12話 開幕
「ついに!この日が来たぁ!!」
会談から1ヶ月後の今日、人魔交流の催しが行われる日となった。
長いようで短い1ヵ月、準備は万端、後は楽しんでもらうだけ。
「おいアーサー...なんだこの都市は...本当に不毛の大地と呼ばれたヴァルハラ平原なのか?」
「これを二人で成し遂げたというのか...ははっ、我が娘と義息子ながら、規格外よ」
オーディンとニルヴァーナが驚嘆の声を上げていた。
それもそのはず、何も無かった平原に、突如として都市が出来ていた。
交流都市ヴァルハラ、その街並みは数千を超える家屋と商店が立ち並び、人の賑わいに溢れていた。
そして、都市の中央に建つ半球状の巨大建築物、この都市の目玉だ。
「大まかな部分は僕達でやったんですけど、細やかな部分は魔族の方々に手伝って頂きました、美的センスがあまり無いものでして...たはは...」
ミスティの加護を僕の加護で強化して建築物を次々と建てたのは良いものの、街作りのセンスは無かった。
魔王国随一の建築、土木関係者を招いてあーでもないこーでもないと試行錯誤の末に完成した。
よくもまぁこの規模を二週間で作れたよ、ほんとに。テレビでよく聞いていたブラック企業とやらも真っ青だろう。
「都市の中心に立つあの建物は一体...?」
「あれですか?まぁ簡単に申しますと、競技場です。今回限りで終わるつもりはないので、多種多様な催し事が出来るよう、巨大に仕上げました」
「なるほどな...魔王国のコロシアムに似ているものの、屋根まで覆うとはな、雨風を凌げて良いが...中は暑くないのか?」
「ご安心ください、ミスティの力を用いて快適な環境を作り上げています」
ミスティの深淵の加護、その一つに物体生成の力がある。
通常の家屋であれば、たちまち完成品が目の前に生み出される、流石にドームは僕の補助が無ければ生み出せなかったが。
そして他にも生み出された物...エアコンだ。だが彼女は内部の構造全てを熟知しているわけではない。
生み出されたエアコンの中身は何も無い、しかし何故か温風も出すし冷風も出す、電気を用いて動いているわけではない、ではどうやって?......不明、とにかくなぜか動く。
エアコン状の箱を生み出せばエアコンの機能を有し、カメラのようなものを生み出せば写真が撮れる、洗濯機も、掃除機も、ドライヤーも。
理屈や過程を吹っ飛ばし、結果だけを出してくれる......羨ましい......ミスティの自室に大量の現代家電が置いてあった時は目が飛び出そうになった。
「さ、では参りましょ」
「アーーーーーサーーーーーーくぅぅぅぅぅん!!!!!」
「ぐぼぇっ!?」
国のトップ二人を案内しようと歩み出そうとしたその時、腹部に人が突き刺さった。
ここまでのわんぱく坊主は一人しか知らない。
「マー...お前...タイミングを弁えろ...」
「だってアーサーくん終戦してから全然城に来ないじゃん!」
天を仰いでいると影が覆いかぶさってきた、マグ二がいるならこいつもいるか。
「マグ、アーサーくんに会えなくてずっとうるさい、どうにかして」
「モー、お前がどうにかするんだよ...」
マグ二とモージ、テュール団長とスノトラの子供にして双子の騎士にして王の間を守護する者。
幼少期は城で共に遊んでいたので懐いてくれている...くれているが懐かれ過ぎた。
時々遊んでやらないと直ぐにこれだ、もういい年なんだから少しは勘弁してほしい。
「マグ二、モージ、お前たちもいい年なんだからアーサーにべったりは辞めろ」
そうそう、普段であればテュール団長がこんな感じで注意してくれるんだよ......ん?やけに声が高い、というよりも幼い?
声の主を確認する...少女だ、何故か騎士の格好をして背中に背丈と変わらぬほどの大剣を背負った少女。
「「はーい」」
素直に返事をする二人に疑問が生じる、この二人が注意を受け止める?一体誰なんだ、初顔だぞ?
