9話 友達
過去を語った後、ミスティは一言だけ口を開いた。
『アーサーは渡さない、絶対に負けないから』
揺るがない瞳で、真っすぐに。
そう言い終わると口を閉じたまま、黒竜の背に乗っている。
僕としても、ミスティとの日々を楽しみに今日まで頑張ってきた、彼女も同じ思いだろう、邪魔をされたく無いという絶対の意志を感じるが...なんだろう...別の意味もあるようだ、分かんないけど。
ミスティの事は愛しているが、ハルも好きだ、二人には仲良くしてもらいたい、この決闘が終わった後は。
無理か?無理...いやでも相性は...良さそうだと思うんだけどなぁ、同じタイプだし、いやでも水と油の可能性も...はぁ、終わってから考えよう...。
「アーサー!見えてきたわ、魔王国の首都、セガクよ!」
初めて見る他国の首都、それも敵国だった魔王国の、その光景は...荘厳、それに尽きる。
魔族は芸術に重きを置く種族だと見たことがあるが...作られた街並みを表す言葉を僕は思いつかない。
「すごい......」
芸術の分野は不得手だ、正解がないし、0から1を生み出すという行為がどうにも苦手だ。
だからこそ創作者という職業の人たちを尊敬している、芸術家、音楽家、建築家、絵本作家のロキだってそうだ、人の心を動かせる力を持っている人たちは素晴らしいと思う、凡人が何を偉そうにと思われるかもしれないが。
「でしょでしょ!私、この光景が好きなんだ、お城からだと一望できるし、それに夜景も奇麗なんだよ!」
街並みの中心に存在する城、その姿が長命たる魔族の全てを物語っているような気がした。
ミスティに聞いた所、築城されて2000年もの時が流れているそうだ、歴代の王達もこの城を築いた初代魔王ビートに敬意を表し、大規模な改装は行わないと誓っているとのこと。
だが中身はというとそこまでの決まりも無いらしく、各王毎に好きにやっているらしい、だから今の内装はニルヴァーナによるもの、迂闊な発言をしないよう心掛けねば。
城の中庭で待機している近衛兵達、僕の顔が見えた瞬間に憎悪に塗れた表情へ変わったことも気にかけておかねば......。
■
兵士たちに睨まれながらも奥へ奥へと進んでゆく、目的地は玉座の間。
ニルヴァーナの選び抜いた内装、表現があっているのか分からないが、詫び寂び、という表現が近いだろうか。
日本のお城のような内装だ、僕としては人間国のお城よりもこっちの方が好きかな、落ち着く。
「これが、ニルヴァーナさんの趣向、なんだよね?魔王城って聞いてたからもっと怖いものを想像してたんだけど、なんと言うかあれだね」
「じじ臭いわよね!?」
とんでもない暴言である、流石にそこまでは思っていないんだけど…。
「いやいや!趣があって、風情があって、品があるなぁと思っただけだよ!?」
「ほんとにぃ?正直に言いなさいよ、暗くてじめじめしてて陰気臭いって」
「そんなことは1ミリも思ってないよ!?酷いなぁ、お父さん泣いちゃうんじゃない?」
「……5回くらい泣かせちゃった…てへ」
可愛い顔で胡麻化そうとしているが...お父様が可哀想だ...。
「だって毎度毎度『どうだミスティ?この像は300年前に制作された~』やら『この眺めが良いのだ...そうは思わんか?ミスティ』とか言ってくるんだよ!?それで私が、おじいちゃんみたいだね、って言うとすんごく悲しそうな顔になっちゃって...」
「この通路も昔はお父様のコレクションが置いてあったんだけど、私が怖い、不気味って泣いたら兄様達が片しちゃって...あの時のお父様も悲しそうだったなぁ...」
己のコレクションが子供に理解されないのは、世界共通なんだろうなぁ...。
いずれ僕もこうなるのだろうか...『パパ、何が面白いの?』とか『パパ、無駄な物ばかり買わないで!』とか言われたら1ヵ月は凹む自信あるぞ...。
彼女は前世の頃からそうだった、歴史にはあまり興味がなく、見た目に興味を惹かれてたもんなぁ。
『あっくん!重要なのは映えだよ!昔よりも今!ナウが大事なんだよ!』とか言ってたし。
お父様も可哀想だ、後でさりげなくフォローしておこう。
「僕の好きなものが君に否定されたら、泣く自信があるからね、今のうちに言っておくね」
「わ、私だってちょっとは芸術に造詣を深めてきたんだからね!?大丈夫だと思う......たぶん」
城内散策もそろそろ終わりを迎えてきた、目の前には大きな扉、いかにもこの先が玉座だと物語っている。
兵士達に睨まれるのも慣れてきたのだが、扉の前に立ち並ぶ二人の偉丈夫の視線は一段と痛い。
「姫様、そ奴を捕らえる許可を下さい」
「...............ころす」
物騒すぎるだろ!それが姫の婚約者への発言か!?何も悪いことしてないだろ!
