6話 回想
「ウル、これで最後かもしれない、お前はハウ族の希望だ、立派に生きろよ」
「愛しているわ、ウル、この先もあなたの側に私たちはずっといるからね」
これが実の両親達との最後の会話だ。
『山喰い』突如として現れた巨大猪、山と見紛うほどの巨躯を持つ怪物にアタシの一族は滅ぼされた。
悲しいと思う気持ちはあったが、弱肉強食、それが世の理でありハウ族の理念でもあった、弱い方が悪いのだ。
怪物が過ぎ去った後には何も残っていなかった、唯一残っていた物は一族に伝わるナイフのみ。
途方に暮れていた、先が見えないことがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。
「ひっでぇな...おい!お前無事か!他の奴はどうした!」
そんな時、一人の男が私の前に現れた、人間族の騎士と呼ばれる人物そして勇者だった。
「みんな死んじゃった、でもね、弱いから仕方が無いんだ、それが自然の摂理だ、ってお父さんたちは言ってた」
「仇を討ちたい気持ちはあるんだけど、どうすれば良いのかが分からないの...」
男は黙って聞いていた、そして私に答えを与えてくれた。
「だったら俺の所に来るか?仇を討つのも自由に生きるのもそれから考えればいい、どうだ?」
嘘は言っていない、この人物は信用しても大丈夫だとアタシの直感がそう言っている。
だったら彼について行こう、アタシの行く末がきっと見つかる筈だ。
「分かった、行く、アタシの名前はウル、おじさんは?」
「おじさんって...まだ20代なんだぞ...俺はオアシス、『勇者』オアシスだ、よろしくな」
そして彼の家へと引き取られた、新天地はのどかな場所だった、私が住んでいた村とは違い、食事や住む場所に困ることもない安住の地と呼べる場所。
だがそんな場所で、思いがけない出会いを果たすことになるとは思っていなかった。
「ようこそ我が家へ、妻のネルトゥス、そして息子のアーサー、仲良くしてくれよ?」
妻のネルトゥスはあまり喋る人ではなかった、だが表に出さないだけで内面は活発で面白い人だと感じた。
そしてアーサーの印象は...。
「ウルおねぇちゃん!よろしくね!」
体に衝撃が走った、村の中では最年少だったために自分より下の子供と接する機会が無かったのだ。
初めてお姉ちゃんと呼んでくれる存在が、余りにも可愛らしく庇護欲を掻き立てられるのだと知らされた。
年上が年下を守る、それも自然の摂理、であれば彼を守ってやろう、そう誓った、のだが...。
「ウルおねぇちゃん!服は脱ぎっぱなしにしないで!あーもう髪がぼさぼさじゃないか、ちゃんと乾かさないと、奇麗な髪なんだから勿体ないよ?ほら早く顔洗ってご飯食べよ、今日はね、僕の自信作なんだ!お母さんと一緒に作ったんだよ!だから急いで、はーやーくーはーやーくー!あ、馬たちのお世話しなきゃ、んじゃ僕行くね!」
「あ、あぁ...ありがと...」
(三歳の子供とはこんなにも立派なのか...逆に私が世話されっぱなしじゃないか...。)
アーサーはあまりにも大人びていた、人生をもう一度繰り返しているのでは?そう思ったこともある。
両親や私にすら迷惑をかけようとせず、一人で物事を解決するほど頭が回る、だが時折見せる笑顔は純真無垢で、一切の裏が無い人物であることは間違いなかった。
新天地での生活に慣れてきたある日、アーサーと共にある人物の元を訪ねることになった。
グルヴェイグと名乗る女性、『魔女』と呼ばれ歴代の加護持ちを鑑定してきた年齢不詳の人物。
オアシスは私たち二人に加護を所持していると判断したのだ。
そして判明した、アタシは『狩猟の加護』アーサーは『陽光の加護』を生まれながらに所持していたのだ。
今までアタシの直感が間違ったことは無かった、それが加護によるものだったとは...だが嬉しくもあった、この力を使えばアタシの未来を切り開けるかもしれないと。
そして10年間、オアシスの下で鍛錬を積んだ、その間にも義弟妹達が出来た、賑やかで喧騒が絶えない日々、かけがえのない時間を過ごしていた、そんな折、アタシの因縁が再来した。
「山喰いが現れただと!?」
10年間音沙汰のなかった化け物が再び現れた、ソーア地方の山間部へ己の身を巧妙に擬態していたのだ。
「僕が行くよ、みんなは周辺地域に被害が出ないよう勧告をお願い」
僅か10歳にして『勇者』の称号を得たアーサーの言葉に周囲が頷く、実力は誰もが認める程に成長していた。
だがたった一人、異を唱える者が居た、ウルだ。
「ダメだ、アタシがやる。そのために今日まで修練を積んできた、奴を討つのがアタシの使命だ」
「ウル姉さん......分かった、でもヤバいと思ったら直ぐに助けるからね」
「ありがとうアーサー、だが安心してくれ、そんな状況は絶対に起きない」
10年ぶりに相対した山喰いは幼少期に見た姿と変わりなかった。
山のように巨大で口元から生える6本の牙は禍々しくも立派、まごうことなき怪物。
足が竦みそうになる、最後に見た両親達の顔や声が思い出され、恐怖が体を支配しようとしてくる。
だが今は無力だった時とは違う、幼少期に学んだ狩猟技術、オアシスの下で学んだ戦闘技術、そして『狩猟の加護』、その全てがアタシを形作り、支えている。
「久しぶりだなバケモノ、会いたかったよ」
自身を見下ろす目は憐れみに似ていた、人間を脅威とすら思わず、まるで道端の蟻を見るかのような目。
眼中になどない、そう思わされた次の瞬間、1本の矢をその眼へと撃ち込んだ。
ウルには弓術の才能があった、放つ矢は岩を砕き、障害ごと敵を屠るまでに進化していた。
怪物は己の瞳を潰され暴れだす、大地が揺れ、地響きと共に周囲に砂煙が舞い上がる。
残った眼で目の前の蟻を睨みつけている。
ようやく認識してくれたようだ、己を葬る存在、脅威だと。
ウルは声を張り上げる、一族の仇を討つために。
「我が名はウル!ハウ族、シヴとシフの子!弱肉強食の理に則り、今から貴様を......狩る!!!」
オアシスに教えられた、名乗りとは戦いにおいて己を鼓舞し、相対する者に己を認識させ敬意を表すのだと。