「あはは、ありがとう、えーと...騎士団のファンの子かな?親御さんは一緒じゃないの?」
「ふんっ!!!」
そう問いかけた瞬間、少女の蹴りが股間に突き刺さった、それと共に周囲の人たちが爆笑している。
「おいアーサー、お前、オアシスの馬鹿やネルトゥスに何も聞いていないのか?」
「んおぉぉぉ.....なんで父さんや母さんの名前を...まさか...!?」
「俺だ、テュールだ」
少女の正体、泣く子も黙る騎士団長、テュールであった。
■
「えーと、整理しますね?団長は終戦まで腕を治さなかったのには理由があって、その理由が師匠の敵討ちの気持ちを忘れないため、と。そして終戦後にサクセションさんとの一騎打ちに勝利して、一応のリベンジには成功。そして性転換覚悟で腕を治してもらったら何故か少女の姿になっていた...と」
「そうだ」
「ええとですね...なんで父さん母さんはこんな重要なことを教えてくれないんだぁぁぁぁぁ!!!」
「いつものことだろ」
毎度毎度、父さん母さんときたら...自分たちの人生にあまり影響を与えない事案は放置するんだから...。
それにしても...。
「その、運動能力に関してはどうなんですか?やっぱり筋力が低下していたり?」
腕を治す事を躊躇っていたもう一つの理由だ、やはり女性になると筋力は低下する、逆だと上がるが。
正直に言って剣さえ振れなさそうな華奢な体つき、にも関わらず、騎士の格好をしている。
「それがな...何故か以前と変わらないんだ...こんなことならさっさと治療しておくべきだった」
マジかよ...なんで?なんで?神様の気まぐれ?
駄目だ、考えれば考える程に頭が痛くなってきた、鬼の団長が可愛らしい少女へ変貌した事実が受け入れられない。
そういえばもう一つ、聞かなければいけないことがあった。
「ええと、スノトラさんの反応は...?」
「あいつは...」
『えっ...!?かわっ......しょ、しょうがないなぁ!服買いに行かなあかんな!』
「そこから5時間、代わる代わる服を着せ替えられた...地獄の時間だったよ...」
し、死んだ目をしている...スノトラさんは事ある毎に娘が欲しかったと言っていたからなぁ...。
「んぐっ!あの時の母さん......はぐっ!......見たことないくらいはしゃいでたもんなぁ....おかわりっ!」
「はむっ...むぐっ...やばかった、あむっ...俺達男で本当に良かった......けぷっ」
2人は魔王国で獲れた鰻を調理し、うな重風に仕上げた料理をバクバクと食らっていた。
父親が少女になったというのにこいつらは...。
「あの鰻がこのように...美味い...美味すぎるぞ」
「これが調理なのか...我々も食事を学ぶべきなのかもしれませんね、父上」
サクセションも到着し、一行には食事をとってもらっていた。
魔王国では人間国には無い食材が多数存在していた、その一つが鰻。
前世では食べたことが無かった、美味いという話は聞いていたので、前世で得た知識をフル稼働しなんとか調理に成功。
十二分に美味い、だが鰻職人の川尻さんが言っていた。
『串打ち3年、裂き8年、焼き一生。鰻はな、美味いぞ、俺のとこで食ったら他じゃ物足りなくなる!』
見様見真似で作ったものでこのレベル、恐らく人間国の料理人の技術でより良くなるだろう、30年後にはもっと美味い鰻が食べれると思ったらわくわくしてくる。
「いいでひゅか!あむ!どんなものでっ....んっ!んっ!...みず!みずちょうだい!......っぷぁ!使いようですよ!」
「アーサーくんが一番食べてるし...」
「食い意地張りすぎ、お腹壊すよ?」
「いいか、マー、モー。鰻はな...疲れを取ってくれて、スタミナも付けてくれる最高の食材なんだぜ?」
「「まじ!!」」
そう言いながら黙々と食べ続ける二人、この二人には大事な役目があるからな。
それともう一つ、尋ねておかねばならないことがあった。
「それはそうと......ハルの様子って...どうなってる?」
そう問いかけた瞬間、二人の手がピタリと止まった。
「ええと...この間、修練場がね?半壊しちゃって...」
「姫様、女子選手じゃ物足りないからって男子ともやってて、全員ネルトゥスおばさん送りになったよ」
「......ちなみに、何位まで?」
「2位まで...」
ということはトール兄さん以外の全員を叩きのめしたのか...この二人も付き合わされたのだろう、顔から恐怖が滲み出ている。
ミスティがニコニコしながら手紙を書いていたが、絶対変なことを書いたんだろうなぁ...。
「姫様があそこまで本気になってるのに、試合見れないんだもんなぁ」
「俺達の扱いが雑、戦争の時だってアーサーくん一人で終わらせちゃうし」
「お前たちにしか警護の任を頼めなかったんだよ、ありがとな」
戦時の際は第二陣として後方待機を任せていたので、活躍という活躍をさせては上げられなかった。
事が済んだ後には散々恨み節をこぼされたが...だって仕方ないじゃん!怪我なんてさせたりしたらスノトラさんが悲しむだろうし!