「グルーヴァズ、フラッド、私の婚約者に対する非礼はそれだけですか?」
そう言い放つと目の前の二人が震えだした、体感で分かるくらいに周囲の温度が下がってゆく。
いかん、キレてる、流石に血が流れるのはまずい。
「ま、まぁまぁ!二人だってお仕事でやってるんだから仕方ないよ、それくらいにしてあげて」
「アーサーがそう言うなら...それと二人に言っておきます、あなた達二人が束になっても、なんなら城の兵全員で相手しても勝てないと、早く扉を開けなさい」
「は、はい!失礼致しました!」
「.........うす」
ミスティが申し訳なさそうにこちらに目配せしてきた、別に気にしてないの意味でこちらも返答する。
「はぁ...アーサーと玉座に入ると思うと...憂鬱だわ...」
「ん?どうしてなの?」
「入れば分かるわ...」
何故か段々と尻すぼみに彼女から覇気が無くなってゆく、一体この先に何が待ち受けているというのか。
お父様秘蔵のコレクション?それとも歴代魔王達による混沌とした部屋?それとも特に何もないガッカリスポット?
だが全ての予想は外れた、中で待ち受けていたものは...
「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ、歓迎するぞ?この者たちの相手をした後でなぁ!」
絵に描いたような魔王が目の前に、そしてその横には5人の人物達。
「戦鬼レッド!『輪廻』のサクセション!」
「せ、戦鬼ピンク…『誘惑』のグレイ……」
「戦鬼ブラック!『操糸』のボウイ!」
「戦鬼イエロー!!!!!『情熱』のブルーハーツ!!!!!!」
「戦鬼ブラック......『終末』のミッシェル......ッ!」
「「「「我等、5星戦鬼デーモレンジャー!!!!」」」」
「れ、れんじゃー......」
各色のタイツスーツに身を纏う戦鬼達の姿......一人恥ずかしそうにしているし、何故かブラックが2人いる。
そしてその背後には............優に10mを超えるミスティの像があった。
右手の剣を高く掲げ、まるで解放の女神の如く、優雅に凛々しく立つ、美しい像が。
「え、えっとぉ...」
『ドォン!!』
困惑していた瞬間、ミスティが扉を閉めた、臭いものに蓋をするように。
......僕は一体、何を見ていたんだ?戦場で出会った戦鬼達は...兄の仇を取ろうと殺意全開で向かってきたあの人たちは?......え?こっちが素なの?ほんとに?
身内の恥部を見られたミスティの表情は...真っ赤なトマトのようだ、完熟だ。
「あ、あはは、お父様や兄姉の人たちって、素敵な人柄をお持ちなんだね」
精一杯のフォローのつもりだ、これ以上の言葉は出てこない。
それを聞いたミスティは一人、扉の中へと入っていく『私が良いと言うまで、決して扉を開けないでくださいね』その一言を残して。
中からはミスティの怒りの声が聞こえてくる、『なんでこんなことしてるんですか!』『子供の時に私がやって欲しいって言ったから?いつの話をしてるんですか!お父様達のバカ!』『いいから早く着替えてきてください!...脱げない?だったら破いてでも着替えさせます!!』そんな会話が聞こえてくる。
そして待つこと数分。
「アーサー、中に入って良いですよ...」
一仕事やり終えた顔の彼女が顔を覗かせてきた、顔には疲れの色が見える、後で抱きしめてあげよう。
中に入ると先ほどとは違い、戦鬼は各々の正装へと着替え、堂々たる姿勢で待ち受けていた。
しかし1人、恐らく発案者であろうニルヴァーナの顔色が沈んだままなのは可哀想だが……
「よく我が魔王国へ来れたものだな、勇者アーサーよ……」
そこは『よくぞ来てくれたな、勇者アーサー、いや…婿殿よ』じゃないのか?
悲しそうな表情とは裏腹に、随分と毒を吐かれるお方だこと。
しかしそんな事を気にしてはいられない、ニルヴァーナのご機嫌取りと好感度を上げるためにも……。
「急な訪問にも関わらず、最上級のおもてなしをして頂きありがとうございます、お父様。ミスティから伺いましたが、城の内装はお父様のご趣味とのこと、いやはや感服致しました。」
「ほ、ほう?」
少し顔が柔らかくなったぞ、今だ、畳み掛ける!
