服真っ赤になっちゃった、あはは」

「い、一体何が起こったんだ?なんでこんな事態に?」

「いやぁ、あのぉ...」


『ウル姉様包丁捌きがお上手ですね!』

『ふふん?そうだろう?これだけは得意なんだよアタシは』

『しかし、姫様のもてなしにこれだけはちょっと足りないな...』

『ウル姉様、姫様なんてやめて下さい、私はアーサーの婚約者、つまりウル姉様にとっても妹のようなもの、是非ミスティとお呼び下さい!』

『ならば分かった、お前の事はミスティと呼ぶ、だからアタシのことも様付けはやめてくれ』

『分かりました!ではウル姉さんと私もお呼びしますね!』

『新しい妹が出来た祝いだ!ちょっと狩りに行ってくる!少し待っててくれ!』


『ウル姉さん変なスイッチ入っちゃってるんだけど、大丈夫かな...』


『新鮮なカモを捕まえてきたぞ!』

『うわぁ!すごいですウル姉さん!...でも、一体どうやって食べるんですか?』

『ん?まずはここに一発キメて血抜きをするんだ』

『え?』


「と、言う具合に血抜きしたカモから鮮血が勢いよく飛び出して、私が悲鳴を上げて気を失ったのが事の顛末です...」


ミスティにより語られた事の顛末、新しく出来た妹の手前、自分の得意分野を見せようとわざわざ血抜きを目の前で行い気を失わせてしまった、ただそれだけだった。


「姉さん!獲物の血抜きは現場でやってくること!ミスティの前で張り切ってやっちゃうから!台所だってこんなにして!誰が掃除するのさ!」

「うぅ...ごめんなさい...調子に乗りました...」


ウルを怒るアーサーの姿が珍しく映る三人、そしてもう一つ違和感を覚えていた。


「そういえばさっきウル姉さんが料理をしてるって言ってたけどまさか...」

「あぁうん、ウル姉さんが家事を覚えたいそうなんだ」

「そうなんですよ!私と一緒にお母様に弟子入りしたんです!」

「「「は!?」」」

「姉さんが!?」「家事を!?」「覚えたい!?」


息ピッタリの掛け合いをする三人と気恥ずかしそうにするウル、それを笑顔で肯定するアーサー。


「今までは僕が姉さんを甘やかしすぎてた、でも姉さんも終戦により変わったんだ、厳しくいくからみんなもよろしく頼む」

「いや、だから別に最初は程々で...」

「ウル姉さんの想いは受け取りました、私頑張ります!」

「いや、あの」

「ウル姉さん、頑張ろうね、俺も別に完璧ってわけじゃないからさ、一緒にね」

「......」

「ウル姉!僕応援するから!ほらこれ!お土産にもらったドーナツ、これ食べて頑張って!」

「はい...」


オアシス家の兄弟内ヒエラルキーでは現状ウル姉さんが最弱だ、因みに戦争終了直前までは上から二番目であった。

家事力だとアーサー、フレイヤ、トール、ロキ、ウルになる、尊厳を取り戻す戦いの始まりだ、負けるなウル姉さん!


「ん?ちょっと待って、ミスティ...様も家事を覚えるって仰ってたよね?」


ウルの重大発表に流れていたが、聞き捨てならない単語を口にしていたことをフレイヤが尋ねる。

服に着いた血液を、アーサーに浄化してもらっていたミスティが嬉しそうに答えだした。


「えぇ、そうですよ...というか様付けなんてやめてよ、フレイヤちゃん?もう私たち姉妹なんだから、ミスティお姉ちゃんって呼んで?」

「誰が呼ぶか!ちょっと待って、母さんに弟子入り...てことはこの家に入り浸るってこと!?」

「別に入り浸りだなんて...週に5日ほど通うくらいですよ」


声にならない悲鳴を上げるフレイヤ、そして何も聞かされていないためそんなに来るの!?と驚くアーサー、腕まくりをしてやる気満々のネルトゥス、腹の虫が鳴りやまないウル、そして呆れるその他二名。