「グォォォォォォォォォ!!!!!!!!」
呼応するかの如く山喰いも吠える、大気を震わせ心の臓の鼓動を加速させる咆哮により、決闘の火蓋は切られた。
■
ウルの力を以てしても、戦いは丸一日続いた、戦闘の余波で周囲の地形を丸ごと更地にしてしまうほどに。
山喰いの最期、全身のありとあらゆる急所に矢が突き刺さり、全身を加護によって拘束されようと、その瞳はウルを直視し続けていた。
「はぁ...はぁ...これで、終わりだ!!」
首元の急所へ止めのナイフを突き立てると山喰いの瞳から光が失われてゆく。
「勝った...!勝ったよ、父さん、母さん、みんな...」
「うぅ...ひっ...うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
涙が溢れてくる、嬉しいはずなのに、仇を討ったはずなのに。
分からない、分からない、分からない。
家族の死を実感した?違う、そんなものはとうに割り切っている。
一人で山喰いを倒せて嬉しい?違う、アタシの誇りはそんなちんけなものではない。
仲間の下へ帰れる?違う、別にアタシはこの戦いで散ったとしても悔いは無かった。
......いや、嘘だ、今の時間を、新しい家族たちと過ごす時間が何よりも愛おしい。
精神的に弱くなったのか、強くなったのか分からないが、きっとこれだろう、今の時間が、仲間たちと切磋琢磨し和気あいあいとしている時間が大好きだ。
「ウル姉さん!大丈夫!?今治療するからね!」
見守ってくれていたアーサーが来てくれた、加護によって怪我の痛みが薄れていく、だが涙が止まらない、何故だろう。
「アーサー...アタシは...うぅ...うぅぅぅ......」
「姉さん!」
アーサーの胸に抱かれている、まだまだ子供なのにその懐は温かく大きく包み込んでくれた。
「姉さんはさ、頑張ったんだよね、現れるか分からない仇のために日々努力して、そして今日遂に単身で乗り越えたんだ、きっとハウ族の人たちも喜んでくれてるよ。」
「これでようやく、姉さんの時間も進み始めたんだね、これからは好きに生きていいんだよ」
「姉さんに涙なんて似合わないけど、今だけは泣いてもいいんだよ、お疲れ様」
年下のくせに生意気な、そう言いたくなるも今だけは甘えさせてもらおう...いや、いつも甘えているか、アーサーの方がよっぽどお兄さん然としているしな。
長年の目標は達成した、であれば今度はアタシを育ててくれた、受け入れてくれた人たちの力となろう、そう思い騎士へ志願した、のだったが...。
■
「......んがっ!?」
先が見えなくなると、時折昔の事を夢に見る、つまりどういうことか。
「もう夕方かぁ...また一日が過ぎてしまった...」
目標のない穀潰しと化していた、仇を取った、騎士へ志願し終戦へと導いた...まぁほぼほぼアーサーがやったが。
そして今、終戦から10日ほど過ぎたが何をすればいいのかが分からない、日々を怠惰に、無気力に過ごしていた。
ぼさぼさになった髪の毛とよだれ跡の残る顔を整えようと洗面所へ向かおうとした。
『ぐぅぅぅぅぅぅ』
こんな時でも腹は減るから人体というものはつくづく不便だ、だが食べねば死んでしまう。
「はぁ...どうしたものか...」
アーサーに何か助言を貰おうとも思ったが、あいつの頭の中は深淵の姫でいっぱいだろう。
戦争が終わった後の事は特に考えもしていなかった、アーサーが居る限りは大丈夫だろう、そう思っていたのだがまさか敵国の姫にプロポーズするとは...彼女とはどうやら因縁があるらしい、その場では祝福したのだが...。
結婚をするとなればこの家から出ていくだろう、そうした場合何が起きるか、アタシの面倒を見てくれる人が居なくなるということだ。
トールは開拓作業、ロキは絵本作家へ、フレイヤは王宮での仕事がある、なんとまぁ出来た弟妹達だろうか。
『ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
最低限の家事は覚えよう、それ以上を考えるのは......今はやめておこう...。
■
僕が生まれてすぐ、両親は戦場で亡くなった。
それからは祖父、祖母と三人で過ごしていた、豊かではないものの穏やかな日々。
幼少の頃から体の成長が早かった、8歳を迎えた頃には並みの大人よりも大きく、力仕事を手伝うようになっていた。
平穏な日々に突如、はぐれ魔族が現れた。
腹を空かせ、納屋に押し入り食料を食べ漁っていた所に鉢合わせてしまったのだ。
「だ、誰だ!?」
「腹が減ってるんだよぉ...黙ってどこかに行け、さもなくば...」
突如として殴りかかってきた、魔族の拳は僕の腹部へ直撃した、のだが。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
手首が折れていた、手の甲がぷらんぷらんと揺れている。
咄嗟に、捕まえなくてはと考え顔面へ拳を叩き込んだ。
「ぐがっ!?」
顔面が地面へとめり込んでいた、初めて本気で人を殴った感触がぞわぞわと体を支配していく。
魔族は人間よりも頑丈だと聞いたことがある、その魔族を一発でのしてしまう自分に恐怖していた。
その後、大人たちが慌てて駆けつけてきた、薄暗闇でよく見えていなかったが、簀巻きにされた魔族の顔は瘦せ細っていた。
そんな顔を見て僕の祖父たちは悲しそうな顔をしてことを覚えている。
「おいお前さん、何をしにきたんだ」
「腹が空いてんだ...食べ物を...」
「はぁ...おい、縄を解いてやれ、それと飯を持ってきてくれ」
「いいのか?俺は魔族なんだぞ?このまま殺したって何も問題ない筈だろ?」
「うるせぇ!腹を空かせた奴に飯を食わせて何が悪い!良いから黙って食ってろ!」
その後、魔族の男は泣きながら食事していた、後日警備隊へ連行される際も一切の抵抗などせず、最後まで感謝の言葉を述べていた。
そして『勇者』と呼ばれている男も同じタイミングで現れた。