「城の荘厳、厳格な雰囲気を損なわせないよう、落ち着きのある作りに感じました。かと言って単純、貧相なようには感じず、品があり、お父様の雄大、威厳を感じさせるな、と。」
「そうであろう?そうであろう?いやぁ、お主、物の価値が分かる男であったか……嬉しい…嬉しいぞ……」
パーフェクトコミュニケーションだろう、先ほどまで萎びれていた顔に生気が見えている。
「それで質問なのですが、先ほどの一幕は一体...」
「なんでまた蒸し返すのよ!」
だって聞きたいじゃんあんなおもしろ現象、それにミスティが昔お願いしたって聞こえてきちゃったもん。
「ミスティが3歳くらいの頃だったか、戦鬼達でデーモレンジャーという英雄をやって欲しいとお願いされてな、儂達も興が乗って付き合っていたのだが、ある時『私がおむこさんを連れてきた時は二人でデーモレンジャーをたおすの!』と言っていてな...それで今日やったのだ、どうだ?興奮しただろう?」
「へ、へぇ~...」
「小さいころの話なのになんで覚えて...それに私もう20歳なのに...」
「20歳など子供だろうが!!!それにようやくミスティに笑顔が戻ったのだぞ!?国を挙げてでもお祝いをしようとも考えたが怒られたのでやめたぞ!がははははは!!!!」
戦鬼の皆さまもそうだそうだと頷いている...愛されてるなぁ、ミスティは。
戦場で話を聞いた限りだと、一時のすれ違いがあったようだが、それも無事解決して両者円満に仲直り。
まぁその反動で見てる方が恥ずかしくなるほどの親バカっぷりを見せつけられているが。
「それで、交流の舞台に関しての進捗はどうなっておる?それを報告しに来たのだろう?」
はちゃめちゃのせいで忘れかけていた、危ない危ない。
「滞りなく進んでおります、お父様。それと、援助をお願いしたいのです、グレイお姉さまとボウイお兄様に。」
呼びかけに反応した2人の人物、グレイ、ボウイ。
長姉グレイ、年齢は120歳ほどだと聞いた、だがやはり長命の魔族、妖艶な感じを漂わせるお姉さんという感じだ。
それにミスティには劣るもののかなりの体格の持ち主......こういっちゃなんだが、見た目はかなりタイプだ、流石にミスティの方が上だが。
父さん達からは戦場での要注意人物として伝え聞いている、催眠術を用い同士討ちさせるためだ。
なお戦場でお会いした際に、お得意の催眠術をかけてこようとするも僕の体質故に効かず、一撃で吹っ飛ばしてしまった...。
次男ボウイ、年齢は100歳ほど、クールでカッコいいお兄さん、そんな印象を受けた。そして何よりデカい、トール兄さんと遜色ないほどの体躯の持ち主、この二人のマッチアップならお客さんにも楽しんでもらえるだろう。
両手から出す糸のようなもので二体の戦闘人形を操る、対峙する際は1対1は必ず避けろと言われていた。
なお戦場でお会いした際は、こちらも一撃で吹き飛ばしてしまった、ごめんなさい。
「ミスティちゃんのお願いだったら、何でもやるわ、アタイに何をやって欲しいの?」
「俺も、何だってやるぜ?ミスティ」
「ありがとうございます、お二人にはプロレスをやって頂きたいのです」
ミスティの返答を聞いた瞬間、二人の顔が引き攣りはじめ、膝が震えている、まるでプロレスという単語にトラウマでもあるかのように。
「ミスティちゃん?やっぱりアタイ辞退してもいいかしら......まだ死ねないから」
「何だってやるとは言ったが...死んでくれと言われるのはちょっと......」
「あぁ!ご安心を!対戦相手は人間国の方々です!私とではありません、私は私で相手が居ますので」
な、なら...二人はそう言い了承してくれたのだが。
「ミスティさぁ...想像は付くんだけど、どれくらいやったの?」
「いや、その!......お二人には小さいころから練習台になって貰っててね?関節技と投げ技...それと締め技を一通り...」
「加減は?」
「あのね、最初の頃はね、上手くできなくて...時々折ったり...」
ちなみに僕も戦場で受けたから言えるのだが、確実に殺りにきていた、加護が無ければ本当に死んでいただろう。
彼女がハルとやるのかぁ...いや、流石に大丈夫だと信じたい、万が一に備えてリングサイドには母も呼んでおかねば。
「ミスティよ、先ほど相手が居ると言っていたが、誰とやるのだ?アーサーか?」
「いえ、私ではなく、人間国の女王、ハルと行います」
「その...交流の舞台なのだぞ?死人が出るのはまずいと思うのだが...」
「大丈夫ですお父様、お相手のハル様も、私と同等の力の持ち主です」
「そうか...ミスティと同等だと!?そのような者がまだ人間国に居たのか!?」
まぁ驚くのも無理はない、『アーサーがどうしてもって言うなら、うちも戦場に行くんやけどなぁ』と言ってきたために、いや結構ですと断り、お城で待機してもらっていたからだ。
断ったら『何でや!?何で!何で!何でぇ!?』と嘆いていたのだが...だって危険だし...ハルが来ると人と戦場が壊れちゃうし...ね?
「大変なお転婆でして、アーサーを己の物とするために私に勝負を挑んできたのです、無論、負ける気もありませんし、全力で叩き潰しますわ」
「ははっ!楽しそうだなミスティよ、我々も楽しみにしているぞ!」
これにてメンバー集め終了!と思っていたのだが、一人足りない...そういえばメイドのルナシーさんをお城に来てから見ていないぞ。
この前の協定の時にも見なかったが、どうしたのだろうか。
「ミスティ、あと一人のルナシーさんはどこにいるの?」
「あの子なら、今休暇を与えているの...そうね、サプライズで家に突撃しましょうか」
「そんな傍迷惑な...大丈夫なの?そんなことして」
「大丈夫よ、あの子私の事大好きだから」
ふ~ん、ミスティの事が大好き...ね。
ま、まぁ?僕の方が大好きだし愛してるし婚約者だもんね!