そして今回、都市の入り口は北と南の二ヶ所、開催中は手薄となるため一応配備した、流石にこんなタイミングで喧嘩をふっかけてくる輩は居ないだろうとは思うが。
北にはマグ二、モージの二人、そして南には...。
「サクセション様、門の警護など我々だけで足ります、あのようなクソガキ共は菓子でも食ってるのがお似合いです」
「.........ふよう」
魔王国の玉座の間を守護する者、グルーヴァズとフラッドの二人。
「我もそう思うが...本当にあのような若者で大丈夫なのか?」
「ご安心くださいお義兄様、あの二人は強いですよ」
「どうだか、下の毛も生え揃っていないおこちゃまだろ」
「.........ひよこ」
その言葉に反応したのはクソガキ、おこちゃま、ひよこ...ではなくマグ二とモージ。
「アーサーくんに全部持っていかれちまったけどよぉ!俺達が居たらおめーら全員ギッタンギッタンだからなぁ!?」
「年食って角生やしてちょっと力が強いだけでしょ?人と変わんないじゃん」
「あぁ!?」
「......あ?」
やばい、殺し合いの匂いがプンプンする。
だが止めようとした瞬間、四人を上回る殺気がそれをかき消した。
「おい、マグ二、モージ、調子に乗るのもいい加減にしとけよ」
「「......はい」」
「それとそっちの二人に忠告しておく、こいつら二人であれば、俺より強いぞ」
テュールの圧に立ち上がっていた4人は既に座していた。
この人、少女の姿になっても殺気や圧が昔と変わらないんだけど...下手したら以前よりも強くなってるんじゃ。
「お主が言うなら文句はない、それよりもその姿にリベンジしたくはなってきたがな、わはは!」
頼むから収まった殺気をまた出さないで欲しい、周囲の一般人がびくびく震えてて可哀想だ。
そろそろ会場の方へと移動しなければな...。
■
「微笑ましい光景だな、ニルヴァーナ殿」
「あぁ、全くだ」
「殺し合い寸前のようにしか見えないのですが...」
遅れて昼食会に到着したは良いものの、どう考えても目の前で殺し合いが始まる匂いがして食事の味が分からなくなっていた。
目の前の王達は既に出来上がっている、記念すべき日だと言うのにこの二人は...。
「何を言うブラギよ、ついこの間まで殺し合いをしようとしていたのだ、それが未遂で終わっている、大きな進歩じゃないか」
「両国とも未だ血の気が多い者が多数いるのう、定期的に試合でもする方が良いのかもな、わーっはっは!」
「は、はぁ...」
進歩...と呼んでも良いのかもしれない。ここに来るまでにも人族と魔族でぎこちなくはあるものの、交流が進んでいる。
人族は魔族の芸術品に、魔族は人族の食事に、互いに惹かれ合っている、良い場所だ。
だがそれは一般人の話、兵士ともなればガンを飛ばし、挑発行為を繰り返している、ガス抜きも必要か。
「時代の節目だな...オーディン殿が羨ましい、優秀な後継者がおられて、儂の子供たちは少しばかり血の気が多すぎる」
「ははっ、何を仰る、こやつは頭の方は良いが、いかんせん人望が無くてな。アーサーがハルのもとへ来れば次期王にしたかったくらいだ」
「うははは!すまんな、儂のミスティが取ってしまって!」
「はいはい、どうせ私は学しか取り柄がありませんよ...」
体を動かすことは妹のハルに全部持っていかれてしまった、だからという訳ではないが勉学には人一倍取り組んだ。
剣もまともに振れず、弓を引けば明後日の方向へ飛んで行く、カッコ悪いのが俺だ。