「ほぉ~、でかいな!話は聞いている、魔族の男を一人で撃退した子供が居るってな、半信半疑だったんだが、君がやったんだろ?」
「そ、そうです...」
そう答えると男はにやりと笑った、そして僕に対し交渉をしてきたのだ。
「君も感じただろう?この世界を、こんな戦争を止めて、変えたくないか?」
返答はもちろん。
「はい、変えたいです」
「そう言ってくれると思っていた、どうだ?俺の下で騎士を目指さないか?」
「え!?そ、それは...」
一瞬だが揺らいでしまった、視線は祖父と祖母を見つめていた。
高齢のため普段の仕事は僕が手伝っていた、僕が居なくなると彼らの負担が...そう思っていたのだが。
「なぁにしとるんだお前は!ワシらの心配なんぞせんでええ!行ってこんかい!」
「あんたったら...お前は優しい子だ、皆のために力を使える優しい子、がんばんなさい」
「分かったよ、僕が騎士になって、戦争を終わらせて世界を変えるんだ!」
改めて目の前の勇者に向き直り返答する、力強く堂々と。
「僕、騎士を目指します、そして戦争を終わらせて貧困も、悲しむ人もいない世界を作りたいです!」
「ありがとな、俺の名前はオアシス、『勇者』オアシスだ、君の名前は?」
「トールです、よろしくお願いします!」
そして彼の下で修業の日々が始まろうとした...のだが。
「うわぁ!でっかい...僕も体を大きくしたいんだけどどうすればいいのかな??何食べてるの?普段の生活でやってる事って何?あ、僕の名前はアーサー!5歳です!因みになんだけどさ、家事とかって出来たりする?僕ともう一人、ウルってお姉ちゃんがいるんだけど狩りの時や訓練の時は頼りになるんだけど普段の生活はからっきしで...いやでも今後の事を考えたらウル姉ちゃんを甘やかすのは良くないか...あ、これからよろしくお願いします!トール兄ちゃん!」
元気すぎる義弟が出来てしまった...。
この家に来てからは毎日がハチャメチャだ、朝起きてアーサーと共にウルの世話をし、昼間はオアシスの下で三人で修業、そして夜になればアーサーが考えたプロレス?なるものの遊びに付き合わされる日々。
正直言ってアーサーの体力は無尽蔵だ、朝から家事と厩の手伝い、昼間の訓練では休みなく鍛錬を積み、夜は僕の巨体を投げ飛ばしては楽しそうにけたけた笑っている。
ある時聞いたことがある、どうしてそんなに元気なのか、返答はこうだった。
「楽しいから!」
一瞬だけ思ってしまった「頭おかしいんじゃないかこいつ?」と。
無尽蔵の体力、僕の巨体を投げ飛ばす膂力、ハッキリ言ってバケモンだ、ただ単にガタイがデカいだけでスカウトされた自分が情けなくなる。
もう一人のウルも家事全般はてんでダメなのに、修業の時になると水を得た魚のように生き生きとしている、狩猟技能を活かした多彩な攻め手に毎回翻弄されてしまう。
現時点だとこの三人で一番未熟なのが僕だ、まぁ理由はある、二人とも加護を所持しているから、そう言い訳しておこう。
アーサーの『陽光の加護』出鱈目で意味不明な力、身体能力強化、他者の治癒に強化、それに何故か分身したり角が生えたり尻尾が生えたりと枚挙にいとまがない。
ウルの『狩猟の加護』五感を強化し他者の弱点を見抜く、瞬時に罠を生成し敵を捕縛、1対1であればオアシスですら手を焼くほどの力。
二人を羨ましいと思ったことは無い、というと嘘になる。
僕にも加護があればなと思う日々だった、そんなある時だった。
「おい!北の方で土砂崩れが起きた!お前たちも加勢してくれ!」
大雨による土砂崩れ、北部にあるミーリへと結ぶ街道に巨大な岩が立ちはだかっていた。
「くそっ!ミーリの方は低地で洪水被害に弱いってのにこれじゃ!」
「父さん、僕がやってみるね!」
事態は一刻を争う、アーサーの全力を込めた一撃も大岩にヒビを入れただけだった。
無力な自分が悔しい、神様、どうか僕に力を、障害を乗り越える力を下さい。
皆が諦めかけていたその時、ふと顔を上げると大岩に不自然な光が見える、アーサーのものだろうか。
「ねぇ、この光って何?」
「え?なんにも見えないよ?トール兄ちゃん何か見えるの?」
僕にしか見えない?何故?でもなんだろう、本能がここをぶったたけと叫んでいる。
右手にある救助用のハンマー、それを光めがけピンポイント振りぬく。
「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次の瞬間、轟音と共に大岩は砕け散った、唖然とする仲間たち、しかしアーサーだけは目を輝かせていた。
「トール兄ちゃんすごい!!!どうやったの!?もしかして加護の力だったり!?すごいすごい!かっこいい!!!」
「話は後だ、救助に向かうぞ!トール、よくやった!」
その後、無事に村の人たちを救助することに成功した、村の人たちにはえらく感謝されたが僕は道を切り開いただけで、それ以外は皆がやってくれた。
感謝の言葉は僕ではなくオアシスやアーサー達に言ってくれと隅の方で縮こまっていたら、オアシスに中心へと引っ張り出された。
「皆聞いてくれ、こいつが道に立ちふさがる大岩をぶっ壊し、助けに向かう道を切り開いてくれた。
こいつが居なかったら、ここにいる皆は死んでいたかもしれない、名前はトール!俺達に立ち塞がる障害を排除し、未来を切り開く者、何れ騎士となり終戦に尽力してくれるだろう、そんな奴の門出だ、祝ってやってくれ!」
感謝の雨が降ってくる、だが僕の力じゃない、感謝を述べる相手は神様だ、神の気まぐれで助かっただけにすぎない。
「トール兄ちゃんカッコよかったよ!流石だね!」
アーサーが背中をトンと叩いてくる、人助けはアーサーに頼りっぱなしだった。
逃げ遅れた人や避難を渋る老人たちを信頼させる笑顔が彼の武器、羨ましい限りだ。
「そんな、神様の気まぐれだよ、ただ単に運が良かっただけだよ、僕なんて...」
「なに言ってるのさ、運も技術のうちって言うじゃん?だからきっとトール兄ちゃんは神様に好かれる才能の持ち主なんだよ、だから卑屈にならずに堂々としなって!」
運も技術のうちだなんて初めて聞いたぞ...こいつ本当に5歳児か?