でも、聞いた限りだと付き合いは家族の次ぐらいに長いそうだから...聞きたいなぁ、小さいころのミスティの話、どんな感じだったのだろうか、どんな経緯で好きになったのかを。
■
「っぷはぁぁぁぁぁぁ~~~~~~」
美味い、やはり魔王国で作られた蒸留酒は最高だ、芳醇な香りと上品な甘みは何度味わっても良いものだ。
魔王国の人達は職人気質である『酒は芸術品と同じだ、時間と手間をかけてより上質なものを目指してゆく、そこに正解は無いからな』と言い続け、拘りに拘っている。
私は別に料理に関しては文句は無いのだが、姫様は毎度毎度『酒造りに拘るなら料理にも拘れ!』と怒っている、ほんっと、我儘なんだから...。
ここ数日は酒浸りの生活だ、姫様に休暇を頂いたのもあるが...。
『正式な婚姻を結んだ後、私は魔王国を去るわ、長い付き合いでいろいろ迷惑かけちゃったけれど、今までありがとうね、ルナシー』
姫様が...姫様が居なくなっちゃう!!!!!憎い憎い憎い憎い、あのアーサーとかいう勇者が憎い!
なんなんだよ突然現れて、敵のくせして姫様にプロポーズした挙句、前世で結婚を誓い合っていたんだ、なんて意味不明なことを言い出したかと思えば、姫様も申し訳なさそうに肯定し始めちゃうし...意味わかんない。
まぁ、顔はそこそこだし?姫様を御せるのはあの人くらいだから...少しくらいはお似合いだと思うけど。それでも...姫様の傍を離れるのは寂しいな、お仕えしたのはここ数年だが、出会ってから15年間、片時もお傍を離れなかったからなぁ...。
「んっんっんっ...っぷぁ!格言通りだなぁ......」
心の傷と体の傷は、酒で治る。魔王国の一部の酒飲みが多用する言葉だ。
体の傷はアルコールで消毒しなければならない、至極全うだ、傷口から化膿すれば命の危機になりうる、常識だ。まぁ酒ではなく医療用のものを使えと言う話だが。
心の傷はアルコールで治る、聞いた時は何を言っているんだ?と思ったが...今の私には必要だったみたいだ、酒を飲んでいる時の高揚感、充足感、多幸感......私の心を満たしてくれる。
飲んでいないと虚無になる...姫様が居なくなる現実を受け入れがたいために...大好きな人の傍に居れない現実が押し寄せてくる。
......身の程知らずな私を...友達と言ってくれた器の大きな姫様の...お近くに居たいなぁ。
「はぁ...姫様に会いたいなぁ...」
グラスの中ではカラカラと氷が音を立てている、主役を引き立て、小さく丸くなった氷が。
「ルナシー!!呼んだかしら!?」
家の玄関が『ドォン!』と勢いよく開いた、来訪者は...ミスティだった。
「姫様!?どうされたのですか!?」
「貴女に頼みたいことがあって...って酒クサ!?昼間っからこんなに飲んじゃって...」
「も、申し訳ございません!直ぐに酔いを醒まします!」
傍にあるティランのお茶をぐいっと飲み干す、酔い覚ましにも眠気覚ましにも使われる、魔王国に住む人たちの必需品だ。
「それで一体、何用でしょうか!?」
「貴女には、人魔交流の舞台で、プロレスをやってもらいたいの、どうかしら?」
「わ、分かりました!姫様の頼みとあれ...ぶぁ!?」
姫様の脇からにゅっと現れた人物、一度見たら忘れない、奴だ、勇者アーサーが目の前に居た。
何故か両脇に大量の荷物を抱えて。
「どうも、ルナシーさん、いやぁここに来るまで変装して来たんだけどさぁ、ミスティを題材にした品が多くて多くて、あれも欲しいこれも欲しいってやってたらこんなになっちゃって!終いにはミスティがいい加減にしろって怒っちゃったら変装バレて、大騒ぎになっちゃったんだよねぇ、あはは」
「なんで私のせいなのよ!アーサーがそんなに買うからでしょ!」
「そんな!だってこっちの物は幼少期の頃を題材にしたものだし、絶対に見せてくれないような妖艶な笑みを浮かべてる物や......見てよ!このサイズのミスティの彫刻を!なにこの作りこみ!?家宝にしなきゃ失礼でしょ!?」
「うるさい!...ふーん、そうなんだ、アーサーは普段の私には飽きてるんだ、へー」
「何言ってるのさ!今の君が一番好きだよ!?例え世界が敵になったとしても君を守るためだったら僕が戦うくらいには...ね?」
「もう、何言ってるのよ......私も今のアーサーが大好きだよ」
頼むから帰ってくれないかなぁ、このノリについて行けそうにない、酔いを醒ましたのは失敗だった。
姫様にこんな感情を抱くのは初めてだが、目の前の二人に少々の......苛立ちを覚えた。
「姫様、やはり私は納得していません!アーサー殿と......家事勝負させてください!」
「家事勝負!?な、何故かしら?」
「姫様は魔王国を出て行かれると....そう仰られました!ですが!私が居ない状況下で姫様の身の回りのお世話は不可能です!この者がそれをこなせるのかを精査させて下さい!でなければプロレスの話はお断りします!」
初めて自身のお願い...と言うよりも我儘を口にした気がする、じゃあいいやと言われる可能性も無いとは言えないが...。
「分かりました、受けて立ちましょう、勝負の内容は?」
姫ではなくアーサーが返答してきた、自信に満ちた目をしている...ふん、たかだか騎士風情がどうしてそんな自信を持っているのやら。
「場所は城内、清掃、洗濯、そして料理で勝負を決めます!」
「良いでしょう、やってあげますよ!」
「ルナシー......その...頑張ってね?」
こうして決戦の場へと向かった、私の全力で...叩き潰す!!そして、私が姫の近くに居ないと駄目だということを証明して見せる!