正直言って、ハルに王の座を渡して裏方に徹したくなる、俺には日陰が似合っている、アーサーやハルのような眩しい太陽によって作られる陰が。
「だがなぁ!」
その時、肩をドン!とニルヴァーナに掴まれた。
「国を、国民を豊かに、守るためには頭が必要だ。力しかない儂も散々助けられた、だがな、王が全てを理解した上で決めねばならん。どれがよいのか迷った挙句、手遅れになった事案も多々ある、王の判断が全てを左右するのだ」
「私は...良き王になれるでしょうか?」
激励にも似た、自身の経験談による王の責務。
この人なら、王に相応しいのか見極めてくれるかもしれない。
ニルヴァーナはグラスに注いである酒をグイッと飲み、胸を張りこう答えた。
「知らぬ!」
肩から崩れ落ちてしまった、期待した俺がバカだった。
「評価など、芸術でもそうだ、死んだ後に後世の者が決める、あの世で気長に待つと良い、がっはっは!!」
ぽかんとしていると、もう一人の王が茶々を入れてきた。
「ブラギも王になる自覚が芽生えてきたようで良かった、俺はもう退位して、このヴァルハラで気ままに過ごすとするかぁ」
「何言ってるんですか父様!?まだあと10年は早いです!まだまだ問題は山積みなのですから!」
ニルヴァーナも、儂もそうするかぁ!と乗ってきている、非常に面倒だこの親父共は。
「冗談だ、若者たちが次代を作ろうとしているのだ、面倒事を処理するのが老人たちの務めよ」
「そうだなオーディン殿、まずは...というよりも、まだ魔王国内のゴタゴタが終わっていなくてな」
先ほどまでとは打って変わって、真面目な顔になっていた。
「戦争継続派の行方が掴めなくなっている、数はそれほどでもないのだが、歴戦の武闘派共だ、何をしでかすか分からん」
「もしかしたら、今日と言う日に襲撃してきたり...とかでしょうか?」
「ありえるかもしれん...だが、ここには両国の猛者達が待ち構えている、例え七国最強の竜人国が攻めてきたとしても絶対に...いや、いい勝負だな、だが負けはせんよ」
流石に考え過ぎか、この地には両国の騎士、戦鬼、そしてアーサー、ハル、ミスティがいる、こんな所に殴り込みをかけてくるのは愚か者か自殺志願者だけだろう。
「やれやれ...何事も怒らぬことを祈るよ」
一抹の不安を抱えた三人だったが、喧騒の声に緊張の糸が緩んでしまった。
『てんめぇ!もっぺん言ってみろ!勝つのはうちのハル様に決まってんだろ!』
『愚かな、ミスティ様が圧勝するさ、お前たちはミスティ様を知らぬからそんなことが言えるのだ』
『あんた達もハル様のこと知らないだろ!遊びで天井近くまで高い高いされた経験が無いくせに!』
『はっ!何を言うか、俺達は5歳のミスティ様に小便を漏らすまでボコボコにされた挙句、土下座して軍門に下ったのだ、格が違うよお前たちとは』
『グルーヴァズ......それ、誇れることじゃ無い......』
『小便だなんて、アーサーくんがハル様に締め落とされた時に出してた、おあいこだ』
『なんで唐突に僕へ矛先向けるの!?』
また盛り上がりだしてるよあの悪ガキ共、まったく、何時まで経っても子供の頃のままだ。
「そろそろ会場の方へ移動するか、ここだと周囲の迷惑にしかならん」
「オーディン殿よ、続きは我の秘蔵の品で行うとするか」
「流石はニルヴァーナ殿!こちらも多数持ってきた、まだまだ飽きさせんよ、わっはっはっは!」
開演までまだ半日はあるというのに...頼む神様、どうにか今日というめでたい日を無事に終わらせてください。
■
ううむ...足取りが重い、重すぎる。