やっぱりこいつ胡散臭い......が、純真無垢な満面の笑みを向けられると絆されてしまう、まぁいいさ、アーサーがどんな奴だろうと僕を元気づけてくれている事には変わりない。
「ははっ、ありがと、アーサー。神様に好かれる才能か、だったら嫌われないよう、これからも頑張らなきゃな」
「うん!これからもよろしくね、トール兄ちゃん!」
これが初めてのオアシス家での共同任務となった、まぁ頑張っていこう、そんな感じだ。
そしてすぐに僕の加護も判明した『粉砕の加護』己の障害と認識したものに対して打ち砕く力を授けてくれる、なんともまぁ単純だ、だが僕にはこれくらいが相応しい。
オアシス家にも続々と新しい家族が増えてきた、魔族とのハーフであるフレイヤ、悪戯に都市を麻痺させたロキ、フレイヤは真面目で良い子なんだがロキは悪戯好きで手がかかる、だが二人とも大切な家族になっていた。
そしてなんやかんやと色々あって終戦を迎えることが出来た、誰も欠けずに、全員無事で。
ほっと一息ついた瞬間、目の前でアーサーが深淵の姫にプロポーズしていたが。
■
「ふぅ~~~~」
目の前には大穴、北のミーリ村へと続く隧道がついに貫通した、今までは街道1本のみで不便だったがこれのお陰で便利になるだろう。
周りでは開通を祝う土木工事関係者がお祭り騒ぎをしている、
細かい部分は彼らに任せて僕は帰路へと着こう。
「穏やかな日々だなぁ...まだ終戦の実感が湧いてこないや...」
終戦から10日が過ぎた、協定関係の難しい部分が終わり、後はのほほんと過ごすだけの日常を送るだろう。
アーサーのように結婚というものも視野に入れて生きたい、祖父と祖母もかなりの高齢になってきている、最後に孫の晴れ姿を見せてあげたいな...。
騎士という地位は随分とモテるようでアーサーなんかは言わずもがな、歩けばキャーキャーと黄色い声援が上がっている、だが今まで浮ついた話など耳に入ってこなかったため、不自然だと考えていたのだが、まさか前世で結婚を誓った思い人と共に、この世界で生まれ変わったからだとは...意外と硬派なんだなあいつは。
ロキなんかは美少年系で特に年上のお姉さんに好かれている、性格的に遊んでそうだが、以外にもあいつのスキャンダルな話は聞いたことが無い、もしかしてあいつも何か深い理由が...?
ウルは異性よりも同性に人気なタイプだ、まぁ見てくれだけはカッコいいからな、見てくれだけは。
フレイヤも人気がある...というか軍内部で秘密裏に応援団が出来ている、何の応援かって?アーサーへの恋慕だよ、まぁ虚しく散ったが。
終戦3日程は荒れに荒れていたが、昨日アーサーにご機嫌取りされたようでなんとかはなっている...はず。
とまぁこんな感じで人気な地位なんです、騎士というものは、僕?僕はですね...。
「あんらぁ、トールちゃん!お仕事ご苦労様、ほら!取れたてのトマトとナスだよ持ってきな!」
「トールぅ!お前さんの顔と変わらん大きさのメロンだ、いつもの礼だ、持ってってくれ!」
「トール兄ちゃん!背中乗っけて!あはは!おーきい!たっかーーい!!!」
こんな感じで老人や子供には好かれています、年頃の女性は...皆無です。
おかしい、愛嬌のある顔立ちだからなのか?ガタイに似合わぬ顔してるからダメなのか?