「とりあえず料理作ろっか、みんなで、ね?」


アーサーの一言によりその場はなんとか収拾がついた、オアシス家の日常風景に、一人追加されためでたい日となった。


「ただいま帰ったぞぉ!超絶イケメンのパッパだぞぉ!!みんな喜べぇ!!」


オアシスが普段通りに帰宅すると異様な光景が広がっていた。


「ミスティさん?食卓でのいちゃつきは控えて貰えませんか?虫唾が走ります」

「あぁ、ごめんなさいね、わ、た、し、の、アーサーが甘えん坊さんだからついついやっちゃって」


机を挟んで、バチバチと火花が散るほど睨み合う深淵の姫とフレイヤの姿がそこにあった。


「父さんお帰り!ごめんね、先に食べちゃってて」

「あなた、おかえり」


アーサーと微笑ましくその二人を見つめる妻は返事をくれた、だがその他3人は初陣の新兵のように。緊張し肩を竦ませていたのだった。


「あ、あぁ、別に構わないけど......ってなんで姫様が家に!?」

「オアシス様、いえ、お父様!私事ではありますが、お母様に弟子入りし、花嫁修業を行わせて頂いております!」

「そ、そうか...そうだな、うん。ミスティちゃんも我が家の仲間入りしたと言っても過言ではないしな!そういうことなら合点がいったぞ」

「わ!た!し!は!認めてませんけどね?」


まぁ話には聞いている、フレイヤがアーサーに告白して見事玉砕したことも、そしてミスティに取られたことも。

成る程、この空気に耐えられないのが三人、仲が良いと勘違いしているのが二人。

まずいな、俺にも耐えられないぞ?なんとか別の話題を...。

空気に耐えられず卓に着く、よく見ると普段に増して豪勢だ。

その中に一品、見たことが無い料理が置いてあるのを見つけた。


「ん?この料理は?」


煮物のようなものだが、見たことが無い食材が使われている。

一口食べると、肉と野菜が甘じょっぱく味付けされている、美味い。

シャキシャキ、プルプル、ねっとり、様々な食感が実に食欲を駆り立てる、それとなんとなくだが家庭的な印象を受けた。


「美味しい!誰が作ったんだ?」


そう尋ねるとおずおずと二名挙手していた、ウルとミスティ、嘘だろ?


「よかったぁ...アーサーも手伝ってくれて三人で作ったんですよ?」

「おぉ...これが自作の料理を褒められた気分...心地いい...」


いつの間にそんなに仲良くなったんだ?という疑問が浮かんでくるが、まぁなんだ、色々あったんだろう、俺は深く考えないタイプだからこれ以上の詮索はしないでおこう。


「なるほど、もしかして魔王国の料理なのかい?」

「いえその...前世の料理でして...」


そういえばそうだった、アーサーとミスティの二人には特殊な過去があるんだった。

アーサーも時々変な料理を作っては試食させてくれていた、最初の内は酷かったんだが、みそとしょーゆ?を作り出してからはかなり美味い料理を作るようになっていた、全体的に茶色だが。

おやこどん?と呼ばれる鶏肉と卵を使った料理を食べたことがあるんだが...名前の意味を聞くと親と子供を一緒に食べるからそう呼んでるとのこと......一瞬だけ教育を間違えたんじゃないかと不安になってしまった。


「味付けはアーサーと一緒にやりまして、お口に合って良かったです、それに...」

「お母様が作られた人間国の料理が本当に美味しくて美味しくて...」


ふと見るとミスティの目には涙が浮かんでいた。


「そ、そんなに?魔王国の料理ってどんな感じなの?」


驚きつつもアーサーが尋ねた瞬間、ミスティの目が見開き、心に溜まっていた鬱憤を吐き出し始めた。


「いい!?魔王国の料理はね、どれもこれも美味しくないの!!下ごしらえもされてない、出汁も取らずに味付けは塩のみ!理由を聞いたら『別に料理の味なんて重要か?食えればいいだろ、それに酒を飲めば味なんてわからないだろ』って言われて!私が料理をしてみようと厨房に行くと危険だからダメ、王女なんだから覚えなくていいってやらせせてもらえなくて!!!!それで長生きなくせして日々の料理は疎かにするくせに『芸術品は永久に残るもの、死んだ後に評価されるよう、日々精進しろよ』なんて、死んだ後の事なんて分かるか!!日々の料理をもっと重視しろーーーー!!!!!!」