■
完敗した、完膚なきまでに叩きのめされた。
まずは清掃、城内の客間をどれだけ奇麗に出来るか...
「はぁ!?な...な...なんですかこれはぁ!?」
塵一つ、髪の毛一本落ちていない、しかも壁に掛けられている装飾類や絵画の縁までピカピカだ。
一人で...わずか数分で...一体どうやって......。
「勝負内容に加護の力を使用してはいけないって決まりなかったから、使ったんだけど...ダメだったかな?」
なんなんだよそれ...陽光の加護ってそんな事も出来るの?おかしくない?万能すぎない?
「つ......次です!!!洗濯を!!!!!」
■
結果は分かっていた、敗北した。
衣服に染み付いた汚れが全て消えている...兵士が戦場で使用していた物まであったのに...長期間放置していた物が新品同然になっている...。
しかも天日干ししたかのようにお日様の匂いまでさせてくる、そしてこのたたみ方...業者か?業者がやったのか?皺一つ無く、全て均一にたたまれている...。
「次!つぎ!ツギ!!!料理!料理をお作り下さい!!」
料理には加護の力は使えまい、今度こそ...勝つ!!
■
「な、なんだこれは!?美味い、美味いぞアーサーよ!!人間国の料理はこれほどに美味いのか!?」
えー、結果、惨敗。
公平な審判のために魔王様、戦鬼の方々にお願いして味見をして貰ったのだが。
「ありがとうございます、あまり大層なものは作れませんでしたが、お口に合って良かったです」
土鍋を貸してほしいと言うからスープでも作るのか?と思っていたのだが、違う。
具材をふんだんに使用したもの、鍋料理と言うものらしい、先ほどから魔王様たちが我先にと自らの皿によそっている。
中身は魔王国で取れる食材しか使っていない、にも関わらず、なんだこの匂いは、一度も嗅いだことが無いぞ、一体何を使って...?
「ルナシーさんもどうぞ、やっぱりお鍋はみんなで食べると美味しいですからね」
そう渡され、一口食べてみる......美味しい。
魔王国で生きてきて、人生で初めて、美味しいという感情が湧き上がってくる...姫様は毎日料理に文句を言いながら食べていた、やれ下ごしらえが、味付けが、と。
今なら言っていた意味が分かる、これが...本当の料理なのだと。
私が作った魔王国の伝統的な料理、鰻の煮凝りも、豚肉と豆のスープも、甘藷と牛蒡と蒟蒻の和え物も...全て...全て紛い物だ、だから姫様は...料理と言う物を知っていたから姫様は言っていたのか。
「うぅ...完敗です...美味しすぎますぅ...」
「ほんとに?良かったぁ、今回は味噌ベースに作ってみたんだけど、醤油ベースやトマトベースも今度は作ろっかな」
聞いたことが無い単語が出てきている、後で知ったが、アーサーが自力で味噌、醤油という調味料を開発したらしい。
開発期間は10年の歳月をかけたと、何故そこまで拘るのか聞くと。
『だって、ミスティと一緒に食べたかったから、かな』
だそうだ、流石は20年間思い続けた男だ、私なんかじゃ到底歯が立たない。
いつの間にか周りでは酒盛りが始まっている、魔王様達、普段の5倍くらいははしゃいじゃって...。
「アーサー...様、私の完敗です...プロレスの件、お受けいたします...」
「ふふーん、これでミスティの隣に相応しいと評価を貰えて、嬉しいよ」
「流石は、20年間も思い続けておられた方ですね......私と姫様の過ごした日々なんて...」
「そうだ!聞きたかったんだけど、ミスティとはどんな感じで知り合ったの?やっぱりボコボコにされて子分になれ!とか言われたり?それとも身内の弱みを握られてるとか...」
「いえ、そんなことは!!私と姫様の出会い...ですか」
■
遡ること15年前、当時の私は虐められていた、半虫半魔だったという理由だけで。
「この虫野郎!虫なら虫らしく地べたをはいつくばってろ!」
2人の魔族の男子に殴られ蹴られ、ボロボロになっていた、その時だった。
「おい!そこのクソガキども!何してる!」
私と変わらない年齢の女の子、黒いドレスを纏い、角と尻尾を持つ少女。
「あぁ!?なんだお前、俺様たちが何やろうと勝手だろうが!このブス!」
「クソガキはそっちだろ!帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
次の瞬間......目の前で殺戮が起きた。
年上の魔族の男子たちを片手でちぎっては投げ、顔面に頭突き、腕を相手の喉元へとぶつけ、肘鉄、両足で飛び上がっての顔面蹴り...ダイナミックでパワフルな動きでボコボコにしていた。