こうして今日も帰路の途中でお土産を貰い、子供たちと遊ぶのが僕の日常。
あぁ神様、どうか素敵な出会いを僕に下さい...。
■
『むかしむかし、孤児院に一人の男の子がいました、男の子の名前はロキ、生まれて物心つく頃にはこの孤児院が彼の家でした。
彼はイタズラ好きでした、先生や他の子供たちにちょっかいをかけたりして困らせていたのです。
ですがそれは彼なりの愛情表現でした、愛を知らない少年は、人に構って貰うためにイタズラをしてたのです。
彼なりの愛情表現を孤児院の人たちも寛容に受け入れてくれていました、充実した日々、ですがそんな時、フードを被った二人の男が孤児院を訪ねてきました。
男たちはロキを引き取らせてくれないかとお願いしました、その代わりと言って孤児院に多額の寄付金を渡してきたのです。
孤児院の人たちは喜びましたが、決定権ははロキに任せたのです。
心優しいロキは皆のためを思い、彼らと共に過ごすことを決心しました。
別れの時、いつも怒っていた先生は泣いていました、他の子供たちも泣いていました、それにつられてロキも泣いていました。
彼は心の中で決意しました、大きくなって働いてお金を得たら、男たちのように孤児院を救ってあげようと、誰もが笑って踊って過ごせる楽しい世界を作ろうと。
馬車に乗り込んだ瞬間、ロキは泣き疲れて直ぐに寝てしまいました、次に目を覚ますと、男たちの屋敷に着いていたのです。
その屋敷にはロキと同じくらいの少年少女がたくさんいました、彼らもまた、拾われてきたようです。
男たちは子供に読み書き、算術、剣術、芸術を教えてくれました。
料理はあまり美味しくありませんでしたが、孤児院の頃よりもたくさんの事を知れたロキは、毎日を楽しく過ごしていました。
特に絵を書くことが好きなロキは、自分で絵本を描くようになりました。
物語の内容は、世界の皆が笑って過ごす世界を作るために勇者ロキが奮闘するというもの。
人間族ならば誰もが知る勇者という存在、自身の憧れであり希望の存在に、物語の中ならなれるんだと、ロキは描き続けました。
完成した作品を子供たちは楽しそうに読んでくれました、ロキは物語を描き、読んで貰うことの喜びを知ったのです。
そんなある日、絵本を描いて欲しいと男たちに頼まれます。
内容は、夜遅くまで起きている子供たちは笛吹き男に連れていかれて、命尽きるまで踊り続けさせられるというもの。
どうして?と聞くと、『君の描く本は素晴らしい、国の子供たちが良い子になるためのお手本にしたい』そう言われ、ロキは嬉しくなりました。
描き上げた本を渡すと、非常に喜んでくれました、それから1週間後、なんと国で一番売れた本になったそうです。
男たちは記念してパーティーを開いてくれました、やっぱり料理は美味しくありませんが、みんなでお祭りのようにはしゃぎました。
楽しいパーティが終わり、眠りにつくとこんな夢を見ます。
そこには人族も魔族も関係なく、皆が笑って踊って楽しんでいるではありませんか。
こんな夢が現実になればいいのに、そう思いながら、踊っている人たちを見て悲しくなりました。
■
目を覚ますと、そこは何故か屋敷ではありません、何もない街道に1人で立っていたのです。
ロキの頭の中は混乱していました、もしかしてまだ夢の中なのではないのかと、ですが頬を抓ると痛みがあります。
では屋敷で過ごした日々が夢だったのか?着ている服は屋敷で貰ったものです、夢ではありません。
混乱する頭でなんとか状況を整理しようとするも出来るはずがありません、次第に怖くなり涙が出てきました、皆の下へ帰りたい、ですが屋敷の場所は何故か覚えていません、途方に暮れていると看板を目にしました。
城塞都市キナン、ヴァルハラ平原の側にある都市へと続くことが書かれてあり、仕方なく向かうことにしました。
都市の人々は開戦に向けて準備の真っ只中でした、残された期間は10年、長いようで短い期間、大人たちは忙しく働いていました。
自分の居たところについて聞こうと色んな人に尋ねます、ですが誰一人として忙しいからと相手をしてくれません。
ロキは失意のどん底でした、自分の知らない世界では未だ戦争の真っ只中、子供に構う余裕も、笑顔を浮かべる余裕すら都市の人々にはありません。
孤児院の皆に、屋敷の人たちに会いたい、皆と楽しく過ごしたいだけなのに、寂しい。
寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい。
悲しみに暮れているロキの手元に1冊の本が現れます。
その本はロキが描いた絵本『ハーメルンの魔笛』、頼まれて書いた初めての作品、皆でお祝いのパーティをした思い出の作品。
あの日の光景が果たして夢なのか現実なのか分からない、でももう一度みんなと過ごしたあの日が見たい。
そう願った瞬間、本から1体の魔物が現れる、その姿は絵本の中に登場する道化師ハーメルンに酷似していました。
驚くロキの目の前でハーメルンは尋ねてきます。
「ご主人様、願いをなんなりと」
突如問いかけられたロキは困惑します、何故目の前に現れたのか、何故喋るのか、理解が追い付かないでいました。
「ご主人様?どうされました?」
そうだ、きっとこれも夢なんだ、夢であれば全て納得がいく、だったら楽しくいこう、もうどうなってもいいやと。
「みんなで...みんなで楽しく過ごしたあの日をまた見たい!お祭り騒ぎしてみんなで笑って踊ったあの日を!」
「かしこまりました」
そう返答したハーメルンが笛を吹く、その音色は都市全域に鳴り響きます
歴史に残る大事件『童話夜行』が今ここに幕を開けたのです 』
■
「あはははははははは!!!踊れ踊れぇ!みーんな楽しいよね!あはははははは!!!!!!」
城壁から見下ろす視界に映る人々は、楽しそうに笑顔で踊っている。