「うぅ...でも今日、久しぶりに...ほんっとうに久しぶりに料理と呼べるものを食べれて感動してるの...」


全員の心の意見は一致していた『可哀想に...』ただその一言だった。


「ま、まぁ!でも、魔王国ではさ、人間国に無い食材だってあるわけで、蓮根や牛蒡、それに蒟蒻を作ってるだなんて!お陰で筑前煮を食べれて嬉しいよ、持ってきてくれてありがとね」

「アーサー好きだったもんね...って!またニンジン残してる!ちゃんと食べなさい!!」

「うっ!いや、だってニンジンは馬が食べる物だから...」

「そうなんだ...アーサーは私の手料理を食べてくれないんだ...」


わかった!わかった!というアーサーの声の後、残っていたニンジンを勢いよく頬張っている。


「ははっ、アーサーはもしかして前世でもニンジンが苦手だったのかい?」

「そうなんですよ!アーサーったら初めて出会ったとき『ぼくニンジンたべれないんだ...』って悲しそうな顔してるから毎回私が食べてあげてたんですよ!?」

「やめてミスティ!今その話しないで!」

「それに毎日ずっと俯いて悲しそうな顔してたのに、初めて見せた笑顔に心撃たれちゃって...それで聞いてくださいよ!私が余命宣告を受けて、やり残したことがあるって言うと、なに?って聞いてくれたから、結婚、って言うとその場でプロポーズしてくれて...そこからアーサー一筋になっちゃった...」

「なに急に惚気てるのさ!まぁ、僕も、ミスティ一筋だよ...」


なんだろうか、おとぎ話と言われても信じられないくらいの話なんだが、いかんせん目の前の二人があつあつすぎて信じざるを得ない。

ウルとトールは羨ましそうな顔を、ロキは苦笑いを、フレイヤは苦悶の表情を浮かべ舌打ちしていた。


「お似合いじゃないか、なぁ?母さん」

「そうね、わたしたちみたい」


息子の熱に触発されてこちらも燃え上がっている、どうだろうか、今夜久々に、と思っていたら。


「食事中にお行儀が悪いですよ?みなさん?」


フレイヤの殺気により、熱いムードも一気に冷ややかなものへと変わってしまった、致し方なし。

積もる話もある、今夜はまだまだ長いからな、ミスティからアーサーの昔話も聞きたいし。


「すまんすまん、だが今日は良い日だ、久々に酒を解禁するぞ!」


歓喜の声が聞こえる、フレイヤのげっそりとした顔が見えるがもう遅い、家長の言うことは絶対だ。


「よし!じゃあ僕取ってくるね!」


アーサーが地下室に酒を取りに行こうとしたその時だった。


『ココン コン ココン』


夜遅いにも関わらず来訪者が現れた、『ココン コン ココン』特徴的なノック音。

ある人物と、僕達だけの秘密のノック音。

それを聞いた瞬間、兄弟全員が怯えていた。


「え?嘘でしょ!?」「なんでこんな時間に!?」「城の人は何やってんだか...」「まずい、この状況はまずい」


「あー、やばい、まずい、どうしよう」

「どうしたの?誰が訪ねてきたの?」


狼狽えるアーサーにミスティが尋ねたその時だった。


『アーサー!居るんでしょう?ワタクシが来た理由ぐらい分かりますよね?』


女性の声である、その声を聴いた瞬間、アーサーの顔から汗が流れ始めたのが見えた。


「ごめん!今は急いで二階に隠れてて!お願い!!」

「へ!?なんで?」

「理由は聞かないで!はやく!」


アーサーに手を掴まれ二階に上がろうとした、だがその時、施錠されているであろう扉が音を立てて破壊された。


「アーサー!この手紙はどういう了見のつもり!?」


現れたのはボーイッシュな女性、ドレスを身に纏い、気品を漂わせようとしている。

しかし溢れ出る暴力と野生が抑えられていない。

仁王立ちする彼女の細い体から、尋常ではない威圧感を周囲に振りまいている。


不可解な現象に目を疑うミスティ、だが兄弟全員が知っている、彼女の力、怖さを。


「誰なの?あの人?」

「えーとね...人間国の第一王女『ハル』様、僕の幼馴染で...僕を専属騎士に任命しようとした人」









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