「ひょまぇ...わかっちぇるのか...おりぇしゃまは、まおうぐんかんぶ、スピッツのむしゅこなんだじょ...」
息は絶え絶え、顔面は赤く腫れあがり、満身創痍になりながら、目の前の少女に己の父の権威を振りかざした...だが、相手が悪かった。
「そう、なら覚えておきなさい、私の名前はミスティ、ニルヴァーナの娘よ」
ドレスに汚れ一つ付いていない彼女の姿は、先ほどまでの暴君とは違い、気高く凛々しく立つ、女神のようだった。
「おい!グルーヴァズ!こいちゅ...暴君姫だ...!おれたち...ころしゃれりゅぅぅぅぅう!!!!」
ボコボコにされ、地べたに這いつくばる少年たちの足元には水たまりが出来ていた、だがそれでもミスティの眼光は鋭い。
「良い?今度虐めなんてダサいことやってたら、今回の比にならないくらいの恐怖をあなた達に与えるわ」
「ひゃ、ひゃい!分かりました!」
「しゅみましぇん!もうしましぇん!」
「私じゃなくてあの子に謝りなさい!殴るわよ!!」
「「ご、ごめんなしゃい!!」
そう言うと二人は慌てて逃げだした、残った少女、ミスティは私に手を差し伸べてくれた。
「貴女、大丈夫?怪我はしてない?」
「う、うん、だいじょうぶ、わたし、がんじょうなのがとりえだから...えへへ」
虫人の血が入っているからこそ、体が頑丈なのが私の良い所だ、お陰で今まで骨が折れたこともないし、逆に相手が怪我しちゃうこともあった、逆上してもっと酷い目にはあったけど。
「貴女...もしかして虫人族なの!?」
そう言う彼女の目は輝いていた、今まで奇妙な目で見られはしたが、こんな風に見られるのは初めてだった。
「うぇへへ、そうだよー、半分だけどね、だからね、けがひとつしてないんだー」
「すごい!それにその触覚は...蟻人なんでしょ?本で観たから知ってるわ!可愛い触覚...良いなぁ、私もこんな角じゃなくて貴女みたいな触覚が欲しかったわ...ねぇねぇ、その触覚でさ、人のフェロモンを感知たり出来るんでしょ?それにそれに.......」
そこからは質問攻めだ、人に不快感を抱かれるのは慣れていたが、興味を持たれるということが始めてだったので、少し照れ臭かった。
「そうなんだぁ......あっ、そうだ!貴女の名前を聞いてなかったわ!私はミスティ、貴女は?」
「わたし、ルナシーって言うの、でもね、友達はトロちゃんって呼ぶんだ~」
「へぇ、可愛いあだ名ね、どうしてトロちゃんなの?」
「ん-っとね、動きが遅かったり、頭が悪いからね、とろくさいって意味でトロちゃんなんだって」
「そう......」
意味を答えた際、ミスティの目が悲しそうだったのを今でも忘れない。
「わたしね、おにごっこやって罰ゲームで体中にお絵描きされたり、かくれんぼやってたらみんなをみつけられなくて夜になっちゃってたりするんだー、えへへー」
「......ねぇルナシー、私と友達になってくれない?」
「んぇ?もう友達じゃないのー?」
「あはは、それもそうね、ごめんなさい。もし良かったらさ、普段一緒に遊んでる友達のことも紹介してくれないかなぁ?」
「いいよー、みんな驚くだろうなぁ、こんなに奇麗な子を連れて行ったら」
ミスティをみんなの集う公園へと連れて行くと、夏なのに何故か寒気がした。
『ルナシー?ちょっとこの子たちとお話があるから待っててくれる?』
離れた所で会話している彼女たちの姿は...ミスティ一人に大勢が萎縮しているように見えた。
話が終わり戻ってくると、全員が謝罪を始めた、私をバカにしていたことを、気づかないだろうと遊びの途中でみな帰っていたことを。
ミスティが私のために怒ってくれた、怒られることはあったが、私のために怒ってくれたことが...嬉しかった、
そして...カッコよかった、彼女の事が好きになってしまった。
それから時々、ミスティと遊ぶようになった、ある時、彼女の家へ遊びに行くことになった、のだが...。
「ふぇ?...ここ、魔王城...」
「言ってなかったっけ......私、魔王の娘なのよ」
「んえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!??!??!?」
無学、無知故の失態だった、魔王様の娘...つまりお姫様だ、だからみんなは萎縮していたのだ。
「ミスティちゃん...いや、ミスティ姫様!今までぶれいなはつげんごめんなさい!」
私が持ちうる礼儀作法の全てを活用して謝罪した、だがお姫様に対しての今までの非礼...もしかしたら死刑になるかも!?