いや、1ヵ月ほど会っていないだけだ、うん、大丈夫だ、いつもの感じで行こう。
「やぁハル!調子はどうだい?会場は超満員でさ、みんな楽しみに...」
しているよ、そう言いかけた瞬間、息をのんだ。
目の前には頭からタオルを被り、上半身から湯気が立ち上っているハルが座していた。
それに何故か上半身裸で。
「ごめん!服着てると思ってて!ノックをしなかった非礼を許して!!!」
すぐさま後ろを振り向き、言い訳と謝罪の言葉を口にした、何事もすぐさま非を認めて、謝るのが社会での通例だ。
「ん?あぁ...ええよ...ごめん、服着てなくて」
そう言うとペタペタと足音が室内に鳴り始めた、どうやら上着を着てくれるようだ。
「うん、ええよ、こっち向いて」
そう言われ振り返った、しかし。
「ちょっ!?服着てないじゃん!」
タオルを肩にかけ、要所は隠しているものの、依然としてその姿は裸となんら変わりなかった。
一瞬だけでもその姿を視界に入れたのが不味かった、端正の取れたプロポーション、引き締まった筋肉と出るとこはきちんと出ている女性らしい体、ショートの髪の下には吸い込まれるようなツンとした目。
その姿に、不覚にも可愛い、と思ってしまった。
「どうして目ぇ逸らすん?うちとアーサーの仲やん」
上目遣いで覗き込んでくる彼女に、こんな気持ちを抱いてはいけないはずなのに...ドキドキしてしまう。
「いや...そういう訳ではないんだけど...」
「そう...うちのこと嫌いなん?」
「何を言って!?そんなことはないよ!ハルは...大事な...大事な友達...だよ」
そう答えると、何故か彼女の顔は曇ってしまった。
「なぁ、アーサーはさ...専属騎士は、やりたくないんやろ?」
「まぁ...やりたくはない、かな。僕はもう十分人間国に貢献したつもりだし...彼女との...ミスティとの生活を心待ちにしてたし、ね」
「そっかぁ...だったらさ、うち、負けたげようか?」
彼女の思いもよらぬ発言に、逸らしていた両の目で彼女の顔を睨みつけていた。
「それは駄目だよ!それは見る人にも...ミスティにも失礼だ!」
「なら...ちゃんとうちが勝ったら、専属騎士になってくれるんよな?」
「それは...そうなる、けど、ミスティは強いよ?人間国内じゃ誰も太刀打ちできない程に」
ハルはふふんと鼻を鳴らし、胸を張った、彼女はいつもそうだ、出来ないだろう、無理だろう、そう言われる度、自身に満ち溢れていた。
「それは普通の人族やったら、の話やろ?うちは超人、『超人姫 ハル』やで」
こうなった彼女は止まらない、後退のネジを外し、目の前の障壁を打ち砕くまで果敢に挑戦する戦士となる。
正直に言って、ミスティがハルに負けるとは思えない...でも、ハルだったらやりかねない。
迂闊、だったかな、嫌だと言って全力で拒否することも出来たはずなのに...ハルにそれを言いたくない気持ちが心の片隅に存在している。
「さぁさぁ、女性の個室から出てった出てった、なんならこの場でアーサーに襲われたー!って言うのもありやなぁ」
狡賢く、にやりと笑う彼女だったが、表情からは普段通りのハルが見られた。
「本当に大変なことになるからやめてくれ!んじゃもう行くから、試合、頑張って」
出て行く間際、試合が終わった後、伝えたいことがあると言われた、なんだろうか。
結婚おめでとう、とか末永くお幸せにとかだろうか、ああ見えて結構義理堅いからな、毎年誕生日にはプレゼントくれるし。
誕生日かぁ、そういえばハルの誕生日は......ん?