だがその目は白目を剥き、泡を吹き倒れる者が続出していた。
既に三日三晩が過ぎていた、だがロキの願いは未だに終わろうとしない。
人々は願い続けていた、救世主が現れるのを、勇者が助けに来ることを。
そして遂に現れた、勇者が、勇者『オアシス』が。
「なんでみんな踊ってるんだ?それにぶっ倒れてる人まで.....」
しかし現れたのは子供だった、だがその身なりは正しく勇者のもの、人々は困惑していた。
「まぁいいか、これでなんとかなるかな...よっと!」
右手を頭上へ掲げた瞬間、もう一つの太陽が現れる、燦燦と輝く太陽の光は人々の拘束を解除し体の疲労を回復していく。
「おぉ!なんとかなった、よかったぁ...みんな大丈夫?」
手を差し伸べられた人々は疑問の声を上げる、そして尋ねる、一体誰なのかと。
「俺?俺はアーサー!『陽光の騎士 勇者アーサー』!つい先日、勇者の地位を拝命した!」
こんな幼子が勇者の地位を拝命した?人々の疑念の声が上がろうとしたその時、城壁の上から怒鳴り声が響き渡る。
「おい!お前!!僕の祭りの邪魔すんなよ!!!!何者だよ!!!!」
「さっきも言ったのに...俺はアーサー!『勇者』アーサー!キナンからの連絡が途絶えたって聞いてきたんだが...お前がやったのか?」
ロキの目の前には『勇者』を名乗る自身とあまり歳の変わらない少年に苛立ちを募らせていた。
『勇者』とは希望であり人族の象徴、話に聞いていたイメージと乖離している姿に、嘘をついているのではとすら思っている。
「あぁ!僕がやったよ!皆を笑顔にして、楽しく過ごせる世界を作ったんだ!僕は勇者に...世界を救う勇者になったんだよ!!」
「そうかよ!」
次の瞬間、ロキの目の前にアーサーが着地していた。
魔族に対抗するため堅牢に、且つ巨大に作られた反り立つ壁へと飛んできたのだ。
人外染みた運動能力にロキも唖然としていた。
そして目の前には迫る拳、ロキは殴り飛ばされていた。
「うぐぅっ!い、いたい!!痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
人生で初めて殴られた痛みは想像を超えていた、顔が痛い、頭がぐらぐらする、意識は朦朧として呼吸が乱れている。
目の前へと歩いてくるアーサーに恐怖していた、殺される、そう思うと体の震えが止まらない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い、助けて助けて助けて助けて助けて。
頭の中はその二つの言葉で埋め尽くされていた。
アーサーの手が顔に迫ってくる、もうだめだ、死ぬんだ、そう思っていた。
しかし違った、アーサーの手が光ると顔の痛みが引いてゆく、そして体の震えも収まっていた。
聞いたことがある、人族には加護と呼ばれる特殊な力を持つ者が居ると、そして歴代の勇者達は加護を使い人々を救ったと。
「いいか!勇者はな、なろうと思ってなるものじゃないんだ!人々に希望をもたらし他の模範となる人物が勇者に選ばれるんだ!人様に迷惑をかけるなんて言語道断!お前のせいでどれだけの人が迷惑を受けたと思ってるんだ!!」
叱られたことは今までもあった、でも心のどこかでは反省してない部分も時々あった。
構って欲しいから、愛されたいから、そんな思いで聞いていた。
だが今回の状況はただの八つ当たりに等しい行為、心の中では悪いと思いながらやった。
勇者は、僕の理想の勇者はそんなことはしない、涙がぽろぽろと流れ落ちて嗚咽が止まらない。
「うぁっ...うぐっ...ごべ...んな...さい、ごべんなさい....ごめんなさいぃぃ.....うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
僕は勇者になんかなれない、理想の中では、絵本の中ではなれても現実にはなり得ない。
皆に迷惑をかけた、孤児院の皆にもお屋敷の皆にももう会えない、怖い、寂しい、辛い。
頭が割れてしまう気がした、色んな感情が脳の中を侵食してくる、痛い痛い痛い。
「はいまず大きく息を吸って!」
アーサーに声を掛けられるも意味が分からない、何を言っているんだろう。
「大きく吸うんだ!こう、すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと、はい、やってみて!」
言われるがままに息を吸い込む。
「次は息を止めて......大きく吐く!ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ.....」
「もう一回!大きく吸ってぇ......吐く!.....もっかい吸ってぇ!....吐く!」
言われた通りにこなす、何故だろう、少しだけ落ち着いた気がする。
「それじゃあ次は俺の指を目で追ってぇ....上!下!右!左!右!下!斜め右下!しょーりゅーけーん!」
目の前で突如右こぶしを天高く振り上げるアーサー。
何をやっているんだろう、意味が分からない、だが。
「ふふっ...」
少しだけ笑みが零れてしまった。
「よし落ち着いたな!それじゃ聞くけど、どうしてこんな事をしたんだ?」
どうやらアーサーの策略だったらしい、なんというか意味不明だ。
「......みんなの所に帰りたくて...それにここに住んでる人たち皆を笑顔にしたくて...」
そこからは正直に全てを話した、孤児院のこと、とある人物たちに拾われたこと、そして気が付くとキナンの側に居たこと、そして帰り道を聞こうと色んな人に尋ねたこと、みんなが笑顔な世界を見たかったこと。
全てをアーサーに話し終えると、彼は優しく抱擁してくれた、孤児院の先生にもされた経験がある、とても懐かしい感じがした。
「全部話してくれてありがとな、お兄ちゃんが...いや、俺がなんとかしてやろう!勇者アーサーは困った人を見捨てたりしない!」