「別に気にしてないし、変に気張らなくても大丈夫だよ?」
「ほ、本当ですか?ミスティ姫様......」
「あーもう!友達なんだから、姫様呼びと敬語禁止!怒るよ!?」
「ひゃ、ひゃい!......んじゃあ...ミーちゃん!」
「......そう呼んで良いのは一人だけだから...別の!!」
「ぬぅ...じゃあ姫ちゃん!姫ちゃんならいいでしょ?」
「姫は必要なんだ...じゃあそれで!行こ、ルナシー!」
「うん!姫ちゃん!」
どうやら彼女が友人を連れてくる事態が初だったようで、私の種族も、身なりも関係なくお城の人達は出迎えてくれた。
お城の人に言われて知ったことだが、彼女の身分、そして加護と呼ばれる力によって、周りに友人が居ないそうだ、私の図太さと無知がこんなところで役に立つとは思ってもみなかったが。
彼女の過ごす日々...それは異常だった。
お姫様と言う存在は、どちらかというと象徴のようなものだと思っていた、可愛い、奇麗、そんなイメージだ、だが彼女は違った。
幼いながら、戦争に向けて日々鍛錬に明け暮れる日々、大人の人達も自慢げ、というより心配していた。
どうして強くなろうとするのかを、彼女の部屋で聞いたことがある。
「戦争を終わらせて...会いたい人がいるから...かな?」
彼女の視線は、部屋に掛けられている絵に向けられていた。
その絵には少年が描かれていた、儚げな、でも浮かべる笑顔は...素敵だった、誰を描いたのか聞くも、教えてはくれない...見た所人間族のようだが、誰なのか不明だ、でも私も、ちょっと会ってみたい。
戦争を終わらせたいと思う彼女を支えるため、私は彼女に弟子入りした、強くなりたい、自分を変えたいと思って。
それと同時にお城のメイドさんに師事を受けた、彼女の傍に居たい、これからもずっと。
私に友達の意味を教えてくれた、優しくて、素敵で、可愛くて、カッコいい彼女の隣に。
■
「と、こんな感じです、どうです...うわ...」
ミスティとの出会いを話し終えて、アーサーを確認するも...正直言って気色悪い笑みを浮かべていた。
いやこの人勇者だよね?ちょっと...引くわ...。
姫様が語っていたが、アーサーは勇者を演じていたとのこと、だから今のこの姿が素なのだろう。
「いやぁ、ミスティがね?そんなに小さな頃からイケメンなことやってたのかと思うと嬉しくて嬉しくて...それに絵画の少年って多分僕の事でしょ?うぇへへ...うひひひ...」
恐らく彼らのいう前世での姿だろう、にしても...あの少年が、今この目の前に居る変人勇者になったのかと思うと、がっかりだな...。
「んねぇ~~~あーさーたちぃ~~なにおしゃべりしてりゅのぉ~~~」
「いや実は君とルナシーさんの出会いを...って酒くっっっっっっさ!!!!!」
魔王様達と酒宴を楽しんでいた姫様が乱入してきた、見事なまでの出来上がりっぷりである。
終戦を迎えるまでは私が酒のお供をしていた、その時ばかりは無礼講、主君ではなく友として相手をしていた。
だが終戦を迎え、家族の蟠りが解けてからは家族で毎日のように飲んでいる。
魔王様達は酒が好きで尚且つ強い、姫様も例に違わず酒豪だ、超が付くほどの。
最初の内は酒なんて...と嫌っていたのに、一度飲みだすと止まらなくなっていた、意味不明だ。
それなのにも関わらず、二日酔いでグロッギーな姿は見たことが無い、鉄の肝臓ってやつだ。
「わたすぃとぉ、りゅなしーのであいわぁぁ~~~~んん~~~りゅなしーしゅきしゅきぃ~~!!!」
「あぁ、はいはい、姫様ありがとうございます、ありがとうございます」
「でもでもぉ~あーさーもだいしゅきしゅき~~らびゅらびゅ~んふふふふふ、だいしゅきぃぃぃ!」
「あの...ルナシーさん?ミスティってお酒飲むといつもこうなの?」
「えぇ、まぁ。でも今日は普段と違いますね、普段だったら泣き上戸に怒り上戸なんですが、甘え上戸なのは久しぶりですね」
普段であれば『私ともう結婚してくれないぃぃ!!』とか『奇麗な女が出来てるんだろ!そうだったらぶっ殺す!』と負の方面で感情が爆発していたのだが、今日は嬉しそうだ、やっぱりアーサーが居るからだろうか。
だが彼女は...酔っている時の記憶が無い、一度暴れに暴れて魔王様達をボコボコにしたことがあった、翌朝目覚めて惨状を目の当たりにし、『誰がこんなことをやったの!?』と驚いていた。
城の全員が心の中で思っていた『貴方です、姫様』と。
その時ばかりは魔王様や戦鬼の方々に、酒はほどほどにしてくれと頼みこまれていたが。