まずい、今日だった、この一か月多忙だったからすっかり忘れてた。
プレゼントを買い忘れていた...どうしようか、プレゼントはアーサーな!とか言われたら。
......ははっ、無いな、プレゼントは一端後回しにして、今はこの催しを成功させなくては。
何も起こらず、無事に終了しますように。
■
「ふふふ...僕の下から飛び立っていった子猫たちは、元気にしているかなぁ」
巨大な絵画を描いている男、男の名前はラルカン、魔王国ダイセン領の領主にして、魔族にしては珍しい平和主義者。
ダイセンにおいて運営している孤児院からは、軍部、中央地方の公務、芸術家、医者...様々な分野に優秀な人材を輩出していた。
通称『ラルカンチルドレン』、彼らの存在なくして、魔王国の運営は成り立たないほどに。
類い稀なる人材育成能力、人々には敬意を込めて高みへの誘いと呼ばれている。
「すまんなラルカン、まさかニルヴァーナがここまで本気になるとはな...」
「いえいえ、困っている時はお互い様ですよ、ここであれば見つかることはありませんから」
ラルカンと話す男の名はパージャム、ニルヴァーナの友にして、最後まで魔王の座を争った歴戦の雄。
既に戦士としては引退した身、だが魔王国の重鎮として、国の行く末を常に案じていた。
終戦による人間国との和平に最後まで反対し、クーデターを画策していた所を戦鬼5名に襲撃されるも、現在はダイセンにあるラルカンの別邸にて、戦争継続派と共に身を潜めていた。
「しかしラルカンよ、これは我々の意地のようなもの、お主が加担しなくても良いんだぞ?」
「いえいえ、私にも叶えなければならない夢がありますので、お気になさらずに」
絵を描きながらの会話、普段であれば無礼だぞと怒るパージャムだったが、その絵に魅入られていた。
描かれているのは無数の虎、獲物を狙う獰猛な視線が、見る者を捉えていた。
「良い絵だ、題はあるのか?」
「『群虎出動』、虎は群れないもの。何故群れないのか......群れなくてもいいほどに、一個体が強いからです、当然ですね」
「私は、多数の子猫たちを虎へと成長させてきました、この時のために、ね」
上機嫌に笑うラルカンの元へ、一人の男がやってきた。
「ラルカン、準備が出来た、いつでも行けるぞ」
男の名はアンシェル、ラルカンの右腕にして魔王国最強と噂される謎多き人物。
竜のような眼光、ミスティすら見下ろす圧倒的な巨躯、力を持たぬラルカンが、魔王国内で発言権を持てる理由の一つでもある。
「ありがとうアンシェル、それでは行きましょうか、パージャム殿」
「あぁ、我らの意思を、先人たちの築いた今を、誇りを取り戻さねばな」
邸宅の外に待ち受ける多数の魔族達、その者達に向かってパージャムは吠えた。
「和平での終戦など、我々は一切認めない!この戦いは我等魔族の勝利で終わらねばならない!貧しい土地も、過酷な環境も、全てを打開するために!」
「行くぞ皆の者!舞台は先人達の眠る地、ヴァルハラ!ここでニルヴァーナに引導を渡し、魔王国を再建する!」
雄たけびを上げる者達全員が、死地へ赴く事を分かっていた、だがここで見せる意地が、魔族の未来を決めるのだと考えていた。
五分の和平など断じて許されない、魔族側が少しでも有利な条件を取り付けるために。
「この戦いが終われば、俺達の夢は叶うのか?」
「もちろん、君が頼りだよ、アンシェル」
そう言い、唇を交わし、手を握る。
この状況を作るまでにかかった年月は計り知れない、最初で最後の大勝負へ挑む。
「さぁ、長年の夢を...悲願を叶えよう、みんなで、ね」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ようやく交流編に突入ということで時間かけ過ぎた感が......ですがあれこれと色んな話を書くのが楽しくなってきました。
今後とも気長に待っていただけると嬉しいです。