「ほんとに?」
「もちろん本当だ、まぁまず先に、キナンの人たちに謝らないとな、俺が傍に居てやるからちゃんと言うんだぞ?」
「...分かった」
広場へアーサーと共に向かう、目の前には怒り心頭の人々、今にも殺されるんじゃないかと足が竦む。
「あー、みなさん!この度の騒動については...」
そうアーサーが切り出した瞬間、ロキ目掛けて石が飛んで来た。
アーサーは石を掴むと投げてきた人物へと視線を向ける。
「ふざけんじゃねぇ!そいつのせいでどれだけの迷惑を受けたと思ってるんだ!」
「俺たちは死にそうになったんだぞ!」
「子供だからって知るか!牢屋にぶち込め!」
石の代わりに罵声が飛んでくる、殺意の念が込められた言葉の矢が降り注ぐ、怖い、怖い、怖い。
怯えるロキの目の前に、防壁のようにアーサーが腕を組み立っていた。
「俺は!!!!皆が笑って暮らせる平和な世界を作るために努力し、勇者に選ばれた!この少年は自分の居た所へ帰りたいと皆に尋ねたそうだ!だが誰一人として耳を貸そうとはしなかった!!」
「こんな世の中間違ってる!子供の声に耳を傾けず、笑顔にすることを怠る世の中なんかクソくらえだ!こいつのやったことで皆に迷惑をかけたのは間違ってない!だけどその原因は戦争が続くこの世界が悪い!そうだろ!?」
民衆の中からは失笑にも似たため息が聞こえてくる。
「お前みたいな子供に何がわかる!」
「キレイごとばっかり言ってんじゃねぇぞ!」
そんな言葉を受けようと、アーサーは一切ひるんでいなかった。
「あぁ分からないね!なんたって俺は10歳、生まれてこのかた戦争なんて知りもしない!」
「だからこそあなた達のように過去に縛られたりなんかしてない!だからといってあなた達の事を軽んじたりもしない!あなた達の流した汗と血のお陰で、今この国は成り立ってる!!」
「俺は言い続ける!そうでないと、言葉にしないと世界は変わらない!」
「俺はここに宣言する!俺が!勇者オアシスの息子、『陽光の騎士 勇者アーサー』がこの戦争を終わらせる!」
ロキの目に映るアーサーは光輝いていた、二つ名の『陽光』の如く、燦燦と。
眩しい筈なのに、目を閉じることが出来ない、一生この光を見ていたいとさえ思えた。
民衆は不満そうだった、だがしかしアーサーの放つ圧に意見を述べようとするものは現れなかった。
すっと後ろを振り返るアーサーの顔は、どことなく優しくもあり、苦々しくも感じた。
「う~ん、ちょっと今日謝るのはやめておこうか、時間が経って、君が大人になってからまた来ると良い。その時は戦争も終わって、みんなの心に余裕ができてるからさ」
そう言ってくれることは嬉しい、だが行く当ても頼りの場所も分からない現状をどうすればいいのだろうか。
「あ、そうか...孤児院たっていっぱいあるし屋敷の話も分かんないからなぁ...そうだ!うちに来なよ!事後報告にはなるけど、まぁ父さんたちも1人増えるくらいどうってことないだろ!」
「......いいの?」
「もちろん!それに君は特別な力を持ってるみたいだしね!あんまり野放しにできないっていうのが本音だけど」
「居なくなったりしない?」
「するもんか!良いか、うちの家族はほんとに元気な奴らばっかりでさ、両親は....」
そこからは延々と家族の自慢と愚痴を聞かされた、聞けば聞くほど楽しそうな人たちだと思わされた。
そんな所でなら、僕も快く迎えてくれるのかな?馴染めるかの不安はあったけど、話が終わった瞬間、「行きたい」そう答えていた。
「分かった、そういえば名前を聞いてなかったな、俺の名前はアーサー、君は?」
「僕はロキ...よろしくね、アーサーにいちゃん」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!僕、弟が欲しかったんだよ!そういえば何歳なの?好きな食べ物は?嫌いだったり食べれない物とかってある?僕はね、実はニンジンが苦手なんだよね、だってしょうがないじゃんあれは馬が食べるものであって、人間が食べる物じゃないと思うんだよね!そういえば特殊な力を持ってるじゃん?あれって加護だと思うんだけどどんな力なの?人を操ったりする力なのかな?規模的に凄かったよね?あーちなみに僕は催眠術だったり呪いの類は効かないんだ、体質でね、だから僕はこの都市を自由に歩けたのだ!わっはっは!!!!!」
よく言えば賑やか、悪く言えばうるさい、だけどこの人といる時間が好きだ。
それからはオアシスの下で騎士になるよう説得された、僕の持つ力、その正体は『童話の加護』と判明した。
正直言って、戦争なんかに関わらず、平和に平穏に暮らしたいと思っていた、だけどアーサーの光にあてられてしまったようだ、皆の所に帰るのは、平和になった後でもいいかなと。
物語の中ではなく、現実の世界を平和にしたい、僕の力で。
アーサーには遠く及ばないけど、少しだけでも彼の力になりたいと了承した。
そして了承して直ぐに後悔した、この家の人たちは化け物だらけだ。
あまりにも過酷な訓練に度々逃げたり隠れたりもしたのだが、その都度見つかりオアシスに灸を据えられる日々、最終的には加護の力を増やすために絵本を製作の時間が欲しいと頼み込み、なんとか死は免れた。
それからは色々と楽しみながら過ごした、ウル姉の服を少しずつ短くしていつ気づくのか観察したり、トール兄には偽のラブレターを送って待ち合わせ場所で半日放置したり、アーサー兄にはお姉さん達に頼み込んで色仕掛けをかけたり、フレ姉には部屋の中で死んだフリして泡を吹かせたりと...まぁ最後には全部バレてこっぴどく怒られたけど。
それでもみんなは暖かく受け入れてくれている、もしかしたら、ここに来るよう神様に手引きされたんじゃないかとも、考え過ぎだろうか?