「にゃにふたりでにゃかよくしてるの!!!わたしはひめさまにゃのよ!ひめさまのめいれいは~~ぜったい!わたしもまぜなしゃい!!!!」
「ええと、加護の力で酔いを吹き飛ばす事も出来るんだけど、やった方がいいかな?」
「いえ、大丈夫ですよ、姫様とっても嬉しそうなので」
「アーサー様、夜も更けて参りましたので、お部屋の方へとご案内させていただきます」
そろそろ疲れてきた、家事対決と酔っ払いの対処で疲労が限界を迎えそうだ。
「あ、あぁ、ありがとうございます、えっと...ミスティの方は...」
「私がお部屋へ連れて行きます、それではご案内を」
「んぇぇ!!!あーさーといっしょにねる!ひめさまめーれー!ひめさまめーれー!!」
しようとしたら乱入者、というか泥酔者の登場である、姫様の事は大好きなんだけど絡み酒もここまでいくとちょっと......。
あーもう面倒くさくなってきた、別にいっか、この人たち恋仲だし気にしない、というか場を作ってあげればいいや。
「分かりました姫様、ではアーサー様、私に着いてきてください」
「え?」
3人で姫様の部屋まで行く、移動中アーサーは困惑した顔を浮かべていたが姫様命令なので逆らえない。
「では、ここが姫様の自室です、私はこれで」
「えっ!ちょっと!ルナシーさぁぁぁぁん!!!!」
後片付けもまだまだある、後ろで聞こえる勇者様の声に親指を立てながら、私は走り去った。
■
「あーさー...んふふ...あーさー...しゅき...だいしゅきだよぉぉぉぉ...」
ミスティの自室の前へ取り残されてしまった、というかどう見ても酔っぱらいの対応が面倒くさくなって擦り付けた感じだ。
.....え?僕の寝るところは?まさかミスティと一緒に?
いや僕だってミスティに会えるのを20年間待ち望んだよ?結ばれて上手く事を運んでその先に行こうと思ってたよ?今?今この瞬間、このタイミングなのか??
泥酔しきったミスティと?ムードもへったくれもないこんなタイミングで?
昨日だってあわよくばと思ったよ?でも母さんたちにミスティが攫われて一人寂しく寝たのに?
「あーさー、おへやはいろ、たってるのつかれてきちゃったぁ~んふふ~~」
人の気も知らないで...だが行くしかない、乙女の花園、ミスティの自室へ!
「お邪魔しまーす...うわぁ...」
ミスティの自室、そこは物で溢れていた。
書籍に布の掛けられた恐らく彫刻のようなもの、絵画に...なんだ?ガラクタのようなものまで、多種多様だ、そして...。
「やっぱり脱ぎ散らかしてる...変わってないなぁ」
前世の頃からそうだった、ミスティ...みーちゃんは片付けが苦手だ、というかやらない、そのせいで母親に怒られていた。
平気でベッドの上に下着を置いていくから目の毒なんだよなぁ...言っておくけど僕は一切触れてない、断じて触れてない。
ベッドはキングサイズで天蓋付きの物、マジのお姫様みたいだ、いやお姫様なんだけど。
なんとかベッドに寝かせることに成功、衣服は...下手に触ると壊してしまいそうだ、こんなことなら女性の衣服の着脱方法を学んでおくべきだった…。
「んにゅぅ...あーさー...」
だがまぁミッション完遂、僕の寝る場所は...床でいいか、数時間の辛抱だ、これくらいどうってことない、そう思った次の瞬間。
「なにしてるのぉ、いっしょにぃ、ねよぉ~~」
強引にベッドの中に引きずり込まれてしまった、腕と両足をロックされてしまい、抱き枕ならぬアーサー枕へと早変わりしていた。
「んぐっ!ミスティ...くるじぃ...ちょっと緩めて...」
僕の悲痛な叫びも虚しく、体の拘束は徐々に徐々に強くなっていった。
「だめぇ...もういっしょう、ずぅ~っと、いっしょなんだからねぇ...ひめさまめいれいだから...」
その言葉を最後にすぅすぅと寝息を立て始めた、綺麗な寝顔だ、見てるだけでドキドキしてくる。
「はいはい、僕はもうずっと君の側に居るよ...おやすみ、大好きだよ、みーちゃん」
首を伸ばしてなんとか唇に触れる、触れた瞬間、彼女の顔が緩んでいた。
...うん、動けないや、もうこのまま寝てしまおう、僕も流石に疲れた。
なお翌日、ミスティが目を覚ますと何故か裸になっており、己の腕枕の中にアーサーを確認した後
『え...!?嘘でしょ...はじ...はじめてが...え?...私、何も覚えて...そ、そんなぁ...』
悲痛な呻き声を上げたのは彼女しか知らない。