あぁでも、キナンの人たちには迷惑かけちゃったからな、戦争が終わったら謝りに行かなきゃ、だからこんな戦い、僕たちで終わらせよう、そう思いながら日々を過ごしていこう。
■
『 城塞都市キナンでは終戦からはや1週間が経っていました。
都市の人々は本当にあの時の、10年前に啖呵を切った少年が戦争を終わらせたことに驚いていました。
それと同時に今まで張りつめていた緊張の糸が緩んだかのように、祝宴を開いていたのです。
街の人々の顔には笑顔が溢れていました、そんな時、都市を収めるヘイムダルの下へ、一人の青年がやってきたのです。
青年の名前はロキ、この都市で発生した大事件、童話夜行の犯人でした。
彼は深々と頭を下げて言います。
「僕の犯した罪を謝罪しに参りました、あの場でアーサーが擁護してくれたお陰で、僕の力を平和のために活用しようと奮起し、ようやくですが終戦を迎えることが出来ました、遅くなってしまい申し訳ありません」
そう言うとヘイムダルは笑って答えます。
「なぁに、ワシらの心が未熟だったということさ、アーサー共々、活躍は聞いているぞ」
そう言われたロキは照れ臭そうにしています。
「僕の活躍は大したものではありません、勇者アーサーのお陰です」
ヘイムダルはそんなことは無いと言い、ロキを褒め始めました。
「何を言っている、お前さんの描いた絵本のお陰で子供たちが良い子になったのだ、それに定期的に都市へと寄付金を持ってきていたのはお前なんだろ?ロッキー・ドーワ先生?」
ロキの顔はトマトのように真っ赤に染まっていました。
「い、一体どこでその情報を...?」
決まっているだろうという顔で答えます。
「勇者アーサーだよ、彼は時々やってきては我々の助力をしてくれてな、感謝しているぞ、二人には」
こうして都市の人たちへの謝罪も終わり、ロキの物語は一端の終わりを迎えました。
めでたしめでたし。 』
■
「アーサー兄ってば、なんでバラしちゃうかなぁ...手伝いに来るほど暇なんて無かった筈なのに...」
『これ俺の弟が描いた作品なんですよ!細部の着色や登場人物の設定なんかすごく凝ってて大人でも楽しめるようになってまして!う〜ん…天才だ...俺の弟は天才だ...俺みたいな奴には勿体ないほど立派だ…。あ!でもあげませんよ!?僕の大事な弟ですからね!!それに僕らに内緒で収入を各地の孤児院に寄付したりしてるんですよぉ~~~!!いやぁ~~誰に似たんだか...俺!?俺ですかね!?うぇっへっへ!』
「なんか無性に腹が立ってきたな...」
まさかお前だったのか!?作戦と銘打って秘密裏に寄付を行っていたのだがまさかバレているとは...しかも孤児院への寄付も知ってるだなんて、アーサー兄の情報網は侮れないな。
今となっては売れっ子絵本作家へと成長したロキ、正直なところ家族の中で一番の儲けがある。
しかしその殆どを寄付している、理由は物欲というものが無いから。
それに今の生活で全てが満たされている、大切な家族、僕の作品を楽しみにしてくれている読者、それと孤児院の子供たちの笑顔、十分だ。
ただ一つだけ心残りはある、僕を引き取った二人の素性が一切不明なこと。
■
各地の孤児院を訪ねた際、ようやく僕の思い出の場所を見つけることが出来た。
先生は少し老けてて、仲の良かった子供たちも独り立ちしていたため少しの寂しさはあったものの、変わらない建物がそこにはあった。
「先生、お久しぶりです......少し老けましたか?」
「ロキ!!先生はまだ30代なの!!怒るわよ!?」
「あはは、ごめんなさい、嘘です嘘です、変わりませんね、先生は」
「あなたは変わったわね、立派になって...それにその恰好、もしかして騎士になったの?
「えぇ、まぁ。あの後いろいろとありまして、気が付いたらオアシスさんの下へ引き取られましてね」
「そうなの...良かったわねぇ...」
「先生泣かないで!今日はちょっと聞きたいことがあって来たんです」
「んんっ!ごめんなさいね、それで何かしら?」
「僕を引き取ってくれた人たちの事って、覚えてます?あのぉ....あれ?」
「覚えてるわ、二人組だったわよね?えぇと確か...あれ?顔が思い出せないわ...」
「僕もです...なんでだろ?」
「あれ...名前も思い出せない...なんでなのかしら、でも待って確か書面が......え、無い...なんで、どうしてなの?確かに交わしたはず...」
現実だった、僕が見ていた景色は確実に現実だった、にも拘らずそこへとたどり着く道標が何故か何も無かった。
何故?分からない。どうして?分からない。何のために?分からない。
■
「ふぅぅぅぅぅぅ...ようやく完成!題して!『陽光の騎士と深淵の姫』!これは人気になるぞぉ~~」
作業場として借りている1室の中で、ロキは新たな作品を生み出した。
10日前に長きにわたる戦争が遂に終わりを迎えた、その最後、主演となる二人の人物の物語だ。
「まさか二人にあんな過去があるとは...まぁそこの部分は書くなって言われたから書かないけど...いやでも書きたい!他の作品でこの設定を活かしてみるか...」
絵本製作において美術部分には自信があるものの、物語の構成、内容を考えるのは苦手だった。
だがアーサーに尋ねると聞いたことのない摩訶不思議な物語構成を助言してくれる、「長靴を履いた緑ずきん」もそうだ、恐らく前世の知識によるものだったと考えれば納得がいく。
だが人間というものはどの時代でもどんな世界でも人気になるものは変わらないのだろう、アーサーの世界と僕たちの世界が変わらないようで安心した、というかアーサーが僕たちと変わらない存在だということが嬉しかった。
「この作品が人気になれば...アーサー兄を呼び出せる...しかも僕の思いのままに...うへへ...うぇへへへへ」
小説家、それがロキのもう一つの側面、ある一定の支持層からは猛烈な人気を誇る作家となっていた。
代表作『僕の義兄がこんなにカッコいいわけがない』、幼い主人公の目の前に現れた、眩しすぎる光を放つ青年、その二人が過ごす日常と世界への苦悩を題材にした作品。
絵本という子供向け作品の物語を考えるのは苦手だが、何故かこの作品だけは湯水のように溢れてくる。
理由は明白だが、言いたくない、バレたくない、今の関係を壊したくない。
「深淵の姫にアーサー兄を取られちゃったけど、いいもん...僕は、僕にはこうするしかないからさ...」
「アーサー兄も出て行っちゃうのかな...嫌だなぁ...でも大人になるってこういうことなんだろうな...」
夕刻の鐘の音が街へと響く、子供の時間は終わりだと、そう告げられているかのように。
帰路へと就く足取りは、普段よりも重く感じた。
脳内想定の3分の1くらいしか進みませんでした、頑張ります。




